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1、一目惚れと恋の味
⑤
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聞き返そうとした途端、彼はまた矢継ぎ早に話を続けた。
「向かいの路地で雨の日に捨て猫に傘あげてるの見てました。少し先の横断歩道で、点滅信号を渡りきれないおばあちゃんを背負って渡ったこともありますよね?それも見てました。最初は優しい人だなって思いました。ただそれだけ……でも2つ先の信号のコーヒー豆専門店で、コーヒー豆を真剣に選んでたあなたを見て声を掛けて色々教えた時、すごく喜んでくれて、僕を温かい気持ちにしてくれました。好きなことに対して突っ走る僕の話を長々と聞いてくれました。楽しかった……あんなに好きなこと話せるのは初めてで、嬉しくて、好き……好き……」
こんな息を切らしながら……俺のことを――
この可愛い生き物を抱きしめたくてたまらなくなって、次の瞬間には思いっきり抱きしめていた。
何が起きたのか分からないと目を丸くしながらパチパチしている。本当に可愛いと思う。
「俺も、君のこと好きだよ。コーヒー注ぐ姿がカッコよくて、好きなことを目をキラキラさせながら話してくれるところ、夢中になると割と周り見えなくなるし、いたずら好きだと思ったのはいたずらじゃなかったけど……自分の行いですぐ他人を傷付けたって思い込んで自分を傷付ける。でも今回は君が悪いわけじゃなかったんだ。俺が、その……好きかもって気付いて、男にこんな気持ち向けられても迷惑だと思って去ろうとした。ごめん。」
俺からこんな話が出るなんて思わなかったのだろう。いまだに、ありえないという顔で呆気に取られている。
そんな彼の手を取り、自分の胸に当てる。
「こんなにドキドキしてるんだよ。嘘じゃない。」
「嘘……じゃない……」
そう呟くと、わっと大粒の涙をこぼしながら泣きじゃくった。
「よしよーし、嘘じゃない。またここにも来る。君の話もいっぱい聞くよ。」
頭を撫でながら、カウンターの椅子に座らせる。目を逸らすために下を向いていて気付かなかったが、ずいぶん唇を噛んでいたようだ。少し血が滲んでいる。告白なんて勇気のいることそう簡単なことではない。相当の思いをもって告げてくれたのだと思うと胸の奥底から温かい気持ちが湧き上がってきた。
一頻り泣いた彼は、目を赤くしながら嬉しそうに目を細めて笑って、隣に座り直した俺の肩にそっと寄りかかってきた。
「嬉しいです。同じ気持ちだったなんて。夢じゃないですよね?」
「夢じゃないよ。俺も夢じゃないかって思ったけどね。」
そう言って俺も彼に寄りかかる。
ゆるやかな時の流れを感じながら、今この瞬間が現実なんだと確認し合うように、彼の髪の毛を指ですいたり、赤くなった目元をそっと指の腹で撫でたり。彼は少し大胆な性格のようで、俺の頬に手を添えチークキスをしたかと思うと、唇に触れ形を確かめるように左端から右端へと親指の腹を優しく動かす。
「向かいの路地で雨の日に捨て猫に傘あげてるの見てました。少し先の横断歩道で、点滅信号を渡りきれないおばあちゃんを背負って渡ったこともありますよね?それも見てました。最初は優しい人だなって思いました。ただそれだけ……でも2つ先の信号のコーヒー豆専門店で、コーヒー豆を真剣に選んでたあなたを見て声を掛けて色々教えた時、すごく喜んでくれて、僕を温かい気持ちにしてくれました。好きなことに対して突っ走る僕の話を長々と聞いてくれました。楽しかった……あんなに好きなこと話せるのは初めてで、嬉しくて、好き……好き……」
こんな息を切らしながら……俺のことを――
この可愛い生き物を抱きしめたくてたまらなくなって、次の瞬間には思いっきり抱きしめていた。
何が起きたのか分からないと目を丸くしながらパチパチしている。本当に可愛いと思う。
「俺も、君のこと好きだよ。コーヒー注ぐ姿がカッコよくて、好きなことを目をキラキラさせながら話してくれるところ、夢中になると割と周り見えなくなるし、いたずら好きだと思ったのはいたずらじゃなかったけど……自分の行いですぐ他人を傷付けたって思い込んで自分を傷付ける。でも今回は君が悪いわけじゃなかったんだ。俺が、その……好きかもって気付いて、男にこんな気持ち向けられても迷惑だと思って去ろうとした。ごめん。」
俺からこんな話が出るなんて思わなかったのだろう。いまだに、ありえないという顔で呆気に取られている。
そんな彼の手を取り、自分の胸に当てる。
「こんなにドキドキしてるんだよ。嘘じゃない。」
「嘘……じゃない……」
そう呟くと、わっと大粒の涙をこぼしながら泣きじゃくった。
「よしよーし、嘘じゃない。またここにも来る。君の話もいっぱい聞くよ。」
頭を撫でながら、カウンターの椅子に座らせる。目を逸らすために下を向いていて気付かなかったが、ずいぶん唇を噛んでいたようだ。少し血が滲んでいる。告白なんて勇気のいることそう簡単なことではない。相当の思いをもって告げてくれたのだと思うと胸の奥底から温かい気持ちが湧き上がってきた。
一頻り泣いた彼は、目を赤くしながら嬉しそうに目を細めて笑って、隣に座り直した俺の肩にそっと寄りかかってきた。
「嬉しいです。同じ気持ちだったなんて。夢じゃないですよね?」
「夢じゃないよ。俺も夢じゃないかって思ったけどね。」
そう言って俺も彼に寄りかかる。
ゆるやかな時の流れを感じながら、今この瞬間が現実なんだと確認し合うように、彼の髪の毛を指ですいたり、赤くなった目元をそっと指の腹で撫でたり。彼は少し大胆な性格のようで、俺の頬に手を添えチークキスをしたかと思うと、唇に触れ形を確かめるように左端から右端へと親指の腹を優しく動かす。
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