31 / 183
偽りの無い姿…雅斗
しおりを挟むコンコン。
俺は、個室のドアをノックし中に入る。
六人がこっちを見る。
うちの両親と由華は、やっと来たかって顔をし遥の両親と多香子さんは、興味津々な顔つきだ。
「下に降りて行ったら、二人と遭遇したから連れて来た。」
俺は、由華の隣に座る。
「お帰り~。」
由華が小声で、しかも笑顔で迎えてくれる。
この笑顔、俺好きなんだよ。
本人には、言わないけど。
「ん? 何か変わった事は?」
俺は、自分の感情を悟られないように言う。
「今度、多香子さんと遊びに行く約束しちゃった。」
って、とても嬉しそうに言う由華。
そこまで、仲良くなったか。
「そっか……予定が決まったら、教えて」
多香子さんが忙しいのを知ってるから、それしか言えなかった。
「雅くんは、どうだった?」
どうと言われれもなぁ……。
「まぁ、二人の話を聞いてればわかると思うが……。」
「……ん?」
由華がキョトンとした顔で首を傾げる。
うん、その顔もいいな。
目線を亜耶と遥に向ければ、亜耶が挨拶してる処で、少しだけ声が上ずっている。
やっぱり、緊張解れなかったか……。
おじさんの質問に対して、堂々と受け答えする亜耶。に対して、遥の口許が徐々に緩んできてるのがわかる(たぶん、由華には気付かれない程度)。
「亜耶ちゃん、可愛い。弟のところの真由ちゃんと同じ年頃だよね。」
おばさんが、テンションの高い声で言う。
真由って、確か理事長のところの娘さんだったか……。
遥がおばさんを諫めて、多香子さんが亜耶に声をかける。
多香子さんの仕事モードに気圧されて、たじろいでる亜耶だが、それでも堂々とした態度を見せると、多香子さんが柔らかい雰囲気に切り替わった。
あっ、亜耶の事試したんだ。
俺は、直感的にそう思った。
雰囲気が変わった時点で、多香子さんは亜耶を気に入ったのがわかった(気に入らない人だとずっと仕事モードだしな)。
それに亜耶もそんな多香子さんを気に入ったみたいだ。
笑顔で、挨拶してる所を見れば多香子さんが溺愛してる遥の嫁として、認めたんだろうなぁ。
多香子さん、ほんと凄いよ。
亜耶が警戒してたのを直ぐに解くんだからな。
「ほら、二人とも座って。ディナーにしよう。」
親父が、そう切り出して食事会が始まった。
たわいの無い話をしながら食事が進む。
時より亜耶が困ってると遥がすかさず世話を焼いてるのを見て、微笑ましく思う。
「雅くん。先輩の亜耶ちゃん大好きオーラ全開してるんですけど……。」
由華が、驚いた顔をしながら、俺に言ってくる。
「これ、まだ序の口だぞ。遥、甘やかす時は、とことん甘やかすから。」
俺の言葉に由華が更に驚く。
「何処まで?」
由華が聞いてきたが。
「まぁ、見てればわかるよ。」
そう告げて食事を進める。
由華がチラチラ何度も遥の方を観ているのがわかるぐらいに遥の両親と多香子さんも、同じように遥を観ている。
それ程までに珍しい光景が目の前で起こってるのだから、仕方がない。
まぁ、うちの両親は見慣れてるから気にしてないがな。
残りデザートだけになった時、多香子さんが。
「何で、遅れたの? 遥。」
と口にした。
遥は、亜耶に目を向けたまま受け答えてる。
その言葉を聞いて、三人が目を見開いた。
あぁ、また秘密にしてたのか……。
って言うか、遥、家族なのに言わなさすぎだろうが……。
まぁ、うちには相談してくるから、いいのか?
「あいつ。遥をこき使いやがって。」
何処からか、唸る声。
声の方を見れば、おばさんの目がつり上がってた。
うわ~こえーよ。
美人の顔が台無しだ。
何て思いっていたら、デザートとコーヒーが来た。
俺は、自分の分のデザートを由華に差し出す。
「いいの?」
「ん。俺の分も食べといて、俺は、後で頂くから……。」
訳有りで由華を見れば、顔を赤くしながらも嬉しそうに俺を見て。
「ありがとう。」
そして、ほんと美味しそうに食べ出した。
そんな由華の頭を撫でた。
今日は、まだ平気そうだな。
何て思ってたら。
「そうそう、十一月にお前達の婚約パーティーするからな。亜耶の社交界レビューも一緒にな。」
って親父が言う。
その話し、俺にとっては初耳だ。
って事は、俺が席を外してる間に決まったのか。
由華は聞いてたんだろうが、多香子さんとのやり取りで必死だったんだろうと推測できる。
再来月の予定って、大丈夫か?
遥が、亜耶のドレスを選ぶとか言ってるが、亜耶もどうしたらいいのかわからずにいるのを見て、由華がアドバイスを送ってるのを横目で見る。
そういや、由華のドレスも新調しなくては……。
亜耶の返事を聞いて、遥の顔が綻んでいく。
本当に嬉しそうだ。
やっと、だもんな。
ふと静かになった隣を見れば、固まってる由華の姿。
何?
俺は、由華の目線を追った。
そこに居たのは、何時もと違う遥の無邪気な笑顔。
そうか、由華はこの笑顔を見るのが初めてで、遥がこんなに自然に笑ってるところを見えるとは思わなかったんだろう。
驚くのは、無理もないな。
亜耶の前でしか見せないんだからな。
俺も最初に見たとき戸惑ったのを覚えてる。
こんな笑い方も出来るんだって……。
普段使いの似せ笑いじゃない笑顔。
これを見た時、やっと壁が無くなったって思えたんだよ。
由華、早く戻ってくる事を俺は望むがな。
0
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
思わせぶりには騙されない。
ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」
恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。
そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。
加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。
自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ…
毎週金曜日の夜に更新します。その他の曜日は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる