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解放と言っても何もしていません。
「アルケー様。彼を、ミダス様を解放してください!」
長きに渡り、私に知識や経験を与えてくれた学園ともお別れまで数時間。
一人だけで学園主催の懇談会に参加していた私の所に、ちょうどご学友から離れた時を狙ったかの様なタイミングで、ふわふわキラキラお菓子のように可愛らしい少女が私に話しかけてきた。
その行動に周りで食事をしながら賑やかに話し込んでいた人々が口を閉じ、もともと一人で来た私を気にしていた皆さんはこちらにちらちらとした視線とひそひそとした囁きを送ってきている。そんなに興味津々なのってどうなのかしら。娯楽が少ないのね。
って違うわね、スキャンダル好きなだけよね。私も好きだもの分かるわー。
でも、当事者になって初めて迷惑だと身に染みてわかりました。
心配そうに此方に来たそうなご学友達を目で制して巻き込まないようにして、私は能天気そうな少女と恋に現を抜かしている男性軍団に対峙する。
頭が痛いところは、その団体様にある方の護衛である筈の私の双子の片割れと幼なじみの魔法使いが混じっている事であろうか。
ああ、そうそう。彼女の言っているアルケーというのが私の事。
ミスト・アルケーが私のフルネーム。侯爵位の騎士長を父に持つ者です。ちなみに彼女は兄の事を名前と呼んでいるので、彼女の言うアルケーは私の事で間違い無いはず。
次に出てきたミダスと言うのはそんな私の婚約者です。
一応、私の婚約者は、この国の第一王子様なのだけど、そんな方を気安く名前で呼ぶなんて、顔をしかめる者や嗜める人もいる筈なのだが、彼女の回りには居ないみたいね。
それとも周りの男達が排除してくれているのかしら。まあまあ有名な方達だし。
「ミダス様を自由にしてあげてください!」
黙っている私にしびれを切らしたのか、少女がもう一度声をあげる。
それに周りが再びざわりとする。
私は余り気にしないけど、彼女とは貴族位の差があるのだ。
一位が大公、二位が侯爵と言ったように貴族には位が設けられている。位が高いほど国への奉仕や税金も高いが色々と旨味もある。そのため、位を気にかける者が多く、上位の位の者には敬意を持って接するのが暗黙のルールになっている。
私は先に述べた様に侯爵位の者。
父の爵位なので、偉ぶるなんておこがましいのだけど、周りはそうはいかない。なので公の場ではちゃんとしている。彼女は確か、伯爵位だったはず。四位の位なので、本来なら話しかけるのも憚れるものなのに私にいきなり人前で突っかかり苦情を言うなどもっての他なのだ。
そもそも、挨拶も無いのは人としてもどうかと思うけど。
ともかく、穏便に済ませようとにこやかに淑女の礼をとる。ここで気づいてくれたら嬉んだけど。まあ、そのにこやかさには冷たい物を孕ませてはおりますが。
「ご機嫌よう。申し訳無いけどお名前を聞いても?」
「何を白々しい! ミダス様から私の事は聞いてるでしょ?」
「…すみませんが、一度たりとも聞いておりませんわ。」
駄目だわこれ。
ミダスから話ねぇ。
もしかしたら話していたかも知れないけど、特に興味が無かったら直ぐに忘れる様にしているので覚えが無い。彼女に興味ないし。
勿論、大事な話なら忘れませんわよ。
「嘘よ! 聞いたから私に意地悪をして、ミダス様も縛り付けているんじゃない!」
「ミスト、彼女はフラオ・ディーオだよ。」
私の性格を良くご存じであるイデスが通じない彼女の変わりに名前を教えてくれる。
何度か口のなかで呟くも思い当たる記憶は無し。正直にそう答えれば、ディーオ様は『そんな…』とか細い声呟き、涙に彩られた目を伏せる。周りの男達は痛ましげに彼女を見ていた。そして、彼女は涙を飛ばしながら顔を上げすぐに真っ向から睨み付けるように見てきた。男達はそれでこそ君だみたいな顔付きになっているし。なんなのこの茶番劇。
というか。あれ、いつの間にか苛めっ子扱いになってますが、苛めてませんよ。名前も知らないのに。
「私を苛めるのは貴女に取っては些細なことだったのでしょう。それは良いです。だけど、ミダス様だけは解放してもらいます!」
「苛めてませんからね。それよりもそれなんですけど、ミダスを解放、自由にってどういう意味ですか?」
彼女の言葉に男達から『酷い奴だ』『悪女め』『フラオが可哀想だ』なんて言われてますが、私は何もしてないですからね。それよりもミダスの事が気になります。だって私、
「別にミダスを愛しているわけではないのですが。」
「えっ。」
「彼とは成り行き上婚約者ですけど、いつでも解消しますわよ。所で、肝心のミダスはを見ませんが。」
「えっ。」
「ミストと一緒に来ると聞いていたが?」
「一人で行ってくれと。私はてっきりイデスと一緒かと。」
「「……。」」
イデスと見つめ合う事数秒。意思の疎通なぞ双子ゆえかなれたもの。
二人してにっこり笑う。
「「あんのくそ王子がぁ!!」」
「ひぇっ。」
「俺にはこの女の監視を頼んで」
「私には一人でパーティーに行け?」
「「よし、婚約解消ね。」」
「はは。駄目だよ。わたしはミストを愛しているのだから。」
懇談会パーティーの出入り口から端正な顔付きの男が悠々と入ってきた。
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