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13.どう思っているの
ヘリオスが発ってから二週間が過ぎた。伝令によると、ヘリオスたちは勝利を収め、帰港を目指して航海中だと聞いている。その到着予定日は昨日だった。
「まだ船の到着がない……?」
シノンはミアンからの報告を受けて、思わず立ち上がる。
久しぶりにヘリオスに会えると思ったのに、付近の海に、船の影も形もないらしい。
「はい。風は追い風、行きよりも早く帰って来られるはずなのですが……。船は攻撃を受けてダメージは受けたそうなのですが、無事に航海できているとのことでした」
ミアンにもそれ以上のことはわからないらしい。一瞬、まさかの事態が頭をよぎるが、あの船の性能を信じたい。ヘリオスは帰ってきてシノンを町に連れていくと約束してくれた。意地でも帰ってきてくれるはずだ。
「航海に予想外の出来事はつきものだ。きっと大丈夫だよ」
「そうですよね。でも今日戻ってきてくれたら収穫祭に間に合いましたのに」
「うん……」
シノンも少しだけ期待をしていた。今日まで町では収穫祭が行われている。
シノンは幼いころ、収穫祭に行きたいとずっと思っていた。話に聞いて、楽しそうだなと子ども心にワクワクしたのだ。でもあの両親がそんなことを許すはずもなく、結局一度も行けないまま、ここを離れて王都に移り住むことになった。
収穫祭は昨日からやっているのだが、もしかしたらヘリオスが帰ってくるかもしれないとシノンは収穫祭に行かなかった。シノンはヘリオスと一緒に行けたらいいなと考えていたからだ。
「ちょっと出かけてくる」
シノンはクローゼットから濃紺のマントを取り出して、身につける。
「えっ? おひとりで? どちらに行かれるのですか?」
「港に行ってみる」
「港ですか?」
ミアンが何か察したような顔をするから、シノンは「違うっ」と慌てて否定する。
「べっ、別にヘリオスを待つわけじゃない。ちょっと海を見に行くだけだ」
「そんな誤魔化そうとしなくても大丈夫ですよ。普段から見ていればわかります。シノン様はヘリオス様のことが本当にお好きなんですね!」
ミアンはニコニコしている。
「そ、そんなに態度に表れてるかな……?」
「それはもう。ヘリオス様を見つけるとパッとお顔が明るくなりますし。ヘリオス様のこと、いつも目で追いかけていらっしゃいますものね」
「なっ……」
自分ではポーカーフェイスを装っているつもりが、ミアンに見抜かれているなんて。ということはヘリオスにも案外バレているかもしれない。
「あのさミアン。じゃあ、ひとつ聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「は、反対にヘリオスはどうかな? ヘリオスは俺のことどう思ってると思う……?」
これだけ目敏くシノンのことを見抜くのなら、ミアンから見てヘリオスがどう映るのか聞いてみたくなった。
「それはもちろん、ヘリオス様はシノン様を大切に思っていらっしゃると思います」
自信満々に言うので、シノンは「どんなところが?」とさらに質問をぶつける。
「シノン様がここにいらっしゃる前と後で、ヘリオス様は違いますもの」
「え……?」
「落ち着きがなくなりました。ソワソワして、考えごとをしているのか、話も上の空になることが増えました」
「なんだ。そんなことか」
ヘリオスがシノンに恋をしていることはなさそうだ。きっと迷惑なやつがやってきて、ヘリオスの悩みが増えたのだろう。
「そんなことって……どう見てもヘリオス様の態度はシノン様一筋って感じですよ?」
あの態度のどこが、とシノンは心の中でため息をつく。
そうだった。ヘリオスは他人の前ではいい夫を演じている。いくらふたりの世話係のミアンでも、ヘリオスの全部を見ていることはない。ヘリオスの演技に騙されているのだろう。
「ごめん、変なことを聞いた」
シノンはマントのフードを被り、部屋を出ようとする。
「待って、シノン様っ」
ミアンがシノンを引き止める。
「さっき私が言ったこと、本当ですからね? ヘリオス様はシノン様に、恋に落ちてらっしゃると思いますっ」
慰めようとしてくれているのか、ミアンは必死で訴えてくる。
そんなミアンの優しさに胸をつかれる。ミアンはいつもシノンの愚痴を聞いて、こうやって励ましてくれる。
「ありがとう」
ミアンの小さな身体をそっと抱きしめる。ほんの少しのあいだだけ。敬愛の意味を込めて。
「えっ……!」
ミアンがびっくりして目をしばたかせている。
「私は侍女なのに、ありがとうだなんて……」
「ミアンが支えてくれるおかげで頑張れるんだ。当然だよ」
ミアンは平民ではない。貴族の端くれの家柄の三女だ。立場でいうと、シノンがニアだったころと同じくらいになる。そんなミアンに偉ぶるつもりなんてシノンにはない。
「行ってくる」
シノンが笑顔でヒラヒラと手を振ると、ミアンが照れながらも手を振り返してくれた。
「まだ船の到着がない……?」
シノンはミアンからの報告を受けて、思わず立ち上がる。
久しぶりにヘリオスに会えると思ったのに、付近の海に、船の影も形もないらしい。
「はい。風は追い風、行きよりも早く帰って来られるはずなのですが……。船は攻撃を受けてダメージは受けたそうなのですが、無事に航海できているとのことでした」
ミアンにもそれ以上のことはわからないらしい。一瞬、まさかの事態が頭をよぎるが、あの船の性能を信じたい。ヘリオスは帰ってきてシノンを町に連れていくと約束してくれた。意地でも帰ってきてくれるはずだ。
「航海に予想外の出来事はつきものだ。きっと大丈夫だよ」
「そうですよね。でも今日戻ってきてくれたら収穫祭に間に合いましたのに」
「うん……」
シノンも少しだけ期待をしていた。今日まで町では収穫祭が行われている。
シノンは幼いころ、収穫祭に行きたいとずっと思っていた。話に聞いて、楽しそうだなと子ども心にワクワクしたのだ。でもあの両親がそんなことを許すはずもなく、結局一度も行けないまま、ここを離れて王都に移り住むことになった。
収穫祭は昨日からやっているのだが、もしかしたらヘリオスが帰ってくるかもしれないとシノンは収穫祭に行かなかった。シノンはヘリオスと一緒に行けたらいいなと考えていたからだ。
「ちょっと出かけてくる」
シノンはクローゼットから濃紺のマントを取り出して、身につける。
「えっ? おひとりで? どちらに行かれるのですか?」
「港に行ってみる」
「港ですか?」
ミアンが何か察したような顔をするから、シノンは「違うっ」と慌てて否定する。
「べっ、別にヘリオスを待つわけじゃない。ちょっと海を見に行くだけだ」
「そんな誤魔化そうとしなくても大丈夫ですよ。普段から見ていればわかります。シノン様はヘリオス様のことが本当にお好きなんですね!」
ミアンはニコニコしている。
「そ、そんなに態度に表れてるかな……?」
「それはもう。ヘリオス様を見つけるとパッとお顔が明るくなりますし。ヘリオス様のこと、いつも目で追いかけていらっしゃいますものね」
「なっ……」
自分ではポーカーフェイスを装っているつもりが、ミアンに見抜かれているなんて。ということはヘリオスにも案外バレているかもしれない。
「あのさミアン。じゃあ、ひとつ聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「は、反対にヘリオスはどうかな? ヘリオスは俺のことどう思ってると思う……?」
これだけ目敏くシノンのことを見抜くのなら、ミアンから見てヘリオスがどう映るのか聞いてみたくなった。
「それはもちろん、ヘリオス様はシノン様を大切に思っていらっしゃると思います」
自信満々に言うので、シノンは「どんなところが?」とさらに質問をぶつける。
「シノン様がここにいらっしゃる前と後で、ヘリオス様は違いますもの」
「え……?」
「落ち着きがなくなりました。ソワソワして、考えごとをしているのか、話も上の空になることが増えました」
「なんだ。そんなことか」
ヘリオスがシノンに恋をしていることはなさそうだ。きっと迷惑なやつがやってきて、ヘリオスの悩みが増えたのだろう。
「そんなことって……どう見てもヘリオス様の態度はシノン様一筋って感じですよ?」
あの態度のどこが、とシノンは心の中でため息をつく。
そうだった。ヘリオスは他人の前ではいい夫を演じている。いくらふたりの世話係のミアンでも、ヘリオスの全部を見ていることはない。ヘリオスの演技に騙されているのだろう。
「ごめん、変なことを聞いた」
シノンはマントのフードを被り、部屋を出ようとする。
「待って、シノン様っ」
ミアンがシノンを引き止める。
「さっき私が言ったこと、本当ですからね? ヘリオス様はシノン様に、恋に落ちてらっしゃると思いますっ」
慰めようとしてくれているのか、ミアンは必死で訴えてくる。
そんなミアンの優しさに胸をつかれる。ミアンはいつもシノンの愚痴を聞いて、こうやって励ましてくれる。
「ありがとう」
ミアンの小さな身体をそっと抱きしめる。ほんの少しのあいだだけ。敬愛の意味を込めて。
「えっ……!」
ミアンがびっくりして目をしばたかせている。
「私は侍女なのに、ありがとうだなんて……」
「ミアンが支えてくれるおかげで頑張れるんだ。当然だよ」
ミアンは平民ではない。貴族の端くれの家柄の三女だ。立場でいうと、シノンがニアだったころと同じくらいになる。そんなミアンに偉ぶるつもりなんてシノンにはない。
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