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第3章
54.呪いの真相
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俺が気を失いかけたころ、目の前に黒い影が現れた。
「あ……」
人間よりも数倍も大きい、頭に双角を持ったヒトの異形体。
オーガのように筋骨隆々で逞しいわけではない。だが体格はいい。あの長い腕で払われただけで部屋の端まで吹っ飛ばされそうだ。
悪魔を消し去ろうと、悪魔祓いをする奴の気が知れない。こんな奴に戦いを挑んで打ち勝とうだなんて無謀すぎる。見ただけでわかる。持っている力が段違いだ。
悪魔は青白い眼光で俺を見た。その目を見ただけで命を奪われそうなくらいだ。気づけは俺の身体は全身ガタガタと震えている。
――我を目覚めさせたのはお前だな。
「うわ……っ!」
俺には悪魔言葉はわからない。俺の頭の中に直接入り込むように悪魔が話しかけてきた。
動揺している場合じゃない。なんとか契約を交わさないと。
「ライオネル……我が夫、ライオネル・バーノンの命を救ってほしい。悪魔の呪いにかけられ、命の長さを決められてしまっている。ライオネル・バーノンは呪いの代わりに何も得ていない不憫な男だ。もし契約してくれるなら、俺の持っているものをなんでも渡そう。だから頼む。俺の願いを聞いてくれ!」
俺は必死で訴える。膝をついて床に手をつき、額を地面にこすりつける。
プライドも何もいらない。俺が欲しいのはライオネルのこれから先の命だ。
代償は何でも払う。ライオネルが助かるのなら、なんだって捧げてやる。ライオネルより大切なものなどない。だから、どうか俺の願いを聞き入れてほしい。
――ライオネル・バーノン……あいつか……。
悪魔は何か逡巡しているように見える。思考とか人間と似たようなものなのかな。だったら、誰かを想う心や、大切な存在、みたいな感覚も悪魔は持ち合わせているのだろうか。
「ライオネルを知っているのか?」
悪魔の考えることはわからない。でも、俺には悪魔がライオネルを知っているような素振りに思えた。まさかこいつ、二十年前にここで暴走した悪魔なのかな……。
俺が問いかけても、悪魔からの反応がない。
なんなんだ、こいつ。
「もう一度聞く。ライオネル・バーノンを知っているのか?」
――知っているもなにも、今ここにいるではないか。
「え……?」
ライオネルが、ここにいるっ?
何を言っているんだ? ライオネルは朝早く騎士たちを連れ、視察に向かったはずだ。
俺は辺りを見回すが、当然ライオネルはいない。地下への入口だって、つっかえ棒で塞いであるのに。
――あいつは呪いの代わりに我が力を手にしておるぞ。
「まさか……!」
ライオネルは何も得ていないはずだ。ライオネルが悪魔の力を持っている? いったいどこに? 魔法も使えないような男なのに。
俺は記憶を手繰り寄せる。ライオネルの身代わりの石を見つけたときに、俺は魔効書に書かれた契約の内容を見ているはずだ。
あのとき、なんて書いてあった……?
『先祖の邪魔が入った』
バーノン司教が暴走した悪魔を止め、ライオネルを守ったんだよな。でも守ったにしては、ライオネルは命を脅かすような重い呪いをかけられている。
そもそも先祖って誰の先祖のことだ? 誰にだって先祖はいる。もしかしてライオネルではなく、この呪いをかけた者の先祖……?
悪魔を召喚したのはフォルネウスの母親のはず。フォルネウスの母親は息子に悪魔の力を与えようとして、大きな被害を出してしまったんだ。
ライオネルの呪いって、何と引き換えにかけられたものなんだ? ライオネルは代わりに何も手に入れていないように見えるのに。
もしかしたら……。
「うわっ!」
地響きが起こり、俺は驚いて立ち上がろうとしたけどバランスを保てなくて柱に掴まる。
悪魔が動き出したんだ!
屋根を破壊し、地下から出て行こうとしている。そんなことになったら騒ぎになる。二十年前の事件の二の舞だ。
「待て! 俺と話をしよう!」
俺が叫んでも、悪魔は不敵な笑みを浮かべるだけ。天井に片手をかざして、そこに力を集中させている。魔力で天井を壊す気だ。
「そうは、させるかっ!」
俺は急いで防御の魔法をかける。全身全霊で防ごうとしたのに、俺の魔法は呆気なく破られた。魔光弾の一撃で屋根と一階部分の床が吹き飛び、その開いた穴から悪魔は驚異的な跳躍力で地上へ出て行ってしまった。
「やばいっ……!」
俺は悪魔を追うため階段へと走る。つっかえ棒を振り払って、地上へとつながる階段を、疲弊した身体に鞭打ち駆け上がった。
身体は限界だ。でも動かないわけにはいかない。
悪魔をなんとかして止めなくちゃ。
ライオネルを救わなくちゃ。
全部、全部、俺が解決してみせる。
俺が地上に出ると、ひとりの男が悪魔と対峙していた。人間のくせに果敢に悪魔に立ち向かっていくその男こそライオネルだった。
ライオネルは果敢に剣で攻撃を仕掛けるが、悪魔にはかすり傷程度のダメージしか与えられない。反対にライオネルは悪魔の放った波動で、かなりの距離を吹き飛ばされていった。
「ライオネルっ!」
俺はライオネルに駆け寄り、打ちつけたライオネルの背中に治癒魔法をかける。でも力が出ず効力がない。俺の身体は震えが止まらないし、魔力はほとんど尽きていた。
「ノア、下がってろ。俺がやる」
ライオネルはすぐに立ち上がり、剣を構え、悪魔を見据えている。
「こいつだ。俺に呪いをかけた悪魔は。こいつを祓えば俺の身体は元通りになるんだよな……」
そうだ。ライオネルは二十年前に悪魔と対峙していて、そいつの姿と顔を覚えているんだ。
ライオネルはじりじりと悪魔に近づいていく。
ライオネルは悪魔と戦う気だ。
たしかに呪いをかけた悪魔を祓えば、その悪魔の呪いは消え去る。
でも、いくら歴戦の猛者ライオネルでも無理だ。さっきのライオネルの渾身の攻撃でも、かすり傷を負わせるので精一杯だった。
「待て、ライオネルっ」
俺はライオネルの横に並んだ。
俺には策がある。こいつがライオネルに呪いをかけた悪魔だとわかれば、あることができる。
俺の考えが正しければの話だが。
「悪魔と会話をするんだ!」
「会話っ? 気が触れたこいつと!?」
「気が触れた……?」
目の前にいる悪魔を見ると、目が赤く光っている。
最初、俺が召喚したときは青色だった。
「悪魔! 俺の話を聞け! 聞いてくれ!」
俺が叫んでも、さっきみたいに悪魔は俺の心に話しかけてこない。ものすごいスピードで駆けてきて、俺たちふたりを腕で薙ぎ払おうとする。それをライオネルが咄嗟に俺の前に立ち、剣で攻撃を受け止めた。
「ライオネルっ! 大丈夫かっ!?」
悪魔の腕に吹き飛ばされないよう、ライオネルは必死でこらえている。
俺のせいだ。
俺を庇うためにライオネルは逃げられなかった。
「くっそぉ!」
俺は腰にぶら下げていた剣を引き抜き、ライオネルの援護をするよう、悪魔の腕に斬りかかる。
こんなことになるなら剣の腕をもっと磨いておけばよかった。
俺が、俺がもっと強ければ……!
「おい、悪魔! 目を覚ませ!」
悪魔の腕をライオネルとふたりがかりでなんとか打ち払う。
「ノア。逃げろ」
「嫌だ。俺も戦う。足手まといにはならないようにするからっ」
俺は魔力も尽きたし、剣も下手くそだ。それでもライオネルのそばにいたい。
こんな俺でもライオネルひとりで戦うよりはふたりの方がマシだろ。
俺もライオネルも必死で攻撃しようとするが、悪魔からの攻撃をかわすので精一杯だ。とてもじゃないが、こいつを祓える気がしない。
「悪魔! 契約解除だ!」
俺は大声で叫んだ。でも、我を忘れた悪魔には届かない。
「お前の与えた力はもう要らないっ! だからライオネルの呪いを消してくれ! 契約解除だ!」
ライオネルの呪いと引き換えに力を手にしたのはフォルネウスだ。
これは俺の想像に過ぎない。
でも、ライオネルは呪いを背負わされたのに何も得ていないんだ。
おそらくフォルネウスの母親がライオネルを使って悪魔と契約したんだと思う。
ライオネルの寿命を差し出す代わりに、息子に悪魔の力を与えてほしいとでも言ったんじゃないだろうか。
フォルネウスがどこまで知っていたかわからない。多分知らないんじゃないか。
自分の魔力は、ライオネルの呪いと引き換えに手にしたものだって。あいつは魔導のエリートぶってたが、才能なんかじゃなかった。あれはライオネルの犠牲のもとに手にした力だったんだ。
そんな契約、さっさと終わりにしてやる!
フォルネウスが力を失おうが、知ったことじゃない。ライオネルの命のほうが何倍も大事だ。
契約を解除するだけなら、悪魔の了承があればすぐにできる。
新しく契約するわけじゃないから、人間側は何も失わずに済むんだ。
困るのはフォルネウスだけ。でも俺はそんなの知らん!
「契約解除!!」
俺は悪魔の攻撃を避け、なけなしの攻撃を加えながら何度も叫ぶ。
早く目を覚ましてくれ!
「ノア、なんだ契約解除って」
戦いの最中、ライオネルと背中合わせになったときライオネルが尋ねてきた。
「ライオネル。お前の呪いは悪魔契約で成されたものだ。俺は最初バーノン司教の魂がお前を死から守るために契約したのかと思っていた。でも違う。多分、フォルネウスの母親が息子に魔力を与えたいがために、契約を交わしたんだ。お前の身体を対価として使ってな」
フォルネウスの母親はふたつの契約をしたんだ。
息子の命を助けてもらうこと。
もうひとつは、息子に魔力を授けてほしいということ。
前者はおそらく母親を含む誰かの命と引き換えに成された。
後者はライオネルの呪いと引き換えに成された。
俺はずっとライオネルは、命を守るための契約だから、契約解除できないと思い込んでいた。
でもそうじゃない。ライオネルはフォルネウスの魔力という、俺にとってはどうでもいいことのために呪いを背負っているんだ。
「なるほど。こいつを祓う必要はなく、目を覚まさせて、契約解除を乞えばいいんだな」
ライオネルはすぐに俺の話の意図を理解してくれた。
「うわっ!」
ライオネルと話しているそばから、悪魔の波動攻撃が飛んできて、俺はライオネルとともに吹き飛ばされた。
倒れたところに間髪入れずに、今度は悪魔が放った魔光弾が飛んでくる。
「ライオネル……っ!」
俺の身体は無意識のうちに動いていた。起き上がろうとしていたライオネルを、俺は覆い被さるようにして庇う。
その俺の背中に、悪魔の放った魔光弾が直撃し、俺はその場に倒れた。
「あ……」
人間よりも数倍も大きい、頭に双角を持ったヒトの異形体。
オーガのように筋骨隆々で逞しいわけではない。だが体格はいい。あの長い腕で払われただけで部屋の端まで吹っ飛ばされそうだ。
悪魔を消し去ろうと、悪魔祓いをする奴の気が知れない。こんな奴に戦いを挑んで打ち勝とうだなんて無謀すぎる。見ただけでわかる。持っている力が段違いだ。
悪魔は青白い眼光で俺を見た。その目を見ただけで命を奪われそうなくらいだ。気づけは俺の身体は全身ガタガタと震えている。
――我を目覚めさせたのはお前だな。
「うわ……っ!」
俺には悪魔言葉はわからない。俺の頭の中に直接入り込むように悪魔が話しかけてきた。
動揺している場合じゃない。なんとか契約を交わさないと。
「ライオネル……我が夫、ライオネル・バーノンの命を救ってほしい。悪魔の呪いにかけられ、命の長さを決められてしまっている。ライオネル・バーノンは呪いの代わりに何も得ていない不憫な男だ。もし契約してくれるなら、俺の持っているものをなんでも渡そう。だから頼む。俺の願いを聞いてくれ!」
俺は必死で訴える。膝をついて床に手をつき、額を地面にこすりつける。
プライドも何もいらない。俺が欲しいのはライオネルのこれから先の命だ。
代償は何でも払う。ライオネルが助かるのなら、なんだって捧げてやる。ライオネルより大切なものなどない。だから、どうか俺の願いを聞き入れてほしい。
――ライオネル・バーノン……あいつか……。
悪魔は何か逡巡しているように見える。思考とか人間と似たようなものなのかな。だったら、誰かを想う心や、大切な存在、みたいな感覚も悪魔は持ち合わせているのだろうか。
「ライオネルを知っているのか?」
悪魔の考えることはわからない。でも、俺には悪魔がライオネルを知っているような素振りに思えた。まさかこいつ、二十年前にここで暴走した悪魔なのかな……。
俺が問いかけても、悪魔からの反応がない。
なんなんだ、こいつ。
「もう一度聞く。ライオネル・バーノンを知っているのか?」
――知っているもなにも、今ここにいるではないか。
「え……?」
ライオネルが、ここにいるっ?
何を言っているんだ? ライオネルは朝早く騎士たちを連れ、視察に向かったはずだ。
俺は辺りを見回すが、当然ライオネルはいない。地下への入口だって、つっかえ棒で塞いであるのに。
――あいつは呪いの代わりに我が力を手にしておるぞ。
「まさか……!」
ライオネルは何も得ていないはずだ。ライオネルが悪魔の力を持っている? いったいどこに? 魔法も使えないような男なのに。
俺は記憶を手繰り寄せる。ライオネルの身代わりの石を見つけたときに、俺は魔効書に書かれた契約の内容を見ているはずだ。
あのとき、なんて書いてあった……?
『先祖の邪魔が入った』
バーノン司教が暴走した悪魔を止め、ライオネルを守ったんだよな。でも守ったにしては、ライオネルは命を脅かすような重い呪いをかけられている。
そもそも先祖って誰の先祖のことだ? 誰にだって先祖はいる。もしかしてライオネルではなく、この呪いをかけた者の先祖……?
悪魔を召喚したのはフォルネウスの母親のはず。フォルネウスの母親は息子に悪魔の力を与えようとして、大きな被害を出してしまったんだ。
ライオネルの呪いって、何と引き換えにかけられたものなんだ? ライオネルは代わりに何も手に入れていないように見えるのに。
もしかしたら……。
「うわっ!」
地響きが起こり、俺は驚いて立ち上がろうとしたけどバランスを保てなくて柱に掴まる。
悪魔が動き出したんだ!
屋根を破壊し、地下から出て行こうとしている。そんなことになったら騒ぎになる。二十年前の事件の二の舞だ。
「待て! 俺と話をしよう!」
俺が叫んでも、悪魔は不敵な笑みを浮かべるだけ。天井に片手をかざして、そこに力を集中させている。魔力で天井を壊す気だ。
「そうは、させるかっ!」
俺は急いで防御の魔法をかける。全身全霊で防ごうとしたのに、俺の魔法は呆気なく破られた。魔光弾の一撃で屋根と一階部分の床が吹き飛び、その開いた穴から悪魔は驚異的な跳躍力で地上へ出て行ってしまった。
「やばいっ……!」
俺は悪魔を追うため階段へと走る。つっかえ棒を振り払って、地上へとつながる階段を、疲弊した身体に鞭打ち駆け上がった。
身体は限界だ。でも動かないわけにはいかない。
悪魔をなんとかして止めなくちゃ。
ライオネルを救わなくちゃ。
全部、全部、俺が解決してみせる。
俺が地上に出ると、ひとりの男が悪魔と対峙していた。人間のくせに果敢に悪魔に立ち向かっていくその男こそライオネルだった。
ライオネルは果敢に剣で攻撃を仕掛けるが、悪魔にはかすり傷程度のダメージしか与えられない。反対にライオネルは悪魔の放った波動で、かなりの距離を吹き飛ばされていった。
「ライオネルっ!」
俺はライオネルに駆け寄り、打ちつけたライオネルの背中に治癒魔法をかける。でも力が出ず効力がない。俺の身体は震えが止まらないし、魔力はほとんど尽きていた。
「ノア、下がってろ。俺がやる」
ライオネルはすぐに立ち上がり、剣を構え、悪魔を見据えている。
「こいつだ。俺に呪いをかけた悪魔は。こいつを祓えば俺の身体は元通りになるんだよな……」
そうだ。ライオネルは二十年前に悪魔と対峙していて、そいつの姿と顔を覚えているんだ。
ライオネルはじりじりと悪魔に近づいていく。
ライオネルは悪魔と戦う気だ。
たしかに呪いをかけた悪魔を祓えば、その悪魔の呪いは消え去る。
でも、いくら歴戦の猛者ライオネルでも無理だ。さっきのライオネルの渾身の攻撃でも、かすり傷を負わせるので精一杯だった。
「待て、ライオネルっ」
俺はライオネルの横に並んだ。
俺には策がある。こいつがライオネルに呪いをかけた悪魔だとわかれば、あることができる。
俺の考えが正しければの話だが。
「悪魔と会話をするんだ!」
「会話っ? 気が触れたこいつと!?」
「気が触れた……?」
目の前にいる悪魔を見ると、目が赤く光っている。
最初、俺が召喚したときは青色だった。
「悪魔! 俺の話を聞け! 聞いてくれ!」
俺が叫んでも、さっきみたいに悪魔は俺の心に話しかけてこない。ものすごいスピードで駆けてきて、俺たちふたりを腕で薙ぎ払おうとする。それをライオネルが咄嗟に俺の前に立ち、剣で攻撃を受け止めた。
「ライオネルっ! 大丈夫かっ!?」
悪魔の腕に吹き飛ばされないよう、ライオネルは必死でこらえている。
俺のせいだ。
俺を庇うためにライオネルは逃げられなかった。
「くっそぉ!」
俺は腰にぶら下げていた剣を引き抜き、ライオネルの援護をするよう、悪魔の腕に斬りかかる。
こんなことになるなら剣の腕をもっと磨いておけばよかった。
俺が、俺がもっと強ければ……!
「おい、悪魔! 目を覚ませ!」
悪魔の腕をライオネルとふたりがかりでなんとか打ち払う。
「ノア。逃げろ」
「嫌だ。俺も戦う。足手まといにはならないようにするからっ」
俺は魔力も尽きたし、剣も下手くそだ。それでもライオネルのそばにいたい。
こんな俺でもライオネルひとりで戦うよりはふたりの方がマシだろ。
俺もライオネルも必死で攻撃しようとするが、悪魔からの攻撃をかわすので精一杯だ。とてもじゃないが、こいつを祓える気がしない。
「悪魔! 契約解除だ!」
俺は大声で叫んだ。でも、我を忘れた悪魔には届かない。
「お前の与えた力はもう要らないっ! だからライオネルの呪いを消してくれ! 契約解除だ!」
ライオネルの呪いと引き換えに力を手にしたのはフォルネウスだ。
これは俺の想像に過ぎない。
でも、ライオネルは呪いを背負わされたのに何も得ていないんだ。
おそらくフォルネウスの母親がライオネルを使って悪魔と契約したんだと思う。
ライオネルの寿命を差し出す代わりに、息子に悪魔の力を与えてほしいとでも言ったんじゃないだろうか。
フォルネウスがどこまで知っていたかわからない。多分知らないんじゃないか。
自分の魔力は、ライオネルの呪いと引き換えに手にしたものだって。あいつは魔導のエリートぶってたが、才能なんかじゃなかった。あれはライオネルの犠牲のもとに手にした力だったんだ。
そんな契約、さっさと終わりにしてやる!
フォルネウスが力を失おうが、知ったことじゃない。ライオネルの命のほうが何倍も大事だ。
契約を解除するだけなら、悪魔の了承があればすぐにできる。
新しく契約するわけじゃないから、人間側は何も失わずに済むんだ。
困るのはフォルネウスだけ。でも俺はそんなの知らん!
「契約解除!!」
俺は悪魔の攻撃を避け、なけなしの攻撃を加えながら何度も叫ぶ。
早く目を覚ましてくれ!
「ノア、なんだ契約解除って」
戦いの最中、ライオネルと背中合わせになったときライオネルが尋ねてきた。
「ライオネル。お前の呪いは悪魔契約で成されたものだ。俺は最初バーノン司教の魂がお前を死から守るために契約したのかと思っていた。でも違う。多分、フォルネウスの母親が息子に魔力を与えたいがために、契約を交わしたんだ。お前の身体を対価として使ってな」
フォルネウスの母親はふたつの契約をしたんだ。
息子の命を助けてもらうこと。
もうひとつは、息子に魔力を授けてほしいということ。
前者はおそらく母親を含む誰かの命と引き換えに成された。
後者はライオネルの呪いと引き換えに成された。
俺はずっとライオネルは、命を守るための契約だから、契約解除できないと思い込んでいた。
でもそうじゃない。ライオネルはフォルネウスの魔力という、俺にとってはどうでもいいことのために呪いを背負っているんだ。
「なるほど。こいつを祓う必要はなく、目を覚まさせて、契約解除を乞えばいいんだな」
ライオネルはすぐに俺の話の意図を理解してくれた。
「うわっ!」
ライオネルと話しているそばから、悪魔の波動攻撃が飛んできて、俺はライオネルとともに吹き飛ばされた。
倒れたところに間髪入れずに、今度は悪魔が放った魔光弾が飛んでくる。
「ライオネル……っ!」
俺の身体は無意識のうちに動いていた。起き上がろうとしていたライオネルを、俺は覆い被さるようにして庇う。
その俺の背中に、悪魔の放った魔光弾が直撃し、俺はその場に倒れた。
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