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記憶を求めて奥底に
僕ともう一人の僕の交わり
しおりを挟む最初に動いたのはやはりもう一人の僕だった。
火を纏う刀を空振りして炎をおさめたあとに背中に戻したあと、雷の属性を矢に纏わせた。
糸では矢を落とせないとでも思ったのか、数本の矢が向かってくる。だけどもそれは先程の戦いで予想済。
糸を編み込んで盾を作り矢を防ぐ。
雷の余波が当たりを包むもこちらにはこない。
その姿に一瞬だけ目を見開いたが直ぐに微笑む。そして、弓も背に納めた。
『いやあ、完敗ですよ。』
ゆっくりとこちらに近づいてくる。負けを認めている風の彼の手には煌めく何かがある。それが何なのかは分かっていた。油断させてこうして近寄ってくるのはその攻撃のため。背に武器を片付けるふりして手中に潜ませたのは腰に隠していた武器。
「物騒なものを隠しながら近寄らないで下さい。」
『‥…分かっちゃいました?』
ある程度の距離に居た僕(前世)の歩みが止まった。ジャラと金属音を響かせて、何かが地面に落ちる。落ちたそれはドスンと土煙を上げながら地面に突き刺さった。
出てきた武器は両端に重りが付いた万力鎖という暗器の一種だ。
先程のように手の中に納めて隠しながら近くまで来たら片方の重りを相手の方に投げつける攻撃の仕方だ。
地面に落とされた重りを見る限り、細長いそれは鉛筆の様な形で殺傷能力は高いものだろう。
「僕も暗器を使うので分かります。」
『その手のものも暗器?』
「大事な方から貰ったんです。」
よすよすと糸を大事そうに撫でる。流石に頬ずりは危険だからやらないけどね。
僕(前世)も万力鎖を大切や人から貰った設定なのかそれを扱う手付きは慎重だ。
お互い武器を構えて対峙しているけど、僕には少し焦りが出ている。なぜなら、万力鎖は僕の糸と相性としては最悪なのだ。なぜなら、絡まるから。
万力鎖は本来なら刀を受け止め、絡ませて尚且捉えるというやり方が基本だ。慎重に攻撃タイミングや技術などを考えたら面倒くさい。
『たまにはそちらから来たらどうですか?』
「そうだね。何時までも受け身って訳に行かないし。」
『僕と同じ顔と戦うなんて、何か楽しいね。』
糸が絡まないように操作するのは普通なら容易いけど、相手はもう一人の僕。癖などは分かっているのがやりづらい。糸が四面から襲いかかるのに、万力鎖が自らを中心に円形に振られて弾かれる。
先端は絡まないから良いけど、鎖にあたるとめんどいな。
糸を操るとき力を込めたり緩めたりして絡まないようにするのだけど、クローンではないけどある意味僕である彼と、タイミングが被り何度か絡まりそうになった。
(武器を変えるか。)
気づかれないことを祈りながら、糸を納めて、双剣を手にする。そしたら意外だと言う目で見られた。そもそも、暗器使って利を得るのは隠密でこそなんだよ。堂々と使うには向いていないんだよ。
糸は珍しく暗器としても普通に使うにしても両立出来るいい子になんだよ。
双剣を構えて、一息つく。
双剣は学園に入るからと習ったばかりでまだぎこちない。家の兄様の一人が双剣も使えるので教わったのだけど、結構難しい。
だからと言ってもう一人の僕に負けるなんて思ってもいないけど。
『やっぱり、暗器を普通の武器として使うのは無理があったかい。』
「そうかもね。」
『君は若い。こちらとしてはもう一人増えても構わないよ。手伝ってあげたらどう?』
「冗談。手を出したら怒られてしまうだろ。子供に見えても酸いも甘いも噛み分けた奴だぞ。」
「えっ!」
「何で君が驚くのさ。ここは異世界者、転生者が多いのは知っているてしょ?」
ウォルターが驚いた様な声を出す。明らかに同年代と違いがあるのだから普通は察するだろ。それとも稀に大人びたような天才でも‥…いたな。
取り敢えず、コウにぃの言うとおり手出しされるのは不本意だ。
『よくわからないが、普通ではないと言うことか。』
「まあね。」
ヒュンと重りがこちらに飛んでくるがそれを軽く横に身体を倒すことで避けて、体制を整えてから斬りかかりに向かう。当然、そんなのんびりした攻撃は防がれ、鎖の部分で受けた僕(前世)は剣に鎖を巻き付けようとするがそれは、抜く動作で回避して、まあ距離をおく。
今度は小さく呪文を唱えて、ウォルターが中ボス戦でやった足取りトラップを発動するも、感覚で察したもう一人の僕は抜け出す。
『面白い術をつかうね。』
「魔法って言うんだよ。」
『まるでファンタジーだ。』
そりゃあ、そんな世界に来ていますからね。
『でも、決定打にかけるね。』
そうだろう。
取り敢えず、下準備は終えたので構えを変える。その僕の姿に何か通じるものでもあったのだろう。笑みを絶やさなかった僕(前世)の目付きが変わった。今更気づいてももう遅いのだけど。
双剣の片方を鞘に納め、片手で略印を結ぶ。
虎、龍、鳥、亀、最期に麒麟。
それらは戦いながら仕掛けていた術式。術式から鎖が、飛び出る。
『ふふ。君が何か仕掛けていたのは知っていたさ。拘束するつもりなんだろ?でも無駄‥…!』
「術はフェイクだよ。」
僕は予め用意していた術で一瞬で目の前に現れて手に隠していた寸鉄をもう一人の自分の眉間に突き刺した。刺した先端から身体の内部を焼くように魔法を発動しながら。
「ウォルター、あれが魔法を3つ4つ同時に発動できる俺の可愛い化け物だ。」
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ここまでお読み頂き有難うございます。SHINです。
段々とストックが尽きてきたので次の更新は26日にさせていただきます。
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