7 / 82
1章 妹と兄と自主制作
1-3
しおりを挟む
「実績にしてぇって言うんなら、うちみたいなデビューする気もねぇ、売れる気もねぇ、ただの社会人の集まりでしかねぇようなバンドよりも、もっと他んとこのMVを作った方が実績になんだろ。それこそ、SNSなんかで募集の声をあげたり、そういうの募集してる奴らに声をかけた方が、もっと実績らしい実績になるだろ」
「……そういえば、確かにそうですね」
優作の意見に、たかのっぽくんが考え込むように顎に手を当てた。その髪色とお揃いの細い眉の間に、険しいしわが寄せられる。どうやら、優作にツッコまれるまで、その考えには気づきもしなかったみたいだ。
(けど、言われてみれば確かに、優作の言う通りだ。なんでうちなんだろう?)
こういうのもなんだけど、うちのバンドは方針的には、上を目指すつもりもなければバンドとして成功する気もないという、言ってしまえばないないづくしなバンドである。
こんなやる気のないバンドに頼むよりは、もっとしっかりした体勢が整ってるバンドに頼んだ方がいいお話なんじゃないか、これって。
「でもさ、なんにせよ、いい機会なのは確かなんじゃない?」
ぱんっと、場の雰囲気を変えるように拓弥が軽く手を叩いた。
「MVを作ってもらうってなったら多分アニメタイプのMVを作ってもらう事になるわけでしょ? それって、結構うちとしてはありがたい話じゃない? ほら、顔出しできない人も居るには居るわけだし。アニメMVなら、そういう問題気にしないで動画投稿できるじゃない」
「ね」と、拓弥が爽やかな笑みと共に俺の方へ顔を向けてくる。
うっ、確かに。顔出しできないのは俺ですね。すみませんね、教職でボーカルなんてややこしい立場で。
疑問が残らないわけではないが、拓弥の言う事はごもっともだ。
正直な話、顔出しせずに動画投稿ができるというなら、うちのバンドにとってはこれ以上ありがたい話はない。
そりゃあ、あげてる動画は皆、再生回数が低いですし?
投稿先の動画サイトのミュージックチャートにすら乗らないようなものばかりですけど??
それでも、世はネットが小学校の授業にすら取り入れられるネット時代なのだ。
一体いつ、どこで旧友や同僚にバンドの動画を見られるか、わかりゃあしない。用心できるならするに越した事はないだろう。
(それに俺の事を抜きにしても、MVを作るってところが、これまたテンションがあがる話よね!)
しかもアニメーション! 自分達が演奏して歌った曲に、アニメがつくのだ。これで興奮するなという方が難しい話である。
是が非でも、いやむしろこちらが頭をさげてお願いしたいぐらいの話だ。
「おれとしては、その話ぜひ受けさせて貰いたいなぁって思うんだけど」と言葉を続ける拓弥に、「俺も俺もー!」と手をあげながら答える。
賛成2の反対1。
劣勢状態の優作が、「ぐぅ」と唸るような声をあげた。
いつの時代も、数が多い方が有利なのは定めなのである。多数決、万歳。
「いや、別に俺だって反対ってわけじゃねぇわっ。疑問に思った事があったから、ツッコんだだけだっつーのっ」
「えー? 本当かなぁ。優作、すぐに相手の意見曲解して見るとこあるからな~」
「よし、透。その面今すぐ貸せ。アニメーションなんざなくても、顔バレしないように整形してやる」
「ほら、そういうとこーっ。すぐに暴力に走るところが、ゴリラたる所以でしてよーっ」
「日頃の行いだっつーの!」と立ち上がって、優作から距離を取る。「んだとゴラッ」と優作も立ち上がって、逃げた俺を追いかけ始める。
「だから暴れないっ」と、拓弥が呆れたように俺達のさまを叱った。そんな俺達の様子に、たかのっぽくんが困りつつも、どこか慣れたような感じにも見える苦笑をした。
ひとまず、これ以上の話はたかのっぽくんの妹ちゃんも交えないと難しいだろうという事で、MV制作に関する話はここで一旦終了した。
妹ちゃんには、練習後にでもたかのっぽくんの方から連絡をいれておいてくれるとの事だった。今後、本格的にMVの制作をしてもらう事になれば、俺達と彼女で直接打ち合わせをする可能性も出てくるだろう。が、なんにせよまずは、俺達から制作の許可が出た事を妹ちゃんに伝える必要がある。
打ち合わせも実際の制作も、全てはその後だ。
(にしても、MVかぁ。まさか、そういうものを作れるような日が来るとは、思いもしなかったぜ)
一体どんなものになるのか。今からワクワクが止まらない。
スタジオに入った時の憂鬱さはどこへやら、ウキウキわくわく、ランランランと、文字通り踊るような心地で胸がいっぱいだ。
残った時間でいつも通りバンドの練習を行った後、スタジオを出る。
時間が経っても、胸の内のわくわくは消えてなくならなかった。思わず駅までの道を、適当に鼻歌を歌いながらスキップすれば「遠足前のガキかよ」と優作にツッコまれたが、今回ばかりは許してやった。
へへん。俺の喜びモード全開、完全無敵鉄壁ハートに感謝するんだな!
――だが、この時の俺は知らなかった。
このMV制作の話が、今回最初の騒動になるなんて。
フンフンと鼻を鳴らしながら、人気が少ない深夜の道を仲間達と共に歩く呑気な大人は、1ミリだって想像してやいなかったのだった。
「……そういえば、確かにそうですね」
優作の意見に、たかのっぽくんが考え込むように顎に手を当てた。その髪色とお揃いの細い眉の間に、険しいしわが寄せられる。どうやら、優作にツッコまれるまで、その考えには気づきもしなかったみたいだ。
(けど、言われてみれば確かに、優作の言う通りだ。なんでうちなんだろう?)
こういうのもなんだけど、うちのバンドは方針的には、上を目指すつもりもなければバンドとして成功する気もないという、言ってしまえばないないづくしなバンドである。
こんなやる気のないバンドに頼むよりは、もっとしっかりした体勢が整ってるバンドに頼んだ方がいいお話なんじゃないか、これって。
「でもさ、なんにせよ、いい機会なのは確かなんじゃない?」
ぱんっと、場の雰囲気を変えるように拓弥が軽く手を叩いた。
「MVを作ってもらうってなったら多分アニメタイプのMVを作ってもらう事になるわけでしょ? それって、結構うちとしてはありがたい話じゃない? ほら、顔出しできない人も居るには居るわけだし。アニメMVなら、そういう問題気にしないで動画投稿できるじゃない」
「ね」と、拓弥が爽やかな笑みと共に俺の方へ顔を向けてくる。
うっ、確かに。顔出しできないのは俺ですね。すみませんね、教職でボーカルなんてややこしい立場で。
疑問が残らないわけではないが、拓弥の言う事はごもっともだ。
正直な話、顔出しせずに動画投稿ができるというなら、うちのバンドにとってはこれ以上ありがたい話はない。
そりゃあ、あげてる動画は皆、再生回数が低いですし?
投稿先の動画サイトのミュージックチャートにすら乗らないようなものばかりですけど??
それでも、世はネットが小学校の授業にすら取り入れられるネット時代なのだ。
一体いつ、どこで旧友や同僚にバンドの動画を見られるか、わかりゃあしない。用心できるならするに越した事はないだろう。
(それに俺の事を抜きにしても、MVを作るってところが、これまたテンションがあがる話よね!)
しかもアニメーション! 自分達が演奏して歌った曲に、アニメがつくのだ。これで興奮するなという方が難しい話である。
是が非でも、いやむしろこちらが頭をさげてお願いしたいぐらいの話だ。
「おれとしては、その話ぜひ受けさせて貰いたいなぁって思うんだけど」と言葉を続ける拓弥に、「俺も俺もー!」と手をあげながら答える。
賛成2の反対1。
劣勢状態の優作が、「ぐぅ」と唸るような声をあげた。
いつの時代も、数が多い方が有利なのは定めなのである。多数決、万歳。
「いや、別に俺だって反対ってわけじゃねぇわっ。疑問に思った事があったから、ツッコんだだけだっつーのっ」
「えー? 本当かなぁ。優作、すぐに相手の意見曲解して見るとこあるからな~」
「よし、透。その面今すぐ貸せ。アニメーションなんざなくても、顔バレしないように整形してやる」
「ほら、そういうとこーっ。すぐに暴力に走るところが、ゴリラたる所以でしてよーっ」
「日頃の行いだっつーの!」と立ち上がって、優作から距離を取る。「んだとゴラッ」と優作も立ち上がって、逃げた俺を追いかけ始める。
「だから暴れないっ」と、拓弥が呆れたように俺達のさまを叱った。そんな俺達の様子に、たかのっぽくんが困りつつも、どこか慣れたような感じにも見える苦笑をした。
ひとまず、これ以上の話はたかのっぽくんの妹ちゃんも交えないと難しいだろうという事で、MV制作に関する話はここで一旦終了した。
妹ちゃんには、練習後にでもたかのっぽくんの方から連絡をいれておいてくれるとの事だった。今後、本格的にMVの制作をしてもらう事になれば、俺達と彼女で直接打ち合わせをする可能性も出てくるだろう。が、なんにせよまずは、俺達から制作の許可が出た事を妹ちゃんに伝える必要がある。
打ち合わせも実際の制作も、全てはその後だ。
(にしても、MVかぁ。まさか、そういうものを作れるような日が来るとは、思いもしなかったぜ)
一体どんなものになるのか。今からワクワクが止まらない。
スタジオに入った時の憂鬱さはどこへやら、ウキウキわくわく、ランランランと、文字通り踊るような心地で胸がいっぱいだ。
残った時間でいつも通りバンドの練習を行った後、スタジオを出る。
時間が経っても、胸の内のわくわくは消えてなくならなかった。思わず駅までの道を、適当に鼻歌を歌いながらスキップすれば「遠足前のガキかよ」と優作にツッコまれたが、今回ばかりは許してやった。
へへん。俺の喜びモード全開、完全無敵鉄壁ハートに感謝するんだな!
――だが、この時の俺は知らなかった。
このMV制作の話が、今回最初の騒動になるなんて。
フンフンと鼻を鳴らしながら、人気が少ない深夜の道を仲間達と共に歩く呑気な大人は、1ミリだって想像してやいなかったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる