おいてけぼりのSubは一途なDomに愛される

雨宮里玖

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5.ゆらぐ気持ち

5-7

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 佐原はリクライニングを少し倒し、背伸びをした。


「和泉。こっち来いよ」

 佐原が誘うように和泉の膝に優しく触れる。

「和泉。Comeおいで

 佐原と目が合った途端に、コマンドを使われた。
 身体中の神経が活性化し、全身が目覚めていく。
 考えるよりも先に、身体が勝手にDomの命令に従うべく動き出す。


 
 和泉は運転席にいる佐原に近づき、膝の上に跨った。
 佐原と視線を交わしたあと、和泉は佐原の首筋に頬を寄せる。

「文句言わずにちゃんと来たな。Goodboyいい子だ

 佐原の両腕が伸びてきて、和泉の身体を抱き寄せた。そして優しく頭を何度も撫でられる。
 佐原にコマンドを使って褒められて、和泉の胸の奥がじんと温かくなる。

 すごく気持ちがいい。この身をすべて預けてしまいたい。Domに命令されるがまま心を解放してしまいたい。


 しばらくの間、抱き締められていた。


 佐原の手は優しくて、愛されていると勘違いしてしまいそうなほどだった。

 これはお互いの欲を満たすだけのプレイだ。佐原は和泉のことを好きでこんなことをしているわけじゃない。本当は抱き締めたい相手が他にいるのに、その想いが叶わないから和泉を利用しているだけだ。

 こんな特級のDomがゆきずりのSubと欲の発散のためにプレイするしかないなんてありえない。佐原は本当に不遇な男だ。



Look見ろ

 コマンドを放たれ、和泉は佐原と見つめ合う。佐原は和泉の腰に手を回し、自分のほうへと抱き寄せた。

「和泉」

 暗がりの中、非の打ち所のない綺麗な漆黒の双眼が、こちらを見つめている。
 佐原の手が和泉のうなじに触れた。艶めかしくうなじを撫でていた指は、次第に和泉の頭を佐原の唇へと引きずり込んでいく。

 キスされる。と思った。

 和泉は躊躇する。今まで和泉が唇を重ねた相手は尚紘ただひとりだったからだ。

 他の男とキスしたら、尚紘が亡くなる間際のあのキスの味を忘れてしまうかもしれない。生温い血の味がした、最期のキスを——。

 どうしたらいい。

 和泉が抵抗しようにも、佐原のコマンドとグレアに縛られ逃げることはできない。プレイを始めたら、SubはDomのいいなりだ。セーフワードを使わない限り、佐原にされるがままになる。




「キスは嫌なんだな」

 佐原の唇は、和泉の鼻先に触れる寸前で止まった。
 和泉は何も言っていないのに、佐原は心を読んだみたいにキスをやめてしまった。

「キスは好きな奴とだけするほうがいいな。俺なんかとしたくないだろ? そのくらいは免除してやる」

 Domらしく偉そうな物言いだ。でも正直よかった。軽口を叩いてくれたほうが気分が楽だった。

「なんだよ偉そうに」

 和泉も負けじと言い返すが、内心ドキドキしている。

 さっきのは危なかった。もう少しで佐原からのキスを許すところだった。

 そんなことをしてしまったら、和泉の身体に刻まれた尚紘との思い出をまたひとつ失うことになるところだった。

 そうとわかっていたはずなのに、どうしてあのときセーフワードを使えなかったのだろう。

 佐原は最初にセーフワードを与えてくれた。嫌なプレイをされたら、それがどんな言葉だって、事務的に口から発すればいい。

 なのに、あのとき、佐原にされてもいいと思った……?



 まさか、と和泉は慌てて考えを揺り戻す。
 きっとDomの支配下にあったから、思考が鈍ったのだろう。そうに違いない。

「和泉。これからホテルにお前を連れ込んでもいいか?」

 ホテルということは、それ相応のプレイをしたい、という意味なのだろう。
 佐原とホテルでプレイをする——コマンドを与えられて、佐原の手で身体を弄ばれたら。そんなことを想像しただけで妙に身体が疼く。

「嫌だと言ったら?」

 和泉が挑戦的な目をぶつけると佐原は「お前に拒否権、なかったな」と視線をぶつけ返してくる。

「三ヶ月のあいだは、楽しませてもらうからな」

 佐原が微弱なグレアを放つ。

「あぁ……っ」

 佐原のグレアを受けただけで自分の身体が熱くなっていくのがわかる。性的な興奮状態に陥るのだ。


 SubがDomに抗う方法などない。今夜もDomの支配下に置かれる。すべての主導権を佐原に委ねるしかない。

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