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願い
3.
抱き合っては眠り、目覚めて届けられた食事を口にしては再び交わって、この七日間はカイルと身体を重ねることしかしなかった。
身体を清めるために湯浴みをしてもその最中に身体が熱くなってきて、カイルと致してしまうのだから本当に際限がなかった。
七日目の夜。狂ったような身体の火照りが落ち着いてきたころ、カイルとベッドで抱き合いながらお互いの話をした。
「ユリスが突然いなくなって、ユリスの置き手紙を見たとき俺は愕然とした。最初は血眼になってユリスを探したが、ユリスは簡単には見つからなかった」
探すなと手紙には書いてあったのに、カイルはユリスを必死で追ってくれたのか。
「しかしマールから城には戻らねばならない。それでユリスは病に伏せていることにして、ユリスがいなくなったことを隠した。ユリスは黒髪黒眼でこの上なく美形の特徴的な容姿だ。ユリスが行方不明などどなったらケレンディアで黒髪黒眼狩りが行われる。そんなことになれば逃げたユリス自身にも被害が及ぶだろうと思ったのだ」
「病死ということにして廃王妃にし、新しい王妃を迎えるためではなかったのですか?」
ユリスが訊ねると「そんなわけなかろう」とカイルに一蹴された。
「ユリスがどんな噂を聞いたのかは知らぬが、廃王妃にするとも、新王妃を迎えるともそんな話は俺は一度もしていない」
カイルがユリスを『百年の恋も醒め』て嫌いになったと言っていたのも、新王妃を迎える準備をしていると言っていたのもローランだ。
ローランはいったいどういうつもりで嘘をついたのだろう。
「城で王妃として暮らすのにはユリスの気持ちの負担が大き過ぎたのだろう? そんな状態では来るはずのヒートも来なくなる。ユリスを城に連れ戻したりせず、自由にしてやらねばと考えたのだ」
ユリスを見つめるカイルの目は優しい。吸い込まれそうな翡翠色の目にうっとりする。
「オメガは男娼宿に仕事を求めることが多い。だからまずはユリスの行方を探すために国中の男娼宿に『黒髪黒眼のオメガが現れたら高く買う』と触れ書きを出した。もちろん城からの触れ書きとは伏せてな」
男娼宿にいたニケが、男娼宿を営んでいる者たちは皆、黒髪黒眼を探していたと言っていた。高く買うという触れ書きが出回っていたからなのか。
「ダラートの男娼宿に黒髪黒眼のオメガが現れたと聞きつけ、ダラート周辺を探していたローランにすぐに確認するよう命令を下したのだ」
「あれ……? カイル様はローランをクビにして城から追い出したのではないのですか?」
「そんなことはしていない。俺はローランをダラートに派遣し、様子を探らせていただけだ」
おかしいなとは思っていた。カイルがローランにユリス失踪の責任を押し付けることなどないと思っていた。
「ユリスが無事に見つかってよかった。俺はローランにいくらでも払うからユリスを買って実家で保護するようにと伝えたのだ」
「まさか、私を買ったのはカイル様なのですか……?」
ローランはただカイルの命令に従っただけだったのか……?
「ああ。そのことはローランに伏せるように口止めした。俺が関わっていると知ったらユリスはまた逃げ出すかもしれないからな」
そういえばローランは『私にはとても支払えない額』だと言っていた。ローランが払ったのにそんなことを言うなんておかしいなと思ったが、あれはカイルが支払ったからだったのか。
「ローランの家で召使いとして過ごすユリスは生き生きとしていたな。ユリスが真面目に働く姿は心動かされたぞ」
「えっ……? なぜそのことを……」
「実は何度もローランの家を訪問したのだ。護衛はひとりのみ。その者も結局は荷物持ちだったな」
「カイル様が?!」
いつの間に来ていたのだろう。カイルがユリスを見ていたのならば、すぐ近くにカイルがいたということだ。
あんなに会いたいと思っていたカイルが実はすぐそばにいたなんて。
「ユリスに気づかれないように家の者にも協力してもらった。ローランから報告は受けていたが、どうしてもユリスに会いたくなった。ひと目でいいからユリスの元気な姿をこの目で見ておきたかったのだ」
ユリスもずっとカイルに会いたかった。ひと目でいいからカイルを見てみたいと思っていた。同じ頃、カイルもまたユリスに会いたいと思ってくれていたのか。
「掃除をしたり、庭の手入れをしたり、料理の補助をしたり、いつも穏やかな顔をしていた」
「はい……元来、私はあのような作業が向いているのかもしれません」
煌びやかな社交会で目立つことをする。人を従え、皆の中心となってお茶会や、パーティーを主催することよりも、日の当たらない地味な作業のほうが性に合っているのかもしれない。
「これからは城でユリスは好きなことをしろ。今までの王妃とまったく同じことをせねばならぬという決まりなどない。ユリスが皮を剥いた野菜を使った料理など、皆は畏れ多いだろう。いったいどんな顔で食べるか見ものだな」
カイルは笑った。
ああ、よかった。再びこの笑顔が見られる日がくるなんて。
身体を清めるために湯浴みをしてもその最中に身体が熱くなってきて、カイルと致してしまうのだから本当に際限がなかった。
七日目の夜。狂ったような身体の火照りが落ち着いてきたころ、カイルとベッドで抱き合いながらお互いの話をした。
「ユリスが突然いなくなって、ユリスの置き手紙を見たとき俺は愕然とした。最初は血眼になってユリスを探したが、ユリスは簡単には見つからなかった」
探すなと手紙には書いてあったのに、カイルはユリスを必死で追ってくれたのか。
「しかしマールから城には戻らねばならない。それでユリスは病に伏せていることにして、ユリスがいなくなったことを隠した。ユリスは黒髪黒眼でこの上なく美形の特徴的な容姿だ。ユリスが行方不明などどなったらケレンディアで黒髪黒眼狩りが行われる。そんなことになれば逃げたユリス自身にも被害が及ぶだろうと思ったのだ」
「病死ということにして廃王妃にし、新しい王妃を迎えるためではなかったのですか?」
ユリスが訊ねると「そんなわけなかろう」とカイルに一蹴された。
「ユリスがどんな噂を聞いたのかは知らぬが、廃王妃にするとも、新王妃を迎えるともそんな話は俺は一度もしていない」
カイルがユリスを『百年の恋も醒め』て嫌いになったと言っていたのも、新王妃を迎える準備をしていると言っていたのもローランだ。
ローランはいったいどういうつもりで嘘をついたのだろう。
「城で王妃として暮らすのにはユリスの気持ちの負担が大き過ぎたのだろう? そんな状態では来るはずのヒートも来なくなる。ユリスを城に連れ戻したりせず、自由にしてやらねばと考えたのだ」
ユリスを見つめるカイルの目は優しい。吸い込まれそうな翡翠色の目にうっとりする。
「オメガは男娼宿に仕事を求めることが多い。だからまずはユリスの行方を探すために国中の男娼宿に『黒髪黒眼のオメガが現れたら高く買う』と触れ書きを出した。もちろん城からの触れ書きとは伏せてな」
男娼宿にいたニケが、男娼宿を営んでいる者たちは皆、黒髪黒眼を探していたと言っていた。高く買うという触れ書きが出回っていたからなのか。
「ダラートの男娼宿に黒髪黒眼のオメガが現れたと聞きつけ、ダラート周辺を探していたローランにすぐに確認するよう命令を下したのだ」
「あれ……? カイル様はローランをクビにして城から追い出したのではないのですか?」
「そんなことはしていない。俺はローランをダラートに派遣し、様子を探らせていただけだ」
おかしいなとは思っていた。カイルがローランにユリス失踪の責任を押し付けることなどないと思っていた。
「ユリスが無事に見つかってよかった。俺はローランにいくらでも払うからユリスを買って実家で保護するようにと伝えたのだ」
「まさか、私を買ったのはカイル様なのですか……?」
ローランはただカイルの命令に従っただけだったのか……?
「ああ。そのことはローランに伏せるように口止めした。俺が関わっていると知ったらユリスはまた逃げ出すかもしれないからな」
そういえばローランは『私にはとても支払えない額』だと言っていた。ローランが払ったのにそんなことを言うなんておかしいなと思ったが、あれはカイルが支払ったからだったのか。
「ローランの家で召使いとして過ごすユリスは生き生きとしていたな。ユリスが真面目に働く姿は心動かされたぞ」
「えっ……? なぜそのことを……」
「実は何度もローランの家を訪問したのだ。護衛はひとりのみ。その者も結局は荷物持ちだったな」
「カイル様が?!」
いつの間に来ていたのだろう。カイルがユリスを見ていたのならば、すぐ近くにカイルがいたということだ。
あんなに会いたいと思っていたカイルが実はすぐそばにいたなんて。
「ユリスに気づかれないように家の者にも協力してもらった。ローランから報告は受けていたが、どうしてもユリスに会いたくなった。ひと目でいいからユリスの元気な姿をこの目で見ておきたかったのだ」
ユリスもずっとカイルに会いたかった。ひと目でいいからカイルを見てみたいと思っていた。同じ頃、カイルもまたユリスに会いたいと思ってくれていたのか。
「掃除をしたり、庭の手入れをしたり、料理の補助をしたり、いつも穏やかな顔をしていた」
「はい……元来、私はあのような作業が向いているのかもしれません」
煌びやかな社交会で目立つことをする。人を従え、皆の中心となってお茶会や、パーティーを主催することよりも、日の当たらない地味な作業のほうが性に合っているのかもしれない。
「これからは城でユリスは好きなことをしろ。今までの王妃とまったく同じことをせねばならぬという決まりなどない。ユリスが皮を剥いた野菜を使った料理など、皆は畏れ多いだろう。いったいどんな顔で食べるか見ものだな」
カイルは笑った。
ああ、よかった。再びこの笑顔が見られる日がくるなんて。
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