愛を注いで

木陰みもり

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11、買い物デート①〜side 尊〜

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「ねぇ拓真さん、このお菓子も買いたい」
「さっきからお菓子しかカゴに入れてなくない?」
「僕お菓子好きなんですよね」
「にしても食べ過ぎだろ。身体に良くないって」
「拓真さんも一緒に食べてくれたら半分で済むんだけどなー」
「はぁ…このやりとり何回め…」
そう、僕たちはさっきから、僕がお菓子を持ってきては拓真さんが止めるを繰り返していた。カレーの食材は無難なものを買い早々に帰ってもよかったのだが、それだとなんだか味気ないと思った僕は、お菓子コーナーで好みのお菓子を物色してはカゴに入れていた。
 その度にちょっと困ったように怒る拓真さんが可愛くて、いつの間にかカゴいっぱいにお菓子を入れていたのだ。流石に途中から止めるのを諦めたのか、呆れた表情で僕を見ていた。ちょっとやりすぎちゃったかなと思いながらも、このお菓子を消費するために、また僕の家に来ると言ってくれるんじゃないかと、少し期待をしている。
「お菓子は日持ちするから大丈夫です」
「まぁそうだけど…って何言っても買うんだろ」
「えへへ、これだけは譲れなくて」
昔はお菓子なんてなかなか食べられなかったしね。じいちゃんも買ってくれたことなかったし。その反動か、今は当時の心を埋めるように色んなお菓子を食べている。でもまだ満たされないんだよね。
「クッキーは俺作れるからこれは棚に戻してこいよ」
「クッキー作ってくれるんですか?」
「昔よく弟に作ってたから。まぁそのお菓子より美味しいわけじゃないけどな。嫌なら別にいいんだけど…」
「いえ、嬉しいです。じゃあクッキーは戻してきます」
まさか僕のためにクッキーを作るなんて言ってくれるとは思いもよらなかった。僕は嬉しくてスキップでクッキーを棚に戻しに行った。

 棚にクッキーを戻して拓真さんのもとへ帰ると「食材は一通り揃った」とまた手を繋いでくれた。拓真さんはきっとまた僕がお菓子を物色しに行かないように繋いでくれているんだろうけど、それでも僕は彼と手を繋げて嬉しかった。
「あっ…」
「なんだ、もうお菓子はダメだからな」
「違いますよ、帰りにコンビニ寄ってもいいですか?」
「あぁ、俺も買いたいものあったから」
「じゃあコンビニも寄りましょう。コンビニ限定の新発売のアイスが美味しくて、拓真さんにも食べて欲しいです」
「それは楽しみだな」
お菓子を持って行った時気づいたが、僕の好きなものを1つ知るたびに拓真さんは楽しそう笑う。それがまた可愛くて、ついつい色々持っていったら呆れられたわけだけど。それでも、僕のことを知ってくれることが単純に嬉しかった。だから次は拓真さんのことが知りたくなった。色々なお菓子を食べたら好みが出るかもしれない。そんな思いもあっていっぱいカゴに入れた。
「あ、ここは払います。お菓子いっぱいあるし」
「じゃあ割り勘な、2人で食べるんだし。だから1人で食べるなよ」
「そんな食い意地張ってません」
「じゃあ食べたらデコピンな」
そう言って拓真さんはニッと笑って顔の近くでポーズをとった。なんだかんだ拓真さんも2人で食べる気でいてくれたことが嬉しかった。
「それって僕だけ損じゃないですか?」
「じゃあちゃんと食べなかったら、願い事をなんでも叶えてやるよ」
「本当ですか!ちゃんと食べないよう気を付けます」
「なんでも」なんて言うものじゃないよ、拓真さん。僕が悪い人だったらどうするの。なんて絶対に教えないけどね。
 僕は「なんでも」叶えてもらうためにお菓子禁止を頑張ろうと、心の中で意気込んだ。
「はい、尊くんはこっち持って」
「え、拓真さんが持ってる方が重くないですか?」
「いいんだよ、それよりもほら」
片手で重い荷物を持ちながら、もう片方の手を僕に向けて伸ばしてきた。その手を僕は当たり前のように掴んだ。
 少し寒い店内で身体はだいぶ冷えていたけど、拓真さんの手はとても熱かった。少し赤む顔を隠すように僕を引っ張って歩く姿は、とても愛おしく思えた。隣に並び立つと嬉しそうに笑う拓真さんの顔があった。その顔を見ていたら、僕まで笑顔になってしまった。
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