愛を注いで

木陰みもり

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10、お家デート②〜side 拓真〜

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 悔しくなった俺は無言で尊くんに抱きついた。ほら君が所望した俺なりの可愛い俺だ、どうだ!と言うように尊くんを見上げた。
「そんな顔しないでくださいよ」
「そんな顔ってどんな顔ですかー」
こんな言い方、ちょっと意地悪だったかな。でも尊くんからは結構揶揄われてるから、これも可愛いに入るでしょ。
「どうだ、こんなことしちゃう俺可愛いだろって顔。面白すぎます…あはは」
まさかの笑われてしまった。もう尊くんのツボ分からないよ。
 俺は諦めるように離れようとした。だが尊くんは離れていく俺をすかさず掴み思い切り俺を自身の胸に引き寄せた。
「拗ねないで、もっと僕に抱きしめられていてくださいよ」
別に拗ねて離れようとしたわけじゃないんだけどな。まぁ嫌なわけじゃないし、このままでいいか。
 しかしこの抱き合った格好は、理性があると実に恥ずかしい。そもそも、所謂甘い雰囲気かつ理性を手放していないと俺はこんなことできないタイプなんだ。かといって離してくれそうにもないし…
 そうだ、質問しまくれば気が紛れるかも。そう思い、俺は尊くんに質問という名の情報収集を始めることにした。
「好きな食べ物は何?」
「はは、急ですね。うーん、無難にカレーかな」
「じゃあ…」
「待ってください」
次を聞こうとしたら止められてしまった。もしかして何かマズいことだっただろうか。好きな食べ物知られたくないとか、あった?
 そんな冷静に考えればあり得ないようなことで、俺は一気に不安になった。だが尊くんは、聞かれたくなくて止めたわけではなかった。
「拓真さんの好きな食べ物は?」
「えっ?」
「僕だって拓真さんのこと知りたいですからね」
まさか聞き返されるとは思わなかった。人に自分の好きなものとか聞かれたこともない俺にとって、尊くんが質問してくれたことは、とても衝撃的なことだった。いや、本当は自分でも自分の好みが分からないから、避けてきただけかもしれない。

――俺の好きなものって、何だ?

「拓真さん、好きな食べ物は?」
「好き嫌いないから、何でも好き?」
「あはは、何それ」
俺の曖昧な答えを尊くんは笑い飛ばしてくれた。彼の温かな笑い声が耳元で響いて、自分の中に何もないことが空っぽに感じて、それがより一層露見したように思えた。質問を返されると何にもない俺がバレるんじゃないかと怖くなっていた。
 バクバクと次第に速くなっていく心臓の音を必死に抑えようと、笑って訳もわからず話を続けた。
「はは…パッと思いつかなくて…あ…す、好きな、アイス…とかは?」
…って俺は何言ってるんだ。また食べ物って芸が無さすぎる。それでも尊くんは質問に真剣に答えてくれた。
「アイス…さっぱりしたものより、濃厚なミルクの味がするソフトクリームとか好きですね。拓真さんはどうですか?」
「そ、そうだな…俺もソフトクリーム好き…」
俺は笑いながら同調した。俺の好みがそうなのかは分からないから。嘘でも本当でもない、嘘をついてしまった。この少しの嘘が心にチクチクと刺さる。
 俺は今ちゃんと笑えているだろうか…
「じゃあ次…えっと…ご趣味は…」
本当に俺は何を聞いているんだ!もう心臓がうるさい、うるさい。
 尊くんももう笑いを堪えるので必死じゃないか。何もない自分も、こんなしょうもないことしか聞けない自分も、消えてしまいたいくらい恥ずかしい。顔から火を吹くんじゃないかってくらい熱が顔に集中してきて、額にじんわりと汗をかいてきた。
 そんな俺の様子を見て、笑いを堪えきれなくなった尊くんは盛大に吹き出した。
「あっははははは、お見合いじゃん」
「そんなに笑わないでよ」
「いやだって、さっきから拓真さん変なんですもん。身体にすごく力が入ってるし、肌はちょっと湿ってきてるし、それに…」
「いぃっ!いひゃい…」
次は何を指摘されるのだろうかと待っていたら、急に頬を思い切りつままれた。割と痛いつまみ方に、思わず涙が目尻に溜まる。
 尊くんは俺の頬から手を離し、溜まった涙を親指の腹で拭いながら続けた。
「ぎこちなさすぎですよ、笑顔が」
気付く、よね。そりゃそうだ。薄々そうじゃないかと思っていたけど、俺は尊くんの前だと他の人の前のように自分の気持ちを隠せなくなってしまう。
「今度は僕から質問いいですか?」
「うん…」
何を聞かれるのだろうか。俺は無意識に身体をさっきより強張らせ身構えた。
 その様子を見た尊くんは困ったように小さく溜め息を吐き「少し目を瞑って待っていてください」と言い残し、どこかに行ってしまった。
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