愛を注いで

木陰みもり

文字の大きさ
18 / 75
3、愛を教えてくれた君へ side拓真

しおりを挟む
「今日は暑いから赤いんだよ。」
「はいはい、そういうことにしておきましょう。それで実際恋なの?どうなの?」
「はい、おっしゃる通りです……」
「やっぱり!」と佐藤は目をキラキラさせてこちらを見てくる。しかしその目線は、全てを白状しろという圧力を感じるくらいに鋭い。
「実は一目惚れで、なぜかその日のうちに付き合うことに?なったのか…そういえば……」
話しながら思い返せば「付き合ってください」って俺言ってなくね?さっきまで熱かった体は、一気に血の気が引いたかのように冷えていった。
 「気になることがあるなら、この際吐き出したら?」
俺の様子を見た佐藤は手を止めて、真剣な目で俺の肩に手を置く。
「相手も俺を好きだと言ってくれたんだ。だけど、「付き合ってください」って言ってないから多分付き合ってなくて…でもキス……はしたし、付き合ってるものだと……」
自分で言っていて悲しくて勘違いしていることが恥ずかしくなり、声は段々と小さくなっていった。
佐藤の方をチラッと見ると、真剣な目から哀れみの目に変わっていた。その目は誰に向けた目なんだ?「付き合って」と言わなかった俺へか?それとも言わずにキスされた尊くんへの目なのか?お願いだ何か言ってくれ佐藤!
終始穏やかではない思考回路を読まれたかの様に、佐藤はため息を吐く。
「別に「付き合ってください」なんて言わなくてもキスまでしたなら付き合ってるでしょ。同意したってことよ。」
「「付き合ってください」って大切じゃないか?そんなフワッとした感じで付き合うなんて…イテッ」
「あんたは純情か!」
そう突っ込まれて、思い切り背中を叩かれた。ヒリヒリと激しい痛みのする背中をさすりながら、意味が分からないという顔で佐藤を見る。だって大事だろ?言葉にしないと不安になるだろうし、これって付き合ってるの?なんて、時間が経つにつれて聞き辛くなるだろうし。男同士なら尚更、不安になるだろうし…
「というか、普通に連絡して休日に会えばいいんじゃない?」
「いやぁ、連絡先聞いてなくて…イィッ!」
バシンッと、さっきよりも凄まじい勢いで叩かれた。今度のはオフィスに音が響いているのでは?というくらい良い音がした。痛すぎるぞ佐藤…
「何それ、仕事より恋人でしょ!なんで残業なんてしてるの、バカなの?仕事バカなの?」
「いや、それは人それぞれだろ…」
「いーや今は付き合いたての恋人だね。連絡取れなくて、しかも会いに来ないなんて、相手は絶対弄ばれたって思ってるよ。なんで出会った日だけは残業やめなかったのか、理解に苦しむわ。というか、早朝出勤にしたら良かったんじゃない?。」
「あっ…全然思いつかなかったわ。」
佐藤の言う通りだ。どうして俺はそんなことに気付かなかったのかと、頭を抱えた。
 尊くんはきっと心から俺のことを好き…そうだった…キスまでしたのに、それから会いに来ないなんて、心を弄ばれたと思うに違いない。すごく傷付けたに違いない。俺は本当に馬鹿過ぎる。
 項垂れていると、佐藤がやれやれという顔で話しかけてきた。
「今日は定時に上がって、プレゼントでも買って謝りに行ったら。それでもう1回ちゃんと言えばいいんじゃない?」
「こんなに放置したのに会ってくれるかな?嫌な顔されたりして…」
尊くんは優しい俺が好きって感じだったしな。幻滅したかも……
「うじうじするなんて二階堂らしくないわ、気持ち悪い!」
「イッッテっ!今度は脚!?」
今度は佐藤に脚を蹴られた。佐藤さんちょっと今日いつもより暴力的ですね?と言うように目線を送るが、逆に鋭い視線で睨み返された。しかし悪いのは俺だ。確かにうじうじしてても時間の無駄だし今日こそは会いに行こう、何がなんでも。
「ありがとう佐藤。俺今日行って来るよ。」
「そうした方がいいわ。じゃあさっさとこの書類終わらせましょ。」
「あぁ、絶対今度奢るからな。」
「期待してるわ。ま、振られたら今日でもいいけど」
「縁起でもないこと言わないでくれ…」
ケラケラ笑いながら冗談を言うが、目線は「大丈夫」と言っているようにも見えた。佐藤なりに励ましてくれているのだろう。本当にいい同僚に恵まれた。
 よし、定時まであと数時間、何がなんでも終わらせるぞと意気込み、俺と佐藤は猛スピード書類を捌いていった。

 定時まであと1時間。佐藤の助けもあり、定時に帰れる目処が立った。これでようやく尊くんに会いに行ける。どんなプレゼントを買って行こうか考えながらラストの資料に目を通す。
「ふぅ、なんとか終わりそうね。」
「本当に助かったよ、ありがとな佐藤。」
「こういうのはお互い様だから。私が困った時もよろしく。」
「もちろんだとも。」
「あ、これ四乃が作成したやつか、チェック遅くなっちまったな。」
「じゃあ、私が四乃に渡してくるよ。問題なかったんでしょ?」
「いや、1箇所間違いがあるな…」
「へぇ珍しい。でも間違い直して再チェックしてたら時間過ぎちゃうよ。期日まだなら明日再提出してもらったら?」
「そうするか…今日は四乃も早めに返すか。」
「それがいいんじゃない?」
四乃1人だけ残業させるのも忍びないので、今日は無理矢理にでも定時で上がらせよう。そう思い、四乃のデスクまで佐藤と行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...