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親友と好物…亜耶
しおりを挟むブルルル……。
唐突に響くバイブ音。
さっきと同じリズムだから、遥さんの携帯からだ。
「悪いな。」
遥さんがそう言うと電話に出る。
「着いたか? ん、下まで迎えに行くから、待合室で待ってろ。」
それだけ伝えると電話を切り。
「亜耶。ちょっと二人を迎えに行ってくるな。大人しく待ってろよ。」
私の頭をワシャワシャ撫でてから部屋を出て行った遥さん。
ちょ、も~髪グシャグシャだよきっと。
私は、手櫛で髪を直す。鏡が近くに無いからほぼ感覚でだけど……。
暫くして、ドアがノックされたと思ったら。
「亜耶ちゃん、久し振り!!」
病院だと言うのに元気な声が室内に響き渡る。
満面な笑みを浮かべて近付いてくる彼女と少し落ち込んでる彼。
私は、彼女に。
「真由ちゃん! 元気だった?」
って何処となしか、自分の声も弾んでるのが分かる。
そんな真由ちゃんを見て苦笑する湯川くん。
「亜耶ちゃん、大丈夫なの?」
心配気に聞いてくるから、折れてる方の腕を軽く振って。
「ん、大丈夫だよ。ただ利き腕の骨折だから少し不自由してるだけで、身体的には何にも問題ないんだ。」
軽くそう口にする。
「それよりごめんね。旅行、台無しにしちゃって……。」
落ち込み気味にそう口にする。私自身が、凄く楽しみにしてたから余計に落ち込んじゃうんだ。
「気にしなくてもいいよ。どうやら、はる兄が何か企んでるみたいだし……。」
って、真由ちゃんが笑顔で言う。
真由ちゃんに言われて、遥さんを見れば少し気まずそうな顔をしている。
それが、何か企んでる時の顔だった。
「あっ、これお見舞いね。」
って真由ちゃんが差し出したのは、私のお気に入りのお店のケーキの箱。
「わー、有り難う、真由ちゃん!」
私は、その箱を受けとる。
「中はね、亜耶ちゃんが大好きなプティングだよ。」
真由ちゃんが、ニコニコしながら言う。まさに、悪戯が成功した時の顔だ。
「うん、大好き。でも、良く覚えていたね。」
こんなこと覚えてるなんて思いもよらなかった。ただ、チラッと話しただけなんだけど。
「忘れるわけ無いでしょ。一番の親友の好物を。」
ウィンクしながら、得意顔をする真由ちゃんが、妙に可愛くて微笑ましく思える。
そんなやり取りをしていると。
「亜耶。ちょっと、透と出てくるから、その間真由と大人しく待ってろよ。真由、亜耶の事頼むな。」
遥さんの声がかかる。
真由ちゃんに会えたことが嬉しくて、二人の存在を忘れていた。
「うん、任せてはる兄。透くんが、はる兄に迷惑掛けないようにね。」
真由ちゃんが湯川くんに何やら釘を刺している。
何かあったのかな?
そう思えるぐらいだ。
「あっ、うん。気を付ける。」
って、何処と無く湯川くんの返事が上の空って感じもするが……。
「ん、じゃあ行ってくる。」
遥さんはそう言うと部屋を出て行った。その後ろを追う様に湯川くんが出て行った。
「亜耶ちゃん。益々可愛くなって、会わない三年のうちに何かあった?」
真由ちゃんが聞いてきた。
「それは、こっちの台詞だからね。真由ちゃんは、綺麗になったよね。湯川くんのお陰かな?」
って言い返すと。
「そうかも。」
って、肯定してくる真由ちゃんのどや顔が可愛いなぁって、思いながら会わなかった三年間の報告会になっていた。
「亜耶ちゃんは、はる兄と結婚したんだよね。」
真由ちゃんが真顔で聞いてきた。
「うん。先月の私の誕生日にね。遥さんは家のゴタゴタに捲き込まれた形になるのかな。」
あの時のお爺様の行動力にはビックリさせられたけどね。
まさか、私たちの想いが重なって、恋人兼婚約者という自覚が芽生えてきた所にお爺様の引退宣言&世界一周旅行に出る話から、住む家の話になって、気付いたらあっという間に婚約者から妻の立場になってるんだよね。
当時の事を思い出してたら。
「その顔は、お家事情って所かな。家も気が付いたら、透くんと同棲してるし……。」
真由ちゃんが複雑そうな顔をしている。
「真由ちゃん。湯川くんとの同棲の経緯って?」
自分の事を話さず、真由ちゃんの話を聞くのは不味いかな?
って、不安に思っていたら。
「ん、話すのはいいけど、亜耶ちゃんも話してね。」
真由ちゃんに交換条件を出されてしまった。
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