愛を注いで

木陰みもり

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15、一緒に暮らして

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 気付いた時には、宣戦布告に対して「やれるものならやってみろ」と返していた。
 男は中指を立てて煽るように部屋を後にした。最後まで腹の立つやつだった。明日は幸い休日だけど、週明けから会社であいつと拓真さんが接触すると思うと、なんだか気が重かった。
「拓真さん、ごめんなさい…もっと早く行っていれば…」
 僕は泣き疲れて眠った拓真さんを抱え、帰路についた。その間もずっと、さっき見た光景を思い出しては考えていた。あの時はついカッとなって色々言ってしまったし、自分は大丈夫という自信はあったけど、実際助けに入れたのは事後だった。
「もっと早くに間に入っていたら、さらに自信がついたんだろうな…」
 自分の情けなさに落胆していると、拓真さんが目を覚ました。
「み…ことくん?」
「あ、おはようございます」
「あれ、俺…っつ…」
「身体、痛かったりします?」
「んー飲みすぎて頭、痛いかな…って俺、ごめん、降りるよ!」
「ふふ、大丈夫ですよ。それよりしっかり掴まっててくださいね?」
「でも…あ、ありがとう…じゃあお言葉に甘えて…」
何か言いたげだったけど、それを飲み込んで拓真さんは素直に僕に抱えらることを選んだ。「もっと早く助けてくれればよかったのに」って言われるかと内心ビクビクしていたが、僕の心よりも拓真さんの身体の方がよっぽど震えていた。
「ごめんなさい、もっと早く行っていればよかったですよね」
「そんな…俺の方こそごめん、迷惑かけて…ほんと…バカだよな。尊くんは怒っていいんだよ」
どうして自分を責めるように言うんだ。僕は別に拓真さんに対して怒っているわけじゃないのに。まるで自分は責められて当然かのように言う。拓真さんにそんな言葉しか言わせられない自分に腹が立った。そしてその言葉にかける言葉も、僕の中には見つからなかった。
 その後僕たちは無言のまま歩き、いつの間にか家に着いていた。
「とりあえず、お風呂入ってください」
「あ、ありがとう…」
ぎこちない会話を少し交わし、拓真さんを風呂に行かせた。僕はあの男のニオイがついた服をすぐに洗濯した。抱えていた時からずっと嫌な気分だった。拓真さんのニオイじゃない、お酒と別の人のニオイが僕を責め立てていた。
 とりあえず今は拓真さんが安心できるようにしてあげたい。それさえも自分のエゴかもしれないけど、僕にできることを今はしよう。
――切り替えが早い性格は親に感謝だな
 保身のための諦めと楽観的に受け入れやすいのは結局のところ自分が傷つかないためだった。それで本当にいいのかとも思うけれど、今はこの状況をさっさと切り替えられることに感謝しかない。
「尊くん、風呂ありがとな。スッキリした」
顔を隠すように頭からタオルを被り、髪の毛が濡れたままの状態で拓真さんが立っていた。
「髪乾かさないと風邪引きますよ」
髪の毛を拭くために、拓真さんの頭に乗ったタオルに手を掛けた。だけどその瞬間拓真さんは僕の腕を掴み、離れるように距離を取ってしまった。
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