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1章 妹と兄と自主制作
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視界の端で、優作がムッと唇を尖らせたのが目についた。どうやら、困惑を通り越して怒りに感情がシフトチェンジしかかっているらしい。
とはいえ、相手がたかのっぽくんの妹とあっては、さすがの短気ゴリラな優作でっても怒るに怒りきれないようだ。その証拠に、唇は尖らせても、それを開こうとする気配はない。こいつなりに、頑張って怒りを抑え込んでいるのが見て取れる。
こいつ、身内には甘いところあるからなぁ。
実際、俺達大人組の中で1番たかのっぽくんを可愛がってるのって、たぶん優作だし。
リズム隊――楽曲のリズムやビートを刻んでくれる奴らの総称。主にベースとドラムのこと――同士、仲良くしやすいんだろうけど、それにしたって、たかのっぽくんをバンドにいれるのを渋っていた頃の面影はどこへ行ったのやらって話だぜ。
けど、優作の性格上、この我慢も長くは続かないだろう。
ちらりと拓弥を見れば、拓弥も優作の様子には気付いていたらしく、わかっているとでも言いたげに、俺の方へ目だけを向けてきた。
なるべく早く話を切り上げて終わらせよう、そう目で訴えてきた拓弥に、ラジャー、と俺も目だけで返した。
「大丈夫です。お願いします」
拓弥がシオリちゃんに言葉を返す。
「それでは」と、シオリちゃんが拓弥の言葉に頷いた後、自身の膝の上に置いていた鞄を開いた。
分厚い書籍のようなデザインの黒い鞄。その中から、小さな黒いメモ帳と赤色の3色ボールペンが取り出される。どうやら、俺達に聞いた話を忘れないようにメモをしておくつもりらしい。
「先も話した通りですが、今回制作するMVは、私のポートフォリオ制作に活用させてもらうつもりでいます。ですので、MVの方はアニメーションで作りたいと考えています。それについては問題ありませんか」
「はい、大丈夫です」
「こちらの自主課題に付きあっていただく形になりますので、依頼費や制作費を貰う予定はありません。ただ、ポートフォリオに使う関係から、クレジットに私の名前の掲載はさせていただきたく思っています。また、皆さんのバンド名もポートフォリオ内に掲載させていただきたいのですが、こちらについても問題はありませんか」
「問題はありません」
「納期は大体このぐらいで」「MVの投稿先は」「使用する楽曲は」等々、シオリちゃんから次々と確認事項が投げられ、その度に拓弥がシンプルな答えを返していく。
ぽんぽんとリズミカルに進むやり取りに、ホッと胸を撫でおろす。
事前に聞きたい事というから、一体どんな事を聞かれるのかと思ったけど、どうやら本当に簡単な確認事項みたいだ。制作を行っていく上で、最低限必要な情報を改めてすり合わせをしていくって感じ。
まるで遠足前の持ち物確認みたいだ。鞄の中にいれていた荷物を、1つ1つしおりを見ながら確認していくやつ。事前確認って大事。
……まぁ、それをやっても、それでも当日には何かしら忘れる子ってのはなぜか一定数いるのが現実なんですが。
事前確認は、しっかりちゃんと、1つ1つじっくり確認しながら行いましょう。切実に。
(なんにせよ、この調子なら、そう時間はかからずに話を切り上げる事ができそうだな)
よかった、と思わずホッと胸をなでおろす。
今後のやり取りへの不安は残るが、とにもかくにも、今はこの短気ゴリラがキレないように最善を尽くすのが優先だろう。
今後の事はまたあとにでも考え――、
「ではMVを制作する上での指針にしたいので、楽曲のテーマなどについてお伺いしたいんですが」
「「「え」」」
ぴたりと、続いていた質疑応答が止まった。
(今、なんと言いました――?)
楽曲のテーマ、ですと……? 予想外の質問に、大人達3人の口から一斉に間抜けな声が飛び出したのをきっかけに、場に微妙な空気が流れ出す。
「テ、テーマですか」と、拓弥が困ったように口にした。それから、ちらりと俺の方に視線を投げてくる。
真反対からも、優作が視線を投げてくる。たかのっぽくんの方からも、戸惑ったような視線が向けられる。
それらの視線が、1つの問いを俺に向けている事は、簡単に見て取れた。
いわく、楽曲のテーマって何、と――。
(マ、マズいっ)
瞬間、ドバッ‼ と大量の冷や汗が俺の心中で流れた。
いや、そうだよなっ。普通に考えて楽曲のテーマって言ったらインストソングとか、特殊かつ難しい音作りを意識しているような曲じゃない限り、歌詞に詰め込んであるのが普通ですよね⁉
ともなりゃあ、作詞担当の俺がそれを考えて、歌詞に入れてるはずだもんね!
そりゃあ、皆、俺の方を見てきますわなっ! 俺にしかわからない質問だもんねっ‼
だもんね……、なん、だけど――……。
(テ、テーマって、なんだ????)
がむしゃらに勢いで書いたせいで、そんな深いことまで考えてなかったーーーーーーーーーーっ!!!!
とはいえ、相手がたかのっぽくんの妹とあっては、さすがの短気ゴリラな優作でっても怒るに怒りきれないようだ。その証拠に、唇は尖らせても、それを開こうとする気配はない。こいつなりに、頑張って怒りを抑え込んでいるのが見て取れる。
こいつ、身内には甘いところあるからなぁ。
実際、俺達大人組の中で1番たかのっぽくんを可愛がってるのって、たぶん優作だし。
リズム隊――楽曲のリズムやビートを刻んでくれる奴らの総称。主にベースとドラムのこと――同士、仲良くしやすいんだろうけど、それにしたって、たかのっぽくんをバンドにいれるのを渋っていた頃の面影はどこへ行ったのやらって話だぜ。
けど、優作の性格上、この我慢も長くは続かないだろう。
ちらりと拓弥を見れば、拓弥も優作の様子には気付いていたらしく、わかっているとでも言いたげに、俺の方へ目だけを向けてきた。
なるべく早く話を切り上げて終わらせよう、そう目で訴えてきた拓弥に、ラジャー、と俺も目だけで返した。
「大丈夫です。お願いします」
拓弥がシオリちゃんに言葉を返す。
「それでは」と、シオリちゃんが拓弥の言葉に頷いた後、自身の膝の上に置いていた鞄を開いた。
分厚い書籍のようなデザインの黒い鞄。その中から、小さな黒いメモ帳と赤色の3色ボールペンが取り出される。どうやら、俺達に聞いた話を忘れないようにメモをしておくつもりらしい。
「先も話した通りですが、今回制作するMVは、私のポートフォリオ制作に活用させてもらうつもりでいます。ですので、MVの方はアニメーションで作りたいと考えています。それについては問題ありませんか」
「はい、大丈夫です」
「こちらの自主課題に付きあっていただく形になりますので、依頼費や制作費を貰う予定はありません。ただ、ポートフォリオに使う関係から、クレジットに私の名前の掲載はさせていただきたく思っています。また、皆さんのバンド名もポートフォリオ内に掲載させていただきたいのですが、こちらについても問題はありませんか」
「問題はありません」
「納期は大体このぐらいで」「MVの投稿先は」「使用する楽曲は」等々、シオリちゃんから次々と確認事項が投げられ、その度に拓弥がシンプルな答えを返していく。
ぽんぽんとリズミカルに進むやり取りに、ホッと胸を撫でおろす。
事前に聞きたい事というから、一体どんな事を聞かれるのかと思ったけど、どうやら本当に簡単な確認事項みたいだ。制作を行っていく上で、最低限必要な情報を改めてすり合わせをしていくって感じ。
まるで遠足前の持ち物確認みたいだ。鞄の中にいれていた荷物を、1つ1つしおりを見ながら確認していくやつ。事前確認って大事。
……まぁ、それをやっても、それでも当日には何かしら忘れる子ってのはなぜか一定数いるのが現実なんですが。
事前確認は、しっかりちゃんと、1つ1つじっくり確認しながら行いましょう。切実に。
(なんにせよ、この調子なら、そう時間はかからずに話を切り上げる事ができそうだな)
よかった、と思わずホッと胸をなでおろす。
今後のやり取りへの不安は残るが、とにもかくにも、今はこの短気ゴリラがキレないように最善を尽くすのが優先だろう。
今後の事はまたあとにでも考え――、
「ではMVを制作する上での指針にしたいので、楽曲のテーマなどについてお伺いしたいんですが」
「「「え」」」
ぴたりと、続いていた質疑応答が止まった。
(今、なんと言いました――?)
楽曲のテーマ、ですと……? 予想外の質問に、大人達3人の口から一斉に間抜けな声が飛び出したのをきっかけに、場に微妙な空気が流れ出す。
「テ、テーマですか」と、拓弥が困ったように口にした。それから、ちらりと俺の方に視線を投げてくる。
真反対からも、優作が視線を投げてくる。たかのっぽくんの方からも、戸惑ったような視線が向けられる。
それらの視線が、1つの問いを俺に向けている事は、簡単に見て取れた。
いわく、楽曲のテーマって何、と――。
(マ、マズいっ)
瞬間、ドバッ‼ と大量の冷や汗が俺の心中で流れた。
いや、そうだよなっ。普通に考えて楽曲のテーマって言ったらインストソングとか、特殊かつ難しい音作りを意識しているような曲じゃない限り、歌詞に詰め込んであるのが普通ですよね⁉
ともなりゃあ、作詞担当の俺がそれを考えて、歌詞に入れてるはずだもんね!
そりゃあ、皆、俺の方を見てきますわなっ! 俺にしかわからない質問だもんねっ‼
だもんね……、なん、だけど――……。
(テ、テーマって、なんだ????)
がむしゃらに勢いで書いたせいで、そんな深いことまで考えてなかったーーーーーーーーーーっ!!!!
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