32 / 49
6章 意味と理由
6-4
しおりを挟む
「釘付けになるって言葉をね、直に体験したって言えばいいのかな。目が離せなかった。演奏や楽曲自体もそうだったし、MCとか、演奏以外も含めてさ、全部において目が離せない。飲まれるんだよ。勢いが――、力があるんだ。こちらを引っ張り込むだけの力が。歌が、演奏が、その存在が、全てでおれ達観客を引っ張ってわかせるんだ。
たった数秒で、一瞬で、イントロが始まった次の瞬間にはもう完全に目の前の彼らの演奏に目や耳を奪われている。そんな……、『力』のあるライブだった」
「でもそれはね、何も彼らだけじゃなかった」と拓弥が説明を続ける。「その日に出てたバンドの誰もが、それだけの力があった」そう言って、苦笑を浮かべる。
「トップで、なんとかお客を盛りあげようと必死でもがいてたおれ達と比べて、どのバンドも皆、そんな必死さなんてのはなかった。誰もが、強く光輝くようなライブをしていて、同じ土台にいる筈なのに全く違う世界で生きてる人達のようだった」
「で、でもそれは、仕方ないんじゃないですか。だって、初めてライブに出たばかりだったんでしょう? そんな最初から全部上手く行くわけないじゃないですか」
「うん、今ならおれもそう思う。でもね、そう言って自分達を慰めるにはね、あの時のおれ達はあんまりにも子どもだったんだ。自分達の音楽でならなんでもできるって、そう思っていただけに、ショックがでかかった。要はね、打ちのめされちゃったんだ。やってく力がないって。この世界で成功するだけの力とか才能とか、そういうのが自分達にはないって、そう気づいちゃったんだ」
「それで……」と拓弥が言葉を続けようとして、そこで止める。
続きを言うべきか、言うまいか。そんな戸惑いの情が、その顔に浮かぶ。
と、
「……俺が言ったんだ」
それまで黙り続けていた優作が、ぽつりと呟くように口を開いた。
「あんな風になんて、なれるわけがねぇって。俺が郁也にそう言ったんだ」
苦々しげにそう言葉を続けた優作に、拓弥が何かを言おうとして、無言で口を噤む。たぶん、何かを言ってやれる程の言葉を持ちあわせていない事に気づいたのだろう。
俺が今、無言で拓弥の話を聞き続ける以外にできる事がないように。拓弥もまた、自分達の過去に投げかけられる言葉がないのだ。
「『練習すりゃあいい』、『場数が足りないだけだ』、『これからだ』って、郁也の奴には色々言われた。そりゃあその通りだと、俺も思ったさ。俺達はまだ始まったばかりで、バンド活動のバの字すら踏み出せてねぇ、学生バンドだ。こうなっても仕方ねぇって。でもよ、そうだとわかっても、それと実際に向き合えるかっつー話はまた別問題だ」
「想像できっか」と優作が言葉を続ける。
そうして自嘲的な、けれどもそれだけではない何か物悲しい陰りを含んだ笑みをその口元に浮かべた。
「ライブも序盤で人も少ねぇライブハウスで、それでもようやっと掴んだ始まりのステージでよ、自信があった筈の自分達の作ったもんが、誰にも見向きして貰えねぇんだぜ? あそこに居た観客は、誰も俺達なんざ見てなかった。名も知らねぇ高校生バンドの楽曲なんかじゃ、誰かの心に響くどころか、その耳にすら届いちゃなかったんだよ」
「そんな光景を前にして、これからもずっとバンドやってける程、俺達は強くなかった。それだけだ」そう言って優作が言葉をしめた。
たかのっぽくんが、戸惑ったように2人を見つめ返す。何か言おうとしてか、口を開くが、しかし小さく開けられただけで、そこから何かが飛びだしてくる事はなかった。
『俺達は強くなかった』――、優作の言葉が俺の頭の中でくり返される。
そう、俺達は強くなかったのだ。
あのライブの光景を前にして。本当に音楽で、バンドで何かを成し遂げようとしている、食っていこうとしている奴らの姿を前にして。その熱意を、本気を、力を目にした俺達は、いかに自分達のやっている音楽が未完成なものであるかを察してしまった。
そして同時に、知ってしまった。
俺達は、あんな風にはなれない。だってそうだろう? もし本当に音楽の道でビッグになってやろうと思えるなら、あんなところで打ちのめされる筈がないのだ。
むしろ、もっとやってやろうと、あんな風になってやろうと、そう思うはず。
そう思えなかったという事は、俺達の中にあったバンドへの熱意は、その程度のものだったという事だ。
(けど、郁也だけは違った)
俺達3人が音楽から離れても、郁也だけは1人、そこに残った。
郁也にはあったのだ。俺達にはない、バンドへの熱意が。絶対に、音楽の道で何かを成し遂げようとする意思が。
だから別れてしまった。俺達と郁也では、バンドに対する思いが異なってしまっていたから――。
(本当は、俺達に郁也を責められる理由なんてないんだ)
どちらかと言えば、俺達が郁也に責められる理由しかない。だって俺達は郁也を裏切った。
ビックになろうと、本物のバンドになろうと、そうかつて誘ってくれた仲間を、俺達は1人、音楽の道に置いてけぼりにしてしまったのだ。
そしてそれなのに今、俺達はバンドをやっている。
一度離れたはずの道から離れられなくって、忘れられなくって……。ただそれだけを理由に、意味もなくバンドをやっている――。
拓弥、優作、たかのっぽくん、そして俺の上に、重たい沈黙が舞い戻ってくる。
先刻とは似て非なる沈黙。でも種類が変わっただけで、居心地の悪さには変わりない。誰もが微妙な顔をして、その場に立ち尽くしてしまう。
しかしいつまでもそうしているわけにもいかない。明日は土日と、世間一般では休みであるが、だからと言って深夜の街にずっとたむろし続けていい理由にはならないだろう。
というか、俺、優作、たかのっぽくんはさておき、拓弥は仕事があるはずだし。
明日の事を考えるなら、早めに家に帰宅して寝なければ仕事に支障が出てしまうだろう。
「とりあえず、ほら。今日はもう遅いし、駅に向かおうぜ」と、俺は3人に声をかけた。
「そうだね」と拓弥が、俺の言葉に弱々しく微笑みながら頷いた。優作も罰が悪そうにそっぽを向きながらも、「おう」と返してくれる。
たかのっぽくんが、相も変わらずの戸惑った表情で俺達を見回した。
だけどそれは、ただ戸惑っているというよりも、どこか俺達全員を心配しているような眼差しにも見えた。
本当に、それでいいのかと、今のこの現状に問いかけてるような彼の目と俺の目があう。
(それでいいのかと言われたら、たぶんよくないよ)
でも、それをどうにかできるほど、俺達の仲はもう元には戻せない。
皆と仲良くしましょうなんて、子どもだって難しいのに。それをこじらせたまま大人になった俺達に、今の現状をどうにかする事なんて多分できやしないのだ。
「ほら、帰ろう」そう言ってたかのっぽくんに背中を向ける。優作と拓弥も先を行こうと再び歩き始める。
「っ、あ、あのっ」
たかのっぽくんが、再び声をあげた。
びっくりして、3人でたかのっぽくんの方へ振り返った。すると俯き、地面を見つめているたかのっぽくんの姿が目についた。先刻、俺達の過去を尋ねてきた時のそれにそっくりな立ち姿だ。
けれど先刻の時よりも、その表情はどこか固かった。
まるで言わなくちゃいけないけれど、言いたくない何かを、どうにかして腹の底から押し出そうとするかのような、そんな緊張の二文字で染まった顔である。
「お、俺……、俺、」
「実は――っ」意を決したかのように、たかのっぽくんが口を開いた時だった。
「お兄ぃっ! やっと見つけたっ!」
――そんな大声が、その場に響き渡った。
「え」「あ?」「へ?」驚愕の声をこぼしたのは、俺、優作、拓弥の3人だった。
たかのっぽくんの方は、無言でその目を見開きながら、声がした方へ顔を向けている。
たかのっぽくんにつられるようにして、俺達3人も声がした方へ顔を向ける。
すると、俺達が向かおうとしていた進行方向、つまりは駅の方へ続く道に、1人の少女が立っていた。
長い長い、艶のある黒髪が特徴的な少女。彼女の頭を照らす街頭の光を受けてキラキラと輝くそれは、髪というよりも一種の宝石のように思える美しさがある。
そんな黒曜石にも似た髪が頭の高い位置で、サイドに別れ結ばれている。いわゆるツインテールというやつだ。どことなく幼い髪型なのだが、それに違和感を抱かないのは彼女の身長が小柄なせいか。それとも身につけているその服が、いわゆるゴスロリファッションと呼ばれるそれで、お姫様のような派手やかさを持っているからなのか。
これだけでも充分に目立つ特徴ではあるのだが……、しかし何よりも一番目を惹かれたのは、その顔立ちだった。
まるで人工的な美しさを全て詰め込まれたかのような、人形のような愛くるしさで満ちた顔。
欠点の二文字を世界の果てにでも置いてきたかのような、感動を通り越して圧倒されんばかりの美が、そこには彩られていた。
ぽかん、と俺、優作、拓弥の3人の口が開いたまま固まる。
先程までのシリアスな空気など、完全にどこかへすっ飛んでいってる。今はただ、目の前に突如として現れた謎の美少女に圧倒されるだけだ。
と、いうか――……。
(お、お兄ぃ……って、今言いましたか、この子)
お兄ぃって、『お兄ちゃん』って事だよ、な? それってつまり、今この場にこの少女の兄にあたる人物がいるという事か?
でも今この場には、俺達4人と目の前の少女以外は誰もいない。父、母、俺の3人家族である俺には、妹なんてものは当然存在しないし、それは拓弥や優作も同じだったはずだ。
幼い頃に何度も2人の実家に出入りしていたが、妹なんて存在と会った事はない。優作には姉が3人いたはずだけど、でもあくまでも姉であって妹ではない。
となると、自然と残るのは――……。
少女がギッと俺達を――、否、正確には、たかのっぽくんを睨みつけた。
その黒髪よりも色素の薄い灰色の瞳が、たかのっぽくんを貫かんとばかりの鋭い視線を、彼に投げつける。
「し、シオリ……っ⁉」
「どうしてここに……」と、たかのっぽくんが困惑した様子で声をあげた。
「「「え」」」と俺、拓弥、優作が再び驚きの声をあげる。先刻と異なり、今度は3人が3人、同じ言葉、同じタイミングで、ぴったりとその声がかぶった。
そうして3人の視線が、揃って少女へ向けられる。
宝石のように輝く黒髪。ド派手な服装、髪型にも負けず劣らずの美しく愛くるしい顔立ち。
そして、たかのっぽくんと同じ灰色の瞳。
それら3点から導き出される答えは――……。
「「「お兄ぃっ⁉」」」
再び声をハモらせながら、俺達3人はたかのっぽくんの方へと顔を向けた。
瞬間、たかのっぽくんが、しまった、というようにその顔を歪ませた。そうして苦々しげな表情でため息をつきながら、片手で覆ったのだった。
たった数秒で、一瞬で、イントロが始まった次の瞬間にはもう完全に目の前の彼らの演奏に目や耳を奪われている。そんな……、『力』のあるライブだった」
「でもそれはね、何も彼らだけじゃなかった」と拓弥が説明を続ける。「その日に出てたバンドの誰もが、それだけの力があった」そう言って、苦笑を浮かべる。
「トップで、なんとかお客を盛りあげようと必死でもがいてたおれ達と比べて、どのバンドも皆、そんな必死さなんてのはなかった。誰もが、強く光輝くようなライブをしていて、同じ土台にいる筈なのに全く違う世界で生きてる人達のようだった」
「で、でもそれは、仕方ないんじゃないですか。だって、初めてライブに出たばかりだったんでしょう? そんな最初から全部上手く行くわけないじゃないですか」
「うん、今ならおれもそう思う。でもね、そう言って自分達を慰めるにはね、あの時のおれ達はあんまりにも子どもだったんだ。自分達の音楽でならなんでもできるって、そう思っていただけに、ショックがでかかった。要はね、打ちのめされちゃったんだ。やってく力がないって。この世界で成功するだけの力とか才能とか、そういうのが自分達にはないって、そう気づいちゃったんだ」
「それで……」と拓弥が言葉を続けようとして、そこで止める。
続きを言うべきか、言うまいか。そんな戸惑いの情が、その顔に浮かぶ。
と、
「……俺が言ったんだ」
それまで黙り続けていた優作が、ぽつりと呟くように口を開いた。
「あんな風になんて、なれるわけがねぇって。俺が郁也にそう言ったんだ」
苦々しげにそう言葉を続けた優作に、拓弥が何かを言おうとして、無言で口を噤む。たぶん、何かを言ってやれる程の言葉を持ちあわせていない事に気づいたのだろう。
俺が今、無言で拓弥の話を聞き続ける以外にできる事がないように。拓弥もまた、自分達の過去に投げかけられる言葉がないのだ。
「『練習すりゃあいい』、『場数が足りないだけだ』、『これからだ』って、郁也の奴には色々言われた。そりゃあその通りだと、俺も思ったさ。俺達はまだ始まったばかりで、バンド活動のバの字すら踏み出せてねぇ、学生バンドだ。こうなっても仕方ねぇって。でもよ、そうだとわかっても、それと実際に向き合えるかっつー話はまた別問題だ」
「想像できっか」と優作が言葉を続ける。
そうして自嘲的な、けれどもそれだけではない何か物悲しい陰りを含んだ笑みをその口元に浮かべた。
「ライブも序盤で人も少ねぇライブハウスで、それでもようやっと掴んだ始まりのステージでよ、自信があった筈の自分達の作ったもんが、誰にも見向きして貰えねぇんだぜ? あそこに居た観客は、誰も俺達なんざ見てなかった。名も知らねぇ高校生バンドの楽曲なんかじゃ、誰かの心に響くどころか、その耳にすら届いちゃなかったんだよ」
「そんな光景を前にして、これからもずっとバンドやってける程、俺達は強くなかった。それだけだ」そう言って優作が言葉をしめた。
たかのっぽくんが、戸惑ったように2人を見つめ返す。何か言おうとしてか、口を開くが、しかし小さく開けられただけで、そこから何かが飛びだしてくる事はなかった。
『俺達は強くなかった』――、優作の言葉が俺の頭の中でくり返される。
そう、俺達は強くなかったのだ。
あのライブの光景を前にして。本当に音楽で、バンドで何かを成し遂げようとしている、食っていこうとしている奴らの姿を前にして。その熱意を、本気を、力を目にした俺達は、いかに自分達のやっている音楽が未完成なものであるかを察してしまった。
そして同時に、知ってしまった。
俺達は、あんな風にはなれない。だってそうだろう? もし本当に音楽の道でビッグになってやろうと思えるなら、あんなところで打ちのめされる筈がないのだ。
むしろ、もっとやってやろうと、あんな風になってやろうと、そう思うはず。
そう思えなかったという事は、俺達の中にあったバンドへの熱意は、その程度のものだったという事だ。
(けど、郁也だけは違った)
俺達3人が音楽から離れても、郁也だけは1人、そこに残った。
郁也にはあったのだ。俺達にはない、バンドへの熱意が。絶対に、音楽の道で何かを成し遂げようとする意思が。
だから別れてしまった。俺達と郁也では、バンドに対する思いが異なってしまっていたから――。
(本当は、俺達に郁也を責められる理由なんてないんだ)
どちらかと言えば、俺達が郁也に責められる理由しかない。だって俺達は郁也を裏切った。
ビックになろうと、本物のバンドになろうと、そうかつて誘ってくれた仲間を、俺達は1人、音楽の道に置いてけぼりにしてしまったのだ。
そしてそれなのに今、俺達はバンドをやっている。
一度離れたはずの道から離れられなくって、忘れられなくって……。ただそれだけを理由に、意味もなくバンドをやっている――。
拓弥、優作、たかのっぽくん、そして俺の上に、重たい沈黙が舞い戻ってくる。
先刻とは似て非なる沈黙。でも種類が変わっただけで、居心地の悪さには変わりない。誰もが微妙な顔をして、その場に立ち尽くしてしまう。
しかしいつまでもそうしているわけにもいかない。明日は土日と、世間一般では休みであるが、だからと言って深夜の街にずっとたむろし続けていい理由にはならないだろう。
というか、俺、優作、たかのっぽくんはさておき、拓弥は仕事があるはずだし。
明日の事を考えるなら、早めに家に帰宅して寝なければ仕事に支障が出てしまうだろう。
「とりあえず、ほら。今日はもう遅いし、駅に向かおうぜ」と、俺は3人に声をかけた。
「そうだね」と拓弥が、俺の言葉に弱々しく微笑みながら頷いた。優作も罰が悪そうにそっぽを向きながらも、「おう」と返してくれる。
たかのっぽくんが、相も変わらずの戸惑った表情で俺達を見回した。
だけどそれは、ただ戸惑っているというよりも、どこか俺達全員を心配しているような眼差しにも見えた。
本当に、それでいいのかと、今のこの現状に問いかけてるような彼の目と俺の目があう。
(それでいいのかと言われたら、たぶんよくないよ)
でも、それをどうにかできるほど、俺達の仲はもう元には戻せない。
皆と仲良くしましょうなんて、子どもだって難しいのに。それをこじらせたまま大人になった俺達に、今の現状をどうにかする事なんて多分できやしないのだ。
「ほら、帰ろう」そう言ってたかのっぽくんに背中を向ける。優作と拓弥も先を行こうと再び歩き始める。
「っ、あ、あのっ」
たかのっぽくんが、再び声をあげた。
びっくりして、3人でたかのっぽくんの方へ振り返った。すると俯き、地面を見つめているたかのっぽくんの姿が目についた。先刻、俺達の過去を尋ねてきた時のそれにそっくりな立ち姿だ。
けれど先刻の時よりも、その表情はどこか固かった。
まるで言わなくちゃいけないけれど、言いたくない何かを、どうにかして腹の底から押し出そうとするかのような、そんな緊張の二文字で染まった顔である。
「お、俺……、俺、」
「実は――っ」意を決したかのように、たかのっぽくんが口を開いた時だった。
「お兄ぃっ! やっと見つけたっ!」
――そんな大声が、その場に響き渡った。
「え」「あ?」「へ?」驚愕の声をこぼしたのは、俺、優作、拓弥の3人だった。
たかのっぽくんの方は、無言でその目を見開きながら、声がした方へ顔を向けている。
たかのっぽくんにつられるようにして、俺達3人も声がした方へ顔を向ける。
すると、俺達が向かおうとしていた進行方向、つまりは駅の方へ続く道に、1人の少女が立っていた。
長い長い、艶のある黒髪が特徴的な少女。彼女の頭を照らす街頭の光を受けてキラキラと輝くそれは、髪というよりも一種の宝石のように思える美しさがある。
そんな黒曜石にも似た髪が頭の高い位置で、サイドに別れ結ばれている。いわゆるツインテールというやつだ。どことなく幼い髪型なのだが、それに違和感を抱かないのは彼女の身長が小柄なせいか。それとも身につけているその服が、いわゆるゴスロリファッションと呼ばれるそれで、お姫様のような派手やかさを持っているからなのか。
これだけでも充分に目立つ特徴ではあるのだが……、しかし何よりも一番目を惹かれたのは、その顔立ちだった。
まるで人工的な美しさを全て詰め込まれたかのような、人形のような愛くるしさで満ちた顔。
欠点の二文字を世界の果てにでも置いてきたかのような、感動を通り越して圧倒されんばかりの美が、そこには彩られていた。
ぽかん、と俺、優作、拓弥の3人の口が開いたまま固まる。
先程までのシリアスな空気など、完全にどこかへすっ飛んでいってる。今はただ、目の前に突如として現れた謎の美少女に圧倒されるだけだ。
と、いうか――……。
(お、お兄ぃ……って、今言いましたか、この子)
お兄ぃって、『お兄ちゃん』って事だよ、な? それってつまり、今この場にこの少女の兄にあたる人物がいるという事か?
でも今この場には、俺達4人と目の前の少女以外は誰もいない。父、母、俺の3人家族である俺には、妹なんてものは当然存在しないし、それは拓弥や優作も同じだったはずだ。
幼い頃に何度も2人の実家に出入りしていたが、妹なんて存在と会った事はない。優作には姉が3人いたはずだけど、でもあくまでも姉であって妹ではない。
となると、自然と残るのは――……。
少女がギッと俺達を――、否、正確には、たかのっぽくんを睨みつけた。
その黒髪よりも色素の薄い灰色の瞳が、たかのっぽくんを貫かんとばかりの鋭い視線を、彼に投げつける。
「し、シオリ……っ⁉」
「どうしてここに……」と、たかのっぽくんが困惑した様子で声をあげた。
「「「え」」」と俺、拓弥、優作が再び驚きの声をあげる。先刻と異なり、今度は3人が3人、同じ言葉、同じタイミングで、ぴったりとその声がかぶった。
そうして3人の視線が、揃って少女へ向けられる。
宝石のように輝く黒髪。ド派手な服装、髪型にも負けず劣らずの美しく愛くるしい顔立ち。
そして、たかのっぽくんと同じ灰色の瞳。
それら3点から導き出される答えは――……。
「「「お兄ぃっ⁉」」」
再び声をハモらせながら、俺達3人はたかのっぽくんの方へと顔を向けた。
瞬間、たかのっぽくんが、しまった、というようにその顔を歪ませた。そうして苦々しげな表情でため息をつきながら、片手で覆ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる