16 / 82
1章 妹と兄と自主制作
1-12
しおりを挟む
動画をあげた時点で、俺達の作品を見てくれる誰かが存在する。その事は、充分に理解しているつもりだった。
だからこそ実際、自分の活動が職場にバレないようにするために、これまでいろいろな工作をしてきたのだ。いろんな人が見る場所だから、誰に見つかってしまっても大丈夫なようにと、マスクをつけたり、俺自身の顔をカメラに映らないようにしたりと、さまざまな工夫をしてきた。
しかし、それはあくまでも全て、自分達の事を考えての行動だ。
顔バレを防ぐ事も、誰かに動画を見てもらいたいという気持ちも、楽曲を演奏していて楽しいという気持ちも――、全部全部自分達のためで、そこに他者はいない。
自分達の楽曲を聞いてくれる人、見てくれる人。
はたして俺達は、その人達の事を、一度だって考えた事はあっただろうか。
「それに、初めてだというなら、なおの事テーマやメッセージというものをこだわるべきでしょう」
シオリちゃんが言葉を続ける。
嫌悪感の混ざった声音が、言葉を失った大人達の心を容赦なく突き刺していく。
「技術もセンスも全て未熟だとわかっているからこそ、他者に見せた時に恥ずかしい思いをしないように全力を尽くすべきです。ただがむしゃらに作るだけなら、誰にだってできます。その程度のもので誰かに聴かせようなんて、傲慢にも程がありますよ。貴方達、そんなんでよく曲を公開しようなんて思いましたね」
「こんな人達がお兄ぃと一緒にバンドしてるなんて……、マジありえないんですけど」と、シオリちゃんが独り言のように続けた時だった。
「あ?」と地を這うような低い声が、俺の右隣から聞こえてきたのは。
その声に、ハッとする。
瞬間、一瞬でそれが何を意味するかを察し、慌てて声の主――、優作へと俺は顔を向けた。
そこにあったのは、怒りの化身と化した優作の姿だった。
厳しくつり上がった眉に、シオリちゃんにも負けない程に険しい眉間のしわ。こめかみには、ピキピキと音が聞こえきそうなぐらいの勢いで、太く濃い青筋が浮き上がっている。
(や、やっべぇーっ! 優作の事、すっかり忘れてたーーーーーっ‼‼)
表情から察するに、なんでてめぇにそんな事まで言われなきゃならねぇんだとか、多分そんな感じの事を思っているやつだ。全身から放出されている幼馴染の怒りオーラに、思わず頬がひきつる。
拓弥も優作の怒りに気づいたらしく、顔を青くしている姿が目につく。
(まずい。このままじゃあ、ゴリラの怒りで大惨事が起こる事間違いなしだっ)
そんな事になったら、この場は地獄と化すだろう。大炎上待ったなしだ。
このファミレスにだって、もう二度と通えなくなってしまうかもしれない。
慌てて優作を止めようと、「お、落ち着け、優作」と声をかける。
が、俺の制止は1歩遅かったらしい。もう我慢ならんといわんばかりの勢いで、優作が立ち上がった。「言わせておけば、この野郎……っ」と、その口から怒りが吐き出される。
うわーっ! まじでやめてー! なんでこのゴリラ、こんなに短気なのっ! お前、ちゃんとタンパク質取ってる⁉ ミルクぐらい奢ってやるから、落ち着けゴリラーー‼
こうなったらもう、縋り付いてでも止めるしか……! そう俺が覚悟した時だった。
「――お前、いい加減にしろよ」
聞き慣れた声の、聞いた事もないような低い声が、場にあがったのは。
突然の事態に、優作がギョッと目を丸めながら動きを止めた。そうして、その顔を声がした方へ向ける。
その隣では、拓弥がパチパチと目を瞬きながら、優作と同じ方向を見ている。俺も、優作に縋りつくまであと数ミリのところで動きを止めて、2人と同じ方へ顔を向けた。
そこにいたのは、普段の彼からは考えられない形相をした、たかのっぽくんだった。
いつもはゆるりと落ち着いた弧を描いている、髪色とお揃いのプラチナブロドの眉。
それが、まるで威嚇をしている猫の毛の如く、激しくつりあがっている。
日焼けなんて言葉も知らないような白い眉間には険しいしわが寄り、色素の薄い灰色の瞳の奥には、その薄さを真っ赤に染め上げるかのごとく、メラメラと赤い炎が燃え上がっているのがわかる。
(た、たかのっぽ、くん……?)
もしかしなくても、今、めちゃくちゃ怒ってます……?
だからこそ実際、自分の活動が職場にバレないようにするために、これまでいろいろな工作をしてきたのだ。いろんな人が見る場所だから、誰に見つかってしまっても大丈夫なようにと、マスクをつけたり、俺自身の顔をカメラに映らないようにしたりと、さまざまな工夫をしてきた。
しかし、それはあくまでも全て、自分達の事を考えての行動だ。
顔バレを防ぐ事も、誰かに動画を見てもらいたいという気持ちも、楽曲を演奏していて楽しいという気持ちも――、全部全部自分達のためで、そこに他者はいない。
自分達の楽曲を聞いてくれる人、見てくれる人。
はたして俺達は、その人達の事を、一度だって考えた事はあっただろうか。
「それに、初めてだというなら、なおの事テーマやメッセージというものをこだわるべきでしょう」
シオリちゃんが言葉を続ける。
嫌悪感の混ざった声音が、言葉を失った大人達の心を容赦なく突き刺していく。
「技術もセンスも全て未熟だとわかっているからこそ、他者に見せた時に恥ずかしい思いをしないように全力を尽くすべきです。ただがむしゃらに作るだけなら、誰にだってできます。その程度のもので誰かに聴かせようなんて、傲慢にも程がありますよ。貴方達、そんなんでよく曲を公開しようなんて思いましたね」
「こんな人達がお兄ぃと一緒にバンドしてるなんて……、マジありえないんですけど」と、シオリちゃんが独り言のように続けた時だった。
「あ?」と地を這うような低い声が、俺の右隣から聞こえてきたのは。
その声に、ハッとする。
瞬間、一瞬でそれが何を意味するかを察し、慌てて声の主――、優作へと俺は顔を向けた。
そこにあったのは、怒りの化身と化した優作の姿だった。
厳しくつり上がった眉に、シオリちゃんにも負けない程に険しい眉間のしわ。こめかみには、ピキピキと音が聞こえきそうなぐらいの勢いで、太く濃い青筋が浮き上がっている。
(や、やっべぇーっ! 優作の事、すっかり忘れてたーーーーーっ‼‼)
表情から察するに、なんでてめぇにそんな事まで言われなきゃならねぇんだとか、多分そんな感じの事を思っているやつだ。全身から放出されている幼馴染の怒りオーラに、思わず頬がひきつる。
拓弥も優作の怒りに気づいたらしく、顔を青くしている姿が目につく。
(まずい。このままじゃあ、ゴリラの怒りで大惨事が起こる事間違いなしだっ)
そんな事になったら、この場は地獄と化すだろう。大炎上待ったなしだ。
このファミレスにだって、もう二度と通えなくなってしまうかもしれない。
慌てて優作を止めようと、「お、落ち着け、優作」と声をかける。
が、俺の制止は1歩遅かったらしい。もう我慢ならんといわんばかりの勢いで、優作が立ち上がった。「言わせておけば、この野郎……っ」と、その口から怒りが吐き出される。
うわーっ! まじでやめてー! なんでこのゴリラ、こんなに短気なのっ! お前、ちゃんとタンパク質取ってる⁉ ミルクぐらい奢ってやるから、落ち着けゴリラーー‼
こうなったらもう、縋り付いてでも止めるしか……! そう俺が覚悟した時だった。
「――お前、いい加減にしろよ」
聞き慣れた声の、聞いた事もないような低い声が、場にあがったのは。
突然の事態に、優作がギョッと目を丸めながら動きを止めた。そうして、その顔を声がした方へ向ける。
その隣では、拓弥がパチパチと目を瞬きながら、優作と同じ方向を見ている。俺も、優作に縋りつくまであと数ミリのところで動きを止めて、2人と同じ方へ顔を向けた。
そこにいたのは、普段の彼からは考えられない形相をした、たかのっぽくんだった。
いつもはゆるりと落ち着いた弧を描いている、髪色とお揃いのプラチナブロドの眉。
それが、まるで威嚇をしている猫の毛の如く、激しくつりあがっている。
日焼けなんて言葉も知らないような白い眉間には険しいしわが寄り、色素の薄い灰色の瞳の奥には、その薄さを真っ赤に染め上げるかのごとく、メラメラと赤い炎が燃え上がっているのがわかる。
(た、たかのっぽ、くん……?)
もしかしなくても、今、めちゃくちゃ怒ってます……?
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる