32 / 110
5.ゆらぐ気持ち
5-7
しおりを挟む
佐原はリクライニングを少し倒し、背伸びをした。
「和泉。こっち来いよ」
佐原が誘うように和泉の膝に優しく触れる。
「和泉。Come」
佐原と目が合った途端に、コマンドを使われた。
身体中の神経が活性化し、全身が目覚めていく。
考えるよりも先に、身体が勝手にDomの命令に従うべく動き出す。
和泉は運転席にいる佐原に近づき、膝の上に跨った。
佐原と視線を交わしたあと、和泉は佐原の首筋に頬を寄せる。
「文句言わずにちゃんと来たな。Goodboy」
佐原の両腕が伸びてきて、和泉の身体を抱き寄せた。そして優しく頭を何度も撫でられる。
佐原にコマンドを使って褒められて、和泉の胸の奥がじんと温かくなる。
すごく気持ちがいい。この身をすべて預けてしまいたい。Domに命令されるがまま心を解放してしまいたい。
しばらくの間、抱き締められていた。
佐原の手は優しくて、愛されていると勘違いしてしまいそうなほどだった。
これはお互いの欲を満たすだけのプレイだ。佐原は和泉のことを好きでこんなことをしているわけじゃない。本当は抱き締めたい相手が他にいるのに、その想いが叶わないから和泉を利用しているだけだ。
こんな特級のDomがゆきずりのSubと欲の発散のためにプレイするしかないなんてありえない。佐原は本当に不遇な男だ。
「Look」
コマンドを放たれ、和泉は佐原と見つめ合う。佐原は和泉の腰に手を回し、自分のほうへと抱き寄せた。
「和泉」
暗がりの中、非の打ち所のない綺麗な漆黒の双眼が、こちらを見つめている。
佐原の手が和泉のうなじに触れた。艶めかしくうなじを撫でていた指は、次第に和泉の頭を佐原の唇へと引きずり込んでいく。
キスされる。と思った。
和泉は躊躇する。今まで和泉が唇を重ねた相手は尚紘ただひとりだったからだ。
他の男とキスしたら、尚紘が亡くなる間際のあのキスの味を忘れてしまうかもしれない。生温い血の味がした、最期のキスを——。
どうしたらいい。
和泉が抵抗しようにも、佐原のコマンドとグレアに縛られ逃げることはできない。プレイを始めたら、SubはDomのいいなりだ。セーフワードを使わない限り、佐原にされるがままになる。
「キスは嫌なんだな」
佐原の唇は、和泉の鼻先に触れる寸前で止まった。
和泉は何も言っていないのに、佐原は心を読んだみたいにキスをやめてしまった。
「キスは好きな奴とだけするほうがいいな。俺なんかとしたくないだろ? そのくらいは免除してやる」
Domらしく偉そうな物言いだ。でも正直よかった。軽口を叩いてくれたほうが気分が楽だった。
「なんだよ偉そうに」
和泉も負けじと言い返すが、内心ドキドキしている。
さっきのは危なかった。もう少しで佐原からのキスを許すところだった。
そんなことをしてしまったら、和泉の身体に刻まれた尚紘との思い出をまたひとつ失うことになるところだった。
そうとわかっていたはずなのに、どうしてあのときセーフワードを使えなかったのだろう。
佐原は最初にセーフワードを与えてくれた。嫌なプレイをされたら、それがどんな言葉だって、事務的に口から発すればいい。
なのに、あのとき、佐原にされてもいいと思った……?
まさか、と和泉は慌てて考えを揺り戻す。
きっとDomの支配下にあったから、思考が鈍ったのだろう。そうに違いない。
「和泉。これからホテルにお前を連れ込んでもいいか?」
ホテルということは、それ相応のプレイをしたい、という意味なのだろう。
佐原とホテルでプレイをする——コマンドを与えられて、佐原の手で身体を弄ばれたら。そんなことを想像しただけで妙に身体が疼く。
「嫌だと言ったら?」
和泉が挑戦的な目をぶつけると佐原は「お前に拒否権、なかったな」と視線をぶつけ返してくる。
「三ヶ月のあいだは、楽しませてもらうからな」
佐原が微弱なグレアを放つ。
「あぁ……っ」
佐原のグレアを受けただけで自分の身体が熱くなっていくのがわかる。性的な興奮状態に陥るのだ。
SubがDomに抗う方法などない。今夜もDomの支配下に置かれる。すべての主導権を佐原に委ねるしかない。
「和泉。こっち来いよ」
佐原が誘うように和泉の膝に優しく触れる。
「和泉。Come」
佐原と目が合った途端に、コマンドを使われた。
身体中の神経が活性化し、全身が目覚めていく。
考えるよりも先に、身体が勝手にDomの命令に従うべく動き出す。
和泉は運転席にいる佐原に近づき、膝の上に跨った。
佐原と視線を交わしたあと、和泉は佐原の首筋に頬を寄せる。
「文句言わずにちゃんと来たな。Goodboy」
佐原の両腕が伸びてきて、和泉の身体を抱き寄せた。そして優しく頭を何度も撫でられる。
佐原にコマンドを使って褒められて、和泉の胸の奥がじんと温かくなる。
すごく気持ちがいい。この身をすべて預けてしまいたい。Domに命令されるがまま心を解放してしまいたい。
しばらくの間、抱き締められていた。
佐原の手は優しくて、愛されていると勘違いしてしまいそうなほどだった。
これはお互いの欲を満たすだけのプレイだ。佐原は和泉のことを好きでこんなことをしているわけじゃない。本当は抱き締めたい相手が他にいるのに、その想いが叶わないから和泉を利用しているだけだ。
こんな特級のDomがゆきずりのSubと欲の発散のためにプレイするしかないなんてありえない。佐原は本当に不遇な男だ。
「Look」
コマンドを放たれ、和泉は佐原と見つめ合う。佐原は和泉の腰に手を回し、自分のほうへと抱き寄せた。
「和泉」
暗がりの中、非の打ち所のない綺麗な漆黒の双眼が、こちらを見つめている。
佐原の手が和泉のうなじに触れた。艶めかしくうなじを撫でていた指は、次第に和泉の頭を佐原の唇へと引きずり込んでいく。
キスされる。と思った。
和泉は躊躇する。今まで和泉が唇を重ねた相手は尚紘ただひとりだったからだ。
他の男とキスしたら、尚紘が亡くなる間際のあのキスの味を忘れてしまうかもしれない。生温い血の味がした、最期のキスを——。
どうしたらいい。
和泉が抵抗しようにも、佐原のコマンドとグレアに縛られ逃げることはできない。プレイを始めたら、SubはDomのいいなりだ。セーフワードを使わない限り、佐原にされるがままになる。
「キスは嫌なんだな」
佐原の唇は、和泉の鼻先に触れる寸前で止まった。
和泉は何も言っていないのに、佐原は心を読んだみたいにキスをやめてしまった。
「キスは好きな奴とだけするほうがいいな。俺なんかとしたくないだろ? そのくらいは免除してやる」
Domらしく偉そうな物言いだ。でも正直よかった。軽口を叩いてくれたほうが気分が楽だった。
「なんだよ偉そうに」
和泉も負けじと言い返すが、内心ドキドキしている。
さっきのは危なかった。もう少しで佐原からのキスを許すところだった。
そんなことをしてしまったら、和泉の身体に刻まれた尚紘との思い出をまたひとつ失うことになるところだった。
そうとわかっていたはずなのに、どうしてあのときセーフワードを使えなかったのだろう。
佐原は最初にセーフワードを与えてくれた。嫌なプレイをされたら、それがどんな言葉だって、事務的に口から発すればいい。
なのに、あのとき、佐原にされてもいいと思った……?
まさか、と和泉は慌てて考えを揺り戻す。
きっとDomの支配下にあったから、思考が鈍ったのだろう。そうに違いない。
「和泉。これからホテルにお前を連れ込んでもいいか?」
ホテルということは、それ相応のプレイをしたい、という意味なのだろう。
佐原とホテルでプレイをする——コマンドを与えられて、佐原の手で身体を弄ばれたら。そんなことを想像しただけで妙に身体が疼く。
「嫌だと言ったら?」
和泉が挑戦的な目をぶつけると佐原は「お前に拒否権、なかったな」と視線をぶつけ返してくる。
「三ヶ月のあいだは、楽しませてもらうからな」
佐原が微弱なグレアを放つ。
「あぁ……っ」
佐原のグレアを受けただけで自分の身体が熱くなっていくのがわかる。性的な興奮状態に陥るのだ。
SubがDomに抗う方法などない。今夜もDomの支配下に置かれる。すべての主導権を佐原に委ねるしかない。
268
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる