愛を注いで

木陰みもり

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3、愛を教えてくれた君へ side拓真

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「四乃、今日も残業か?」
「二階堂さん!二階堂さんもですか?」
キラキラとした目で、無いはずの犬のしっぽのようなものをブンブンと振っているように見えた。まるで遊び仲間を見つけた犬のようだ。悪いな四乃、今日はそれで話しかけたんじゃないんだ。
「いや、俺は今日はもう帰るんだ。さっき持ってきてくれた資料なんだが、1箇所間違ってたから持ってきたんだ。」
「えっ、すみません!すぐ直します!」
「待て、この資料は明日でいいんだ。それに今やっている仕事も急を要するものじゃないから、四乃も今日はもう上がれ。」
そう言って頭をぐりぐりと撫でてやる。仕事が好き過ぎるのか、四乃はしゅんとしている。俺の私情に巻き込んだようでなんだか申し訳なく思った。でも1人寂しく残業させるのは、先輩としてもっと申し訳ないからな。
「四乃、良かったら今日飲みに行かない?この部署きてからずっと残業してたでしょ?」
何を言えばいいか迷っていた俺を見兼ねて、佐藤が落ち込む四乃を飲みに誘った。
「俺が行ってもいいんですか!?」
佐藤の言葉にまたキラキラした目でこちらを向いて、やはり犬のように尻尾をブンブンと振っている、ように見える。今まで見たことのないテンションに驚いた。そういえば前の部署でも今の部署でも、人付き合いと言ったら俺のチームか佐藤くらいだ。俺は残業ばっかりだし、入社して飲みに行く機会もなかったんだろう。本当に気が利かない先輩で申し訳ない。
「いいに決まってるでしょ!四乃を誘ってるんだから。」
「ありがとうございます。これだけ終わらせます!」
「オッケー。じゃ、ロビーで待ってるから終わったらすぐおいで。」
四乃は「はい!」と元気よく返事をし、机に向き直り残りの仕事に向き合った。俺は意外と周りを見れていないことを佐藤に見せられたようで、今度は俺の方が少し落ち込んでしまった。
帰り支度をしながら「ありがとな」と微妙な笑みで佐藤にお礼を言うと、「これは私の仕事で、二階堂の仕事じゃないから気にしないで」とまた佐藤に助けられてしまった。俺は四乃の仕事部分で助けになれるよう頑張ろうと改めて思わされた。
 そういえばまだプレゼントを何にするか決めていなかったことを思い出した。今日は佐藤に借りを作り過ぎたが、この際もういくつ増えても変わらない気がする。どうせならプレゼントの相談も乗ってもらおう。そう思い、佐藤に声を掛けようとエレベーターを待ちながらソワソワしていると、佐藤は呆れたようにため息を吐いた。と同時エレベータが来た。なんというタイミングなんだ…
「言っとくけど、プレゼントは自分で選びなさい。二階堂さっきからちょっと童貞っぽいわ」
「どっ…そんな言い方ないだろ。男と付き合うのは初めてだし…あっ」
【童貞】という言葉に驚き、ついつい相手が【男】と言うことを言ってしまった。今エレベーターに佐藤と2人だけで良かったと心を撫で下ろす。だが俺よりも佐藤の方が心穏やかではなかったようだ。
「男…マジか何それ…私はそんな2人の仲を取り持とうとしているわけ?え、見に行きたいんだけど…いやダメだ…抑えろ私…」
壁に向かって何かをブツブツと呟いている。佐藤は以前そういう話になった時、俺と一緒で偏見とかなさそうだったけど、実際は違うかったのか?
「いやあの佐藤これに…」
「そう!そうだったのね!それは確かに迷うわよね。しょうがないことよ。」
急にガバッとこちらに向きながら俺の言葉を遮り、何故だか納得したようにニヤニヤしながらうんうんと頷いている。どうやら不快に思ったとかではなさそうなことに俺はホッとした。
「私でよければ相談くらいは乗るわ。どういう人なの?」
「えっと、最近喫茶店をオープンしたコーヒー好きの人なんだけど…」
俺が説明すると、何故か佐藤は尊くんの特徴を色々細かく聞いてきた。ついでに好きなところまで。なんという羞恥プレイなんだ。そんなことを思いながら、エレベーターを降りてからも、ずっと尊くんのことについて話すことを強要された。俺は数時間しか会ったことのないただの一目惚れなんだけどな、なんて思いながら自分の知りうる限りの情報を全て吐き出した。俺はなんだかドッと疲れたが、逆に佐藤はなんだかツヤツヤと元気になっているような気がした。
「それで佐藤プレゼントなんだけど」
「花束ね」
「花束!?」
「そう、開店祝いにもなるし、仲直りのセオリーかなって」
「男から男に花って変じゃないか?」
「男とか関係ないから!好きな人に貰えるなら関係ないから!」
今日1番のいい笑顔で力説されてしまった。そして何故だか説得力を感じる。
「じゃあ、開店祝いも兼ねて花束にしようかな?」
「スズランなんてどう?『幸せな再会』とか『愛する喜び』とかが花言葉。まさに再会なんだからよくない?」
「じゃあそうしようかな。」
「よし!」と何故か佐藤がガッツポーズをした。俺が尊くんにスズランを渡したら、何か佐藤にいいことでもあるのだろうか?
「それとお願いしたいんだけど…」
「なんだ?ここまで良くしてくれたんだ、できることなら何でもするさ。」
「じゃあ、渡して上手くいったら、その一條いちじょうさんと一緒に写真撮って!成就したか報告してほしいな、なんて。どうなったか気になるし。」
「何だそんなことか。報告はするけど、写真いるか?まぁ尊くんが大丈夫だったら送るけど」
「本当?ありがとう!成功祈ってるから!」
こんなに嬉しそうな佐藤は初めて見た。理由は分からないが、これで1つ貸しが減るならまぁいいかと俺は承諾した。
会社のロビーに着くと、佐藤は俺の背中をバシッと叩き激励を送ってくれた。
「じゃ、私はここで四乃待ってるから、二階堂は行っておいでよ。絶対成功するよ、ファイト!」
「あぁ、行ってくる!佐藤、サンキュ!」
俺は感謝の気持ちで思い切り佐藤に手を振りながら、小走りで会社を後にした。
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