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エルヴィンは目のやり場に困っている。
目の前には下着姿のルークがいて、その滑らかな肌を清潔な布で拭き、薬を塗って衛生布を当てて包帯を巻くのだが、ついついルークの見事な裸体を不埒な目で見てしまっている。
というのもルークがいけない。治癒を施しているあいだ、妙に熱を帯びた視線でエルヴィンを見るからだ。
「殿下、処置が終わったら夜のお食事です。何か召し上がりたいものはございますか?」
なんとか治癒師としての仕事に徹しなければとエルヴィンは努める。邪念を追い払い、治療の話をルークにする。食事も体力回復のためには大切なものだ。
「エルヴィンが食べたい」
「へっ?」
妙に艶っぽい目で見られてドキッとした。
(食べたいって、何っ? どういう意味っ?)
まさかまさかとエルヴィンの頭は大混乱だ。
ルークといると本当に心臓に悪い。さっきから緊張とドキドキの連続で、このままでは心臓がどうにかなってしまいそうだ。
「ね、猫も捕食なさるのですか……?」
さすがは肉食獣の上位種である黒狼獣人だ。まさか猫肉まで食べるとは知らなかった。
「まさか。猫肉を食べる習慣などない」
「んん?」
さっき猫を食べると言っていたのに、どういう意味なのだろう。
「なんでもない。可愛いお前を見ていたらつい言いたくなった。……そうだな。エルヴィンの選んだものを食べる。お前の見立てたものだと思うと気分が上がるからな」
ルークは微笑みかけてくる。その笑顔に他意はなさそうで、治癒師として信頼をおいてくれていることに素直に嬉しく思った。
「では早く傷が癒えるものにいたしましょう」
「ああ。頼む。一日でも早く元の身体に戻りたい」
「そうですね」
自分で言っておきながら辛くなる。傷が癒えることはいいことだが、ルークが元通りになるということは、記憶違いも治ってしまうということだ。
そうなったら、自分はもうルークのそばにはいられなくなる。
「エルヴィンの手に触れられると気持ちがいい」
ルークの腹に包帯を巻いていると、猫耳にフッと息を吹きかけられる。人一倍耳が弱くて感じやすいエルヴィンはゾワゾワと身体を震わせた。
「殿下っ、意地悪はおやめくださいっ」
「意地悪ではない。エルヴィンが好きだからちょっかいを出しているのだ」
ルークは急にエルヴィンの腰に腕を回してくる。
「ひぁっ……!」
急に抱き寄せられて、身体のバランスを崩してルークの胸に額をぶつけてしまった。すぐに離れようとしたのに、ルークがぎゅっと抱きしめてきて、逃げられなくなる。
「だっ、ダメです。おやめください殿下、包帯が曲がってしまいますっ」
「後でゆっくり直してくれ。エルヴィンを目の前にしたら手を出さずにはいられない」
ルークの腕にがっしりと押さえつけられ、ルークの胸の中に閉じ込められる。ルークの肌に直接、頬や身体が触れるものだから、すごくいけないことをしている気持ちになる。
「他の雄の匂いがする……」
ルークがエルヴィンの首筋に鼻を当ててスンスンと匂いを確かめている。
「黒狼の匂いだ。エルヴィンは俺のものとわかってのマーキングか。ふざけたことしやがって……!」
急にルークの声色が変わった。ルークは何かに怒っている。
エルヴィンは勘違いの婚約者だ。これは番に一途な種族・黒狼の本能なのだろうか。
「エルヴィン。お前は俺の婚約者だ。他の雄にそれをわからせてやる」
「えっ、わゎっ……!」
エルヴィンのうなじにルークの歯が当たる。子どものころ、兄弟とふざけ合って身体を甘噛みしたりされたりしたことはあるが、それはとうに昔の話で、大人になってからはそのようなことはしていない。
「あっ、お待ちください、殿下……っ!」
「待てない。俺の匂いをつけて上書きしてやる」
ルークが軽くうなじに歯を立てた瞬間、ブワッとルークの身体から甘い匂いを感じた。腰の奥が疼くような扇情的な匂いに鼻腔がくすぐられ、エルヴィンは頭がクラクラしてきた。
「あっ……」
ルークにうなじを甘噛みされる。敏感なうなじへの甘い刺激と、媚薬のような匂いを感じてエルヴィンの身体から力が抜けていく。
「他の獣人といつどこで逢引きした? 婚姻前だからといって、よそ見はダメだぞエルヴィン。他の雄に尻尾を振るな」
「ぐぁっ……!」
エルヴィンを抱きしめるルークの腕の力が強い。固く抱きしめられ骨が軋むくらいだ。黒狼獣人は力が強すぎて加減がわからないのだろう。
「い、いえ、決してそのようなことはいたしません……」
よそ見はしないと言わなければ、抱き潰されてしまいそうな勢いだ。とてもじゃないが「僕は婚約者じゃないからよそ見もなにもありません」などとは言えそうな状況ではない。
「ぼ、僕には殿下だけですっ」
「そうか。安心した」
そこまで言ってやっとルークは手を緩めてくれた。
「エルヴィン以外に俺の相手は考えられないのだ。なのに婚姻前に他の雄に取られてみろ。そんなことを想像しただけで気が狂いそうになる」
「は、はは……」
ルークの愛が重すぎる。ルークは本当に一途に婚約者を愛しているようだ。
目の前には下着姿のルークがいて、その滑らかな肌を清潔な布で拭き、薬を塗って衛生布を当てて包帯を巻くのだが、ついついルークの見事な裸体を不埒な目で見てしまっている。
というのもルークがいけない。治癒を施しているあいだ、妙に熱を帯びた視線でエルヴィンを見るからだ。
「殿下、処置が終わったら夜のお食事です。何か召し上がりたいものはございますか?」
なんとか治癒師としての仕事に徹しなければとエルヴィンは努める。邪念を追い払い、治療の話をルークにする。食事も体力回復のためには大切なものだ。
「エルヴィンが食べたい」
「へっ?」
妙に艶っぽい目で見られてドキッとした。
(食べたいって、何っ? どういう意味っ?)
まさかまさかとエルヴィンの頭は大混乱だ。
ルークといると本当に心臓に悪い。さっきから緊張とドキドキの連続で、このままでは心臓がどうにかなってしまいそうだ。
「ね、猫も捕食なさるのですか……?」
さすがは肉食獣の上位種である黒狼獣人だ。まさか猫肉まで食べるとは知らなかった。
「まさか。猫肉を食べる習慣などない」
「んん?」
さっき猫を食べると言っていたのに、どういう意味なのだろう。
「なんでもない。可愛いお前を見ていたらつい言いたくなった。……そうだな。エルヴィンの選んだものを食べる。お前の見立てたものだと思うと気分が上がるからな」
ルークは微笑みかけてくる。その笑顔に他意はなさそうで、治癒師として信頼をおいてくれていることに素直に嬉しく思った。
「では早く傷が癒えるものにいたしましょう」
「ああ。頼む。一日でも早く元の身体に戻りたい」
「そうですね」
自分で言っておきながら辛くなる。傷が癒えることはいいことだが、ルークが元通りになるということは、記憶違いも治ってしまうということだ。
そうなったら、自分はもうルークのそばにはいられなくなる。
「エルヴィンの手に触れられると気持ちがいい」
ルークの腹に包帯を巻いていると、猫耳にフッと息を吹きかけられる。人一倍耳が弱くて感じやすいエルヴィンはゾワゾワと身体を震わせた。
「殿下っ、意地悪はおやめくださいっ」
「意地悪ではない。エルヴィンが好きだからちょっかいを出しているのだ」
ルークは急にエルヴィンの腰に腕を回してくる。
「ひぁっ……!」
急に抱き寄せられて、身体のバランスを崩してルークの胸に額をぶつけてしまった。すぐに離れようとしたのに、ルークがぎゅっと抱きしめてきて、逃げられなくなる。
「だっ、ダメです。おやめください殿下、包帯が曲がってしまいますっ」
「後でゆっくり直してくれ。エルヴィンを目の前にしたら手を出さずにはいられない」
ルークの腕にがっしりと押さえつけられ、ルークの胸の中に閉じ込められる。ルークの肌に直接、頬や身体が触れるものだから、すごくいけないことをしている気持ちになる。
「他の雄の匂いがする……」
ルークがエルヴィンの首筋に鼻を当ててスンスンと匂いを確かめている。
「黒狼の匂いだ。エルヴィンは俺のものとわかってのマーキングか。ふざけたことしやがって……!」
急にルークの声色が変わった。ルークは何かに怒っている。
エルヴィンは勘違いの婚約者だ。これは番に一途な種族・黒狼の本能なのだろうか。
「エルヴィン。お前は俺の婚約者だ。他の雄にそれをわからせてやる」
「えっ、わゎっ……!」
エルヴィンのうなじにルークの歯が当たる。子どものころ、兄弟とふざけ合って身体を甘噛みしたりされたりしたことはあるが、それはとうに昔の話で、大人になってからはそのようなことはしていない。
「あっ、お待ちください、殿下……っ!」
「待てない。俺の匂いをつけて上書きしてやる」
ルークが軽くうなじに歯を立てた瞬間、ブワッとルークの身体から甘い匂いを感じた。腰の奥が疼くような扇情的な匂いに鼻腔がくすぐられ、エルヴィンは頭がクラクラしてきた。
「あっ……」
ルークにうなじを甘噛みされる。敏感なうなじへの甘い刺激と、媚薬のような匂いを感じてエルヴィンの身体から力が抜けていく。
「他の獣人といつどこで逢引きした? 婚姻前だからといって、よそ見はダメだぞエルヴィン。他の雄に尻尾を振るな」
「ぐぁっ……!」
エルヴィンを抱きしめるルークの腕の力が強い。固く抱きしめられ骨が軋むくらいだ。黒狼獣人は力が強すぎて加減がわからないのだろう。
「い、いえ、決してそのようなことはいたしません……」
よそ見はしないと言わなければ、抱き潰されてしまいそうな勢いだ。とてもじゃないが「僕は婚約者じゃないからよそ見もなにもありません」などとは言えそうな状況ではない。
「ぼ、僕には殿下だけですっ」
「そうか。安心した」
そこまで言ってやっとルークは手を緩めてくれた。
「エルヴィン以外に俺の相手は考えられないのだ。なのに婚姻前に他の雄に取られてみろ。そんなことを想像しただけで気が狂いそうになる」
「は、はは……」
ルークの愛が重すぎる。ルークは本当に一途に婚約者を愛しているようだ。
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