復讐に燃えたところで身体は燃え尽きて鋼になり果てた。~とある傭兵に復讐しようと傭兵になってみたら実は全部仕組まれていた件

坂樋戸伊(さかつうといさ)

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アリス

アリス-03

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 亮平との訓練が終わりを迎えようとしていた。
 私が打ち込んでも多少の昂りを憶えることはあっても、それを回避機動中に抑え、立て直しがよく出来るようになったからだ。予見していなかった出来事とは言え、もともとは理性的、論理的に物事の組み立てをできるのが杉屋亮平の性格であったため、昂ってきた精神を抑え込めればそこから先の対応は早かった。
 何十回と私と対戦し、仕上げとして以前アリーナで対戦した傭兵に依頼を出してシミュレーターで対戦も試し、その精神状態をつぶさに確認、問題ないことを確認できた。

 このため、亮平のアリーナ復帰戦を決めたのだが、不安が沸き起こる。

「どうした?」

 ここのところ、亮平は荒川に敗ける以前の調子に戻っているようで、私や周りの動向に多少意識を配れるようになっていた。だが、どこか無理をしていないか、不安になる。それ以上に、この不安の種が何なのか、もうわかっていた。実戦形式に近いとはいえ、訓練しかできていない。また、これから対戦する相手も、荒川程度の実力に届かない傭兵だ。
 また、少ない資料から荒川の戦闘スタイルはこれまで戦ってきた相手とは違う戦術をとってくるし、その戦術も一つだけではないことも過去の対戦データから判っている。情報も実力も足りていない。これが不安の根にあたる。

「……すまない。考え事をしていた。」

 華々しく、と行かずとも再出発の試合だ。ここで亮平のメンタルが揺らぐようなことはしたくない。自分でも顔の筋肉が硬くなっていることを自覚しつつ、わざとらしくないように励ます。

「一度折れたときはどうなるかと思ったが、今のお前なら大丈夫だ。再出発のこの一戦はきっと勝てる。」

 亮平の目を真っ直ぐ見つめてそう言った。復讐を遂げる、その意思は変わらず強くその奥底にあり、だが、昏い底にある泥濘に濁されていない、その目線。傭兵になった当初と同じか、それ以上にはっきりとした意思を感じられる目だった。

「……あ、アリス」

 不意に名前を呼ばれたのだが、亮平から名前で呼ばれることが無かったので反応が遅れる。

「アリス?」
「すまん。お前から、亮平から名前で呼ばれるのがこれまで無かったので反応できなかった。何だ?」

 亮平に向き直る。すると、そこには、こちらを不安げに見る彼が居た。

「いや、何か不満そうな顔で、難しそうな顔して考え込んでたから気になってきたからさ。それで、どうしたのかと思ってな。まだ何か不安要素があるなら聞いておきたい。」

 そう、あの杉屋公正の息子として育ったせいか、そういう気配りができていた。血はつながっていなくても、親子とはそういうものなのかもしれない。その確認をしてくる言い方が懐かしくなった。そして、今私の中にある不安を話すべきか迷う。

「……今話すことじゃあない。お前の大事な時に要らん心配を掛けさせてしまったな。すまない」
「いや、そこまで丁寧に謝ってもらうことも無いだろ。……なんか調子狂うな……訓練の時は本当に鬼か悪魔みたいなのにさ。」

 和ませようと言った冗談だろう。

「ほう……もう一度あの特訓を受ける気になったか?よし、じゃあ試合をキャンセルして今すぐにでもアライメントが狂いまくった調整でシミュレーターに突っ込んでやる。覚悟しろ。」
「じょ、冗談だよ。」
「私のも冗談のつもりだったんだが……?」

 そういうと、今度こそ何かとんでもないバグを見つけた時の誰かを思い出す表情を見せ、一呼吸空けて亮平は噴き出した。

「あんたも、アリスも冗談言うんだな。まあ、これまでのやり取りのせいで本気で調整のおかしい機体に乗せられると思ったけど」

 くつくつと笑いながらそう漏らす。その顔は、年相応に朗らかで、復讐なんて全くしない少年の面差しを見せていた。本当に、私たちは償いきれない罪を犯したのだと、この瞬間に自覚した。多分、そんな自覚を持ってしまったせいだろう。今度こそ幽霊とか、未確認の生体兵器でもみたような顔になっていたらしく、亮平の顔がまた強ばる。

「……なぁ、どうしても……」
「さ、試合の準備だ。」

 おそらく、私が今抱えている不安について訊きたかったのだろう。だが、その言葉を言い切る前に、少し強い調子で話題を切り替えるため発言をかぶせて遮った。露骨に話題を変えようとしたことに気づいたのだろう、ムッとした表情を一瞬見せるが、判った、と言い放ち、亮平はロッカーを後にする。
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