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1章 秘密基地と大人
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「タクとはち合わせた時は、本当に驚いたぜ」と優作が言葉を続ける。2杯目となるビールを手に、肩が竦められる。
「それはこっちもだよ」と拓弥が優作に返した。こっちはまだ一杯目のビールをちょびちょびと飲みながら、もう片方の手を俺の二杯目のビールの注文ついでに頼んだ焼き鳥に伸ばしている。
「まさか優くんも同じタイミングであそこに現れると思わなかったからね。一瞬、我が目を疑ったよ」
「それこそ、こっちのセリフだわ。……まっ、1番びっくりさせられたのは、透だけどな」
「あー……。それは確かに」
「え。俺? なんで?」
キョトン、と2人の言葉に目を丸める。
俺、そんなに驚かせる事したっけ。どっちかというと、俺の方が2人には驚かされた側の筈なんだけど……。
「なんでって……。だって透くん、突然草の中から飛び出してくるんだもん」
「何もいないと思ったところから、急に出てきたらびっくりするじゃないか」と説明を補足してくれた拓弥に、「なるほど!」と手を打つ。言われてみれば確かにそのとおりである。
「草むらに入った瞬間、突然前触れもなしに野生のレア敵とエンカウントする感じだな!」
「うぅん、合っているような、微妙に違うような」
俺の返しに、拓弥が困ったように頬を掻く。
するとそんな俺達のやり取りを見ていた優作が、「まったく」と呆れたように首を横に振った。
「アホな返しするところは、今でも変わんねぇのな。これが小学校の先生だなんて、世も末だぜ。お前、本当に教員試験受かったのか? エセじゃねぇの?」
「しっけいなっ! ちゃんと受かってますぅーっ。それ言うなら、お前がSEだっつー方が信じられねぇからな⁉ んないかつい顔と体で、肉体労働じゃなくってインドア系の職に就いてるとか、意味がわからねぇんですけど!」
「あぁ⁉ 顔は関係ねぇだろうが!」
「顔だけ⁉ 体は⁉」
「2人とも、声荒げすぎ。いくら居酒屋とは言え、ドを外しすぎた騒ぎ方はダメだよ」
「はーい。就職3年目で、デパ地下食品コーナーフロア長に任命されたらしい期待の若手ルーキー」
「はーい。ついでに就職2年目で職場恋愛からの結婚して、今じゃ娘までいる人生完全勝ち組パパー」
「……透くんのはまだ良いとして、優くんは何。俺に、なんか恨みでもあるの?」
「人生完全勝ち組パパって何それ」と拓弥が優作の方をジトりと見る。しかしそんな拓弥の視線もどこ吹く風というように、「出世して結婚もクリアしてガキもいりゃあ、充分人生勝ち組だろ」と優作は肩をすくめるだけだ。
「もう……。透くんが透くんなら、優くんも優くんだよね。昔から口が悪いというか、物の言い方が悪いというか……。俺相手に言うのは良いけど、人によっては喧嘩売られてるのかって思うような言葉だからね、それ」
「へーへー、そりゃあ悪ぅござんしたー」
「謝り方に誠意がないなー」
「まぁ、そこも優くんらしいけど」と拓弥が言う。
それを言うなら、そんな適当な謝罪だけで簡単に許せちゃうところが、拓弥らしい気がするなー、とは言っちゃダメかな。
(――本当、驚くほど昔のまんまだ)
まさかこんな再会をする事になるとは思わなかったが、それでもなんというか、もっとこう数年来の壁といのはドデカく自分達の前に阻むものだとばかり思っていた。
それに、
(会わなくなった理由が『理由』だったからなぁ)
また昔のように喋れる日が来るとは思わなかった。――それこそ、まさかの再会と同じぐらいには、まさかで驚きの出来事である。
「そんで?」と優作が焼き鳥を片手に、くいっと顎で俺をさした。
「例のタイムカプセルの方は、どうなんだよ。見つけたんだろ」
「あ。そうだった。忘れてた」
優作に言われ、ぽん、と手を打つ。「忘れてたって……」と拓弥が苦笑する。
「てへぺろ」といつだったか昔に流行った声優の真似をしながら舌を出せば、「きめぇ」と優作が呆れたように笑った。
自分の横の空席に置いていた袋に手をのばす。中には土まみれなままのスコップ、そしてヒーロックのペンケースこと、俺達のタイムカプセルが入っている。
今この場にいる俺達がかつて埋めた、小さな小さなタイムカプセル――。それを取り出す。
「ヒーロックか……。懐かしいね」
俺の手の中にあるペンケースに目を向けながら、拓弥が目を細めた。
「なんだっけ。『喰らえっ、この俺の熱いハート・ビートを! スラッシュ・アサルト!』だっけ?」
「出たー! ドラマー・トゥービートの必殺技! 優作がよくやってたやつ!」
「おいおい、俺だけかよ。お前らだって似たようなもんだったろうが」
「『掻き乱れろっ、グリッサンド・インパクト!』とか、『この激情に貫かれろ、ダーク・シャウトっ』とかよ」と、優作が言葉を続ける。
当時の俺らを真似するかのように、大げさめいた手振り身振り声音でセリフやポーズを披露する優作に、「うひゃーっ!」「あった、あった!」と俺と拓弥の笑い声が、その場にこだまする。
「いやー、意外と覚えてるもんなんだなぁ。もう10何年も前なのにさ」
目尻にたまった涙をぬぐいながら俺が言えば、「まぁ、あれだけ毎日遊んでればね」と拓弥が同じように目尻の涙を拭きながら言った。
「学校から帰ったらすぐに秘密基地に行ったよね。『ランドセルを置いたら、楽器持って集合だーっ!』って」
「楽器つっても、ガキンチョが家にある空き箱とか使って作った、くそダセェやつだったけどな」
「えー。くそダセェって、優作が言うー? お前が1番、自分の作った楽器の出来、自慢してたじゃんかよ」
「毎日毎日、どこで手に入れてきてんのってぐらい、ラップの芯とか持ってきては新しいスティック作りしてさ」と俺が言えば、「うるせっ、若気の至りだ」と優作がケッと唾を吐く真似をした。
「若気って、幼少期に対して使う言葉?」と拓弥が苦笑しながら、ビールを軽く口にする。
「――本当、毎日楽器や音楽の話ばっかりだったよね。あの頃は」
「中学でも高校でも、ずっとさ」そう拓弥がしみじみと言った瞬間、――俺達の間に沈黙に広がった。
拓弥がハッとしたように、「あ、ご、ごめん」と謝った。「何がだよ」と、優作がジョッキに手を伸ばす。そうして広がる沈黙をごまかすかのように、ぐいっ、とそれを煽ぐ。
かつての話をしていれば、どうしても『その話』に繋がってしまう。その事は誰もが予想できていたはずなのに、実際に話題にあがった瞬間、誰もが口を閉ざす。
まるで触れてはいけない禁忌に触れてしまったような、そんな沈黙。それが先刻まで笑いが占めていた筈のその場に、どすんともずーんとも言えるような重たい擬音と共に広がっていく。
「あ、そ、そ~いえばさぁ、」と、空気の重さに耐えきれずに俺は口を開いた。
「2人はさ、秘密基地って誰が言い出しっぺだったか、覚えてるっ?」
「「言い出しっぺ?」」
優作と拓弥がキョトンと目を瞬かせながら、俺を見返してきた。
「そっ。秘密基地、作ろうって最初に言い出したやつっ!」
「いやね、これ掘り出してる時に、そういえば誰だったっけなーってなってさ」とあわあわと言葉を紡ぐ。
とりあえずなんでもいいから、この空気を払拭したい。その思いだけで言葉を紡いでいけば、2人が考え込むような仕草を始める。
「そういや誰だったっけな」と優作が眉間にしわを寄せ、「う~ん」と拓弥が顎をさすりながら首をひねる。
よかった。上手いこと、話が逸れてくれた……。2人にバレないように、ホッと胸をなでおろす。
過去に色々あったとは言え、なんだかんだこうしてまた、昔のような空気で話ができる日が来たのだ。
ならば、それを壊すような事は避けたいというのが、人心? 人情? というやつだろう。
「練習場所が欲しいって言ったのは、確か優くんじゃなかった? ほら、教室でヒーロックごっこやってっと、先生がうるさいからって」
「あー。そういえば、あの頃の優作って、ヒーロックごっこで怒られてる奴らの筆頭! って感じだったもんな」
「あぁ? 俺? んーあー……。確かに言った気もするが、秘密基地を作ろうなんざ言った覚えはねぇぞ」
「えー。じゃあ、誰だよ」
「透じゃねぇの? お前も『いっぱい大声出せる場所が欲しいーっ!』って、よく言ってたろ」
「そりゃあ、言った……、気もするけど。でも、俺が言い出しっぺなら、さすがに覚えているような……」
「あ、そうだ。そういえばあの時ってさ。確か郁也くんが……」
「おい」
――冷たい声が、その場に響いた。
「ソイツの話はやめろ」
ハッキリとした拒絶の言葉が、優作の口から放たれた。
瞬間、消えかけていた気まずい空気が、再び俺達の間に舞い戻ってきた。
先程にも増して、重たい沈黙が俺達の間を埋め尽くす。むろん周囲がそんな俺達の空気に気づくわけがなく、店内は相変わらずの他の客達ガヤ音で賑わっている。俺達自身が静かになっているせいか、今までは全く気にも止めてこなかった酔っぱらいの笑い声や、カチャカチャと空いた食器の片付けられる音、ジュージューと料理の作られる音が、次から次に耳の中に飛び込む。
そんな雑音の中に混じって、うっすらと音楽が聞こえてくる。たぶん、店内のどこかにあるスピーカーからでも流されているのだろう。聞き覚えのあるそれは、確か車か家かのCMに起用された事のあるバンドの楽曲だった筈だ。
澄んだアコースティックギターの旋律が特徴的な楽曲。明るいのに何故か泣きたくなるような、不思議な懐かしさを感じる旋律が耳をつく。
そのメロディーに耳をむけながら思い出す。
かつて俺達と共にいた、もう1人の仲間を。
郁也。新垣郁也――。
俺達のかつての仲間。
共に学生時代を過ごした友で、一緒にこのタイムカプセルを埋めた、あの秘密基地のメンバー。
そして、ただ1人。
俺達3人が諦めてしまった音楽の道を、本気で歩み続ける事を選んだ男の名前である。
「それはこっちもだよ」と拓弥が優作に返した。こっちはまだ一杯目のビールをちょびちょびと飲みながら、もう片方の手を俺の二杯目のビールの注文ついでに頼んだ焼き鳥に伸ばしている。
「まさか優くんも同じタイミングであそこに現れると思わなかったからね。一瞬、我が目を疑ったよ」
「それこそ、こっちのセリフだわ。……まっ、1番びっくりさせられたのは、透だけどな」
「あー……。それは確かに」
「え。俺? なんで?」
キョトン、と2人の言葉に目を丸める。
俺、そんなに驚かせる事したっけ。どっちかというと、俺の方が2人には驚かされた側の筈なんだけど……。
「なんでって……。だって透くん、突然草の中から飛び出してくるんだもん」
「何もいないと思ったところから、急に出てきたらびっくりするじゃないか」と説明を補足してくれた拓弥に、「なるほど!」と手を打つ。言われてみれば確かにそのとおりである。
「草むらに入った瞬間、突然前触れもなしに野生のレア敵とエンカウントする感じだな!」
「うぅん、合っているような、微妙に違うような」
俺の返しに、拓弥が困ったように頬を掻く。
するとそんな俺達のやり取りを見ていた優作が、「まったく」と呆れたように首を横に振った。
「アホな返しするところは、今でも変わんねぇのな。これが小学校の先生だなんて、世も末だぜ。お前、本当に教員試験受かったのか? エセじゃねぇの?」
「しっけいなっ! ちゃんと受かってますぅーっ。それ言うなら、お前がSEだっつー方が信じられねぇからな⁉ んないかつい顔と体で、肉体労働じゃなくってインドア系の職に就いてるとか、意味がわからねぇんですけど!」
「あぁ⁉ 顔は関係ねぇだろうが!」
「顔だけ⁉ 体は⁉」
「2人とも、声荒げすぎ。いくら居酒屋とは言え、ドを外しすぎた騒ぎ方はダメだよ」
「はーい。就職3年目で、デパ地下食品コーナーフロア長に任命されたらしい期待の若手ルーキー」
「はーい。ついでに就職2年目で職場恋愛からの結婚して、今じゃ娘までいる人生完全勝ち組パパー」
「……透くんのはまだ良いとして、優くんは何。俺に、なんか恨みでもあるの?」
「人生完全勝ち組パパって何それ」と拓弥が優作の方をジトりと見る。しかしそんな拓弥の視線もどこ吹く風というように、「出世して結婚もクリアしてガキもいりゃあ、充分人生勝ち組だろ」と優作は肩をすくめるだけだ。
「もう……。透くんが透くんなら、優くんも優くんだよね。昔から口が悪いというか、物の言い方が悪いというか……。俺相手に言うのは良いけど、人によっては喧嘩売られてるのかって思うような言葉だからね、それ」
「へーへー、そりゃあ悪ぅござんしたー」
「謝り方に誠意がないなー」
「まぁ、そこも優くんらしいけど」と拓弥が言う。
それを言うなら、そんな適当な謝罪だけで簡単に許せちゃうところが、拓弥らしい気がするなー、とは言っちゃダメかな。
(――本当、驚くほど昔のまんまだ)
まさかこんな再会をする事になるとは思わなかったが、それでもなんというか、もっとこう数年来の壁といのはドデカく自分達の前に阻むものだとばかり思っていた。
それに、
(会わなくなった理由が『理由』だったからなぁ)
また昔のように喋れる日が来るとは思わなかった。――それこそ、まさかの再会と同じぐらいには、まさかで驚きの出来事である。
「そんで?」と優作が焼き鳥を片手に、くいっと顎で俺をさした。
「例のタイムカプセルの方は、どうなんだよ。見つけたんだろ」
「あ。そうだった。忘れてた」
優作に言われ、ぽん、と手を打つ。「忘れてたって……」と拓弥が苦笑する。
「てへぺろ」といつだったか昔に流行った声優の真似をしながら舌を出せば、「きめぇ」と優作が呆れたように笑った。
自分の横の空席に置いていた袋に手をのばす。中には土まみれなままのスコップ、そしてヒーロックのペンケースこと、俺達のタイムカプセルが入っている。
今この場にいる俺達がかつて埋めた、小さな小さなタイムカプセル――。それを取り出す。
「ヒーロックか……。懐かしいね」
俺の手の中にあるペンケースに目を向けながら、拓弥が目を細めた。
「なんだっけ。『喰らえっ、この俺の熱いハート・ビートを! スラッシュ・アサルト!』だっけ?」
「出たー! ドラマー・トゥービートの必殺技! 優作がよくやってたやつ!」
「おいおい、俺だけかよ。お前らだって似たようなもんだったろうが」
「『掻き乱れろっ、グリッサンド・インパクト!』とか、『この激情に貫かれろ、ダーク・シャウトっ』とかよ」と、優作が言葉を続ける。
当時の俺らを真似するかのように、大げさめいた手振り身振り声音でセリフやポーズを披露する優作に、「うひゃーっ!」「あった、あった!」と俺と拓弥の笑い声が、その場にこだまする。
「いやー、意外と覚えてるもんなんだなぁ。もう10何年も前なのにさ」
目尻にたまった涙をぬぐいながら俺が言えば、「まぁ、あれだけ毎日遊んでればね」と拓弥が同じように目尻の涙を拭きながら言った。
「学校から帰ったらすぐに秘密基地に行ったよね。『ランドセルを置いたら、楽器持って集合だーっ!』って」
「楽器つっても、ガキンチョが家にある空き箱とか使って作った、くそダセェやつだったけどな」
「えー。くそダセェって、優作が言うー? お前が1番、自分の作った楽器の出来、自慢してたじゃんかよ」
「毎日毎日、どこで手に入れてきてんのってぐらい、ラップの芯とか持ってきては新しいスティック作りしてさ」と俺が言えば、「うるせっ、若気の至りだ」と優作がケッと唾を吐く真似をした。
「若気って、幼少期に対して使う言葉?」と拓弥が苦笑しながら、ビールを軽く口にする。
「――本当、毎日楽器や音楽の話ばっかりだったよね。あの頃は」
「中学でも高校でも、ずっとさ」そう拓弥がしみじみと言った瞬間、――俺達の間に沈黙に広がった。
拓弥がハッとしたように、「あ、ご、ごめん」と謝った。「何がだよ」と、優作がジョッキに手を伸ばす。そうして広がる沈黙をごまかすかのように、ぐいっ、とそれを煽ぐ。
かつての話をしていれば、どうしても『その話』に繋がってしまう。その事は誰もが予想できていたはずなのに、実際に話題にあがった瞬間、誰もが口を閉ざす。
まるで触れてはいけない禁忌に触れてしまったような、そんな沈黙。それが先刻まで笑いが占めていた筈のその場に、どすんともずーんとも言えるような重たい擬音と共に広がっていく。
「あ、そ、そ~いえばさぁ、」と、空気の重さに耐えきれずに俺は口を開いた。
「2人はさ、秘密基地って誰が言い出しっぺだったか、覚えてるっ?」
「「言い出しっぺ?」」
優作と拓弥がキョトンと目を瞬かせながら、俺を見返してきた。
「そっ。秘密基地、作ろうって最初に言い出したやつっ!」
「いやね、これ掘り出してる時に、そういえば誰だったっけなーってなってさ」とあわあわと言葉を紡ぐ。
とりあえずなんでもいいから、この空気を払拭したい。その思いだけで言葉を紡いでいけば、2人が考え込むような仕草を始める。
「そういや誰だったっけな」と優作が眉間にしわを寄せ、「う~ん」と拓弥が顎をさすりながら首をひねる。
よかった。上手いこと、話が逸れてくれた……。2人にバレないように、ホッと胸をなでおろす。
過去に色々あったとは言え、なんだかんだこうしてまた、昔のような空気で話ができる日が来たのだ。
ならば、それを壊すような事は避けたいというのが、人心? 人情? というやつだろう。
「練習場所が欲しいって言ったのは、確か優くんじゃなかった? ほら、教室でヒーロックごっこやってっと、先生がうるさいからって」
「あー。そういえば、あの頃の優作って、ヒーロックごっこで怒られてる奴らの筆頭! って感じだったもんな」
「あぁ? 俺? んーあー……。確かに言った気もするが、秘密基地を作ろうなんざ言った覚えはねぇぞ」
「えー。じゃあ、誰だよ」
「透じゃねぇの? お前も『いっぱい大声出せる場所が欲しいーっ!』って、よく言ってたろ」
「そりゃあ、言った……、気もするけど。でも、俺が言い出しっぺなら、さすがに覚えているような……」
「あ、そうだ。そういえばあの時ってさ。確か郁也くんが……」
「おい」
――冷たい声が、その場に響いた。
「ソイツの話はやめろ」
ハッキリとした拒絶の言葉が、優作の口から放たれた。
瞬間、消えかけていた気まずい空気が、再び俺達の間に舞い戻ってきた。
先程にも増して、重たい沈黙が俺達の間を埋め尽くす。むろん周囲がそんな俺達の空気に気づくわけがなく、店内は相変わらずの他の客達ガヤ音で賑わっている。俺達自身が静かになっているせいか、今までは全く気にも止めてこなかった酔っぱらいの笑い声や、カチャカチャと空いた食器の片付けられる音、ジュージューと料理の作られる音が、次から次に耳の中に飛び込む。
そんな雑音の中に混じって、うっすらと音楽が聞こえてくる。たぶん、店内のどこかにあるスピーカーからでも流されているのだろう。聞き覚えのあるそれは、確か車か家かのCMに起用された事のあるバンドの楽曲だった筈だ。
澄んだアコースティックギターの旋律が特徴的な楽曲。明るいのに何故か泣きたくなるような、不思議な懐かしさを感じる旋律が耳をつく。
そのメロディーに耳をむけながら思い出す。
かつて俺達と共にいた、もう1人の仲間を。
郁也。新垣郁也――。
俺達のかつての仲間。
共に学生時代を過ごした友で、一緒にこのタイムカプセルを埋めた、あの秘密基地のメンバー。
そして、ただ1人。
俺達3人が諦めてしまった音楽の道を、本気で歩み続ける事を選んだ男の名前である。
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