その告白は勘違いです

雨宮里玖

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2 特別な時間

2-1

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 地獄だ。地獄の毎日が始まった。
 放課後の教室で人がまばらになったころ、俺の目の前に立ちはだかるの有馬だ。

「な、なに……?」
「何じゃないだろ。一週間前に俺が言った宿題、全部終わってる?」
「あ、あれさ……」

 俺はすでにタジタジだ。
 あれから俺たちは毎週金曜日に予定を合わせて放課後に勉強することになった。
 そこに向けて前々から有馬に宿題を出されてんだけど、はっきり言って全部終わらせるのは無理だ。

 俺なりに毎日必死でやっているつもりだ。それでも有馬に言われたことを全部片づけることはできない。

「ごめん、終わってない」

 俺は両手を合わせて謝るが、有馬は「またか」とため息をついて呆れている。

「あのさ、時間もないんだからサボらずにやってきてくれると助かるんだけど。やる気ある?」
「やる気はあるんだよ。ただ時間がなくて……」
「時間? 部活が忙しいのか?」
「ううん。俺、帰宅部。部活やってない」
「は?」

 うわ。有馬の視線が痛い。そうだよな。有馬は週四のテニス部でめちゃ活躍しているうえに、成績もいいんだからな。

「なんで、それでできないんだよ……」
「はいっ! 出来損ないですいません! ほんとごめん。今からやるから」

 その気持ち、わかる。だって勉強教えてくれって頼んだのは他でもない俺だから。
 頼んだくせに言われたことを真面目にやってこなかったらそりゃブチ切れるよな。

 有馬との勉強会が始まってから今日で三回目。その三回とも俺は有馬に言われた宿題をこなせずにいる。
 こんなことばっかり繰り返していたら、そろそろ有馬は俺を見限るんじゃないだろうか。

「……わかった」

 有馬は俺の机の前の空いている椅子に後ろ向きに座った。

「終わるまで待つから」

 有馬はスクールバッグから文庫本を取り出して静かにそれを読み始めた。
 つまり、有馬はまだ俺に付き合ってくれる気らしい。
 よかった。仏の顔も三度まで。今日まではなんとか許してくれたみたいだ。

「う、うん。すぐにやる」

 俺は慌てて問題集とノートを取り出して机に広げた。
 ちなみにこのノートは有馬と勉強するためのノートだ。気合いをいれるために、真っさらなノートを使うことにしたんだ。俺の中では密かに『有馬ノート』って呼んでいる。

 有馬を待たせて申し訳ないなと思いつつも、有馬に言われた数学の問題を解いていく。
 が、解けない!
 答えを見ても、なんでこんな式になったのか全然理解できない。

「有馬ぁ! まだ帰らない? 今からみんなでカラオケ行こうって言ってるんだけど」

 有馬の友達が、俺たちの様子を伺ってきた。

「うん。俺は行かない。また今度」
「わかった。委員長は大変だな!」

 頑張れと手を振って帰る友人に、有馬も手を振り返して応えている。
 やっぱり有馬は委員長としての責務から俺に付き合ってくれてるんだろうな。
 でもさ、なんか、すげぇ申し訳ない。

「……ごめん、有馬」

 俺は手にしていたシャーペンをノートの上に置いた。

「いいよ、カラオケ行って。俺が有馬に言われたことやってこなかったのが悪いんだし」

 俺が有馬を見上げると、有馬はハッとした顔をする。

「ま、また来週教えてくれよ。来週こそお前に言われた宿題をなんとかやってくるからさ」

 俺はわざと明るい声を出す。
 有馬に気を遣ってほしくなかった。俺のせいで友達と遊べなくなるのは申し訳ないと思った。

「……いい。行かない。七沢との約束のほうが先だった。俺は友達と交わした約束は守るって決めてるから」
「え……?」

 誰が、誰の友達だって……?
 有馬は俺を優先してくれるつもりなのか……?
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