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そばにいて
2.
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一真が立ち止まり、長身の男と意味深な視線を交わした。
黒キャップにサングラスにマスク。明らかに浮いている、ベタな変装をした長身の男の正体はその見た目と雰囲気でわかる。ヒカルに間違いない。
一真が変装をしているヒカルに、右手のひらを差し出した。ヒカルもそれに応えて左手を出して、二人はハイタッチをする。
そして一真は去っていき、代わりにこちらに向かってくるのはヒカルだ。
ヒカルは弦の目の前に来た。ヒカルの表情はサングラスとマスクでまったくわからない。
「弦」
弦の名前を呼ぶ、懐かしいヒカルの声。その声を聞いただけで涙が滲んでくる。
「弦に話したいことあるんだ。できればここじゃなくて、ゆっくり話したい」
ヒカルに手を引かれて歩き出す。
ヒカルについていってもいいのかと戸惑い
、遠慮がちで重たかった足が、ヒカルの力強さと手の温もりを感じて次第に軽くなっていく。
国道246号にかかる陸橋を越え、連れてこられた先は煌びやかな高級マンションの前だ。
「俺、あれから家を出たんだ」
ヒカルはマンションのオートロックを解除して中へと進んでいく。
「なんで?!」
「決まってんだろ。目の前で一真と弦が仲良くしてるところを見せつけられて、平静でいられないと思ったからだ」
ヒカルは弦と一真が恋人同士にでもなるとでも思っていたのか……?
エントランスを抜け、ヒカルと一緒にエレベーターに乗る。ヒカルの部屋はどうやら22階らしい。
「ここが俺の部屋。一人暮らしだから狭いけどな」
「いや、狭くない……」
ヒカルの感覚は常識外れだ。この部屋は弦が父親と暮らしているアパートよりも広いのに、これでも狭いのか。
「料理も始めたし、掃除も洗濯もしてる。甘やかされて育った俺があり得ないだろ?」
家具や物も少ないし、生活感がない部屋だ。広いリビングに洗練された統一感のある家具が配置され、モデルルームみたいに上辺だけ整えられたインテリア。
「ここにヒカルが暮らしてるなんて想像つかないな……」
「俺も。賃貸だし、他人の家みたいだ」
「ヒカルが言うなよ」
ここで暮らしているはずのヒカルが何を言うか。
「まぁ、飽きるまではここにいるよ。大学も近いし」
ヒカルは「まぁ、座れよ」と弦をソファにくつろぐように促してきた。
そしてコーヒーを淹れるヒカル。こんな絵面は想像したこともない。すっごいレアだ。まさかヒカルにこんなことをしてもらう日がくるなんて。
コーヒーを持ってきたヒカルはそのまま弦の隣に座った。
横に座るヒカルからの猛烈な視線を感じる。見られ過ぎててヒカルのほうを振り向けないくらいに、ガン見されている。
「な、なんだよヒカル」
「別に。弦が俺の隣にいるなと思って」
おいおいやめてくれ。ヒカルからの視線に耐えられなくなってきた……。
「俺、弦に執着してもいい?」
「しゅ、しゅうちゃく……」
チラッと横目でヒカルを見ただけでドキドキする。さっき観たCMのヒカルの顔よりももっと魅惑的だ。
「そう。弦に何度振られても、俺は弦を追い続けるってこと。弦が他の奴と付き合っても、別れるのをずっと待ってるから」
ダメだ。ヒカルの目を見てしまった。この目に見つめられると弱い。
ヒカルは目が合っただけで人を魅了するチカラの持ち主なのか?!
「でも弦は一真を選ばなかった。俺も一真も弦は一真を選んだんだと思ってたのに、一真程度じゃ弦の恋人には力不足だったってことか?」
「ちっ、違うっ!」
あり得ないだろ。イケメン御曹司で資質と能力も兼ね備えている一真なら引くて数多だ。
「冗談だ。弦は俺を振ったあとも一真のところに行かなかった。つまり、俺が振られた原因は弦の心変わりじゃなかった。俺もあれから少し考えたんだけど、弦は俺のことを思って、俺を振ったんだろ?」
二人に迫られて、自分が争いの元凶になっていることに気がついて弦は身を引いた。
心変わりなんてしていないし、ヒカルから一真に乗りかえる気持ちなんて微塵もなかった。
「一真はいい奴だ。自分が人の上に立つべき人間だと自覚して、威張ったり変にへりくだったりしない。やっとわかった。なんで俺が後継者に選ばれないで、あいつが選ばれたのかが」
偉ぶるのもダメ。謙遜しすぎもダメ。そんな中で、人を上手く魅了して主従関係を保ちながら人を動かす能力は一真にはある。
その点ヒカルは不器用だ。使用人に対して「ありがとう」「今日の仕事は終わりにしていいよ」と労えばいいものを、素直になれずに突っぱねる。人に頼るのが下手でなんでも自分一人の力でやろうとする。まぁ、実際一人の力ですべてできてしまうところはヒカルの凄いところだが。
「弦のこと、一番理解してるのもあいつだと思う。俺はあいつみたいに弦の気持ちをくんでやることはできない。弦にとって俺みたいな奴に好かれるのは迷惑かもしれないけど、この気持ちは止められない。俺は弦がいなきゃ生きていけない」
「ヒカル……」
「何度振られたって、一緒にいたい。子供のとき出会ってからずっと弦に惹かれてた。他の奴にはこんな気持ちにはならなくて、何を言われても俺の心には響かない。弦と一緒にいて感じる嬉しさや、安寧は別格で、それだけが、弦だけがいつも俺を変えて、救ってくれる」
本当に不思議に思う。弦だってそうだ。誰に何を言われても、どうしてヒカルのことが変わらず好きなんだろう。
黒キャップにサングラスにマスク。明らかに浮いている、ベタな変装をした長身の男の正体はその見た目と雰囲気でわかる。ヒカルに間違いない。
一真が変装をしているヒカルに、右手のひらを差し出した。ヒカルもそれに応えて左手を出して、二人はハイタッチをする。
そして一真は去っていき、代わりにこちらに向かってくるのはヒカルだ。
ヒカルは弦の目の前に来た。ヒカルの表情はサングラスとマスクでまったくわからない。
「弦」
弦の名前を呼ぶ、懐かしいヒカルの声。その声を聞いただけで涙が滲んでくる。
「弦に話したいことあるんだ。できればここじゃなくて、ゆっくり話したい」
ヒカルに手を引かれて歩き出す。
ヒカルについていってもいいのかと戸惑い
、遠慮がちで重たかった足が、ヒカルの力強さと手の温もりを感じて次第に軽くなっていく。
国道246号にかかる陸橋を越え、連れてこられた先は煌びやかな高級マンションの前だ。
「俺、あれから家を出たんだ」
ヒカルはマンションのオートロックを解除して中へと進んでいく。
「なんで?!」
「決まってんだろ。目の前で一真と弦が仲良くしてるところを見せつけられて、平静でいられないと思ったからだ」
ヒカルは弦と一真が恋人同士にでもなるとでも思っていたのか……?
エントランスを抜け、ヒカルと一緒にエレベーターに乗る。ヒカルの部屋はどうやら22階らしい。
「ここが俺の部屋。一人暮らしだから狭いけどな」
「いや、狭くない……」
ヒカルの感覚は常識外れだ。この部屋は弦が父親と暮らしているアパートよりも広いのに、これでも狭いのか。
「料理も始めたし、掃除も洗濯もしてる。甘やかされて育った俺があり得ないだろ?」
家具や物も少ないし、生活感がない部屋だ。広いリビングに洗練された統一感のある家具が配置され、モデルルームみたいに上辺だけ整えられたインテリア。
「ここにヒカルが暮らしてるなんて想像つかないな……」
「俺も。賃貸だし、他人の家みたいだ」
「ヒカルが言うなよ」
ここで暮らしているはずのヒカルが何を言うか。
「まぁ、飽きるまではここにいるよ。大学も近いし」
ヒカルは「まぁ、座れよ」と弦をソファにくつろぐように促してきた。
そしてコーヒーを淹れるヒカル。こんな絵面は想像したこともない。すっごいレアだ。まさかヒカルにこんなことをしてもらう日がくるなんて。
コーヒーを持ってきたヒカルはそのまま弦の隣に座った。
横に座るヒカルからの猛烈な視線を感じる。見られ過ぎててヒカルのほうを振り向けないくらいに、ガン見されている。
「な、なんだよヒカル」
「別に。弦が俺の隣にいるなと思って」
おいおいやめてくれ。ヒカルからの視線に耐えられなくなってきた……。
「俺、弦に執着してもいい?」
「しゅ、しゅうちゃく……」
チラッと横目でヒカルを見ただけでドキドキする。さっき観たCMのヒカルの顔よりももっと魅惑的だ。
「そう。弦に何度振られても、俺は弦を追い続けるってこと。弦が他の奴と付き合っても、別れるのをずっと待ってるから」
ダメだ。ヒカルの目を見てしまった。この目に見つめられると弱い。
ヒカルは目が合っただけで人を魅了するチカラの持ち主なのか?!
「でも弦は一真を選ばなかった。俺も一真も弦は一真を選んだんだと思ってたのに、一真程度じゃ弦の恋人には力不足だったってことか?」
「ちっ、違うっ!」
あり得ないだろ。イケメン御曹司で資質と能力も兼ね備えている一真なら引くて数多だ。
「冗談だ。弦は俺を振ったあとも一真のところに行かなかった。つまり、俺が振られた原因は弦の心変わりじゃなかった。俺もあれから少し考えたんだけど、弦は俺のことを思って、俺を振ったんだろ?」
二人に迫られて、自分が争いの元凶になっていることに気がついて弦は身を引いた。
心変わりなんてしていないし、ヒカルから一真に乗りかえる気持ちなんて微塵もなかった。
「一真はいい奴だ。自分が人の上に立つべき人間だと自覚して、威張ったり変にへりくだったりしない。やっとわかった。なんで俺が後継者に選ばれないで、あいつが選ばれたのかが」
偉ぶるのもダメ。謙遜しすぎもダメ。そんな中で、人を上手く魅了して主従関係を保ちながら人を動かす能力は一真にはある。
その点ヒカルは不器用だ。使用人に対して「ありがとう」「今日の仕事は終わりにしていいよ」と労えばいいものを、素直になれずに突っぱねる。人に頼るのが下手でなんでも自分一人の力でやろうとする。まぁ、実際一人の力ですべてできてしまうところはヒカルの凄いところだが。
「弦のこと、一番理解してるのもあいつだと思う。俺はあいつみたいに弦の気持ちをくんでやることはできない。弦にとって俺みたいな奴に好かれるのは迷惑かもしれないけど、この気持ちは止められない。俺は弦がいなきゃ生きていけない」
「ヒカル……」
「何度振られたって、一緒にいたい。子供のとき出会ってからずっと弦に惹かれてた。他の奴にはこんな気持ちにはならなくて、何を言われても俺の心には響かない。弦と一緒にいて感じる嬉しさや、安寧は別格で、それだけが、弦だけがいつも俺を変えて、救ってくれる」
本当に不思議に思う。弦だってそうだ。誰に何を言われても、どうしてヒカルのことが変わらず好きなんだろう。
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