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6、2人のズル休み〜side 尊〜
①
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正直自分がここまで自制が効かないとは夢にまで思わなかった。まるで空腹の獣のように必死に獲物にかぶりつき、無我夢中で貪って満足するまで食い尽くすように僕は拓真さんの唇を食べていた。1度抵抗されたことも無視してだ。
自分が満足した時にはもう拓真さんは気絶していた。口を離すと、2人分の唾液が喉まで到達したのであろう、ゴホゴホと苦しそうに咳をし、息を吐くたびにヒューヒューと苦しそうな音が聞こえる。目尻には涙が溜まっていて、頬には涙がつたった後があった。鼻水もかなり出ていたのか、拓真さんの顔は色々な体液でぐちゃぐちゃだった。
――やってしまった…
後悔してももう遅いが、とりあえずまだ拓真さんの口の中に残っている唾液で蒸せないよう吐き出させて顔を綺麗に拭いた。横向きに寝かせ直して背中をさすると、さっきの苦しそうな呼吸も少しはマシになった。気持ちよさそうにすやすやと眠っている横顔を見て、ようやく僕は胸を撫で下ろした。
「もっと甘い感じで休みを満喫しようと思ったのに…昨日も今日も気絶させて…何やってんだろう…」
そう呟きながらベッド端に座り、はぁと大きく溜め息を吐いた。自分の不甲斐なさを痛感し、ぼーっと空のコップを眺めていると、背中に何かがつたう感覚がした。
「ひょわぁ!」
ビックリして思わず変な声出て、慌てて口を押さえた。
この部屋には僕と拓真さんの2人きり、つまりこの背中に感じる感覚は必然的に彼のものとなる。頭で理解するにつれて僕は段々を顔に熱が集まってくるのを感じた。
――は、恥ずかしい声出しちゃった。
ゆっくりと振り返ると、ニヤニヤ笑いながら指先で僕を突く拓真さんの姿があった。
「尊くんでもそんな声出すんだな」
嬉しそうに言い放つ彼は少し熱っぽいものの元気そうで、揶揄われた羞恥心よりも元気な姿を見られた安心感の方が強く、思わず口元が緩んでしまった。「よかった…」と呟くと、拓真さんはバツが悪そうに口を尖らせ「思ってたのと違う反応なんだけど」と恥ずかしそうにタオルケットを頭まで被った。
とりあえず僕を揶揄う元気があってよかった。安堵からか、一気に身体中の力が抜け、拓真さんの上に倒れ込む。
「うわぁっ、な、何?」
「あー、なんか安心したら気抜けちゃって」
「安心?わかんないけど、ちゃんとベッドに寝たら?俺の腹を枕にしても休まらないでだろ」
今まで息苦しそうに寝ていたくせに、自分が気を失ってたなんて微塵も思っていない言い方だ。本人はきっと少し眠っていたくらいの認識なのだろう。確かにキスで気絶したなんて、本人にとっては恥ずかしいことかも…
それにしても危機感というか、押しに弱すぎていつか本当に死んじゃったりしないよね。そう思うと急にゾッと悪寒が走った。今こうしてお腹が上下に動いていることにひどく安心感を覚える。生きていると感じられる。
「そんなことない…小刻みに揺れてて眠くなりそう…」
拓真さんの揺れるお腹から伝わる体温の温かさでさらに眠気をさそわれる。安心したのもあるけど、昨日から心配であまり寝られなかったんだ。少しだけ、ここで体温を感じながら寝させてほしい。
だけど拓真さんは、僕が昨日からどんなに不安な気持ちを抱いていたか気付いていないんだ、きっと…だから簡単に僕から離れようとできるんでしょ?
「眠いの?なら俺ベッドから退くよ」
「ダメです!少しだけこのままでいてください」
善意からくる言葉だって分かっているのに、なぜだかすごく嫌な気持ちになる。離れていかないでとギュッと心臓が締め付けられ、その気持ちを解き放とうと、拓真さんの手を握りしめた。それに気付いた拓真さんも握り返してくれた。
自分が満足した時にはもう拓真さんは気絶していた。口を離すと、2人分の唾液が喉まで到達したのであろう、ゴホゴホと苦しそうに咳をし、息を吐くたびにヒューヒューと苦しそうな音が聞こえる。目尻には涙が溜まっていて、頬には涙がつたった後があった。鼻水もかなり出ていたのか、拓真さんの顔は色々な体液でぐちゃぐちゃだった。
――やってしまった…
後悔してももう遅いが、とりあえずまだ拓真さんの口の中に残っている唾液で蒸せないよう吐き出させて顔を綺麗に拭いた。横向きに寝かせ直して背中をさすると、さっきの苦しそうな呼吸も少しはマシになった。気持ちよさそうにすやすやと眠っている横顔を見て、ようやく僕は胸を撫で下ろした。
「もっと甘い感じで休みを満喫しようと思ったのに…昨日も今日も気絶させて…何やってんだろう…」
そう呟きながらベッド端に座り、はぁと大きく溜め息を吐いた。自分の不甲斐なさを痛感し、ぼーっと空のコップを眺めていると、背中に何かがつたう感覚がした。
「ひょわぁ!」
ビックリして思わず変な声出て、慌てて口を押さえた。
この部屋には僕と拓真さんの2人きり、つまりこの背中に感じる感覚は必然的に彼のものとなる。頭で理解するにつれて僕は段々を顔に熱が集まってくるのを感じた。
――は、恥ずかしい声出しちゃった。
ゆっくりと振り返ると、ニヤニヤ笑いながら指先で僕を突く拓真さんの姿があった。
「尊くんでもそんな声出すんだな」
嬉しそうに言い放つ彼は少し熱っぽいものの元気そうで、揶揄われた羞恥心よりも元気な姿を見られた安心感の方が強く、思わず口元が緩んでしまった。「よかった…」と呟くと、拓真さんはバツが悪そうに口を尖らせ「思ってたのと違う反応なんだけど」と恥ずかしそうにタオルケットを頭まで被った。
とりあえず僕を揶揄う元気があってよかった。安堵からか、一気に身体中の力が抜け、拓真さんの上に倒れ込む。
「うわぁっ、な、何?」
「あー、なんか安心したら気抜けちゃって」
「安心?わかんないけど、ちゃんとベッドに寝たら?俺の腹を枕にしても休まらないでだろ」
今まで息苦しそうに寝ていたくせに、自分が気を失ってたなんて微塵も思っていない言い方だ。本人はきっと少し眠っていたくらいの認識なのだろう。確かにキスで気絶したなんて、本人にとっては恥ずかしいことかも…
それにしても危機感というか、押しに弱すぎていつか本当に死んじゃったりしないよね。そう思うと急にゾッと悪寒が走った。今こうしてお腹が上下に動いていることにひどく安心感を覚える。生きていると感じられる。
「そんなことない…小刻みに揺れてて眠くなりそう…」
拓真さんの揺れるお腹から伝わる体温の温かさでさらに眠気をさそわれる。安心したのもあるけど、昨日から心配であまり寝られなかったんだ。少しだけ、ここで体温を感じながら寝させてほしい。
だけど拓真さんは、僕が昨日からどんなに不安な気持ちを抱いていたか気付いていないんだ、きっと…だから簡単に僕から離れようとできるんでしょ?
「眠いの?なら俺ベッドから退くよ」
「ダメです!少しだけこのままでいてください」
善意からくる言葉だって分かっているのに、なぜだかすごく嫌な気持ちになる。離れていかないでとギュッと心臓が締め付けられ、その気持ちを解き放とうと、拓真さんの手を握りしめた。それに気付いた拓真さんも握り返してくれた。
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