愛を注いで

木陰みもり

文字の大きさ
33 / 75
6、2人のズル休み〜side 尊〜

しおりを挟む
 正直自分がここまで自制が効かないとは夢にまで思わなかった。まるで空腹の獣のように必死に獲物にかぶりつき、無我夢中で貪って満足するまで食い尽くすように僕は拓真さんの唇を食べていた。1度抵抗されたことも無視してだ。
 自分が満足した時にはもう拓真さんは気絶していた。口を離すと、2人分の唾液が喉まで到達したのであろう、ゴホゴホと苦しそうに咳をし、息を吐くたびにヒューヒューと苦しそうな音が聞こえる。目尻には涙が溜まっていて、頬には涙がつたった後があった。鼻水もかなり出ていたのか、拓真さんの顔は色々な体液でぐちゃぐちゃだった。
――やってしまった…
後悔してももう遅いが、とりあえずまだ拓真さんの口の中に残っている唾液で蒸せないよう吐き出させて顔を綺麗に拭いた。横向きに寝かせ直して背中をさすると、さっきの苦しそうな呼吸も少しはマシになった。気持ちよさそうにすやすやと眠っている横顔を見て、ようやく僕は胸を撫で下ろした。
「もっと甘い感じで休みを満喫しようと思ったのに…昨日も今日も気絶させて…何やってんだろう…」 
そう呟きながらベッド端に座り、はぁと大きく溜め息を吐いた。自分の不甲斐なさを痛感し、ぼーっと空のコップを眺めていると、背中に何かがつたう感覚がした。
「ひょわぁ!」
ビックリして思わず変な声出て、慌てて口を押さえた。
 この部屋には僕と拓真さんの2人きり、つまりこの背中に感じる感覚は必然的に彼のものとなる。頭で理解するにつれて僕は段々を顔に熱が集まってくるのを感じた。
――は、恥ずかしい声出しちゃった。
ゆっくりと振り返ると、ニヤニヤ笑いながら指先で僕を突く拓真さんの姿があった。
「尊くんでもそんな声出すんだな」
嬉しそうに言い放つ彼は少し熱っぽいものの元気そうで、揶揄われた羞恥心よりも元気な姿を見られた安心感の方が強く、思わず口元が緩んでしまった。「よかった…」と呟くと、拓真さんはバツが悪そうに口を尖らせ「思ってたのと違う反応なんだけど」と恥ずかしそうにタオルケットを頭まで被った。
 とりあえず僕を揶揄う元気があってよかった。安堵からか、一気に身体中の力が抜け、拓真さんの上に倒れ込む。
「うわぁっ、な、何?」
「あー、なんか安心したら気抜けちゃって」
「安心?わかんないけど、ちゃんとベッドに寝たら?俺の腹を枕にしても休まらないでだろ」
今まで息苦しそうに寝ていたくせに、自分が気を失ってたなんて微塵も思っていない言い方だ。本人はきっと少し眠っていたくらいの認識なのだろう。確かにキスで気絶したなんて、本人にとっては恥ずかしいことかも…
 それにしても危機感というか、押しに弱すぎていつか本当に死んじゃったりしないよね。そう思うと急にゾッと悪寒が走った。今こうしてお腹が上下に動いていることにひどく安心感を覚える。生きていると感じられる。
「そんなことない…小刻みに揺れてて眠くなりそう…」
拓真さんの揺れるお腹から伝わる体温の温かさでさらに眠気をさそわれる。安心したのもあるけど、昨日から心配であまり寝られなかったんだ。少しだけ、ここで体温を感じながら寝させてほしい。
 だけど拓真さんは、僕が昨日からどんなに不安な気持ちを抱いていたか気付いていないんだ、きっと…だから簡単に僕から離れようとできるんでしょ?
「眠いの?なら俺ベッドから退くよ」
「ダメです!少しだけこのままでいてください」
善意からくる言葉だって分かっているのに、なぜだかすごく嫌な気持ちになる。離れていかないでとギュッと心臓が締め付けられ、その気持ちを解き放とうと、拓真さんの手を握りしめた。それに気付いた拓真さんも握り返してくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...