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1章 妹と兄と自主制作
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「音楽でしょ⁉ しかも自分達で作った楽曲でしょう⁉ 誰かの楽曲をカバーしたわけじゃないでしょう⁉ だってのにテーマもメッセージもない⁉ それどころか、言うに事欠いて『わからない』⁉ あなたボーカルじゃないんですか! 歌ってる時に何か思ったりしないんですか⁉ あなたが歌ってるの日本語でしょ⁉ 歌詞の言葉の意味とか、そういうのを考えて表現して歌うのがボーカルじゃないの⁉」
「それとも何⁉ 理解不能な人外語でも歌ってるとか言うわけ⁉」ガーッ! と、シオリちゃんが吠えるように言葉を続けていく。
まったくもっておっしゃる通りで。返す言葉が見つかりません……。
バンッ! と、シオリちゃんが手にしていたメモ帳とペンが、テーブルの上に叩きつけられた。衝撃で、カランッ! カチャカチャッ! と、机上の飲み物達が音をたてて揺れる。
周囲からも何事かと言わんばかりの視線が飛んでくるのを感じて、居たたまれなさに襲われる。
(け、けどけど、俺も作詞初心者だったわけで、そういう事に意識を向けられる程の余裕がなかったと言いますか、できればそこは配慮していただけると助かると言いますか、何もそこまで怒らなくてもいいじゃないですかと言いますか……)
いかん、ダメだ。何をどう考えても、ただの言い訳にしかならん。
「しゅみません……」と、しょぼしょぼと背筋を丸めていると、「あ、あのっ」と慌てたように拓弥が口を開いた。
「す、すいません、彼……、と言いますか、実は俺達、曲作り自体を行うのが初めてでして。なのでその、あまり深いところまで考えられなかったと言いますか、それ以前に、うちのバンドの方針自体が自分達のやりたい演奏を重視していまして、誰かに何かを訴えるといった、そういう大それた事はあまり念頭になく――」
「た、拓弥ぃ~」
しどろもどろながらも俺のフォローをしてくれる友人に、思わず感謝の眼差しを向ける。
持つべきものは友とは、まったくもってよく言ったものである。
さすが、俺達の拓弥パパ。俺、もう一生、拓弥には足向けて寝られねぇや。
が――、
「それがなんだって言うんですか」
拓弥の助けも虚しく、シオリちゃんの怒りの炎が鎮火する事はなかった。
怒気の2文字で染まった瞳で、ギロリと、シオリちゃんが拓弥を睨み返す。
「皆さんのバンドの方針は、兄からすでに聞いています。通常のバンドのようにプロを目指すつもりは一切なく、自分達の好きな曲を演奏したりしているだけのバンドだと。それは私も理解してるつもりです。ですが、」
「それとこれは別物でしょう」とシオリちゃんが、俺達への睨みを強くしながら言葉を続けた。
「楽曲を作って、それを誰かに見てもらいたくて動画にしてあげた時点で、それはもう貴方達だけのものじゃなくなります。それを聴く、貴方達以外の人のものにもなるんですよ」
「「!」」
『貴方達だけのものじゃなくなる』
そうキッパリと述べられた予想外の言葉に、俺と拓弥の目が見開かれた。
「貴方達の中で盛り上がってるだけならまだしも、それを外に出すというなら、必然的にその曲は貴方達以外の者の目に触れる事になります。誰かの目に触れた途端、作品というのはそれを聴いてくれた人、見てくれた人、そうした人達ためのものにもなるんです。音楽を聴く人達の間でもよく言うでしょ。『共感した』って。
共感というのは、とどのつまり、『自分の事のように感じた』という事です。つまりその瞬間、その楽曲は聴いてくれた人達の一部にも等しいものになり得るんです」
「だというのに、そうした場面で、ただの身内盛り上がりなものを見せられて、楽しくなれる人が居ると思いますか?」と尋ねてきたシオリちゃんに、「そ、それは……」と拓弥がうろたえる。
言葉を失う大人をどう思ったのか。シオリちゃんが嘲笑めいた笑みを顔に浮かべた。
「今日知りあったばかりの相手から、身内同士にしかわからないような話をされて、それでも笑えと強要されているようなものですよ。そんなの普通につまらないでしょうが。言っておきますが、これは音楽だけの話じゃありません。この世のありとあらゆるクリエイティブに通ずる話です。誰かに見てもらいたいなら、貴方達だけが楽しくちゃ意味がないんですよ。そんな事もわからないんですか?」
はぁ、とシオリちゃんの口から大きなため息が1つこぼされる。
今度の今度は、さすがの拓弥でも何も言い返せなかったようだ。苦々しい表情と共に口がキュッと結ばれる。
俺もシオリちゃんの言葉を前に黙り込む。
否、正確には、黙り込むしかなかった、だ。
彼女の言葉に言い返せるだけのものが、自分の中になかった。
「それとも何⁉ 理解不能な人外語でも歌ってるとか言うわけ⁉」ガーッ! と、シオリちゃんが吠えるように言葉を続けていく。
まったくもっておっしゃる通りで。返す言葉が見つかりません……。
バンッ! と、シオリちゃんが手にしていたメモ帳とペンが、テーブルの上に叩きつけられた。衝撃で、カランッ! カチャカチャッ! と、机上の飲み物達が音をたてて揺れる。
周囲からも何事かと言わんばかりの視線が飛んでくるのを感じて、居たたまれなさに襲われる。
(け、けどけど、俺も作詞初心者だったわけで、そういう事に意識を向けられる程の余裕がなかったと言いますか、できればそこは配慮していただけると助かると言いますか、何もそこまで怒らなくてもいいじゃないですかと言いますか……)
いかん、ダメだ。何をどう考えても、ただの言い訳にしかならん。
「しゅみません……」と、しょぼしょぼと背筋を丸めていると、「あ、あのっ」と慌てたように拓弥が口を開いた。
「す、すいません、彼……、と言いますか、実は俺達、曲作り自体を行うのが初めてでして。なのでその、あまり深いところまで考えられなかったと言いますか、それ以前に、うちのバンドの方針自体が自分達のやりたい演奏を重視していまして、誰かに何かを訴えるといった、そういう大それた事はあまり念頭になく――」
「た、拓弥ぃ~」
しどろもどろながらも俺のフォローをしてくれる友人に、思わず感謝の眼差しを向ける。
持つべきものは友とは、まったくもってよく言ったものである。
さすが、俺達の拓弥パパ。俺、もう一生、拓弥には足向けて寝られねぇや。
が――、
「それがなんだって言うんですか」
拓弥の助けも虚しく、シオリちゃんの怒りの炎が鎮火する事はなかった。
怒気の2文字で染まった瞳で、ギロリと、シオリちゃんが拓弥を睨み返す。
「皆さんのバンドの方針は、兄からすでに聞いています。通常のバンドのようにプロを目指すつもりは一切なく、自分達の好きな曲を演奏したりしているだけのバンドだと。それは私も理解してるつもりです。ですが、」
「それとこれは別物でしょう」とシオリちゃんが、俺達への睨みを強くしながら言葉を続けた。
「楽曲を作って、それを誰かに見てもらいたくて動画にしてあげた時点で、それはもう貴方達だけのものじゃなくなります。それを聴く、貴方達以外の人のものにもなるんですよ」
「「!」」
『貴方達だけのものじゃなくなる』
そうキッパリと述べられた予想外の言葉に、俺と拓弥の目が見開かれた。
「貴方達の中で盛り上がってるだけならまだしも、それを外に出すというなら、必然的にその曲は貴方達以外の者の目に触れる事になります。誰かの目に触れた途端、作品というのはそれを聴いてくれた人、見てくれた人、そうした人達ためのものにもなるんです。音楽を聴く人達の間でもよく言うでしょ。『共感した』って。
共感というのは、とどのつまり、『自分の事のように感じた』という事です。つまりその瞬間、その楽曲は聴いてくれた人達の一部にも等しいものになり得るんです」
「だというのに、そうした場面で、ただの身内盛り上がりなものを見せられて、楽しくなれる人が居ると思いますか?」と尋ねてきたシオリちゃんに、「そ、それは……」と拓弥がうろたえる。
言葉を失う大人をどう思ったのか。シオリちゃんが嘲笑めいた笑みを顔に浮かべた。
「今日知りあったばかりの相手から、身内同士にしかわからないような話をされて、それでも笑えと強要されているようなものですよ。そんなの普通につまらないでしょうが。言っておきますが、これは音楽だけの話じゃありません。この世のありとあらゆるクリエイティブに通ずる話です。誰かに見てもらいたいなら、貴方達だけが楽しくちゃ意味がないんですよ。そんな事もわからないんですか?」
はぁ、とシオリちゃんの口から大きなため息が1つこぼされる。
今度の今度は、さすがの拓弥でも何も言い返せなかったようだ。苦々しい表情と共に口がキュッと結ばれる。
俺もシオリちゃんの言葉を前に黙り込む。
否、正確には、黙り込むしかなかった、だ。
彼女の言葉に言い返せるだけのものが、自分の中になかった。
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