愛を注いで

木陰みもり

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14、お酒は飲んでも飲まれるな

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 それは突然のことだった。薄暗い部屋の中、小さな豆電球がゆらゆらと揺れている。それを俺は何故か仰向けで眺めていた。そんな俺の上に男が馬乗りになって俺の顔を覗き込んでいる。光が弱いのに逆光となっているせいで、男の顔はハッキリと見えない。
「どうして俺じゃ駄目なんですか」
こいつは何を言っているんだ。頭が痛くて何も考えられない。だるくて、押さえつけられるまま横たわった身体を起き上がらせることができない。だが本能でこの状況はまずいと警告を鳴らしているのは確かだ。
 どうしてこんなことになってしまったんだ。今日は普段と変わらず仕事をして、珍しく会社のやつと飲みにきた…はず…

――遡ること数時間前。

「二階堂さん、その声大丈夫ですか?」
「あー…クーラーでやられたんだ。身体は問題ないから」
 心配そうに四乃が話しかけてきた。休んでたくせに声は掠れているし、病み上がりなのにやたらスタンディングワークスペースで仕事をしていたら不自然だろう。だけどこればかりは仕方がない。
 ズル休みした昨日、俺と尊くんは一線を超えた。しかも穏やかな愛し方ではなく、すごく情熱的で激しかった。1回目が終わって一緒に横になり肌を合わせたところまでは割とハッキリ覚えているが、その先のことがあまり思い出せない。「もう1回シたい」とお願いされて、何回も同意したけれど、一体何回ヤったんだろうか。起きたら腰は痛いし、それ以上に尻の穴が、焼けるような鈍痛を感じた。
 声も掠れていて、朝俺はビックリした。尊くんはうっとりしながら「昨日すごく喘いでましたからね。僕を愛してくれた証ですね」なんてちょっと意味のわからないことを言っていたが、ちょっとキュンとした。
 そんな俺の日常とはかけ離れた非日常を思い出し俺は赤面した。
「顔も赤いですし、本当は熱があるんじゃ…」
 四乃が手を伸ばして俺の額に手を置いてきた。
 ずっと思っていたが、今日の四乃はやけに距離が近い気がする。やたら俺の体調の心配をしているし、いつもなら自分のデスクで仕事しているのに、今日はピッタリくっついてくる。
「四乃、大丈夫だから、手をどけてくれ」
「あ、すみません」
「本当に大丈夫だから、お前も自分の仕事に戻れ」
 俺は四乃の手を振り払い、頭を撫でてやった。ちょっとあしらっているみたいで申し訳ないが、これで自分の席に戻るだろうと思っていた。だけどいつものように仕事に戻ることはなく、今日はやけに粘って俺の隣に立っている。
「あの、お願いがあるんです」
いつになく真面目な顔でそう言う四乃は、いつもの可愛い後輩という感じは全くなく、鬼気迫る迫力があった。
「言ってみろ、俺に出来ることなら何でもするから」
「じゃあ、今日一緒にご飯行ってください」
「いいぞ、それじゃあ今日はお互い定時で上がらないとな」
「絶対他の人の仕事請け負わないでくださいね」
「それはお前もだろ。俺だけみたいに言うな」
俺が言い返すと、呆れた顔をしながら四乃は自分のデスクに戻って行った。一昨日に話していた四乃とはあまりにも違いすぎて、俺は困惑していた。昨日休んでいた間に四乃に何かあったのだろうか。
 もしかしたら会社では相談しにくいことがあるのかもしれない。明るく笑っていても、楽しく仕事をしていても、その実悩みを隠していたのかもしれない。
 そう思うと今まで気付かなかったことを申し訳なく思った。今日はなるべく四乃に寄り添って、悩みを吐き出させてやろう。そう決心し、珍しく他の人の仕事を断った。
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