生き急ぐオメガの献身

雨宮里玖

文字の大きさ
14 / 27

14.収穫祭

 城を出て港につき、シノンは海を眺めている。
 遠く、遠く、目を凝らして船の姿を探す。待てども何も見えなくて、シノンは何度もため息をつく。
 すぐ近くの港町では、収穫祭が行われている。日が落ちて、祭りの日にだけ点く小さな明かりがぽつぽつと灯り始めた。

 暗くなると船も見えなくなり、シノンは諦めて海に背を向けた。
 少しだけ祭りを見てみようかなと思い、マントのフードを深めにかぶり、シノンは祭りの人混みに混ざっていく。

「綺麗だな……」

 夜を照らす小さな軒先の灯は、星明かりのようだ。いつもの町が宵闇の中、小さな白い明かりに囲まれて、幻想的に見える。
 そこにいる人々も、今日だけは特別な日を過ごしている。皆、どこか浮かれているように見える。
 幼いころ、憧れていた気持ちを思い出す。これが噂に聞いた収穫祭かと、今更になって叶った小さな夢を噛みしめた。

 ひととおり露店を見回って、賑わいを感じてみる。
 店のうちのひとつ、装飾品を売っている店の前で、シノンは足を止めた。

 ヘリオスに贈り物をしたいと考えたのだ。
 しばらく眺めていて、マントの留め具がいいかなと思い始めた。
 濃碧色の宝石が輝く留め具を手に取ってみる。これならヘリオスの瞳の色に合っていていいなと思った。

「これ、ください」

 シノンは碧い宝石の付いたマントの留め具を店主に手渡す。そして代金を支払おうとマントの中へ手を入れたときだった。

「支払いはこれで」

 シノンの後ろからスッと男の手が伸びてきた。店主は男から札を受け取る。
 シノンがバッと振り返るとすぐ後ろにヘリオスがいた。

「ヘリオス、どうして……」
「今帰った。さっき港でミアンに会って、シノンがまだ帰って来ないと心配していたぞ」
「あ……」

 すっかり暗くなったのにシノンが戻らなかったことでミアンが城から探しに出たのだろう。

「それを聞いて俺もシノンを探しにきた。会えてよかった。お前の身に何かあったら大変だ」
「大丈夫だよ」

 シノンには魔力がある。いざとなれば襲ってきた敵を吹き飛ばすくらい造作もないことだ。

「妙な男にナンパされなかったか?」
「ナンパっ?」
「そりゃそうだ。収穫祭ではナンパが横行している。お前は可愛いからすぐに目をつけられそうだ」
「か、わいい……?」

 ヘリオスに可愛いと言われたのは初めてだ。普段なら可愛いと言われると子ども扱いされているようでムッとするのに、ヘリオスに言われると、急に顔が熱くなる。それに、胸が妙にドキドキする。
 ヘリオスは店主からお釣りと品物を受け取り「これが欲しかったんだろ」とマントの留め具を手渡してきた。

「今、着けるか?」

 ヘリオスがシノンのマントに留め具を着けようとするので、シノンは手で制する。

「違う、これ、ヘリオスに贈ろうと思ってたんだ」

 シノンはヘリオスの手に、そのままマントの留め具を握らせる。

「俺に……?」
「うん。要らなかったら俺が使うから、無理してもらってくれなくてもいいよ」
「何言ってんだ、そういうことなら受け取るよ」

 ヘリオスはグッと留め具を握りしめる。

「あ、あの、丁度留め具が壊れて困ってたところなんだ。だ、だからその……ありがとう……」
「ヘリオスが支払ったから、ヘリオスが自分で買ったみたいになっちゃったけどね」
「すまない。そんな事情を知らなかったから。今度はシノンの欲しいものを見に行こう」

 ヘリオスはシノンの腰に手を回してきた。
 人混みだから自然と距離が近づくのはあるが、こんなふうに腰を抱かれると本物の愛し合ってるふたりみたいで、恥ずかしくなる。

「すっ、すまない! つい!」

 ヘリオスは急にシノンから手を離す。ヘリオスはなぜか妙に慌てている。

「夫夫だからいいのに」

 今までヘリオスは、人前でこれ見よがしに偽りの仲の良さをアピールしていたくせに、いったいどうしたのだろう。

「あ、そうか、そうだった……で、でも今はやめておくよ」

 ヘリオスはなぜ動揺しているのだろう。その理由がわからなくて、シノンは首をかしげた。

「い、行こう。シノンが気にいるものはあるかな」
「うん……」

 どこかぎこちない態度のヘリオスを不思議に思いながらも、シノンは歩き出す。

 これは夢のデートだ。幼いころ憧れていた収穫祭を、愛するヘリオスと一緒に歩いている。この時間を大切にしたい。先の短いシノンの、一生の思い出になるかもしれないから。
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!