3 / 41
3.何をやらせても一番
しおりを挟む
それからハルはオルフェウスとゼインに会うようになった。相手は王子であり、頻繁に会える機会はなかったが、それでも父親たちの友情のおかげか接触はあったほうだと思う。バース性がオメガだとわかり、オルフェウスの婚約者になってからは、オルフェウスのほうからハルの家を訪ねてきてくれることもあった。
公務のため城に行くというグイドに「ふたりに会いたい」と我が儘を言って、一緒に連れて行ってもらったことがある。ハルは十五歳、オルフェウスとの婚約間近のころだった。
ハルが城に到着すると周囲がざわついていた。どうやら剣技訓練場にある広場で剣技大会が行われており、城の人々だけじゃなく城下に住む人々まで観戦にやってきているらしい。そのため、城中が大変な賑わいだ。
公務のため城の奥へと向かったグイドと別れたあと、ハルは剣技大会を観にいくことにした。広場を囲む観衆の隙間から様子を覗こうと、ハルは精一杯つま先立ちをする。
遥か先で、ふたりの男が相対している。顔まではわからないが、黒髪の男と、橙色の髪の男が互いに剣の切っ先を向けている。黒髪の男のほうがひと回り以上身体が小さい。まだ少年のようだ。
「相手は騎士団長だぞ? さすがのゼイン殿下も勝てないだろうな」
ハルの隣にいた二人組の男が話をしている。どうやら黒髪の少年はゼインのようだ。
「いや、何をやっても負けなしのゼイン殿下だ。わからないぞ?」
ゼインは何をやらせても一番だという噂を聞いたことがある。だが、ゼインはまだ十三歳、相手は大人の騎士団長。勝ち目はあるのだろうか。
キイィィンッ!
と、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。そこからのふたりの動きは尋常ではない。ハルにはとても目で追えないほどの速さだ。
あの速さを見切って無駄な動きなく避けることができる、ゼインの反射神経に驚かされる。
すごいと話では聞くが、いざ目の前にすると圧倒される。ゼインの動きは神がかっている。騎士団長相手に、まったくひけを取らない。
「これは事実上の決勝戦だな」
隣の男の言うとおりだ。ふたりの戦いに観客は盛り上がり、派手な声援を送っている。たしかに息を吞むような戦いだ。
「あっ……!」
ゼインが相手の攻撃を剣で受け止めたときに、バランスを崩して片膝をついた。ゼインのピンチに思わず悲鳴が出る。
もちろん騎士団長はその隙を見逃さない。ゼインを追い詰めるべく、返す剣でゼインに斬りかかる。
それをゼインは地に這いつくばるほど低い姿勢でかわした。ゼインの頭上を剣がかすめ、少し遅れた黒髪が切られて宙を舞った。
「え……?」
ゼインはその体勢からあっという間に攻撃に移った。まさかそんな避けられ方をされると思っていなかった騎士団長の不意をつき、ゼインは下から騎士団長の喉元に剣の切っ先を突きつけた。
勝敗はついた。
「勝者、ゼイン殿下!」
審判を務めていた男の高らかな声とともに、観客からワーッと歓声が上がる。
あまりのことに呆然としてしまったハルも、無意識に拍手を送っていた。
その後の試合もゼインは全戦全勝。今回の剣技大会の優勝者は、十三歳で初参加のゼインに決まった。
試合が終わったあと、ハルは人混みをかき分けゼインのもとへと急ぐ。ひと言すごかったと感想を伝えたかったのだ。だがゼインの周囲には人だかりができていて、なかなか話しかけられない。
「ハル」
ゼインに話しかける機会を待っているとき、名前を呼ばれた。振り返るとそこにオルフェウスがいて、「久しぶりだね」と微笑みかけてきた。
「オルフェウスさまっ!」
そうだ。ゼインにも会いたかったが、オルフェウスにも会いに来たのだ。オルフェウスは双子なので顔はゼインにそっくりだが、無表情なゼインと違っていつも笑顔だ。
「あれ……? 会わないあいだにオルフェウスさま、大きくなられましたね」
オルフェウスと並んでわかった。目線の高さが同じだ。ハルより小さいと思っていたのに、身長が同じくらいになっている。
「うん。力もついた。ハルは細いから、持ち上げることもできると思う。やってみせようか?」
「えっ! いいですって! 恥ずかしいからっ」
ハルは抵抗するのに、オルフェウスは手を伸ばしてくる。こんな人がたくさんいるところで抱っこされたら目立つに決まっている。
「冗談だよ、ハル」
「えっ? 冗談ですかっ?」
オルフェウスがこんな幼稚なことをするとは意外すぎる。
「あははっ、ハルをからかうと楽しいな」
「ひどいですよ、オルフェウスさまっ」
オルフェウスの肩をバシッと叩く。こんなふうに馴れ馴れしくしても、オルフェウスは怒りもせず楽しそうに笑ってくれる。
「……ハル」
オルフェウスと笑い合っていたところに、ゼインが割って入ってきた。
ゼインはいつもどおり無表情だ。最初は怒っているのかと思ったが、これがゼインの通常モードらしい。
公務のため城に行くというグイドに「ふたりに会いたい」と我が儘を言って、一緒に連れて行ってもらったことがある。ハルは十五歳、オルフェウスとの婚約間近のころだった。
ハルが城に到着すると周囲がざわついていた。どうやら剣技訓練場にある広場で剣技大会が行われており、城の人々だけじゃなく城下に住む人々まで観戦にやってきているらしい。そのため、城中が大変な賑わいだ。
公務のため城の奥へと向かったグイドと別れたあと、ハルは剣技大会を観にいくことにした。広場を囲む観衆の隙間から様子を覗こうと、ハルは精一杯つま先立ちをする。
遥か先で、ふたりの男が相対している。顔まではわからないが、黒髪の男と、橙色の髪の男が互いに剣の切っ先を向けている。黒髪の男のほうがひと回り以上身体が小さい。まだ少年のようだ。
「相手は騎士団長だぞ? さすがのゼイン殿下も勝てないだろうな」
ハルの隣にいた二人組の男が話をしている。どうやら黒髪の少年はゼインのようだ。
「いや、何をやっても負けなしのゼイン殿下だ。わからないぞ?」
ゼインは何をやらせても一番だという噂を聞いたことがある。だが、ゼインはまだ十三歳、相手は大人の騎士団長。勝ち目はあるのだろうか。
キイィィンッ!
と、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。そこからのふたりの動きは尋常ではない。ハルにはとても目で追えないほどの速さだ。
あの速さを見切って無駄な動きなく避けることができる、ゼインの反射神経に驚かされる。
すごいと話では聞くが、いざ目の前にすると圧倒される。ゼインの動きは神がかっている。騎士団長相手に、まったくひけを取らない。
「これは事実上の決勝戦だな」
隣の男の言うとおりだ。ふたりの戦いに観客は盛り上がり、派手な声援を送っている。たしかに息を吞むような戦いだ。
「あっ……!」
ゼインが相手の攻撃を剣で受け止めたときに、バランスを崩して片膝をついた。ゼインのピンチに思わず悲鳴が出る。
もちろん騎士団長はその隙を見逃さない。ゼインを追い詰めるべく、返す剣でゼインに斬りかかる。
それをゼインは地に這いつくばるほど低い姿勢でかわした。ゼインの頭上を剣がかすめ、少し遅れた黒髪が切られて宙を舞った。
「え……?」
ゼインはその体勢からあっという間に攻撃に移った。まさかそんな避けられ方をされると思っていなかった騎士団長の不意をつき、ゼインは下から騎士団長の喉元に剣の切っ先を突きつけた。
勝敗はついた。
「勝者、ゼイン殿下!」
審判を務めていた男の高らかな声とともに、観客からワーッと歓声が上がる。
あまりのことに呆然としてしまったハルも、無意識に拍手を送っていた。
その後の試合もゼインは全戦全勝。今回の剣技大会の優勝者は、十三歳で初参加のゼインに決まった。
試合が終わったあと、ハルは人混みをかき分けゼインのもとへと急ぐ。ひと言すごかったと感想を伝えたかったのだ。だがゼインの周囲には人だかりができていて、なかなか話しかけられない。
「ハル」
ゼインに話しかける機会を待っているとき、名前を呼ばれた。振り返るとそこにオルフェウスがいて、「久しぶりだね」と微笑みかけてきた。
「オルフェウスさまっ!」
そうだ。ゼインにも会いたかったが、オルフェウスにも会いに来たのだ。オルフェウスは双子なので顔はゼインにそっくりだが、無表情なゼインと違っていつも笑顔だ。
「あれ……? 会わないあいだにオルフェウスさま、大きくなられましたね」
オルフェウスと並んでわかった。目線の高さが同じだ。ハルより小さいと思っていたのに、身長が同じくらいになっている。
「うん。力もついた。ハルは細いから、持ち上げることもできると思う。やってみせようか?」
「えっ! いいですって! 恥ずかしいからっ」
ハルは抵抗するのに、オルフェウスは手を伸ばしてくる。こんな人がたくさんいるところで抱っこされたら目立つに決まっている。
「冗談だよ、ハル」
「えっ? 冗談ですかっ?」
オルフェウスがこんな幼稚なことをするとは意外すぎる。
「あははっ、ハルをからかうと楽しいな」
「ひどいですよ、オルフェウスさまっ」
オルフェウスの肩をバシッと叩く。こんなふうに馴れ馴れしくしても、オルフェウスは怒りもせず楽しそうに笑ってくれる。
「……ハル」
オルフェウスと笑い合っていたところに、ゼインが割って入ってきた。
ゼインはいつもどおり無表情だ。最初は怒っているのかと思ったが、これがゼインの通常モードらしい。
626
あなたにおすすめの小説
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる