転生(転移)したら魔王族になっていた話

古明地蒼空

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戦士の女

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額の上に濡れた物が置かれたのを感じ、俺は目を覚ました。
「おっ。気が付いたかい?」
落ち着いた女性の声が聞こえた。
見えるのは、無垢材のすすけた天井。
そこで、ついさっき自分の身に起こった出来事を思い返してみる。
確か... 友達といて、信号が青になるのを待ってたら後ろからガーンと...要するに、事故に遭った訳だな。
?そうすると、ここは病院か。よくもまあ助かったもんだ。あいつも無事だと良いけど...。
「君、私が発見していなければ、今頃飢えた野良犬の朝食になってたんだぞ。感謝してくれよ?」
事故に遭ったということを、野犬に食われる、と表現するとは珍しい。というか初めて出会った。ちょっとかわった看護師さんだなと思いながらも、とりあえず、病院の名前を尋ねた。
するとその女性は笑った。
「この村に病院なんかある訳ないだろう?ここは私の家だ」
村?俺が住んでたのは結構都会だったと思うが。
体を起こした時、初めてその女性の姿を見た。
なんのアニメのコスプレだというような出で立ちの女性がいすに座って本を読んでいる。
殺風景な部屋。 オイルランプが1つだけ天井から下がっている。
「ところで君、なんて名だい?」 
女性は本を閉じ、こちらに歩み寄ってきた。
「カムロです...」
「そうかそうか。私はウェルヘルナ。ウェルナなりヘルナなり、まぁ好きに呼ぶといい」
窓の外には太陽が2つ、ギラギラと輝いている。
...2つ?! もしかしてここは別の星なのか?
「失礼ですが、ここは一体どこなのでしょうか」
すると彼女はいぶかしむ様な目で俺のことをにらんだ。
「ここを知らないだと?お前、ここの人間でないな?」
腰に下げていた剣を鞘から抜くと、俺に突きつけてきた。
もう訳がわからない。
ここはどこかと尋ねただけで、殺されそうになっている。
当然俺が動けるはずもなく、目の前にある鋭い剣先と、怖い顔をしているウェルナさんを交互に見つめることしかできなかった。

沈黙。
自分の心臓が脈打つ音が、異様なほどに大きく聞こえる。
初めて...ではないけど、命の危険を感じた。
手元に竹刀の一本でもあれば身を守れるのに...
もちろん、都合良くそんな物はあるはず......あった。見つけてしまった。
この部屋の、自分がいるベッドから対角線上の位置。片刃の剣が鞘に収められているのが目にはいった。ただし、それはウェルナさんより後方へ2メートルほど離れている。思わず唇を噛んだ。どうする、どうしたらあれを手にできる?
そんなことを考えながら相手の目をじっと見つめた。
「答えろ!」
その刹那、俺はウェルナさんの持つ剣の横っ腹をはたいた。
次にさっと左に避ける。
一瞬前まで自分がいたところの壁に剣が深々と刺さっているのが、目の端にはいった。
相手は本気で俺のことを殺しにかかってきているらしい。
姿勢を出来る限り低くしてすばやく目標物に手を伸ばす。
掴んだ!
刀を持った俺に勝てる者はいない!
さっと体を起こし、振り向きざまに抜刀。
そしてウェルナさんの方へと向き直った。
「...なにしてるんですかウェルナさん」
彼女は壁につき刺さった剣を抜こうと一生懸命引っ張っている。
「見るな。 何も言うな」
顔を真っ赤に染めて、弱々しい声で、ウェルナさんはそう言った。
一気に脱力してしまった。
大きなため息をついて、刀を鞘に収めた。
床に落ちている本を拾いあげ、いすにどかっと腰を下ろす。
文字がかすれてタイトルは読めないが、とりあえずページをめくってみることにした。

あれから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
気付けば部屋の中は暗くなっていて、文字を判別するのがやっとという程になっていた。
ランプをつけようか迷っていると、それに明かりがともった。
「あ、ありがとうございます」
見ると、剣は未だに壁に刺さったままだ。
本に目を戻す。
しかしウェルナさんに肩をつかまれ、また顔を上げた。
「なあ、あの、あれ取ってくれないか?」
彼女は顔をリンゴみたいに真っ赤にして剣を指差し、そう言った。
なんだ、そんなことか。
俺は何も言わずに再び本に目を落とした。
本にはこの村の歴史、過去の勇者や戦士が残した記録などが事細かにつづられている。
何ページか抜けているところがあったにしろ、概要を掴むのには十分だ。
つまりはあれだな?
俺はついに憧れの異世界転生を果たしたってことだな?
心の中で、ガッツポーズ。
もし自分が勇者になったら...
もちろん懐れた刀を武器に、腰には短刀も差しておく。
仲間を守りながら、刀を振るう。
体力が減ったらパーティの可愛い魔法使い...。いや神官様かな...。
回復させてもらうと。皆で力を合わせて魔王を倒す。
年上の神官様に告白されちゃったり...
そんな妄想をしていると突然、ウェルナさんの震えた声が耳に飛びこんできた。
「さっき剣を向けたこと、謝るから。 お願いだよ...」
またその話か。
本を閉じ、深くため息をついて立ち上がった。
「どうしてあんなことしたんですか?」
膝をついて涙を流しているウェルナさんを見下ろしながら、そう尋ねた。
「魔王族のスパイかなにかだと思ったんだ...ここを知らないって言うものだから...」
その言葉を軽く聞き流し、作業に取り掛かった。
とりあえず力任せに引っ張ってみる。
だめだびくともしねえ。
理系のあいつがいてくれたらきっと、科学パワーでなんとかするんだろうな。
色々考えた結果...
思いついたのは『大きなカブ』戦法。要は力任せだ!
「俺がこれ全力で引っぱるんで、ウェルナさんも全力で俺のこと引っぱってください」
「わかった」
彼女は涙を拭いながら、よろよろと立ち上がった。
そして、力強く俺に抱きついてきた。
「痛いんですけど」
「全力でって言ったろ?」
まだ目の下を少し濡らしながらも、笑顔でそう答えた。
その笑顔を見て、とりあえず安心した。
いきますよと声をかけ力を加えた。
次の瞬間、俺の身体は悲鳴をあげた。
ウェルナさんが俺を引く力、人間のそれじゃねえ!!
ただここで弱音を吐いてしまっては格好がつかない。
あまりの痛みに自然と涙が出てきた。
俺は必死に耐えた。
それが功を奏したのか、剣はものすごい勢いで壁から抜けた。
その拍子に俺とウェルナさんは仰向けに倒れてしまった。
「ごめん、大丈夫?」
全然大丈夫じゃない。
肋が何本か折れたんじゃないかってくらい痛い。
まぁとりあえず、剣が抜けたからそれでよしとするか。
それにしても重い剣だな。これを軽々と振るウェルナさんって... 彼女こそ普通の人間じゃないよ本当に。
「そろそろ離してくれます?」
俺は今も、ウェルナさんに怪力で抱きしめられていた。
「あ、ああ。すまない」
立ち上がり、重たい剣を彼女に返した。
「俺は人間です。二度とそれをこちらに向けないでください」
「申し訳ない...」
それから、王様ってどこにいるんですかと間髪入れずに聞いた。
ウェルナさんはきょとんとして首をかしげている。
可愛い...!
なんというか...キュンとした。
少し経ってから、なぜそんなことを聞くのかと尋ねられた。
「魔王倒伐をする勇者にしてもらうんです」
そう答えるとウェルナさんは俺の手をとり、強く握った。
あっ、折れた。絶対折れた。痛い。
苦しむ俺をよそに彼女は続けた。
「なら、私達のパーティーに入りなよ!歓迎するよ!言い忘れてたけど、私は戦士だ。他に魔法使いと神官様がいるんだ」
急な歓誘だな。
選択肢は2つ。
このパーティーに入るか1匹狼的な勇者から始めて仲間を集めるか。
まあもちろん...
「よろしくお願いします」
1人で仲間を集めたって別に良かったのだが、ウェルナさんに助けて
もらった恩返しをしたかった。だいいち楽だし。でもなにより、ウェルナさんと離れてしまうのはちょっと寂しかったというのが本音だ。
「じゃあ、明日の早朝にここを出るから、早く寝なさい。ベッド使っていいから」
「え、そしたらウェルナさんはどこで寝るんですか?」
部屋の戸のノブに手をかけているその背中に向かって、そう聞いた。
ゆっくりと振り返ったその顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「いや、ちょっとね。先に寝てていいぞ」
おやすみと言ってウェルナさんはどこかに出掛けていってしまった。
閉ざされた扉をじっと眺め、俺はそれがもう一度開くのを寝ずに待つことにしたのだった...。

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