その異界者、陰陽師なり。

SHIN

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初めての異世界ライフ

四人の異界者と僕、そして決別

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 少女がするりとなれたように僕の腕に自らの腕を絡ませてきた。
 眉間に皺がよる。それに気づかないのか少女はどことなく機嫌よくうふふと笑っている。

 すぐに離れてくれないだろうか。少女から香る匂いがキツイ。平安京でも香を焚くがなんかそれと違って気持ちが悪くなってきた。

 羽虫達も匂いにやられたのか僕の周りから離れてしまう。だけど、心配してくれているらしく一定の距離を保ちふよふよとさ迷っていた。


「わたしは、マリア・キヨツカって言うの。マリアってよんで。」


 名前はどうでも良いから離れてくれないだろうか。
 その思いも虚しく、むしろ引っ付いてきてその仄かに膨らんだ胸を押し付けるようにぎゅっと抱きつく。
 はしたないな。


「貴方の名前を教えてくれる?」
「ドーマン・アシヤだ。」
「ドーマン様ね。」


 きゃはっと声をあげるこの女を誰か引き離してくれないか。頭が痛くなってきた。
 その願いが通じたのか、異界者の男二人がべりっと剥がしてくれた。その態度からどうやらこの二人はこの女が好きなようだ。

 お願いだからそのまま捕まえておいてくれ。

 男二人の内一人はぱっとみ筋肉質な体型の背の高いやつともう一人は細身の男。顔にふたつの円形の飾り、ぐーぐります曰く、視力を矯正するメガネと言うものらしいを着けている。


「てめぇ、ウルトラレア持ってるからってチョーシ乗んなよ。」
「マリアさんは僕らが守りますので近寄らないでください。」


 むしろ、近寄らせるな。

 僕は三人から距離を取ると、もう一人の少女の方に向かう。少女は一見冷たい印象だが、先ほどの絡まれている姿を見て何度も訴えようとしてくれてたのはわかった。
 
 彼女の周りには羽虫が僕と同じようにふよふよと漂わせているのを見ていると少し興味が湧いてくる。


「あんた、名前は?」
「えっ、私?」
「そう。」
「ユエ・テンドウよ。ついでに紹介するとあっちの筋肉ゴリラがキョウヘイ・リュウゼンジで、メガネがハルアキ・シイナよ。」


 序でに教えてもらった名はどうでも良いとして、ユエか。唐ではたしか……。


「月の名だな。綺麗な音だ。」
「えっ、そ、そうよ。月と書いてユエなの。」
「あー、ユエずるーい。私もドーマン様とお話しするぅ。」


 いや、お前は来るな。
 男二人がそれを阻止してくれている間に、僕はいまだ浮かんだままのステータスをざっと確認する。
 確認するが終わると、消える様子のないステータスに首をかしげる。


「どうしたの?」
「いや、ステータスが消える様子が無いから。」
「ああ、王子様がこの装置は紙に記載するために一定時間は浮かぶって言ってたはず。」


 ユエの親切な回答にお礼をいう。
 なるほど、記録として残したい時に使うのかではますます本来のステータスでは厄介であったな。
 
 ひとりでに納得したあと、頭の中で他の四人のステータスをまとめ上げた。万が一に敵対することになっても対応できる様にだ。
 この四人の中で異質なステータスは一人、面白いステータスが二人いる。

 残りの一人が脳筋ステータスだったと言えば誰だか想像が着くと思う。
 ふむふむと考え事をしていると髭の男が幾人か兵士を連れ全員を呼び寄せた。


「では、皆の能力も知れた所で魔族退治の特訓を……。」
「やらんぞ。」
「へ?」
「だから、魔族退治なぞ僕はやらん。」


 僕の言葉に、髭の男が呆けたような声をあげる。周りも何でだというようなおかしな空気に包まれているが、そもそも、魔族退治にいって当たり前だと何故思っていた?


「な、何故じゃ。」
「強制的に連れてこられて協力しようと思うわけがない。」
「だが、理由を聞いてこの場にいるではないか。」
「その理由が嘘でない確証はないが。成り行き状着いてきただけだ。」
「そ、それは。」


 髭の男と僕の言い合いに、考え込むそぶりを見せたのはユエだけだった。
 特訓のために呼ばれた兵士たちは徐々に殺気だち、きっかけさえあれば今にも切りかかって来そうだ。


「お主のウルトラレアは正体は知らぬが手放す訳にはいかない。」
「やれやれ、やるならこっちも手加減しない。」
「はっ、たかだが14の餓鬼が何を言う。」
「……僕の所では14はもう大人。戦闘も出来るぜ。」


 不穏な空気を感じたので、先手必勝で暗器を繰り出させて貰う。
 その暗器は柄のない小刀に細い弦が繋がって居るもので、刀部分が壁に刺さり、弦が辺りを張り巡らされる様はまるで蜘蛛の巣のよう。

 部屋に張られた弦は、髭の男や異界者、兵士を捕らえ動きを阻害している。動けば動くほど絡まるので、動かないことをおすすめする。


「ユエ、お前はどうする。」


 一人だけ僕の言葉に反応を示していたから聞けば、何かすがられる目をされた。
 弦の一部を指で弾けば、ユエの回りだけ位とが切れる。そうすればユエはこちらに移動する。


「私は、自分で見たことを信じたい。だから、貴方について行かせて。」


こういう、やつは嫌いじゃない。
僕は今度はルードリィッヒの弦を切りこちらにつれてくると改めて紐で縛る。
 ルードリィッヒの眼には困惑の光が見てとれた。


「悪いが、ここを出るまで人質な。紐は穏形おんぎょうで隠させて貰う。」
「えっ。」


 僕の口から紡がれる不思議な音に皆、注目する。
紡ぎが終わればルードリィッヒの紐は見えなくなった。それにルードリィッヒの目が見開かれた。

 さてはて、このままでは直ぐに追手が来そうだ。どうしようか。ああ、アレがあったな。
 懐に手を入れて中から漆黒の扇子と黄色い粉を取り出す。粉を扇子であおげば空気に舞い部屋に広がる。実はこれ、平安京を騒がした怪蝶の鱗粉である。この粉には吸った人を3日程眠りにつかせる効能がある。
 
 3日もあればどうにかなるだろう。
 まさか、晴明が面白半分で採取して押し付けてきたのが役にたつとは。

 扇子で風を操り、ユエやルードリィッヒ、それに羽虫に被害が行かないようにしていれば、その他の者達は眠りにつく。あとは暗器を外し、空気の入れ換えをすればもう大丈夫。

 うんうんと頷いて、大人しく待ってくれている二人の元に歩き出す。





 
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