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番外編「アイル公爵令息の溜め息の休日」
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癒しのエルヴィンの存在を最初に見つけたのは自分だって思っていた。
この城の生活はいつも殺伐としている。王になったはずのメイナードは人望がなく、王位継承権第二位の王弟ルークは王者の風格を備えている。そのせいで派閥争いは絶えず、公爵令息のアイルはいい加減辟易としていた。
ルークに謀反を起こす気はないのかと聞いてみたこともある。でもその話をするといつもルークは嫌な顔をする。
あんなにひどい兄なのに、憎めずにいるみたいだった。挨拶をしても無視され、陰口を散々言われ、嫌がらせのためにキツい任務を押しつけられ、それでもルークは兄を殺めようとは思わないらしい。
優しすぎる王弟ルークは、自分の妃候補という名目で連れて来られた獣人たちのことも大切にしようとする。
アイルから見たらどいつもこいつもダメな獣人ばかり。人質だから、家の中でも嫌われ者が選ばれてこの城に連れてこられたんだろう。そんな獣人たちにも優しく接するルークを見ていると、こっちが歯痒くなるくらいだ。
「あのお人好しが……。あれじゃ兄にいいように使われるだけなのに」
アイルは独り言を呟き、大きな溜め息をつく。ルークは幼いころから自分が目立ったり人前に立つようなことはあまり好まない性格だ。
でもそれは王弟ルークには許されない。何をやらせても一流、兄にふっかけられた難題もこなしてしまう。そんな絵に描いたような英雄ルークのことをみんな支持している。
疲れた。頭痛がする。
アイルは治癒師のもとへ行き、薬をもらうことにした。治癒室では治癒師たちがバタバタと忙しそうに仕事に奔走していた。
アイルが声をかけあぐねていると治癒師のラルゴは「アイル公爵令息、具合が悪いのですかっ?」と手を止め、声をかけてきた。
「ちょっと頭が痛くて……薬をもらえるかな」
「はい! もちろんでございますっ! 念のため診察もいたしましょう、どうぞこちらへっ」
ラルゴと名乗った治癒師は、アイルを治癒室の奥へと案内してくれる。
ラルゴは途中「エルヴィン!」と猫獣人を呼びつける。
「はいっ!」
エルヴィンと呼ばれた茶色い毛並みの猫獣人は、汚れたシーツを抱えたままラルゴのもとへやってきた。
「これ、やっておけ。丁寧に薬をすり潰し、湿布を作れ」
「はい、かしこまりましたっ」
エルヴィンは頭を下げてラルゴの持っていた薬草入りの木桶を受け取った。
シーツを肩にかけ、両手には木桶。小さな身体でよろめきながら去っていく。
「なぜ猫獣人がここに……?」
アイルの脳裏にハテナマークが浮かんだ。ここには狼獣人ばかり。猫獣人も下働きとしていないことはないが、珍しい獣種だ。
「ああ。自分から治癒師として学びたいからここで働きたいと言ってきたのです。うちは猫の手も借りたいほど忙しいですから、許可しました」
ラルゴはそのように言ったあと、小声で言葉を重ねる。
「例の人質ですよ。ルーク殿下の妃候補とかいう」
「へぇ……」
面白い人質だと思った。他の人質は要求ばかりでまったく働こうともしないのに。
「早く国に帰してやればいいのに。陛下のやることには誰も逆らえませんからね」
「そうだね……」
人質ということは、猫獣人の王族のはず。そんな身分の者が、金にもならない下働きを自ら進んでやるなんて。
アイルはラルゴの診察と薬を受けながらも、ちょこまかと働くエルヴィンから目を離せなかった。
この城の生活はいつも殺伐としている。王になったはずのメイナードは人望がなく、王位継承権第二位の王弟ルークは王者の風格を備えている。そのせいで派閥争いは絶えず、公爵令息のアイルはいい加減辟易としていた。
ルークに謀反を起こす気はないのかと聞いてみたこともある。でもその話をするといつもルークは嫌な顔をする。
あんなにひどい兄なのに、憎めずにいるみたいだった。挨拶をしても無視され、陰口を散々言われ、嫌がらせのためにキツい任務を押しつけられ、それでもルークは兄を殺めようとは思わないらしい。
優しすぎる王弟ルークは、自分の妃候補という名目で連れて来られた獣人たちのことも大切にしようとする。
アイルから見たらどいつもこいつもダメな獣人ばかり。人質だから、家の中でも嫌われ者が選ばれてこの城に連れてこられたんだろう。そんな獣人たちにも優しく接するルークを見ていると、こっちが歯痒くなるくらいだ。
「あのお人好しが……。あれじゃ兄にいいように使われるだけなのに」
アイルは独り言を呟き、大きな溜め息をつく。ルークは幼いころから自分が目立ったり人前に立つようなことはあまり好まない性格だ。
でもそれは王弟ルークには許されない。何をやらせても一流、兄にふっかけられた難題もこなしてしまう。そんな絵に描いたような英雄ルークのことをみんな支持している。
疲れた。頭痛がする。
アイルは治癒師のもとへ行き、薬をもらうことにした。治癒室では治癒師たちがバタバタと忙しそうに仕事に奔走していた。
アイルが声をかけあぐねていると治癒師のラルゴは「アイル公爵令息、具合が悪いのですかっ?」と手を止め、声をかけてきた。
「ちょっと頭が痛くて……薬をもらえるかな」
「はい! もちろんでございますっ! 念のため診察もいたしましょう、どうぞこちらへっ」
ラルゴと名乗った治癒師は、アイルを治癒室の奥へと案内してくれる。
ラルゴは途中「エルヴィン!」と猫獣人を呼びつける。
「はいっ!」
エルヴィンと呼ばれた茶色い毛並みの猫獣人は、汚れたシーツを抱えたままラルゴのもとへやってきた。
「これ、やっておけ。丁寧に薬をすり潰し、湿布を作れ」
「はい、かしこまりましたっ」
エルヴィンは頭を下げてラルゴの持っていた薬草入りの木桶を受け取った。
シーツを肩にかけ、両手には木桶。小さな身体でよろめきながら去っていく。
「なぜ猫獣人がここに……?」
アイルの脳裏にハテナマークが浮かんだ。ここには狼獣人ばかり。猫獣人も下働きとしていないことはないが、珍しい獣種だ。
「ああ。自分から治癒師として学びたいからここで働きたいと言ってきたのです。うちは猫の手も借りたいほど忙しいですから、許可しました」
ラルゴはそのように言ったあと、小声で言葉を重ねる。
「例の人質ですよ。ルーク殿下の妃候補とかいう」
「へぇ……」
面白い人質だと思った。他の人質は要求ばかりでまったく働こうともしないのに。
「早く国に帰してやればいいのに。陛下のやることには誰も逆らえませんからね」
「そうだね……」
人質ということは、猫獣人の王族のはず。そんな身分の者が、金にもならない下働きを自ら進んでやるなんて。
アイルはラルゴの診察と薬を受けながらも、ちょこまかと働くエルヴィンから目を離せなかった。
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