おいてけぼりのSubは一途なDomに愛される

雨宮里玖

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5.ゆらぐ気持ち

5-6

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 和泉は「割り勘にしろ」と抵抗したのに、「ここの食事を奢るのは俺の決めたルールだから」という意味のわからない理由で、結局、佐原に食事を奢られた。

 そして助手席に乗るように促され、乗り込んだあと、佐原はどこかへ向かって車を発進させる。



「和泉、好きな曲を流せ」

 運転席でハンドルを握る佐原が、和泉にスマホを手渡してきた。

「パスコードは215537」

 これは佐原のプライベートなスマホだ。パスコードを簡単に他人に教えていいものじゃない。迂闊に教えたら和泉が佐原のスマホを操作して内容を全部見ることができるようになってしまう。

「パスコード解除できたか? そしたら音楽アプリが入ってるから、そこから選べ」
「わ、わかった……」

 佐原は運転中だから音楽アプリの操作はできないのかもしれないが、簡単にプライベートなスマホを預けられた方こそ反対に緊張する。

 佐原は無防備すぎる。 

 和泉が佐原のスマホで音楽アプリを操作しているとき、佐原のスマホのバナー通知がきた。

 ふと目に飛び込んできたのは″貫地谷梨花りか″の文字。メールの内容は『お疲れ様です』から始まっていて、業務連絡なのかもしれない。


「佐原。貫地谷さんからメール来たぞ」
「えっ?」

 一瞬、佐原が動揺したように見えた。だがすぐに佐原は「あとで確認する」と冷静さを取り戻していた。


「……これって、もしかしてうちの会社の貫地谷部長のことか?」
「そうだよ」

 和泉が思い切って尋ねたのに、佐原は言い淀むこともなかった。

「俺がこの会社に入って、エネルギー事業部に行くことになったのも梨花さんの誘いにのったからだ」

 佐原はさらりと言うが、和泉にとっては佐原が貫地谷部長のことを梨花さんと下の名前で呼んでいることに驚きだ。

「へ、へぇ……そうなんだ。佐原は貫地谷部長と親しいんだな」
「まぁ。親しいっちゃ親しいな」
「どこで、知り合ったんだ?」
「あー。俺が大学卒業して就職した年にあった六月の企業パーティーで」
「ふぅん……」

 佐原が就職した年なら、五年前ということになる。

「あのときの俺は落ち込んでたから、梨花さんに励まされたよ」
「佐原でも落ち込むことなんてあるのか?」
「あるよ。Domだって人間だ」

 詳しくはわからないが、貫地谷部長は落ち込んでいた佐原のことを助けた恩人ということなのだろう。

「佐原は貫地谷部長のこと信頼してるんだな……」
「まぁ。いい人だよ」

 ぽつりと言う佐原の視線は目の前の道路で、特に表情に変化はない。


 佐原の真意は測れない。わかるのは下の名前で呼ぶくらい親しくて、ふたりは部長と平社員以上の関係だということだけだ。

 佐原の想う相手は、やはり貫地谷部長なのだろうか。

 佐原と貫地谷部長がどんな関係なのか気になって仕方がない。でも、どうしても聞けない。佐原が叶わない恋をしていると知っていて、その胸に去来する寂しさや虚しさをわざわざ掘り返すような真似はできなかった。




「和泉、ちょっとだけ遠回りしてドライブしてもいいか?」
「ああ、いいけど……」

 佐原は「ありがとう」と言って湾岸へ向けて車を走らせる。

 夜の銀座の街を抜け、勝どき橋を抜けたその先、青く光る東京ゲートブリッジが見えてきた。

「和泉はテンポがいい曲が好きなんだな」
「まぁ。バラードも好きだけど、今日の気分はなんとなく」
「行きたい店とかないのか? 今度は和泉の行きたいところに連れて行きたい」
「またお前の奢り?」

 冗談で言ったのに、「三つ星レストランでも奢ってやる」と嘘みたいな答えを返された。

「和泉は、いつも何時くらいに寝るんだ?」
「あー、最近はお前のおかげで早く寝てるよ。十二時には寝るようにしてる」
「じゃあ十二時よりも前なら電話してもいいか?」
「えっ? いいけど……」
「わかった。じゃあ電話する」

 運転の合間にわざわざこっちを見てきて微笑まれ、ドキリとした。

 三ヶ月だけの付き合いだからビジネスライクに接してくれればいい。別に親しくする必要もないのに、佐原はさっきから和泉に質問ばかり繰り返してくる。

 まさか和泉に興味などあるまい。佐原は営業のときみたいに、コミュニケーションのため、相手のことを深く知ろうとするタイプなのだろうか。

 佐原はゲートブリッジを渡り終えたあと、近くの駐車場に車を停めた。人気ひとけのない公園の駐車場だった。
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