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どうやら婚約破棄の様です。

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「婚約破棄をしたい。」
「分かりました。」


 特有の膨大な書類仕事を捌いているくそ忙しい時に、普段は挨拶どころか顔を見せもしない男がノックもなしに入ってきたと思ったら、質素なエプロンドレスを着た少女を腕に抱きしめて冒頭の言葉を言ってきた。

 男を一瞥することもせずに勝手にしなさいなとばかりに了承し、いましがた目を通していた書類を完了箱に投げ入れる。はしたないなどは考えてはいられない。それほど今は忙しい。
 そこに、ノックがあり新たな書類を持った私の父親が入ってきた。
 父親は男だろうが女だろうが魅了する銀糸の髪で紫暗色の瞳の美形さん。作り物の様な美貌の彼が入ってくると空気が張りつめた様に変わります。
 父親は書類を捌く私と少女を腕に抱く男に視線を巡らしたが、父親が入ってきてもろくに挨拶もせずに固まってしまっている男に興味が失せたのか書類を私の机に置く。色んな意味で思わずため息を漏らしてしまいそうになりました。


「多過ぎですわ。」
「しょうがないだろ。捌ける者が少ないのだ。」


 それもそうね。と呟いて新たな書類の束に結局はため息をつくはめになってしまいましたが、どうやら置物ごっこをしていた男がやっと正気を取り戻し動きはじめた様だった。
 そのまま出ていってくれるのかと思いきや私の机の前に偉そうに仁王立ちしてこちらを睨むように見てきた。
 部外者に見せられない書類もあるため書類捌きの手を止め男を見る。そもそも、この部屋には関係者以外は入れてはならない筈なのに。エプロンドレスの少女が入っているなんて後で部屋の護衛にお仕置きね。


「婚約破棄をすると言っている」
「はぁ、ですから分かりました。」
「なんだ、婚約解消か。」
「そうだお父様、丁度良いので手続きをお願いしますね。」


 丁度、父親も居ることだしさっさと男の望む事を終わらせれば書類を捌きを再開できると父親であるこの国の王に視線を向けた。


 その言葉で分かるように、私はこの国の王女であるシシリア・アシュリー。まあ、第二と付きますが。そして、書類を持ってきたのはこの国の国王陛下であるディクトール・アシュリー。
 我が父親ながらその美貌は羨ましいくらいに綺麗です。
 えっ、私ですか?私は銀糸の髪は父親と同じですが他は可愛い系の母親に似ているのですが何故か平凡な容姿をしています。
 ちなみに父親があらわれてからエプロンドレスの少女は頬を染めて見ています。

 そのうっとりとした表情にむっとしているのは、ほんの数秒前迄私の婚約者であった、ベルジュ・オーランド。
 オーランド公爵子息、いえ、今は侯爵子息に変わったのだったわ。
 我が父親に比べたら遥かに劣りますが金糸に碧眼の王子さまルックの美形は美形です。
 そして、立場を理解していないお馬鹿とも言いますね。王族に向かってそういう態度が出来ていたのは私の婚約者であったおかげだと言うのにまったく。
 

「では、早急に侯爵家にきてもらい手続きをしてしまおうか。」
「そうですわね。」
「ちょ、ちょっとまて。」


 ポンポンと簡単に婚約破棄の話が進むのに、どうやら先に言い出したベルジュは戸惑いを隠せないようだった。
 もしかして、私がベルジュが好きで無理やり婚約していたのかと思っていたのかしら。そんなわけないのにむしろ……。


「本当に丁度良かった。隣国の者がシシリアを妻にしたいと言ってきていたからな。」
「あら、そうなの?」
「婚約者が居る知って悔しがって、独身をつらぬくと宣言しておったぞ。隣国の貴族は慌ててたぞ。」
「あらあら。」


 それほど私のことを気に入ってくださるなんて嬉しいですわね。
 しかも、隣国なら国際的にも有用なことだから反対も少ないでしょう。早速身の回りの整理をしなくては。あら、でも私が居なくなったらこの書類を捌くのが大変になっちゃうわ。
 その想いが表情に出ていたのか父親は私の頭を優しくポンポンしてくださいました。


「その男は書類仕事が得意だ。」


 父親よ。それはその方にも書類捌きをさせると言うことですね。というか婿に来てくださるの決定ですか。
 

「で、いつまで此処にいるんだ。目的は終えただろ?」
「あ、いや、あの。」
「後程、応接室で侯爵様を交えて話しましょうね。」


 父親が諌めるように目を細めベルジュを見れば、やっと自分がどこで何をしてしまったのか理解したらしく顔を青ざめさせている。エプロンドレスの少女は頭にハテナを浮かべてベルジュの服に皺を作り引っ張っている。どうやら状況をわかっていないようである。


 そもそもこの国は民主化されているため王政ではなく政事は選ばれた平民によって執り行われている。王族はその政事に口を挟まないが、国の顔として国際の対応をしている立場です。双璧として国を支えている我々に本来ならばベルジュの様な態度は許されることでは無いのですが、私の婚約者と言うことで後の王族と判断されていたのです。
 なので、今後彼は今までの様な態度はできないのですよ。

 私が机の上にあるベルを鳴らすとすぐに侍女が現れる。そしてベルジュの姿を視認した途端に先ほどまで華やかな笑みを浮かべていたのに一瞬で無表情へとなった。
 その変化にベルジュの頬がひきつる。


「彼と婚約解消することになったの。」
「!」
「悪いけど、オーランド侯爵様に連絡と彼らを応接室に案内してもらえる?」
「はいっ!すぐにでも。」


 侍女の無表情が崩れ、きらきらと輝き希望溢れる目付きになった。本当にすぐにでもオーランド侯爵をつれてきそうな勢いのため、仕事の関係上一時間後に応接室に集合とすると、侍女はベルジュと少女を応接室に監禁しときますね。と返事をして部屋から関係ない人々を連れて出て行った。
 彼女は優秀なので、問題も起こらないでしょうし私は書類捌きを再開する。父親もいつの間にかいなくなっていたので、おそらく隣国に連絡をしに行ったのだろう。



「そういえばあの少女は何だったんでしょう。」



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