11 / 49
2章 空虚と熱
2-5
しおりを挟む
ソイツに連絡を入れたのは、その日の夜も10時を回った辺りでのことだった。
この時間帯に連絡をいれたのは、単純にこの時間ならば連絡を取れる可能性が高いと踏んだからだ。夜の10時なんて、特別な事がない限り、ほとんどの人が1日の用事を済ませきっている時間帯だろう。きっとアイツもそれに当てはまる筈だと、そう考えたのだ。
こないだ交換したばかりの連絡先を使って、相手に電話をかける。
メッセージアプリ独特の、トゥとも、トゥンと、なんとも擬音語に直しづらい、独特なフレーズの呼び出し音が俺の耳元で奏でられる。軽快でどこか頭にこびりつく呼び出し音に、俺の頭が洗脳される前に電話に出てくれと願いながら、相手が出てくるのを待つ。
繋がったのは、繰り返されるフレーズを数え始めて、大体7、8回目ぐらいに到達した時の事だった。
「はい、もしもし?」と、呼び出し音とは180度異なる低く機嫌の悪いその声を耳にした瞬間、俺の口から勢いという名の言葉が飛び出していった。
「やってんじゃん‼‼‼‼」
「あぁ⁉」
「何がだよっ、てかうっせっ」と電話の相手――、優作が苛立った声を返してきた。
「何が、じゃねぇよ! ドラムだよっ‼」
「は……。お前、何言って、」
「何が二度とやるかだ、バーカッ! しっかりやってんじゃねぇかっ‼」
「あんな動画あげやがって!」と続けて怒鳴れば、「な……っ⁉」と優作が驚いたように声をあげた。「なんで、知って……」と気の強い優作にしては珍しく動揺した様子が、電話越しに伝わってくる。
「うちんとこの子どもが見てたんだよ。お前の動画」
「子どもって……、小学生がか? ドラムの演奏動画なんて、子どもが見ても何も面白くねぇだろ」
「はい、本日2回目のバーカッ! お前ね、子どもの貪欲具合、舐めるなよ⁉ あいつら程、自分達の知りたい見たいに素直な奴らは、この世にいねぇよっ」
「今の子にとっちゃ動画サイトなんて遊び場のひとつだし、アメプラだって嗜んでて当然な電子貴族なんだよ!」と感情のままに言葉をぶつければ、「今、アメプラ関係なくね?」と優作がツッコんできた。
「ったく、こんな時間にかけてきやがったから何かと思えば……、くそっ、出るんじゃなかったぜ」
はぁ、と優作がため息をつく。
まぁ、優作の気持ちもわからなくはない。なんせ「やってない」だの「二度とやるか」なんてあんな大見得切った手前、実はやっていましたー、なんて、そんな事言えるわけもないのだ。
俺が優作の立場だったら、バレた瞬間に海にでもなんでも飛び込みに行っていただろう。
穴があったら入りたいってやつだ。
「なんで言わなかったの。やってるって」
「…………言えるかよ。俺達が音楽を辞めた理由、忘れたわけじゃねぇだろ」
ぽつりと呟くように返されたそれに、「うっ」と言葉が詰まった。
腹のド真ん中を力強くパンチされたようなストレートさに、なんとも苦い気持ちに苛まれる。
「それだけじゃねぇよ」と優作が言葉を続けた。ぼふっ、と大きな物音がかぶさるように聞こえる。どうやら、ソファーかベッドか、何か柔らかいところにでも腰をおろしたらしい。
「一度音楽を辞めた奴が、社会人なってもまだなんかやってるなんて――。未練たらたらしいにも程があるだろが」
「だから言えなかった。それだけだ」と、優作が言葉を締めた。
『未練たらたらしい』――覚えのある言葉に、どきりと俺の心臓が跳ね上がった。
「未練たらたらって……。そんなの思うわけ」と思わず口を開く。が、「なかったってか?」と鋭い声で問い返され、「うぐっ」と再び言葉を詰まらせる。
(でもだからって、なんかこう、一言ぐらい言ってくれてもいいじゃんというか、やってるよ、ぐらいのなんかこう気軽な感じに、なんてことない感じに言ってくれりゃあ、こっちだって、それ相応な態度で返せたかもしれないし……)
いやでも、優作の気持ちがわからないわけでもないし、やっぱり自分が優作の立場だったら同じような事をしたかもしれないし、いやでも、やっぱりこっちからしたら何か一言ぐらいって思っちゃうってか……。
あ~っ、言いたい事がまとまらねぇ~~~っ。
言い返す言葉が見つからず、思わず「うぅ~~~~っ」と悔しさで唸る。
と、そんな俺をどう思ったのか、はぁ、と優作がため息をついてきた。
「……で?」
「え」
「そんで? こんな時間にわざわざかけてきて、言いたい事はそれだけか」
「それとも何か? 今になって、未練がましくまた音楽やり出したアホを笑いにでも来たわけか?」と、優作がハッと鼻で嗤った。
ぽかん、とする。開いた口が文字通り閉じなくなってしまう。
(言われてみれば確かにそうだ。俺、なんで優作に電話したんだろう)
一言ぐらい何か言ってくれよ、とそう思ったのは確かだ。でもそれをわざわざ本人にぶつける必要ははたしてあっただろうか。
そもそも優作がドラムをやっていようが、やっていまいが、俺に何があるってわけでもない。俺にはなんにも関係のない話だ。
だというのに、なぜ俺はあんなに激怒したのか。
かけづらい、送りづらいと渋っていた連絡まで取って。
(確か、優作がまだドラムやってるの知って、ドラム叩いてるじゃん! って思って、そしたらなんかこう、ドバーッと一気になんか激情したっていうか)
あぁ、そうだ。『二度とやるもんか』なんて言っておきながら、お前、ドラムやりやがってって思って。
そしたら、なんだかこう裏切られたような気持ちがして。
なんでお前だけって、なんだよって、言ってくれれば俺だって――。
(俺、だって――……?)
はたりと思考がそこで止まった。
今、自分は何を考えた? 俺だって、とそう思ったのか?
俺だって――、一緒にやっていたのにって、
そう、思ったのか?
「……おい?」
優作が、訝しげに声をかけてきた。ずっと返事がない俺を、疑問に思ったらしい。
相変わらずの不機嫌そうな声だが、先刻とは異なり、そこには心配の2文字がしっかりとにじみ出ている。
が、そんな友の態度を気にしている余裕は俺にはなかった。
ぶわっと一気に、抑えきれない何かが腹の底から頭のてっぺんまで、わきあがってきた感覚がしたからだ。
「き……、」
「あ? よく聞こえな、」
「緊急会議ーーーーーーーーーーっ‼」
「あぁ⁉」
「はっ⁉ 緊急会議っ⁉」と、優作がびっくりしたと言わんばかりに声を荒らげた。何を言われたのかまるっきり理解できていないと、その声音が訴えている。
が、やっぱりそんな優作の態度を俺が気にしている余裕はなかった。
こっちも今しがた発覚した自分の考えに、ついていくので精一杯なのだ。
だから、
「緊急会議! 緊急会議の開催を申し立てます‼‼」
勢いのままに、湧き上がってきた激情のままに、言葉を口にする。
言葉ばかりは大人だが、その声音はまるでダダをこねる小さな子どものようなもので、我ながらなんとも言えない羞恥心がわきあがる。
まるで難しい言葉を覚えたばかりの子どもが、それを使いたいがばかりに無意味に連呼する時のような不格好さだ。顔が熱くなるのを感じる。
だが、そんな熱とは違う熱が、ぐわーっ、と自分の中で渦巻いていた。
ぽっかりと空きっぱになっていた胸の穴を焼き埋めるように、熱い熱い何かが自分の全身を包んでいく。
暑くて暑くて、――熱い夏。
忘れていた、忘れようとしていたあの頃の熱が、
またやってくる音が聞こえた気がした。
この時間帯に連絡をいれたのは、単純にこの時間ならば連絡を取れる可能性が高いと踏んだからだ。夜の10時なんて、特別な事がない限り、ほとんどの人が1日の用事を済ませきっている時間帯だろう。きっとアイツもそれに当てはまる筈だと、そう考えたのだ。
こないだ交換したばかりの連絡先を使って、相手に電話をかける。
メッセージアプリ独特の、トゥとも、トゥンと、なんとも擬音語に直しづらい、独特なフレーズの呼び出し音が俺の耳元で奏でられる。軽快でどこか頭にこびりつく呼び出し音に、俺の頭が洗脳される前に電話に出てくれと願いながら、相手が出てくるのを待つ。
繋がったのは、繰り返されるフレーズを数え始めて、大体7、8回目ぐらいに到達した時の事だった。
「はい、もしもし?」と、呼び出し音とは180度異なる低く機嫌の悪いその声を耳にした瞬間、俺の口から勢いという名の言葉が飛び出していった。
「やってんじゃん‼‼‼‼」
「あぁ⁉」
「何がだよっ、てかうっせっ」と電話の相手――、優作が苛立った声を返してきた。
「何が、じゃねぇよ! ドラムだよっ‼」
「は……。お前、何言って、」
「何が二度とやるかだ、バーカッ! しっかりやってんじゃねぇかっ‼」
「あんな動画あげやがって!」と続けて怒鳴れば、「な……っ⁉」と優作が驚いたように声をあげた。「なんで、知って……」と気の強い優作にしては珍しく動揺した様子が、電話越しに伝わってくる。
「うちんとこの子どもが見てたんだよ。お前の動画」
「子どもって……、小学生がか? ドラムの演奏動画なんて、子どもが見ても何も面白くねぇだろ」
「はい、本日2回目のバーカッ! お前ね、子どもの貪欲具合、舐めるなよ⁉ あいつら程、自分達の知りたい見たいに素直な奴らは、この世にいねぇよっ」
「今の子にとっちゃ動画サイトなんて遊び場のひとつだし、アメプラだって嗜んでて当然な電子貴族なんだよ!」と感情のままに言葉をぶつければ、「今、アメプラ関係なくね?」と優作がツッコんできた。
「ったく、こんな時間にかけてきやがったから何かと思えば……、くそっ、出るんじゃなかったぜ」
はぁ、と優作がため息をつく。
まぁ、優作の気持ちもわからなくはない。なんせ「やってない」だの「二度とやるか」なんてあんな大見得切った手前、実はやっていましたー、なんて、そんな事言えるわけもないのだ。
俺が優作の立場だったら、バレた瞬間に海にでもなんでも飛び込みに行っていただろう。
穴があったら入りたいってやつだ。
「なんで言わなかったの。やってるって」
「…………言えるかよ。俺達が音楽を辞めた理由、忘れたわけじゃねぇだろ」
ぽつりと呟くように返されたそれに、「うっ」と言葉が詰まった。
腹のド真ん中を力強くパンチされたようなストレートさに、なんとも苦い気持ちに苛まれる。
「それだけじゃねぇよ」と優作が言葉を続けた。ぼふっ、と大きな物音がかぶさるように聞こえる。どうやら、ソファーかベッドか、何か柔らかいところにでも腰をおろしたらしい。
「一度音楽を辞めた奴が、社会人なってもまだなんかやってるなんて――。未練たらたらしいにも程があるだろが」
「だから言えなかった。それだけだ」と、優作が言葉を締めた。
『未練たらたらしい』――覚えのある言葉に、どきりと俺の心臓が跳ね上がった。
「未練たらたらって……。そんなの思うわけ」と思わず口を開く。が、「なかったってか?」と鋭い声で問い返され、「うぐっ」と再び言葉を詰まらせる。
(でもだからって、なんかこう、一言ぐらい言ってくれてもいいじゃんというか、やってるよ、ぐらいのなんかこう気軽な感じに、なんてことない感じに言ってくれりゃあ、こっちだって、それ相応な態度で返せたかもしれないし……)
いやでも、優作の気持ちがわからないわけでもないし、やっぱり自分が優作の立場だったら同じような事をしたかもしれないし、いやでも、やっぱりこっちからしたら何か一言ぐらいって思っちゃうってか……。
あ~っ、言いたい事がまとまらねぇ~~~っ。
言い返す言葉が見つからず、思わず「うぅ~~~~っ」と悔しさで唸る。
と、そんな俺をどう思ったのか、はぁ、と優作がため息をついてきた。
「……で?」
「え」
「そんで? こんな時間にわざわざかけてきて、言いたい事はそれだけか」
「それとも何か? 今になって、未練がましくまた音楽やり出したアホを笑いにでも来たわけか?」と、優作がハッと鼻で嗤った。
ぽかん、とする。開いた口が文字通り閉じなくなってしまう。
(言われてみれば確かにそうだ。俺、なんで優作に電話したんだろう)
一言ぐらい何か言ってくれよ、とそう思ったのは確かだ。でもそれをわざわざ本人にぶつける必要ははたしてあっただろうか。
そもそも優作がドラムをやっていようが、やっていまいが、俺に何があるってわけでもない。俺にはなんにも関係のない話だ。
だというのに、なぜ俺はあんなに激怒したのか。
かけづらい、送りづらいと渋っていた連絡まで取って。
(確か、優作がまだドラムやってるの知って、ドラム叩いてるじゃん! って思って、そしたらなんかこう、ドバーッと一気になんか激情したっていうか)
あぁ、そうだ。『二度とやるもんか』なんて言っておきながら、お前、ドラムやりやがってって思って。
そしたら、なんだかこう裏切られたような気持ちがして。
なんでお前だけって、なんだよって、言ってくれれば俺だって――。
(俺、だって――……?)
はたりと思考がそこで止まった。
今、自分は何を考えた? 俺だって、とそう思ったのか?
俺だって――、一緒にやっていたのにって、
そう、思ったのか?
「……おい?」
優作が、訝しげに声をかけてきた。ずっと返事がない俺を、疑問に思ったらしい。
相変わらずの不機嫌そうな声だが、先刻とは異なり、そこには心配の2文字がしっかりとにじみ出ている。
が、そんな友の態度を気にしている余裕は俺にはなかった。
ぶわっと一気に、抑えきれない何かが腹の底から頭のてっぺんまで、わきあがってきた感覚がしたからだ。
「き……、」
「あ? よく聞こえな、」
「緊急会議ーーーーーーーーーーっ‼」
「あぁ⁉」
「はっ⁉ 緊急会議っ⁉」と、優作がびっくりしたと言わんばかりに声を荒らげた。何を言われたのかまるっきり理解できていないと、その声音が訴えている。
が、やっぱりそんな優作の態度を俺が気にしている余裕はなかった。
こっちも今しがた発覚した自分の考えに、ついていくので精一杯なのだ。
だから、
「緊急会議! 緊急会議の開催を申し立てます‼‼」
勢いのままに、湧き上がってきた激情のままに、言葉を口にする。
言葉ばかりは大人だが、その声音はまるでダダをこねる小さな子どものようなもので、我ながらなんとも言えない羞恥心がわきあがる。
まるで難しい言葉を覚えたばかりの子どもが、それを使いたいがばかりに無意味に連呼する時のような不格好さだ。顔が熱くなるのを感じる。
だが、そんな熱とは違う熱が、ぐわーっ、と自分の中で渦巻いていた。
ぽっかりと空きっぱになっていた胸の穴を焼き埋めるように、熱い熱い何かが自分の全身を包んでいく。
暑くて暑くて、――熱い夏。
忘れていた、忘れようとしていたあの頃の熱が、
またやってくる音が聞こえた気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる