僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN

文字の大きさ
1 / 245
はじまりと記憶

まずは、プロローグ

しおりを挟む






 神の国、フェーリス国の外れに草臥れくたびれた棟が建っている。その棟には石垣で囲われ出来た部屋が幾つもあった。
 そこは、明り窓が一つしかなく、石垣のために暗く湿気を含んでいて底冷している。
 
 そんな悪環境な部屋の中には数人の少女達がいた。歳が20も越えないであろう、可憐な少女達が目を赤く腫らして身を寄せ合い震えている。その震えは、底冷えする部屋のせいだけではなく不安と恐怖も合わさっているのは誰からも明らかであった。

 もちろん、こんな所に居るとはいえ、彼女達は罪人や逃亡者ではない。
 その証拠に罪人になると腕に刻まれる刻印は無く、白く細い腕は毎日のようにに手入れをされている整った手である。

 服装も、罪人や逃亡者では決して着る事は出来ないであろう上等のある飾りの付いた服を着ている。それがこの陰湿な部屋に違和感を覚えさせた。
 
 そう、彼女達は本来の意とは関係なくに、言わば誘拐されてこの部屋にに捕われているのだ。

 察しが付くだろうが此処は昔使われてた牢屋。あまりにも古いため、倒壊の危険があり破棄された。今は、解体されるのをじっと待つだけだったものだ。
 その間に人気ひとけがないのを着目したのは、彼女達を捕らえた者達、誘拐犯達だ。
 誘拐犯達の目的はただ一つ、麗しい女性を他国へと売る事。

 フェーリス国では、人身売買が禁止されている。昔はそうでもなかった規制も第三皇子が成長するにしたがい厳しくなり、買い手に紛れて警備兵がいたりと人身売買がやりにくいのだ。
 他国ではその規制がわりかし緩く若い少女などが高く売れる。しかも、規制が厳しくなったフェーリス国の少女達はさらに高値で売れるのでこうして誘拐する馬鹿がたまに出てくるのだ。

 フェーリス国での誘拐は時間との戦いであり、今回の誘拐犯達もそろそろ他国に移動する算段をつけていた。
 

 そんな中で今もまた、牢屋唯一の入り口が口を開き新たに一人の少女が中に押し込まれた。

 その少女は暗い室内でもわかるほどに美しかった。
 
 艶やかな漆黒の長髪はまとめ上げシルバーの簪で彩っているし、そこから見えるうなじは細く大の男なら捕み折られてしまいそうな程だ。
 
 顔に掛かる零れ髪に肌の白さが相まって幼い雰囲気ながらに色気を放っている。
 さらに、小柄な身体は抱き締めただけで壊れてしまわないか不安になる華奢さである。

 まるで雪のように白い肌に映える唇。それは唯一化粧を施されていて淡い赤がアクセントとなり全体を引き締めていた。
 そして何より惹かれるのは意志が宿る紫暗色の瞳である。瞳はこのような状況にありながら宝石のように輝いていてこの恐怖と不安が漂う場所にはそぐわない。

 少女には全くと言っていいほど恐れが見えず、少女をつれてきた男には見えなかったであろううつ向く口許には下弦月の様な弧が描かれていた。





 少女が入ってきてからしばらく時が経ち、入り口の前から動かない事に、美しい少女に恐怖心を忘れて見惚れていた他の少女達が首を傾げながら声をかけようとした。

 その瞬間、牢の外からざわざわというざわめきが聞こえてきた。少女達からは短い悲鳴があがり、無駄なのは分かっているだろうにまるでその身を隠すかのように縮こめる。その姿に捕まってから今まで何をされていたのか想像に難くない。

 ざわめきは徐々に牢屋に近づいて来ており、大きくなるざわめきが喧騒であることがわかる頃には牢の扉が勢い良く開くいた。


 部屋に入ってきたのは、少女達をここに閉じ込めた誘拐犯の男だ。その男の目は血走り、焦りを滲ませる表情はまるで鬼の様。
 男は一人だけのようで入ってくると、すぐ後から迫る足音を警戒して入口を睨み付けていた。


 男は此処が何処か思い出したのか辺りを見て、すぐに入り口近くにいた美しい少女に目を留めると細い手をつかむ。
 少女は力強くつかまれた事に眉を寄せるも、笑みを絶える事もなくそのまま男に引き寄せられた。

 悲鳴一つ上げない少女に違和感を感じるもすぐに開いた入口によってそれは打ち消された。
 次いで入ってきたのは、傷のついた銀鎧を身に纏い王国の紋章を胸元誇らしげに印す騎士であった。その手には赤色の液体を滴らせる剣が握られている。

 騎士は、牢屋の中をざっと見回すと奥の方で身を寄せあっている少女達を確認して安堵の表情を浮かべる。そして、男に向き合いその腕にいる美しい少女に目を止めた。

 美しい少女は騎士に向かってあどけなく首を傾げ可愛らしく微笑む。その行動に男がまた違和感を感じ始めた時、騎士が頷くのを見た少女が行動を開始した。

 男に引き寄せられ羽交い締めにされている少女は、男に寄りかかる様に身体を密着させた。ふんわりと香る柑橘系の香りに男が気を移した瞬間、密着させた身体を下に下げながら一方の腕で鳩尾を肘鉄し、もう一方で羽交い締めしていた男の腕を上に向かって弾く。
 そうすれば、拘束が緩みするりと少女は抜け出す。

 男の手が苦しそうにしながらも少女を掴むため伸ばされるもそれも予期していたのか、反対に手首をつかみ素早く相手の襟首を掴むと投げ飛ばした。
 巨体が空を舞う。投げられた男は何が起きたのか分からない様子で先ほどの恐い顔から一変して呆けた顔つきになって目を白黒させていた。

 少女は手早く呆けている男の両肩の骨を外し、痛みに咆哮の様な悲鳴をあげる男を無視して、上等だとわかるドレスを戸惑うこともなく破ると逃げられないように足を縛る。
 これで男は無害化された。


 さらに喧騒が聞こえて扉が勢い良く開くとそこには、王国の鎧を纏った騎士が数人立っていた。
 彼らの剣も全て抜かれており、所々鎧にまで赤いものが飛び滴っている。捕らわれていた少女達は普段見ることのないその姿を目にいれてしまいひっと短い悲鳴をあげ、中には気絶する娘もいた。

 最初に入ってきた王国の騎士は少女達の無事な姿を改めて確認すると満足気な笑みを浮かべて何処かに声をかけ指示をとばした。そして、肩を外した男を整った脚を見せつけながら踏みつけている美しい少女に向かって手を挙げる。

 手を挙げたその瞬間その場にいた者はこの美しい少女が騎士達の仲間だと気がついた。


「お疲れさん。シシリー。」


 シシリーと呼ばれた少女は口紅を手の甲で乱雑に拭い、少女達に振りむくと女神のように美しい顏でクスリと小さく笑い、少女にしては落ち着いた声で安心させるように話し掛ける。


「さあ、家族の元へ戻ろうか。」


 その言葉に、売られるという恐怖に震えていた少女達が歓喜に沸いた。中にはお互い抱きあい泣きながら座り込んでしまう者もいる。

 それを微笑ましく見ていたシシリーは、騎士の一人に売人の男を渡した。騎士は男の足を縛る紐を剣で斬ると、骨の外れている痛みで未だに唸っていた男を連れていく。
 骨を肩しか外さなかったのは、この時の為だ。


「ところで、シシリー。」
「何?」
「その姿可愛いね。この後、デートでもしない?」
「血迷うなよウォルター。僕はだと知っているだろ。」
「でも、可愛いもんは可愛い。」


 シシリーは軽口を叩く顔馴染みの騎士、ウォルターを鎧の上から小突く。そのまま鎧にある紋章部を彩る金属の飾りを力を入れずにパキリと折ると何処かに投げた。

 投げた先は、ウォルターの背後にある死角。

 その死角から、ぐっと鈍い悲鳴が上がると肩を押さえた犯罪集団の一人が出てきた。
  ウォルターが落とした美しい少女が男という爆弾に戸惑っていた騎士達がその悲鳴に我に返り、飾りに射ぬかれた男を捕縛する。


 美少女シシリーこと僕は、飾りを投げたとき頬を掠め青ざめているウォルターに向かっていい笑顔で言ってやった。


「先ずは仕事をしやがれ。」








しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

処理中です...