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9、お家デート①〜side 尊〜
②
しおりを挟む「この食器使ってもいいか?…ってうわ!」
食器を取ろうと手を伸ばした拓真さんを、僕はすかさず抱き締めた。
「もー急に抱き付くからびっくりしただろ」
文句を言うものの決して振り解こうとはしない。耳までは赤くならなかったけど、頬を赤く染めて振り向いてくれた。しかも平常心を装って、嬉しいことを必死で隠そうとして口角がピクピクしている。
朝は頭を撫でる拓真さんの手が、僕を包み込む身体が、とても大きく感じて包み込まれているようだった。
だけど本当は僕よりも小さくて、抱きしめたらすっぽりと僕の腕の中に収まってしまった。
「少しだけ、こうしてていいですか?」
「俺お腹空いたんだけど」
「…………」
「まぁ少しなら良いか」
沈黙を拒否と受け取った拓真さんは、仕方なくという言い方で了承した。彼の前に回した僕の腕にそっと手を添えて、少しだけ僕に体重を預けてくる。そして楽しそうに鼻歌を歌っていた。少し前に流行った恋愛ドラマの曲だ。
この時間を 包み込んで 独り占めしたい
毎日会って 抱きしめて 愛してと言って
そう囁く声は僕のもの わがままな君も僕のもの
ふと思い出したその曲のフレーズ。
拓真さんも思っているのだろうか。この歌詞のように、僕を独り占めしたいって。僕が拓真さんを独り占めしたいって思っているように。
「俺長男でさ、しかも兄弟も多いんだよね。だからあっという間に俺は子供から親側になってたんだ。だから親に抱きしめられた思い出なんて、物心ついてからはほとんどんなくてさ。それで、その、嬉しくてついつい鼻歌歌っちゃった。」
そう言って恥ずかしそうに笑いながら僕の方を向いてきた。まさか拓真さんからそんな話が出るなんて思わなかった。それにこれは、もしかしなくとも拓真さんは僕を独り占めしたいってことなのだろうか。
「僕は独り占めできますよ」
「あはは、知ってたかーこの曲」
僕が曲の歌詞を知っていたことで恥ずかしくなったのか、拓真さんは照れくさそうに笑いながらそっぽを向いてしまった。鼻歌で間接的に伝えてくるなんて、僕が曲を知らなくて気付かなかったら意味ないのに。
「僕も拓真さんのこと独り占めしたい」
「俺はもう尊くんのものだよ?」
またそうやってサラッと恥ずかしいことを言う。でも過労のことも考えると、仕事の方が優先順位が高そうで素直に喜べない。お金は大事だから仕方ないことだけど、人間の中ではってところがちょっと癪に障る。しかもまだ拓真さんの口から僕を独り占めしたいって聞いてない!
「拓真さんは?僕のこと独り占めしたい?」
「えぇっ!えっと…」
なんですぐ言ってくれないの。そう思ったら喉の奥が熱くなった。言い淀んだ拓真さんのことなんて考えずに、ついカッとなって怒りのままに責め立ててしまった。
「なんで?たった一言じゃん!僕は拓真さんには僕だけを見ていて欲しいよ?でも拓真さんは違うの?僕が離れていっても別に問題ないくらいの感情なの?僕だけ一方通行だった?」
気まずい沈黙が流れ始めた。僕は拓真さんの細い肩が微かに震えているのを見てハッとした。言い過ぎたことに気づいた時にはもう言葉は僕の口から出た後だ。
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