29 / 31
そばにいて
3.
しおりを挟む
「この世界で、俺が生涯愛するのは弦だけ。だから頼む。俺のそばにいてよ」
ヒカルは弦の身体を引き寄せ、きつく抱き締めてきた。
懐かしいヒカルからの抱擁に、弦の胸が熱くなる。
「弦。好きだ。好きだ。好きだっ」
「ヒカルっ……苦しいって……」
息ができないくらいに抱き締められて、弦は思わず音を上げる。ヒカルはすぐに抱擁を解いてくれた。
「ヒカル。俺は恋人だったヒカルにあんな酷いことをしたのに、許してくれるの?」
「酷いこと?」
「うん。ヒカルは何も悪くなかったのに、俺は、ヒカルに『別れよう』だなんて言った」
ヒカルは首を横に振る。
「酷いのは俺だ。弦は俺じゃなくて一真が好きになったから、俺を振ったのかと思ってた。でもそうじゃなかった。弦は俺を裏切ったりしてなかった。そんなこともわからないで、弦に冷たい言葉を散々浴びせた」
「当然だよ。ヒカルはちゃんと俺のこと好きだって伝えてくれてた。なのに……」
「いや、俺が悪い。一真に噛みついて、弦にも噛みついて、俺は心が狭いんだ。正しい目で見れば、一真を恐れる必要はなかったし、弦はちゃんと俺のことを見ててくれてた」
「違うよ、今度こそヒカルは悪くない。俺は今気がついた。二人に告白されて自惚れてたけど、一真もヒカルも俺が何もしなくたってきっと仲直りできてた。二人とも冷静になったらお互いを認め合ってるんだから。なのに、こんなヒカルを傷つけるような方法しか思いつかなくて……」
「弦は自惚れてなんかない。俺も本気。一真も本気。それだけは真実だから」
本当に信じられないことだ。二人に愛されることになるなんて想像もしなかった。
「何度振られても、俺は何度でも弦に告白する。俺の全部は弦に捧げる。愛を返してくれなくても、弦に捧げる。それが俺の生まれてきた意味だと思うから」
ヒカルの全部……。ヒカルならば弦のどんな願いも叶えてしまいそうだ。
それを、愛も返さずに? それじゃまるでヒカルは弦の奴隷だ。こんな最強の従僕はいない。
「じゃあ、ヒカルは俺を許してくれるってこと……?」
ヒカルのプライドを傷つけて、理不尽に振ったのにそれを許して復縁を願ってもいいのだろうか。
「許すもなにも、俺のせいだろ。謝るのは俺だ。ごめん。バカみたいに一真に嫉妬して、弦の気持ちを疑って、何も見えてなかった」
どうしよう。目の前にいるヒカルに手を伸ばしてもいいのだろうか。
兄弟二人が仲直りしたからって都合が良すぎるだろと心が躊躇する。
でも、もし許されるならヒカルと一緒にいたい。ヒカルに愛されて、同じくらいの強さでヒカルを愛していけたなら。
「弦。もう一度、俺の恋人になってください。ダメですか?」
ヒカルの手が弦の頬を伝う。愛おしそうに触れるヒカルの指先から、優しさを感じた。
「ヒカル……」
もっとヒカルの声が聞きたい。もっとヒカルのことを理解したい。その手でもっと触れて欲しい——。
「俺、やっぱりヒカルのこと好きだ」
弦のそのひと言を待っていたかのように、弦の唇にヒカルのキスが落ちてきた。
◆◆◆
やばい。心の準備ってものがまったくできていなかった。
ヒカルと再会するとも思っていなかったし、まさか寄りを戻すことになって、さらにはすっかりヒカルと話し込んでしまい、ヒカルの家に泊まることになるとも思わなかった。
シャワーを済ませたあと、ヒカルに借りたヒカルの服はブカブカだ。もともと余裕のあるゆったりとしたスウェットだし、上下とも裾が余ってしまっているので、弦は端を折って着ている。
そして弦が今いる場所はヒカルのベッドだ。バスルームに行く前のヒカルに「先に寝てろ」と言われて、間に受けたものの、この状況で眠れるわけがない!
よくよく考えたら、恋人の部屋で、恋人の服を着てベッドにいる。これって無事じゃ済まない状況なんじゃないだろうか。
——足音が近づいてくる。
ヒカルがこっちに来るかもしれない!
弦は思わず布団の中に潜り込んだ。
カチャリとドアが開く音がする。きっとヒカルだ。
弦が布団の中でじっとしたまま動かないでいると、「はぁ……」というヒカルのため息が聞こえてきた。
「弦、起きてる?」
もしかしてヒカルは弦が本当に文字どおり先に寝たと思っているのか……?!
「弦らしいな」
弦が何も返事をせずにいたら、ヒカルがそう、ぽつり呟いた。
クローゼットのドアを開ける音がしたり、部屋をうろつく足音がしたり、何をしているのだろう。ヒカルはいっこうに弦のいるベッドには近づいてこない。
ヒカルは弦の身体を引き寄せ、きつく抱き締めてきた。
懐かしいヒカルからの抱擁に、弦の胸が熱くなる。
「弦。好きだ。好きだ。好きだっ」
「ヒカルっ……苦しいって……」
息ができないくらいに抱き締められて、弦は思わず音を上げる。ヒカルはすぐに抱擁を解いてくれた。
「ヒカル。俺は恋人だったヒカルにあんな酷いことをしたのに、許してくれるの?」
「酷いこと?」
「うん。ヒカルは何も悪くなかったのに、俺は、ヒカルに『別れよう』だなんて言った」
ヒカルは首を横に振る。
「酷いのは俺だ。弦は俺じゃなくて一真が好きになったから、俺を振ったのかと思ってた。でもそうじゃなかった。弦は俺を裏切ったりしてなかった。そんなこともわからないで、弦に冷たい言葉を散々浴びせた」
「当然だよ。ヒカルはちゃんと俺のこと好きだって伝えてくれてた。なのに……」
「いや、俺が悪い。一真に噛みついて、弦にも噛みついて、俺は心が狭いんだ。正しい目で見れば、一真を恐れる必要はなかったし、弦はちゃんと俺のことを見ててくれてた」
「違うよ、今度こそヒカルは悪くない。俺は今気がついた。二人に告白されて自惚れてたけど、一真もヒカルも俺が何もしなくたってきっと仲直りできてた。二人とも冷静になったらお互いを認め合ってるんだから。なのに、こんなヒカルを傷つけるような方法しか思いつかなくて……」
「弦は自惚れてなんかない。俺も本気。一真も本気。それだけは真実だから」
本当に信じられないことだ。二人に愛されることになるなんて想像もしなかった。
「何度振られても、俺は何度でも弦に告白する。俺の全部は弦に捧げる。愛を返してくれなくても、弦に捧げる。それが俺の生まれてきた意味だと思うから」
ヒカルの全部……。ヒカルならば弦のどんな願いも叶えてしまいそうだ。
それを、愛も返さずに? それじゃまるでヒカルは弦の奴隷だ。こんな最強の従僕はいない。
「じゃあ、ヒカルは俺を許してくれるってこと……?」
ヒカルのプライドを傷つけて、理不尽に振ったのにそれを許して復縁を願ってもいいのだろうか。
「許すもなにも、俺のせいだろ。謝るのは俺だ。ごめん。バカみたいに一真に嫉妬して、弦の気持ちを疑って、何も見えてなかった」
どうしよう。目の前にいるヒカルに手を伸ばしてもいいのだろうか。
兄弟二人が仲直りしたからって都合が良すぎるだろと心が躊躇する。
でも、もし許されるならヒカルと一緒にいたい。ヒカルに愛されて、同じくらいの強さでヒカルを愛していけたなら。
「弦。もう一度、俺の恋人になってください。ダメですか?」
ヒカルの手が弦の頬を伝う。愛おしそうに触れるヒカルの指先から、優しさを感じた。
「ヒカル……」
もっとヒカルの声が聞きたい。もっとヒカルのことを理解したい。その手でもっと触れて欲しい——。
「俺、やっぱりヒカルのこと好きだ」
弦のそのひと言を待っていたかのように、弦の唇にヒカルのキスが落ちてきた。
◆◆◆
やばい。心の準備ってものがまったくできていなかった。
ヒカルと再会するとも思っていなかったし、まさか寄りを戻すことになって、さらにはすっかりヒカルと話し込んでしまい、ヒカルの家に泊まることになるとも思わなかった。
シャワーを済ませたあと、ヒカルに借りたヒカルの服はブカブカだ。もともと余裕のあるゆったりとしたスウェットだし、上下とも裾が余ってしまっているので、弦は端を折って着ている。
そして弦が今いる場所はヒカルのベッドだ。バスルームに行く前のヒカルに「先に寝てろ」と言われて、間に受けたものの、この状況で眠れるわけがない!
よくよく考えたら、恋人の部屋で、恋人の服を着てベッドにいる。これって無事じゃ済まない状況なんじゃないだろうか。
——足音が近づいてくる。
ヒカルがこっちに来るかもしれない!
弦は思わず布団の中に潜り込んだ。
カチャリとドアが開く音がする。きっとヒカルだ。
弦が布団の中でじっとしたまま動かないでいると、「はぁ……」というヒカルのため息が聞こえてきた。
「弦、起きてる?」
もしかしてヒカルは弦が本当に文字どおり先に寝たと思っているのか……?!
「弦らしいな」
弦が何も返事をせずにいたら、ヒカルがそう、ぽつり呟いた。
クローゼットのドアを開ける音がしたり、部屋をうろつく足音がしたり、何をしているのだろう。ヒカルはいっこうに弦のいるベッドには近づいてこない。
239
あなたにおすすめの小説
【完結】嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま
中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。
両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った伯父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。
故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!!
様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材!
僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX!
ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした婚約者、辺境伯オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。
うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか!
僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。
そうしてニ年後。
領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。
え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。
関係ここからやり直し?できる?
Rには*ついてます。
後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。
ムーンライトにも同時投稿中
【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました
未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。
皆さまありがとうございます。
「ねえ、私だけを見て」
これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。
エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。
「この恋、早く諦めなくちゃ……」
本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。
この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。
番外編。
リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。
――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。
僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた
無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。
雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン
《あらすじ》
恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。
如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。
小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。
春希(26)大河の大学友人。
新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。
【書籍化決定】カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!
野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ
平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、
どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。
数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。
きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、
生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。
「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」
それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて――
★リブレ様にて紙書籍・電子書籍化が決定しました!
応援してくださった皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!
発売日などの詳細は、決まり次第、作者のXや近況ボードなどでご報告させていただきますのでお待ちいただければ幸いです。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる