Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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1章 妹と兄と自主制作

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「どうかしましたか」と、シオリちゃんが首をかしげた。
 皆の視線が一様に俺に集まったからだろう。彼女の視線も俺の方へ向けられる。誰もが、俺の答えを待っているのは明白だ。

(いやだって、作詞なんてこれまでした事もなかったし! ただこう、あの時は色々あったから、それを通してなんかこう、グワーッて来た『何か』をそのまま落とし込んだだけというか、そもそもその『何か』ってなんだっていう話なわけで――)

 けどよくわからないから『何か』なわけで、え、じゃあ『何か』って何⁉ テーマって何⁉ 

 何ってテーマ⁉

「えぇっとぉ……」

 マズいマズいマズいマズいマズいっ!
 ダラダラダラダラと、冷や汗が止まる事なく心中を流れていく。心なしか、ガチで背中まで汗を掻き始めた気がする。

 心なしか、背中まで汗を掻き始めた気がする。ぐるぐると、思考と目が混乱の2文字で回り出す。

 しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。
 ゴクリと、生唾を飲む。

 えぇいっ、ままよっ! ――意を決して、俺は口を開いた。

「テ、テーマは……、」
「テーマは?」
「…………………………わかりません」
「は?」

 シオリちゃんが、ぽかんと間抜けな表情をその顔に浮かべた。

 途端俺の左右から、「透くん……」「こンのアホが」と、呆れた様子の声と眼差しが飛んできた。
「酒井さん……」とたかのっぽくんからも、悲しいものを見るような眼差しを向けられる。

 うわーっ、やめろやめろっ! そんな目で俺を見るな!
 俺自身が今1番俺に呆れてるので、そんな目で俺を見ないでくださーいっ!

「わからないって……、自分達の曲なのに、ですか……?」

 シオリちゃんがあ然とした声で尋ねてきた。
 鳩が豆鉄砲を食らうとは正にこの事だと言わんばかりに呆けた眼差しが、こちらを見上げてきている。

 あぁ、その毒気のなさ。
 さっきまでは喉から手が出る程に欲しかったのに、どうしてかな? 今はさっきの殺意大盛りの眼差しが恋しくてしかたがないぜ。

 きらりと、目尻で光る涙をごまかすように、俺は某名曲よろしく天井を見上げた。

「そ……、れじゃあ、メッセージなんかはどうですか。誰かにこういう事を伝えたい、訴えたいとか、こういう人を励ましたい、応援したいみたいな」
「え、えぇっと、な、何かこう、伝わればいいな、的なのは一応……」
「その何かっていうのは」
「えっと……、何か? です……」

 やめてーーーっ、俺の心の体力はもうゼロよーーーーっ‼‼

 問い詰めるよう質問を投げかけてくるシオリちゃんに、しどろもどろに返事をする度、どんどんと情けない気持ちで胸がいっぱいになっていく。

 テーマ、メッセージ性。

 まさかここに来て、そんな質問をされる事になろうとは、本当の本当に、一ミリどころか微塵も予想していなかった。

 けど、よく考えなくとも、元来MVというものは楽曲の世界観を映像で表現するものだ。つまり言い換えれば、楽曲で表現したいもの、または曲中に込めたメッセージやテーマといったものを映像に起こす事こそが、MVの役割だともいえなくもない。

 ともなれば、制作するにおいては楽曲のテーマやメッセージ性といったものが必然的に必要になるわけで。
 こちらが想定していなかっただけで、これは本来されるべくしてされた問だった――、という事になる。

(完全に俺の落ち度だ)

 もし過去に戻れるなら、これから今すぐにでも、あの日の俺をぶん殴りに行きたいぐらいだぜ。

 あーもうっ、何かで終わらせるなバカッ! それが何かきちんと最後まで考えろっ! 
 諦めたらそこで試合終了という名言を知らないのか、お前はっ!

「信じらんない……」と、再び呆然とした声音でシオリちゃんが呟いた。

「テーマもなければメッセージもない。伝えたい事はあるけど、それがなんなのか、作った人自身もわかってないって、そんなのあり? それじゃあ、あなた達は一体どういうつもりで、あの曲を作って演奏しているんですか」
「えぇっと、それは、その……」
「もしかして、ただ演奏するのが楽しいからとか、そういう事言うつもりじゃないですよね」
「…………………………はい、その通りです」

 うっ、穴があったら入りたい。
 俺も信じられません、とは言えず、項垂れながら彼女の言葉に頷き返した。

 ――次の瞬間だった。

「バッ…………カじゃないのっ!?」

 シオリちゃんの大声が、その場に響き渡ったのは。
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