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文化祭が終わり、ざわざわしていた学校の雰囲気が時間を経て、すっかりもとに戻ってきた。
今日も学校が滞りなく終わり、弦も他の生徒に混ざって帰宅しようとしていたときだ。
「うわっ、学校の前にすげぇ車止まってんな」
「あれ、ヒカルんちの車じゃねぇ?」
クラスメイトが教室の窓から外を覗きながら驚嘆の声をあげている。
つられて弦も外を見る。校門の近くにメルセデス・マイバッハ プルマンが停車している。金持ち御用達の車だ。
一般庶民には全く関係ない車なので、ヒカルを迎えに来たのだろう。でもいつもヒカルは普通の生徒に混ざって電車で通学しているので迎えが来るなんて珍しいことだ。
「おい、ヒカル。お前今日迎え来てんぞ」
遥樹がヒカルに声をかけている。遥樹も奏多と同じくヒカルの取り巻きのうちのひとりだ。
その横を弦はさっさと通り過ぎる。ヒカルがこちらを振り向かないうちに。ヒカルと目を合わせたくない。というよりヒカルの目の前から自分の存在を消したいくらいだ。
教室を出て、昇降口を抜け、校門の前にいるマイバッハの前を足早に通り過ぎようとした時だ。
「弦」
声をかけられ、弦は振り向いた。
「今日は弦を迎えに来たんだ。乗って」
振り向いた先に立っていたのは、一真だった。一真に会うのは文化祭以来だ。
一真は弦を見て眩しいくらいの笑顔をみせている。
「一真? どうしたの? 迎えに来たって、一体なんのことだ?」
弦は一真と約束をしたことなど何もない。
「ごめん、急に学校に押しかけて。理由は車の中で話すよ。とにかく乗って」
一真が乗れというのは、このゴツい高級車のことなのか?!
ということは、この車はヒカルを迎えに来たんじゃなくて、弦を迎えに来たということなのか。
弦が躊躇っていると、一真は手を引いてきた。そのまま一真に引っ張られる形で車に乗り込む。
そして執事が車の扉を閉め、車は発進した。
「弦、俺さ。実は今日、誕生日なんだよ」
車の中で、一真は嬉々として弦に話しかけてきた。
「そうなのか? おめでとう。えっと俺よりも二つ上だったよな……? ということは二十歳になったのか?」
「そうそうっ、それでさ、今朝、親父から『お前を会社の後継者にしたい』って言われたんだ。もともと俺が二十歳になるときに、俺が後継者に相応しいかどうか判断するって言われててさ、俺、親父に認められたんだよ」
一真は嬉しそうだ。息子として父親に能力を認めてもらえたら、後継者はお前だと言われたら素直に嬉しいだろう。
「よかったな」
「ありがと、弦。お前にそう言われると嬉しいよ。弦はヒカルの味方かな、なんてちょっと思ってたから」
ヒカルの名前を聞いただけでドキッとした。
でもそうか。長男の一真が後継者になるなら、次男のヒカルは後継者争いに敗北したことになるのか……?
「今からプレッシャーだよ。やっぱり後継者はヒカルがよかったんじゃないかって言われないように頑張らなくちゃな!」
にっこりと明るい笑顔を向けてくる。この爽やかな感じこそ、一真の長所だろう。
「あ、あの、一真が後継者に選ばれたことって、ヒカルは知ってるの……?」
「え? ああ。もちろん。でもまだ口外はしてない。知ってるのは家族とか本当に身近な人だけだよ。あ、この車を運転してる俺の執事兼秘書の未延も知ってるよ」
ヒカルはわかっていたのか……。
今朝知ったのかもしれないが、学校では落ち込んだ様子も、変わったところも微塵も見せなかった。さすがヒカルだ。
「そんな秘密、俺なんかに話してよかったのかよ……」
弦は身内でも近しい人物でもない。一真は口が軽すぎないか?
「もちろん。俺は弦に一番に伝えたかった」
一真は弦を真っ直ぐに見つめてきた。
「俺、もし後継者になれたら、弦を迎えに行きたいとずっと思ってた。俺、弦のことが好きなんだ。弦。俺と付き合ってくれないか?」
え……?
弦は頭が真っ白になった。
なにが、起きてるんだ……?
まさか、一真が、俺のことを?!
「な、なんで俺なんか……」
「ずっとなんだ。初めて会ったあの日の夜からずっと弦のことが好きだ」
「う、嘘だろ?」
一真と出会ってあれから七年経過している。その間ずっと想っていただなんて話ありえないだろ。
「ごめん嘘じゃない。ずっと気になってて、でも会えなくて、そんな時に弦とヒカルが同じ高校に入ったことを知ったんだ。だからヒカルに会いに行くふりをして、文化祭や体育祭にも顔を出してたんだ。弦に会いたいから」
てっきりヒカルに会いに来てたのかと思ってたのに……。
「弦。何度でも言ってやる。俺は弦のことが好きだ。俺の恋人になって欲しい」
信じられない——。
そんなことあるはずがない。
「からかうのはよせっ」
「からかってないよ。本気だ」
「絶対に信じない。二人して俺を騙して楽しいのか?!」
一真はヒカルとは違うと思っていたのに、やっぱり似たもの兄弟だったんだな!
「え? 二人してって、弦、どういうこと?」
訊ねられて、弦は覚悟を決める。どうせ一真も同じ穴のムジナだろう。全部洗いざらいヒカルの悪行を一真に話してやる!
今日も学校が滞りなく終わり、弦も他の生徒に混ざって帰宅しようとしていたときだ。
「うわっ、学校の前にすげぇ車止まってんな」
「あれ、ヒカルんちの車じゃねぇ?」
クラスメイトが教室の窓から外を覗きながら驚嘆の声をあげている。
つられて弦も外を見る。校門の近くにメルセデス・マイバッハ プルマンが停車している。金持ち御用達の車だ。
一般庶民には全く関係ない車なので、ヒカルを迎えに来たのだろう。でもいつもヒカルは普通の生徒に混ざって電車で通学しているので迎えが来るなんて珍しいことだ。
「おい、ヒカル。お前今日迎え来てんぞ」
遥樹がヒカルに声をかけている。遥樹も奏多と同じくヒカルの取り巻きのうちのひとりだ。
その横を弦はさっさと通り過ぎる。ヒカルがこちらを振り向かないうちに。ヒカルと目を合わせたくない。というよりヒカルの目の前から自分の存在を消したいくらいだ。
教室を出て、昇降口を抜け、校門の前にいるマイバッハの前を足早に通り過ぎようとした時だ。
「弦」
声をかけられ、弦は振り向いた。
「今日は弦を迎えに来たんだ。乗って」
振り向いた先に立っていたのは、一真だった。一真に会うのは文化祭以来だ。
一真は弦を見て眩しいくらいの笑顔をみせている。
「一真? どうしたの? 迎えに来たって、一体なんのことだ?」
弦は一真と約束をしたことなど何もない。
「ごめん、急に学校に押しかけて。理由は車の中で話すよ。とにかく乗って」
一真が乗れというのは、このゴツい高級車のことなのか?!
ということは、この車はヒカルを迎えに来たんじゃなくて、弦を迎えに来たということなのか。
弦が躊躇っていると、一真は手を引いてきた。そのまま一真に引っ張られる形で車に乗り込む。
そして執事が車の扉を閉め、車は発進した。
「弦、俺さ。実は今日、誕生日なんだよ」
車の中で、一真は嬉々として弦に話しかけてきた。
「そうなのか? おめでとう。えっと俺よりも二つ上だったよな……? ということは二十歳になったのか?」
「そうそうっ、それでさ、今朝、親父から『お前を会社の後継者にしたい』って言われたんだ。もともと俺が二十歳になるときに、俺が後継者に相応しいかどうか判断するって言われててさ、俺、親父に認められたんだよ」
一真は嬉しそうだ。息子として父親に能力を認めてもらえたら、後継者はお前だと言われたら素直に嬉しいだろう。
「よかったな」
「ありがと、弦。お前にそう言われると嬉しいよ。弦はヒカルの味方かな、なんてちょっと思ってたから」
ヒカルの名前を聞いただけでドキッとした。
でもそうか。長男の一真が後継者になるなら、次男のヒカルは後継者争いに敗北したことになるのか……?
「今からプレッシャーだよ。やっぱり後継者はヒカルがよかったんじゃないかって言われないように頑張らなくちゃな!」
にっこりと明るい笑顔を向けてくる。この爽やかな感じこそ、一真の長所だろう。
「あ、あの、一真が後継者に選ばれたことって、ヒカルは知ってるの……?」
「え? ああ。もちろん。でもまだ口外はしてない。知ってるのは家族とか本当に身近な人だけだよ。あ、この車を運転してる俺の執事兼秘書の未延も知ってるよ」
ヒカルはわかっていたのか……。
今朝知ったのかもしれないが、学校では落ち込んだ様子も、変わったところも微塵も見せなかった。さすがヒカルだ。
「そんな秘密、俺なんかに話してよかったのかよ……」
弦は身内でも近しい人物でもない。一真は口が軽すぎないか?
「もちろん。俺は弦に一番に伝えたかった」
一真は弦を真っ直ぐに見つめてきた。
「俺、もし後継者になれたら、弦を迎えに行きたいとずっと思ってた。俺、弦のことが好きなんだ。弦。俺と付き合ってくれないか?」
え……?
弦は頭が真っ白になった。
なにが、起きてるんだ……?
まさか、一真が、俺のことを?!
「な、なんで俺なんか……」
「ずっとなんだ。初めて会ったあの日の夜からずっと弦のことが好きだ」
「う、嘘だろ?」
一真と出会ってあれから七年経過している。その間ずっと想っていただなんて話ありえないだろ。
「ごめん嘘じゃない。ずっと気になってて、でも会えなくて、そんな時に弦とヒカルが同じ高校に入ったことを知ったんだ。だからヒカルに会いに行くふりをして、文化祭や体育祭にも顔を出してたんだ。弦に会いたいから」
てっきりヒカルに会いに来てたのかと思ってたのに……。
「弦。何度でも言ってやる。俺は弦のことが好きだ。俺の恋人になって欲しい」
信じられない——。
そんなことあるはずがない。
「からかうのはよせっ」
「からかってないよ。本気だ」
「絶対に信じない。二人して俺を騙して楽しいのか?!」
一真はヒカルとは違うと思っていたのに、やっぱり似たもの兄弟だったんだな!
「え? 二人してって、弦、どういうこと?」
訊ねられて、弦は覚悟を決める。どうせ一真も同じ穴のムジナだろう。全部洗いざらいヒカルの悪行を一真に話してやる!
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