Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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1章 妹と兄と自主制作

1-12

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 動画をあげた時点で、俺達の作品を見てくれる誰かが存在する。その事は、充分に理解しているつもりだった。

 だからこそ実際、自分の活動が職場にバレないようにするために、これまでいろいろな工作をしてきたのだ。いろんな人が見る場所だから、誰に見つかってしまっても大丈夫なようにと、マスクをつけたり、俺自身の顔をカメラに映らないようにしたりと、さまざまな工夫をしてきた。

 しかし、それはあくまでも全て、

 顔バレを防ぐ事も、誰かに動画を見てもらいたいという気持ちも、楽曲を演奏していて楽しいという気持ちも――、全部全部自分達のためで、そこに他者はいない。

 自分達の楽曲を聞いてくれる人、見てくれる人。
 はたして俺達は、その人達の事を、一度だって考えた事はあっただろうか。

「それに、初めてだというなら、なおの事テーマやメッセージというものをこだわるべきでしょう」

 シオリちゃんが言葉を続ける。
 嫌悪感の混ざった声音が、言葉を失った大人達の心を容赦なく突き刺していく。

「技術もセンスも全て未熟だとわかっているからこそ、他者に見せた時に恥ずかしい思いをしないように全力を尽くすべきです。ただがむしゃらに作るだけなら、誰にだってできます。その程度のもので誰かに聴かせようなんて、傲慢にも程がありますよ。貴方達、そんなんでよく曲を公開しようなんて思いましたね」

「こんな人達がお兄ぃと一緒にバンドしてるなんて……、マジありえないんですけど」と、シオリちゃんが独り言のように続けた時だった。

「あ?」と地を這うような低い声が、俺の右隣から聞こえてきたのは。

 その声に、ハッとする。
 瞬間、一瞬でそれが何を意味するかを察し、慌てて声の主――、優作へと俺は顔を向けた。

 そこにあったのは、怒りの化身と化した優作の姿だった。

 厳しくつり上がった眉に、シオリちゃんにも負けない程に険しい眉間のしわ。こめかみには、ピキピキと音が聞こえきそうなぐらいの勢いで、太く濃い青筋が浮き上がっている。

(や、やっべぇーっ! 優作の事、すっかり忘れてたーーーーーっ‼‼)

 表情から察するに、なんでてめぇにそんな事まで言われなきゃならねぇんだとか、多分そんな感じの事を思っているやつだ。全身から放出されている幼馴染の怒りオーラに、思わず頬がひきつる。
 拓弥も優作の怒りに気づいたらしく、顔を青くしている姿が目につく。

(まずい。このままじゃあ、ゴリラの怒りで大惨事が起こる事間違いなしだっ)

 そんな事になったら、この場は地獄と化すだろう。大炎上待ったなしだ。
 このファミレスにだって、もう二度と通えなくなってしまうかもしれない。

 慌てて優作を止めようと、「お、落ち着け、優作」と声をかける。
 が、俺の制止は1歩遅かったらしい。もう我慢ならんといわんばかりの勢いで、優作が立ち上がった。「言わせておけば、この野郎……っ」と、その口から怒りが吐き出される。

 うわーっ! まじでやめてー! なんでこのゴリラ、こんなに短気なのっ! お前、ちゃんとタンパク質取ってる⁉ ミルクぐらい奢ってやるから、落ち着けゴリラーー‼

 こうなったらもう、縋り付いてでも止めるしか……! そう俺が覚悟した時だった。

「――お前、いい加減にしろよ」

 聞き慣れた声の、聞いた事もないような低い声が、場にあがったのは。

 突然の事態に、優作がギョッと目を丸めながら動きを止めた。そうして、その顔を声がした方へ向ける。
 その隣では、拓弥がパチパチと目を瞬きながら、優作と同じ方向を見ている。俺も、優作に縋りつくまであと数ミリのところで動きを止めて、2人と同じ方へ顔を向けた。

 そこにいたのは、普段の彼からは考えられない形相をした、たかのっぽくんだった。
 いつもはゆるりと落ち着いた弧を描いている、髪色とお揃いのプラチナブロドの眉。

 それが、まるで威嚇をしている猫の毛の如く、激しくつりあがっている。
 日焼けなんて言葉も知らないような白い眉間には険しいしわが寄り、色素の薄い灰色の瞳の奥には、その薄さを真っ赤に染め上げるかのごとく、メラメラと赤い炎が燃え上がっているのがわかる。

(た、たかのっぽ、くん……?)

 もしかしなくても、今、めちゃくちゃ怒ってます……? 
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