チョコレートのきみ

nanomaru

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踊る想い

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「ねえ、那比君、那比君。今日はどのチョコレートがおすすめなの?」

あれから僕は話をはぐらかしていた。

「今日は塩キャラメルのトリュフか、そうだな。
チョコレートマカロンなんかどう?」

「じゃそれをちょうだい。」

「おすすめなんかよりさ、そろそろ誉志君の好きなもの買って帰りなよ。」

それは話す機会を奪われる。それだけは嫌だ。

「だってこんなに種類があったら、どれが美味しいか僕にはわかんないよ。」

「仮にもパティシエの卵だろ?どれもこれもじゃ成長できないよ。しかも、素人の僕におすすめ毎回聞いてない?そんなんでやっていけてるの?」

痛い所を突かれた。でも、僕はただひとつ君とのこの時間が何よりも大切になっていた。

「それより、いつになったら部屋に案内してくれるの?気になるんだけど、メンマ!」

「駄目だよ。そんなに広い部屋じゃないし、それに最近はメンマの香りもしないんだよ!」
墓穴を掘りまくってる。

「誉志君は最近よくここに来てるけど、ショコラティエ目指してるの?」

「まだ、お店に勤められるほどの教育は受けてないよ。まだまだ卵のさらにたまごだよ。」

「そんなにこのお店が気に入ったのなら、父さんにアルバイトはどうか聞いてみてあげようか?」

「え?ホントに?」

「最近、若い子が1人辞めたんだ。空きがひとつだけあるけど、うちは厳しいよ。」

もしかしたら、もっと那比君と一緒に居られるかもしれない。
もしかしたら、もっともっとお近づきになれるかもしれない。

「たまに父さんに話してるんだ、誉志君のことも。」

「え?なんて話してるの?恥ずかしいな。」

「勉強熱心な子が居るってね。」

不純な動機なのに、なんだか申し訳なく思う。
「もし、雇ってくれるなら、頑張る自信はあるよ!」

「そう?それなら、話してみるよ。募集かけないといけないところだったから、助かるよ。」

この先、どうなるんだろうか。俺次第なのか?
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