婚約者変更で傲慢アルファの妃になりました

雨宮里玖

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3.何をやらせても一番

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 それからハルはオルフェウスとゼインに会うようになった。相手は王子であり、頻繁に会える機会はなかったが、それでも父親たちの友情のおかげか接触はあったほうだと思う。バース性がオメガだとわかり、オルフェウスの婚約者になってからは、オルフェウスのほうからハルの家を訪ねてきてくれることもあった。

 公務のため城に行くというグイドに「ふたりに会いたい」と我が儘を言って、一緒に連れて行ってもらったことがある。ハルは十五歳、オルフェウスとの婚約間近のころだった。

 ハルが城に到着すると周囲がざわついていた。どうやら剣技訓練場にある広場で剣技大会が行われており、城の人々だけじゃなく城下に住む人々まで観戦にやってきているらしい。そのため、城中が大変な賑わいだ。

 公務のため城の奥へと向かったグイドと別れたあと、ハルは剣技大会を観にいくことにした。広場を囲む観衆の隙間から様子を覗こうと、ハルは精一杯つま先立ちをする。

 遥か先で、ふたりの男が相対している。顔まではわからないが、黒髪の男と、橙色の髪の男が互いに剣の切っ先を向けている。黒髪の男のほうがひと回り以上身体が小さい。まだ少年のようだ。

「相手は騎士団長だぞ? さすがのゼイン殿下も勝てないだろうな」

 ハルの隣にいた二人組の男が話をしている。どうやら黒髪の少年はゼインのようだ。

「いや、何をやっても負けなしのゼイン殿下だ。わからないぞ?」

 ゼインは何をやらせても一番だという噂を聞いたことがある。だが、ゼインはまだ十三歳、相手は大人の騎士団長。勝ち目はあるのだろうか。
 キイィィンッ!
 と、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。そこからのふたりの動きは尋常ではない。ハルにはとても目で追えないほどの速さだ。
 あの速さを見切って無駄な動きなく避けることができる、ゼインの反射神経に驚かされる。
 すごいと話では聞くが、いざ目の前にすると圧倒される。ゼインの動きは神がかっている。騎士団長相手に、まったくひけを取らない。

「これは事実上の決勝戦だな」

 隣の男の言うとおりだ。ふたりの戦いに観客は盛り上がり、派手な声援を送っている。たしかに息を吞むような戦いだ。

「あっ……!」

 ゼインが相手の攻撃を剣で受け止めたときに、バランスを崩して片膝をついた。ゼインのピンチに思わず悲鳴が出る。
 もちろん騎士団長はその隙を見逃さない。ゼインを追い詰めるべく、返す剣でゼインに斬りかかる。
 それをゼインは地に這いつくばるほど低い姿勢でかわした。ゼインの頭上を剣がかすめ、少し遅れた黒髪が切られて宙を舞った。

「え……?」

 ゼインはその体勢からあっという間に攻撃に移った。まさかそんな避けられ方をされると思っていなかった騎士団長の不意をつき、ゼインは下から騎士団長の喉元に剣の切っ先を突きつけた。
 勝敗はついた。

「勝者、ゼイン殿下!」

 審判を務めていた男の高らかな声とともに、観客からワーッと歓声が上がる。
 あまりのことに呆然としてしまったハルも、無意識に拍手を送っていた。
 その後の試合もゼインは全戦全勝。今回の剣技大会の優勝者は、十三歳で初参加のゼインに決まった。
 試合が終わったあと、ハルは人混みをかき分けゼインのもとへと急ぐ。ひと言すごかったと感想を伝えたかったのだ。だがゼインの周囲には人だかりができていて、なかなか話しかけられない。

「ハル」

 ゼインに話しかける機会を待っているとき、名前を呼ばれた。振り返るとそこにオルフェウスがいて、「久しぶりだね」と微笑みかけてきた。

「オルフェウスさまっ!」

 そうだ。ゼインにも会いたかったが、オルフェウスにも会いに来たのだ。オルフェウスは双子なので顔はゼインにそっくりだが、無表情なゼインと違っていつも笑顔だ。

「あれ……? 会わないあいだにオルフェウスさま、大きくなられましたね」

 オルフェウスと並んでわかった。目線の高さが同じだ。ハルより小さいと思っていたのに、身長が同じくらいになっている。

「うん。力もついた。ハルは細いから、持ち上げることもできると思う。やってみせようか?」
「えっ! いいですって! 恥ずかしいからっ」

 ハルは抵抗するのに、オルフェウスは手を伸ばしてくる。こんな人がたくさんいるところで抱っこされたら目立つに決まっている。

「冗談だよ、ハル」
「えっ? 冗談ですかっ?」

 オルフェウスがこんな幼稚なことをするとは意外すぎる。

「あははっ、ハルをからかうと楽しいな」
「ひどいですよ、オルフェウスさまっ」

 オルフェウスの肩をバシッと叩く。こんなふうに馴れ馴れしくしても、オルフェウスは怒りもせず楽しそうに笑ってくれる。

「……ハル」

 オルフェウスと笑い合っていたところに、ゼインが割って入ってきた。
 ゼインはいつもどおり無表情だ。最初は怒っているのかと思ったが、これがゼインの通常モードらしい。
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