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新たな人生
6.
ローランの家での奉公は楽しかった。
朝起きて、野菜の皮剥きなど食事の支度の手伝いをする。それから掃除や洗濯、庭の手入れ。どれも負担はない。一日三回の食事も与えられるし、オメガのユリスには個室まで与えられている。
さらには毎日少しの賃金まで貰えるから、ユリスはこれを貯めておくことにした。いつかここを追い出されたときの生活費にするためだ。
「この花はカイル様みたいだな……」
風に揺れる優しい黄色の花弁をみて、カイルのさらさらと揺れる髪を思い出した。翡翠色の葉はカイルの瞳の色みたいだ。
その花がしおれそうになっていたので、ユリスは周りの余計な草を取り、肥料をやって水やりをする。この庭には同じ黄色の花が十は植えられているのでその一帯を丁寧に世話をした。
「ずっと綺麗に咲いてくれよ」
カイルは元気でいて欲しい。幸せになって欲しい。何があっても倒れることなく真っ直ぐにこの国を引っ張っていって欲しい。
そんなことを考えていたら、急にカイルに会いたくなった。今さらカイルに抱き締めて欲しいなどと大それた夢は抱かない。
ただひと目その姿を見るだけでいい。カイルの噂話は時々耳に聞こえてくるが、この目で、元気で過ごすカイルの姿を見てみたい。もしできることなら笑っているカイルの姿を見てみたい。
「はぁ……」
大きな溜め息がついて出た。
ダラートに住む召使いのユリスが、国王のカイルにひと目でも会う機会などあるはずがない。
「これは……?」
夕食のときに、なぜかローランが召使いたちにパンを差し入れてきた。ユリス以外の者たちも驚いているが、ユリスも然りで、皆一同に目をまるくしている。
「もらいものですが、たくさんあるので皆で分けることになりました」
ユリスの目の前にあるのはふわふわのパンとハチミツだ。見た目も匂いも城でカイルと一緒に食べたパンにそっくりだ。皆に倣って口にしてみるとあの日とまったく同じ味がした。
「では」
パンを届けて立ち去ろうとするローランをユリスは慌てて追いかけた。
「ローラン!」
「どうされました? 妃陛下」
「あのっ……! あのパンはどこから? どこからもらったものなのだ?!」
城で食べたパンとまったく同じものがどうしてダラートにもあるのか知りたかった。そしてそれがこんなに大量にこの家に届けられた理由も知りたかった。
「ああ……えっと、私のパン屋の友人からです……」
「友人?! あのパンを食べたら城で食べたものとまったく同じ味がした。それにハチミツまで……」
「えっ?!」
ローランは一瞬目を見開いたが、すぐに「間違えました!」と訂正してきた。
「私が城で仕えていたときの友人です。ダラートに用事があったようで、そのときにうちに寄ってくれたんですよ」
「なるほど……」
城の者ならば、同じパンを手に入れることはできるだろうが……。
「パンの手土産なんて珍しいな……」
「わ、私が好きで、そのことを友人が憶えていてくれたんです。妃陛下も召し上がってくださったんですよね? お口に合いましたか?」
「合うもなにも……とても美味しくて……」
ふわふわのパンとハチミツでとても懐かしい気持ちになった。いつかパンを食べているユリスをカイルが微笑みながら眺めていたときのことを思い出した。
「よかった。そのことを私の友人にも伝えておきますね。きっと私の友人も喜ぶでしょうから」
ローランは笑顔で去っていったが、ユリスにはいまいち理解ができない。
ローランへの贈り物なのだから、召使いが食べて喜んだことを伝えても意味がないのではないか。ローランの友人は恵まれない者に施すのが好きなのだろうか。
それから数日後、ユリスがいつものように庭の手入れをしようと黄色い花の植えてある場所にいくと、隣に同じ種類の白い花が丁寧に植えられていた。
「誰がこんなことを……」
この家には召使いはユリスだけではないし、他の誰かが手を加えることもあるだろう。でもよりによってユリスが特別手入れをしている花の隣に同じ種類の白い花を植えるなんて……。
そしてその日の夕食のときにまたふわふわのパンとハチミツが配られた。ローランに訊くと、また城にいる友人が贈ってくれたと言う。
こんなに頻繁に訪ねてくるなんて、ローランとその友人はよほど仲がよかったのだろうか。
朝起きて、野菜の皮剥きなど食事の支度の手伝いをする。それから掃除や洗濯、庭の手入れ。どれも負担はない。一日三回の食事も与えられるし、オメガのユリスには個室まで与えられている。
さらには毎日少しの賃金まで貰えるから、ユリスはこれを貯めておくことにした。いつかここを追い出されたときの生活費にするためだ。
「この花はカイル様みたいだな……」
風に揺れる優しい黄色の花弁をみて、カイルのさらさらと揺れる髪を思い出した。翡翠色の葉はカイルの瞳の色みたいだ。
その花がしおれそうになっていたので、ユリスは周りの余計な草を取り、肥料をやって水やりをする。この庭には同じ黄色の花が十は植えられているのでその一帯を丁寧に世話をした。
「ずっと綺麗に咲いてくれよ」
カイルは元気でいて欲しい。幸せになって欲しい。何があっても倒れることなく真っ直ぐにこの国を引っ張っていって欲しい。
そんなことを考えていたら、急にカイルに会いたくなった。今さらカイルに抱き締めて欲しいなどと大それた夢は抱かない。
ただひと目その姿を見るだけでいい。カイルの噂話は時々耳に聞こえてくるが、この目で、元気で過ごすカイルの姿を見てみたい。もしできることなら笑っているカイルの姿を見てみたい。
「はぁ……」
大きな溜め息がついて出た。
ダラートに住む召使いのユリスが、国王のカイルにひと目でも会う機会などあるはずがない。
「これは……?」
夕食のときに、なぜかローランが召使いたちにパンを差し入れてきた。ユリス以外の者たちも驚いているが、ユリスも然りで、皆一同に目をまるくしている。
「もらいものですが、たくさんあるので皆で分けることになりました」
ユリスの目の前にあるのはふわふわのパンとハチミツだ。見た目も匂いも城でカイルと一緒に食べたパンにそっくりだ。皆に倣って口にしてみるとあの日とまったく同じ味がした。
「では」
パンを届けて立ち去ろうとするローランをユリスは慌てて追いかけた。
「ローラン!」
「どうされました? 妃陛下」
「あのっ……! あのパンはどこから? どこからもらったものなのだ?!」
城で食べたパンとまったく同じものがどうしてダラートにもあるのか知りたかった。そしてそれがこんなに大量にこの家に届けられた理由も知りたかった。
「ああ……えっと、私のパン屋の友人からです……」
「友人?! あのパンを食べたら城で食べたものとまったく同じ味がした。それにハチミツまで……」
「えっ?!」
ローランは一瞬目を見開いたが、すぐに「間違えました!」と訂正してきた。
「私が城で仕えていたときの友人です。ダラートに用事があったようで、そのときにうちに寄ってくれたんですよ」
「なるほど……」
城の者ならば、同じパンを手に入れることはできるだろうが……。
「パンの手土産なんて珍しいな……」
「わ、私が好きで、そのことを友人が憶えていてくれたんです。妃陛下も召し上がってくださったんですよね? お口に合いましたか?」
「合うもなにも……とても美味しくて……」
ふわふわのパンとハチミツでとても懐かしい気持ちになった。いつかパンを食べているユリスをカイルが微笑みながら眺めていたときのことを思い出した。
「よかった。そのことを私の友人にも伝えておきますね。きっと私の友人も喜ぶでしょうから」
ローランは笑顔で去っていったが、ユリスにはいまいち理解ができない。
ローランへの贈り物なのだから、召使いが食べて喜んだことを伝えても意味がないのではないか。ローランの友人は恵まれない者に施すのが好きなのだろうか。
それから数日後、ユリスがいつものように庭の手入れをしようと黄色い花の植えてある場所にいくと、隣に同じ種類の白い花が丁寧に植えられていた。
「誰がこんなことを……」
この家には召使いはユリスだけではないし、他の誰かが手を加えることもあるだろう。でもよりによってユリスが特別手入れをしている花の隣に同じ種類の白い花を植えるなんて……。
そしてその日の夕食のときにまたふわふわのパンとハチミツが配られた。ローランに訊くと、また城にいる友人が贈ってくれたと言う。
こんなに頻繁に訪ねてくるなんて、ローランとその友人はよほど仲がよかったのだろうか。
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