好きだから傍に居たい

麻沙綺

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揶揄れつつも…悠磨

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 今日、急に全校集会があるとかで、体育館に移動する。
「何かあったのかなぁ?」
 透が、首を傾げながらオレを見る。
 オレよりもお前の方が知ってそうだが……。
「さぁな。行けばわかるんじゃないのか?」
 何て、話していた。


 体育館でクラス毎に整列してると、理事長とあの人が舞台に立った。
 周りが色めきざわめき出す。

 そりゃそうだ。
 あの人、カッコいいから……。
「悠磨。何で、あの人が彼処に居るんだ?」
 透が、不思議そうに言う。
「オレが、知ってる訳無いだろう。最近は、亜耶とも一緒に登校してないから、何も知らない。」
 オレがそう答えると、不満そうな顔をする透。
「あっ、早々。亜耶ちゃん、結婚したんだって。知ってた?」
 透が、小声で驚きの言葉を落とす。
「そんなの知らねぇよ。」
 こいつ、どこから情報を持ってくるんだ?
「家庭の事情で、結婚が早まったんだって……。で、今はあの人と一緒に暮らしてるってさ。」
 周りを気にしながら言葉にする透。
 気にするなら、ここで話さなければ良いだろうよ。
『中途ではあるが、新任の先生を紹介する。高橋くん。』
 理事長に呼ばれ、堂々と前に出て会場を見渡したかと思ったら、ある一点を見て真顔だったのが少し崩れた。
 その先に居るのは、亜耶愛し娘だとわかる。

『え~。本日から此方にお世話になります、高橋遥と言います。教科は、化学です。宜しくお願いします。』
 低音のしっかりした声で言うあの人。
 堂々とした姿。
 やっぱり違う。
 亜耶が頼りにする筈だな。

「あの人、やっぱりカッコいいな。」
 透が、ボソリと言う。
 ああ、オレもそう思う
「あの顔を崩す事が出来るの、亜耶ちゃんだけなの知ってるか?」
 ホント、何処から手に入れてくるんだよ、その情報は?
 オレが一睨みすると。
「俺のフィアンセから。」
 オレの表情かおに出てたのか、そう透が答えた。
「本当、悠磨は顔に出やすいな。」
 ほっとけ。
 クスクスと笑う透。
 コイツ、オレを揶揄って遊んでやがる。

『高橋先生には、一年E組の副担任についてもらいます。』

 理事長の声に周りの女子が。
「いいな。」
 って、羨ましそうな声をあげていたが、これ職権濫用したんじゃないのか?
 ってオレは思った。
「あの人らしい。」
 透が、呟いた。


 今日の一時限目、オレたちのクラス化学だ。
 初日から、あの人の授業か……。
 少しだけ憂鬱になる。
「今日から、化学を担当させてもらう高橋だ。取り敢えず、自己紹介してもらってもいいか? その後、授業に入る。」

 教室に入ってきてそう言うあの人。
 簡単な自己紹介をしていくなか、時折自己アピールをしてる女子達。
 あぁ、可哀想に……な。
 内情を知っているオレとしては、憐れとしか思えない。
 あの人、全然興味持って無いのが見てとれる。
 顔も崩さずに淡々としているし。
「次。」
 って声にオレは席を立つ。
「渡辺悠磨です。宜しくお願いします。」
 そう言うと一瞬だけど口許が上がった。
 何で、笑うんだ?
 全員が終わると。

「高橋先生って、彼女居るんですか?」
 女子からの恒例の質問があがった。
 横に座ってる透が、苦笑しながら。
「何て答えるんだろうな」
 楽しんでる。
「彼女? う~ん。嫁さん居るぞ。メチャ、可愛いんだよ。俺の一言一言に一喜一憂してくれる、優しい嫁がな。」
 ってオレの方を見て答えてる。
 それって、オレに対してのノロケですか。

「あれって、絶対悠磨に聞かせてるとしか思えない。」
 内情を知っている透は、腹を抱えて笑う。
「遥先生って呼んでいいですか?」
 新たな質問に。
「それな。やめてくれ。嫁が嫌がるから。」
 少し考えてから、そう口にしてるあの人。
 この学校に居るって言ってるようなものじゃんか。
「悠磨の顔、面白いぜ。あれぐらい言っても誰も気付かないって。寧ろ、お前の考えすぎだと思うぞ。」
 オレ達のやり取りを泉が不思議そうな顔をして見ている。
 ああ、泉には言っても大丈夫かな。
 あの話も知ってるし……。

「亜耶の婚約者……。今は、旦那って言った方がいいか。」
 オレは小声で泉に言う。
「えっ!」
 泉が驚いて、大きな声で言う。
「どうした、小林。何か質問か?」
 あの人が、教壇から声をかける。
 もう、名前覚えたんかよ。
「何でもありません。」
 泉がそう答えると。
「そっか。わからなければ聞きに来いよ。」
 張り付けたニセ笑顔でそう言う。
「はい。」
 泉の顔が、心なしか赤い。
「おいおい。悠磨。あんな事言って大丈夫だったのか?」
 心配そうに透が聞いてきた。
「あぁ。泉は知ってるんだよ。亜耶に婚約者が居ることは。だから、今伝えたんだ。」
 そう、あの時に亜耶のお兄さんの口から直接聞いてるからね。
「そこの二人。お喋りしてて大丈夫なのか? まぁ、大丈夫だから喋ってるんだろうけど……。という事で、これ解いて。」
 意地悪な笑みを浮かべている。
「二人とも、前で解くんだ。」
 そう言われてしまえば、出ていくしかない。
 透と二人、席を立ち黒板に向かう。


「遥さん、酷いですよ。俺、化学苦手なんですから……。」
 透が小声で訴えてる。
「それ、真由に言えば真由がマンツーマンで教えてくれるだろうよ。」
 あの人は、何でもないように透に言う。
 そんな横で、オレは淡々と問題を解く。

「遥さん、結婚おめでとう。今度、真由と遊びに行きますね。」
 ニッコリと悪戯ぽい笑みを浮かべて言う透。
「来なくてもいい。ただ、邪魔しに来たいだけだろ?」
 と冷たい声が聞こえる。
 まぁ、そうとしか思えないが……。
「えっ、真由が亜耶ちゃんに会いたがってたし、亜耶ちゃんに聞いたら、亜耶ちゃんも真由に会いたがってたんですよ。」
 透の言葉に何か考え込むあの人。
 それ、授業中にする話しか?
 他の生徒に聞かれたら、不味いんじゃないのか?
 教室をそっと見渡せば、問題に必死で誰も気付いてない。
 それより、この二人やけに親し気じゃないか?
「わかったよ。何処かで時間作るよ。」
 考え抜いた後の答えに、亜耶が絡めば、妥協するんだな。
 何て思ったりして……。
「溺愛してるんですね。」
 揶揄ように言う透に。
「悪いかよ。俺には、亜耶あいつだけだから。」
 堂々と言い切る。
 やっぱ、カッコいいわ。
「高橋先生。終わりました。」
 オレが声をかければ。
「おっ、正解だ。渡辺、良く勉強してるな。席に戻れ。湯川は、早くやれよ。」
 透はドやされて、渋々黒板に向かう。
「ねぇ、悠磨くん。さっきの本当なの?」
 泉が聞いてきた。
「亜耶の旦那って事なら、本当だそうだ。オレは、よく事情は知らないけど……。」
 結婚の事だって、さっき透に聞いて初めて聞いたぐらいだ。
「悠磨、それさぁ、余りおおぴろに言うなよ。亜耶が困る事になるからな。」
 あの人が、いつの間にかオレのところに来て言う。
 こんなところでも、亜耶重視なんだな。
「それから、小林もな。」
 釘を指してきた。
 オレたちは、二人して頷いた。
 そう言えば、この人が教免を持ってるなんて知らなかった。

「湯川。まだか。」

 オレの席の隣(透)の席に座って、黒板の方を見てる。
 何時の間に座ったんだよ。
「悠磨。今日の部活終わったら職員用の駐車場で待ってるように亜耶に言っておいて……。」
 小声で言ってきた。
「……わかりました。」
 オレはそう答えて、他の問題に向き合った。


 キーンコーンカーンコーン。
 授業終了のチャイムが鳴る。
「これ、わからなかった奴、明日までに解いておくように。」
 あの人は、それだけ言って教室を出て行く。
 はぁ……疲れた。

「ねぇ、悠磨くん。さっき、先生に何言われたの?」
 泉が不思議そうに聞いてきた。

「ん? 亜耶に伝言を頼まれただけだよ。」
 うん、ただそれだけ。
 それ意外何もない。
「それより、遥さんの左手薬指の結婚指輪見たか? シンプルで、カッコよかった。」
 透が興奮したように言う。
 そんなの見る余裕なかった。
「亜耶と対なんだよね? 見せてもらいに行ってこようかな。」
 泉がウキウキしながら言う。
「やめておいた方がいいと思う。それこそ、あの人の逆鱗に触れそうだ。」
 透が恐ろしいことを言う。
「そう言う俺もしてるんだよね。だけど、遥さんのは世界に一つしかない指輪だと思う。」
 そう言って透が指輪を見せてきた。
 どこにでもありそうなペアリング。
 そして、羨ましそうに言う透が、鬱陶しかった。


 はぁ、亜耶はもうあの人のところへ行ってしまったんだな。
 もう、届く事はないだろう。

 大好きだったよ。


 大事に思える人にまたで会える事が出来るといいなぁ。








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