愛を注いで

木陰みもり

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1、一目惚れと恋の味

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くすぐったい感覚と、そわそわする気持ちが一気に押し寄せてくる。

「ふふっ」
思わず笑ってしまう。彼もつられたように笑い返す。さっきはあんなにも恥ずかしかったのに、もう顔が近いことなんて気にならない。こんな穏やかな気持ち何時ぶりだろうか。
コツンと額を彼の額に押し付け、俺の唇に触れていた手にそっと触れ唇から離す。
「唇、少し血出てるよ。痛くない?」
「えっ、気付きませんでした。言われるとちょっと痛いかも……あ、そうだ、よかったら撫でてくれませんか?」
俺の手を取り、唇へと運ぶ。そっと触れるとピクッと彼の身体が少し跳ねた。
「悪い、痛かったか?」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりもっと欲が出てしまいました。」
「なんだ?」
「傷、舐めてほしい……です」
「えぇっ!」
驚きのあまり、後ろにのけぞって離れようとする俺を、すかさず腕を掴みグッと引き寄せる。
「うわぁっ!」
急に引っ張られバランスを崩してしまい、唇と唇が触れるスレスレまで彼に近付いてしまった。鼓動が彼にも聞こえるんじゃないかと思うほどにドキドキと大きな音を立てている。

こんなに近づいてしまったら、もう腹を括るしかないのか……

意を決して目を瞑り、舌を伸ばし彼の唇の傷を舐める。少しの鉄の味とコーヒーの苦味、それに甘い彼の味が俺の口の中で混ざり合って入ってくる。
とろんと薄く目を開けて彼を見ていると
「もう我慢できない。」
そう呟き、にゅるりと舌を舐め、グッと絡ませてきた。
「っんん!……あっ……」

俺、キスしてるのか……今日初めて会って、一目惚れの彼に?一体今何が――

されるがまま唇を舐められ、舌を絡められ、にゅるりと口の中に舌を押し込まれる。頭がふわふわするような気持ちよさにおそわれ、今の状況を理解できない。
「ふっ……っ……あぁ…………」
目尻に涙を溜めながら、またとろんと熱っぽい視線を彼に向ける。すると彼は急にそっぽを向いて、グッと肩を抑えられ引き離されてしまった。
「あの……すみません、自分でしといてなんですが、お兄さんにとって今日は初対面で、ぼ、僕は嬉しいんですが、成就したわけですし、でもなんかその、そんな顔で見られたら抑えがきかないというか……」
ごにょごにょと最後の方はほとんど聞こえず、聞き返そうと抑えられた肩に反発するように顔だけ前に出す。すると、さっきまでも真っ赤だったが、さらに耳もうなじも全部を真っ赤にして、ギュッと目を瞑り
「ちっ、近いです!」
と思いっきり頭突きをされてしまった。
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