130 / 245
春の訪れと新入生
プロローグ 慟哭
しおりを挟むそこは森によって外界から隔離されているような場所だった。
この場所はたとえ空からでも見つからないだろう。そんな場所に建つのは一階しかない平屋のような、それでもただの平屋とは違いその面積はとてつもなく広い。そんな場所の一画に二人の男たちが居た。
一人は平屋の縁側の様な場所で優雅に盃を手に持ち、その下手にいる男の話しを聞いている。真っ黒な闇を思わせる髪に左右異なる色を持つ瞳を携えていた。
同性から見ても目がおってしまう赤味を帯びた唇が盃に口をつけて溢れるのも構わずにコクリと中身を飲み込む。濡れそぼった唇を舌で舐めると、先を促すようにもう一人の男に視線を向けた。
もう一人の男は老人の様に真っ白い髪にシルバーのフレームメガネを掛けていてそのレンズが光に反射していて表情が読み取れない。唯一黒髪の男から見えるのはいつもながらの胡散臭い笑みだ。この男の名は天魔邑輝といったか。
片膝を付く邑輝のその胡散臭い口元が動く。
「やはり、神無様は別の世界に保護されているようです。」
「それで。」
「今はシシリーとの名で辺境伯爵の養女でした。そして、我々の記憶はないみたいでしたがこの私には警戒心を抱いています。」
「記憶は無くても魂は覚えているのだろうな。」
男は邑輝からもたらされた情報に満足気に口元をほころばせる。
やっと探し人が見つかった。この世界から消えてもう約十年程の時が流れた。あの者をまた手にするには世界に手を出せない彼奴等よりも厄介なあの兄を名乗る男や、本来は我家の物の筈だった式神共が邪魔立てするだろう。
そもそも扉は邑輝をこの世界に吐き出して閉まっているという。
「種は巻いておきましたのでご心配なく。」
「種か。とても不穏なことであろうよ。」
「ええ。御当主の望む物を手に入れるために、我々は動きますよ。」
「ふん。また糞ババアが手出ししないように慎重に事を運べ。」
「御意。」
この邑輝と言う男は、黒髪の男のためなら何でもやる狂信者だった。
彼が心配ないと断言するのであればいずれ扉は開かれるのだろう。
その日を楽しみに家の者でも玩具にしてくるか。そう呟いて男が平屋の奥に消えてゆく。
残された邑輝の表情が一瞬で無と変わる。
彼からみたあの男は相変わらず神無にしか興味が内容だ。実力も容姿も申し分ないのになぜか一人の人物に執着する。
異世界に行くための扉を繋ぐためのこの世界とのバイパスを通すにはお互いの世界に要を設けないといけない。運がよくとてもいい場所があった。
向こうの世界ではグランドオールというモンスターの出る森でこの世界では富士の樹海と呼ばれるところとよく似た場所だ。
向こうに残してきた手下達が上手く要を設けるだろう。こちらも自分自身が動くのだから失敗はない。
富士の樹海に封じられている妖かしを贄にでもしようか。
殺しはしないから誰も何をしているかわからないだろう。
邑輝は静かに笑い声をあげた。
その頃、魔界と人間界の狭間に位置する広大な魔の森のグランドオールでは数人の男達が走っていた。彼等はムラキの仲間の者たちだ。少人数だが少しずつ世界中に散らばっており今はとある命による行動をしている。
ムラキは言った。
この世界の科学を遥かに超えた世界があると。魔力を使わない魔法があると。実際に目の前で見せてくれた魔法は今までの見たことのない物だった。
あれがあれば神の怒りに触れようとも怖くない。
ムラキ、いや、ムラキ様のためにまずはこの森の主に近い存在を見つけなければならない。
その存在にこの要を穿たなければならないのだ。他の者は死ぬ覚悟をしている。死ぬ気で動きを止めて私が要を穿つ予定だ。神はこれしきの事では様子さえ見ないと言っていた。大丈夫。我々にはムラキ様から貰った力がある。
ガランッ‥…
何かが崩れる音がした。
音の方に視線を向ければ、森の木々の間から巨大な2つの獣の目がこちらを見ていた。
黄金の様なそれは瞳孔が縦に割れ、白目は赤く血走っている。生臭い息が漏れる鋭い牙の生えた口はヌルヌルとした涎にまみれている。
こいつが主なのか?
いや、ムラキ様の言っていた存在とは異なる。なら、こいつは主を守るものなのだろう。コイツを相手してから主と闘うのは分が悪い。なら、ここは一旦引いて作戦を立てることにしよう。
ゾワリと悪寒がしてその場から離れればそこには五本の地面が抉れた線がはしっていた。
仲間達に手で合図を送る。
仲間が一箇所に集まる。ムラキ様の造った札を取り出すとそれを地面に貼り付けた。
地面は札が張り付いた瞬間に術式が展開し、別の仲間が待つアジトへとワープされる。
あいも変わらず魔力の気配を感じない術式だ。
彼等が消えた後に大きな足跡がくぼみをつけた。
そのモンスターの後ろにもう一つの影が見えた。その存在は躊躇なく先程までムラキの命を受けた者たちに恐怖を与えた存在に食らいついた。
主を守る存在ではなく、ただの餌であったのだ。
主は満足そうに舌なめずりをして森の奥に行く。寝床に戻って消化をするために眠りにはいるのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる