Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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1章 妹と兄と自主制作

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「実績にしてぇって言うんなら、うちみたいなデビューする気もねぇ、売れる気もねぇ、ただの社会人の集まりでしかねぇようなバンドよりも、もっと他んとこのMVを作った方が実績になんだろ。それこそ、SNSなんかで募集の声をあげたり、そういうの募集してる奴らに声をかけた方が、もっと実績らしい実績になるだろ」
「……そういえば、確かにそうですね」

 優作の意見に、たかのっぽくんが考え込むように顎に手を当てた。その髪色とお揃いの細い眉の間に、険しいしわが寄せられる。どうやら、優作にツッコまれるまで、その考えには気づきもしなかったみたいだ。

(けど、言われてみれば確かに、優作の言う通りだ。なんでうちなんだろう?)

 こういうのもなんだけど、うちのバンドは方針的には、上を目指すつもりもなければバンドとして成功する気もないという、言ってしまえばないないづくしなバンドである。

 こんなやる気のないバンドに頼むよりは、もっとしっかりした体勢が整ってるバンドに頼んだ方がいいお話なんじゃないか、これって。

「でもさ、なんにせよ、いい機会なのは確かなんじゃない?」

 ぱんっと、場の雰囲気を変えるように拓弥が軽く手を叩いた。

「MVを作ってもらうってなったら多分アニメタイプのMVを作ってもらう事になるわけでしょ? それって、結構うちとしてはありがたい話じゃない? ほら、顔出しできない人も居るには居るわけだし。アニメMVなら、そういう問題気にしないで動画投稿できるじゃない」

「ね」と、拓弥が爽やかな笑みと共に俺の方へ顔を向けてくる。

 うっ、確かに。顔出しできないのは俺ですね。すみませんね、教職でボーカルなんてややこしい立場で。

 疑問が残らないわけではないが、拓弥の言う事はごもっともだ。
 正直な話、顔出しせずに動画投稿ができるというなら、うちのバンドにとってはこれ以上ありがたい話はない。

 そりゃあ、あげてる動画は皆、再生回数が低いですし?
 投稿先の動画サイトのミュージックチャートにすら乗らないようなものばかりですけど??
 それでも、世はネットが小学校の授業にすら取り入れられるネット時代なのだ。

 一体いつ、どこで旧友や同僚にバンドの動画を見られるか、わかりゃあしない。用心できるならするに越した事はないだろう。

(それに俺の事を抜きにしても、MVを作るってところが、これまたテンションがあがる話よね!)

 しかもアニメーション! 自分達が演奏して歌った曲に、アニメがつくのだ。これで興奮するなという方が難しい話である。

 是が非でも、いやむしろこちらが頭をさげてお願いしたいぐらいの話だ。

「おれとしては、その話ぜひ受けさせて貰いたいなぁって思うんだけど」と言葉を続ける拓弥に、「俺も俺もー!」と手をあげながら答える。

 賛成2の反対1。
 劣勢状態の優作が、「ぐぅ」と唸るような声をあげた。

 いつの時代も、数が多い方が有利なのは定めなのである。多数決、万歳。

「いや、別に俺だって反対ってわけじゃねぇわっ。疑問に思った事があったから、ツッコんだだけだっつーのっ」
「えー? 本当かなぁ。優作、すぐに相手の意見曲解して見るとこあるからな~」
「よし、透。その面今すぐ貸せ。アニメーションなんざなくても、顔バレしないように整形してやる」
「ほら、そういうとこーっ。すぐに暴力に走るところが、ゴリラたる所以でしてよーっ」

「日頃の行いだっつーの!」と立ち上がって、優作から距離を取る。「んだとゴラッ」と優作も立ち上がって、逃げた俺を追いかけ始める。

「だから暴れないっ」と、拓弥が呆れたように俺達のさまを叱った。そんな俺達の様子に、たかのっぽくんが困りつつも、どこか慣れたような感じにも見える苦笑をした。

 ひとまず、これ以上の話はたかのっぽくんの妹ちゃんも交えないと難しいだろうという事で、MV制作に関する話はここで一旦終了した。

 妹ちゃんには、練習後にでもたかのっぽくんの方から連絡をいれておいてくれるとの事だった。今後、本格的にMVの制作をしてもらう事になれば、俺達と彼女で直接打ち合わせをする可能性も出てくるだろう。が、なんにせよまずは、俺達から制作の許可が出た事を妹ちゃんに伝える必要がある。

 打ち合わせも実際の制作も、全てはその後だ。

(にしても、MVかぁ。まさか、そういうものを作れるような日が来るとは、思いもしなかったぜ)

 一体どんなものになるのか。今からワクワクが止まらない。
 スタジオに入った時の憂鬱さはどこへやら、ウキウキわくわく、ランランランと、文字通り踊るような心地で胸がいっぱいだ。

 残った時間でいつも通りバンドの練習を行った後、スタジオを出る。

 時間が経っても、胸の内のわくわくは消えてなくならなかった。思わず駅までの道を、適当に鼻歌を歌いながらスキップすれば「遠足前のガキかよ」と優作にツッコまれたが、今回ばかりは許してやった。
 へへん。俺の喜びモード全開、完全無敵鉄壁ハートに感謝するんだな!

 ――だが、この時の俺は知らなかった。

 このMV制作の話が、なんて。

 フンフンと鼻を鳴らしながら、人気が少ない深夜の道を仲間達と共に歩く呑気な大人は、1ミリだって想像してやいなかったのだった。
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