17 / 82
1章 妹と兄と自主制作
1-13
しおりを挟む
初めて見るたかのっぽくんの姿に、ポカーン、と開いた口が塞がらなくなる。優作と拓弥も理解が追い付かないのか、目を丸めたままで固まっている。
シオリちゃんの方も、予想外の乱入に驚いた様子で己の兄を見上げ返すが、その先にあった怒りに気圧されたらしい。ビクりと、肩が揺らされた。
が、呆ける大人達とは逆に、すぐに気を取り直せたようだ。
ギュッと不愉快そうに眉間にしわを寄せると、負けず劣らずの鋭い睨みを兄に返した。
「……いい加減にしろって、何」
「そのまんまの意味に決まってんだろ。さっきから聞いてりゃ、好き勝手言いたい放題言いやがって。お前、自分の立場わかってんのかよ」
キッ、とたかのっぽくんが苛立たしげにシオリちゃんを見下ろす。
やはり、いつものたかのっぽくんからは考えられない程にキツイ眼差しだ。もしあれを向けられた相手が自分だったらと思うと、思わず身震いしてしまいそうだ。美人が怒ると怖いとは、先人もよく言ったものである。
「今回お前は、この人達に手伝いを頼んでる立場なんだぞ。本来なら頭をさげてお願いする立場のはずだろうが。それがなんだよ。自分が思っていたものと違う返答が来たくらいで、突然キレ散らかしやがって。思い通りにならないからって、癇癪起こす子どもかよ」
「それでどうにかるわけもないって、大学生になってもわかんないわけ」とたかのっぽくんが言葉を続ける。完全に、先刻のシオリちゃんの言葉を真似した言い方だ。
あからさまな皮肉に、「なっ……!」と、シオリちゃんが顔を真っ赤に染めた。
「わ……っ、私は、クリエイターとして当たり前の事を言ったまでよっ。何かを作るのにテーマやメッセージ性をつけるのは、普通の事でしょっ。自分の作品を見てもらう人の事を考えるのだって、物を創る上で当然の事じゃんっ。それができてない人達に怒って何が悪いのよっ」
「それはお前の考えだろうが。俺、最初にお前に、うちのバンドはそういう方向でやってないって話したよな? プロを目指すというよりは、単なる趣味の集まりに近いって。お前、わかったって言ったろうが」
「なにそれ、趣味だから物創りの基礎をおざなりにしていいって事? そんな言い訳、世間に通じると思ってるの? 物にして誰かの目につくところにあげる以上、それを見て楽しむ人達がいるのよ。なら、趣味だろうがなんだろうが、その人達のために最善を尽くすべきじゃない」
「おざなりにしていいとは言ってねぇだろうが。ただ俺は、それはうちのバンドの方向性じゃないし、最初の時点でその事を了承していたはずのお前が、今になって自分の考えと反してる事を理由にキレて、自分の考えを押しつけ出してるとこに怒ってんだよ」
「はぁ⁉ 押しつけ⁉ 私はクリエイターならできて当然の常識を言っただけよっ!」
「だからっ、その考え方が押しつけだって言ってんだっ」
「大体お前は昔から、何かあるとすぐに癇癪を起こして……っ」「はー⁉ それ、お兄ぃが言います⁉ そっちこそ、何か言われるのが怖いからって理由だけで家族からも大学からも逃げた癖に!」「そ、その話はもう終わった事だろうがっ」――わーわーギャーギャーと、たかのっぽくんと妹ちゃんが大声で言い争いを始める。
(こ、)
ここが、喧嘩しちゃうのかーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼
予想だにしていなかった光景に、俺、優作、拓弥の3人の口があんぐりと開きっぱなしになる。
が、そんな大人達を置いていくように、2人の喧嘩は加速していく。
「こンの強情駄々こね娘っ」
「うるさい、優柔不断ネーミングセンス最悪男っ」
うわっ、俺が言うのもなんだけど、だんだん小学生みたいな言い争いになってきてる……。
2人の争いに気付いたらしい周囲のお客達が、ざわざわとザワつき始める。店員さん達も、遠巻きにこちらを不安そうに見ている。
店内の至るところから向けられる戸惑うような視線が、チクチクと自分に刺さり始めるのを感じたところで、ようやく俺はハッと我に帰った。
「ちょ……、ちょちょちょちょっ、ちょっと待った! タンマ! 2人共、タンマ! ストーップ!」
「喧嘩はだめ! ここ、一応公共施設で他の人達もいるからさ! な⁉」と、慌ててたかのっぽくんとシオリちゃんの間に割り込む。
すると、それに触発されてか、拓弥と優作も我に返ってくれたらしい。
ハッとした様子で瞳を瞬かせかと思うと、「そ、そうそうっ」「喧嘩はダメだぞっ」と、俺に続くようにして、口々に高須野兄妹に制止の声をかけ始める。
大人達の必死な制止がきいたのか、たかのっぽくんとシオリちゃんの言い争いがぴたりと止まった。
そうして周囲を見回すと、自分達に向けられている視線に気まずそうな表情を浮かべながら、大人しく各々の席に座り直す。どうやら、ようやく自分達のやらかしに気づいてくれたらしい。
しかし、腹の虫そのものがおさまったわけではないようだ。
ちらりと無言で互いを見やったかと思うと、バチリと目があった途端、再び互いに相手を睨みつけ始める。
そうして数秒ほど無言で火花を散らしあった後、フンッ! とびっくりする程にぴったり綺麗なタイミングで、互いに顔をそむけあったのだった。
(び、美男 VS 美女の喧嘩、怖ぇ~~~~~~~~~~っ)
なんとも言えない微妙で複雑で重たい沈黙。
どうあがいても修復不可能な空気を前に、大人達3人の頬を冷たい汗が流れていったのは、きっと言うまでもない事だろう。
シオリちゃんの方も、予想外の乱入に驚いた様子で己の兄を見上げ返すが、その先にあった怒りに気圧されたらしい。ビクりと、肩が揺らされた。
が、呆ける大人達とは逆に、すぐに気を取り直せたようだ。
ギュッと不愉快そうに眉間にしわを寄せると、負けず劣らずの鋭い睨みを兄に返した。
「……いい加減にしろって、何」
「そのまんまの意味に決まってんだろ。さっきから聞いてりゃ、好き勝手言いたい放題言いやがって。お前、自分の立場わかってんのかよ」
キッ、とたかのっぽくんが苛立たしげにシオリちゃんを見下ろす。
やはり、いつものたかのっぽくんからは考えられない程にキツイ眼差しだ。もしあれを向けられた相手が自分だったらと思うと、思わず身震いしてしまいそうだ。美人が怒ると怖いとは、先人もよく言ったものである。
「今回お前は、この人達に手伝いを頼んでる立場なんだぞ。本来なら頭をさげてお願いする立場のはずだろうが。それがなんだよ。自分が思っていたものと違う返答が来たくらいで、突然キレ散らかしやがって。思い通りにならないからって、癇癪起こす子どもかよ」
「それでどうにかるわけもないって、大学生になってもわかんないわけ」とたかのっぽくんが言葉を続ける。完全に、先刻のシオリちゃんの言葉を真似した言い方だ。
あからさまな皮肉に、「なっ……!」と、シオリちゃんが顔を真っ赤に染めた。
「わ……っ、私は、クリエイターとして当たり前の事を言ったまでよっ。何かを作るのにテーマやメッセージ性をつけるのは、普通の事でしょっ。自分の作品を見てもらう人の事を考えるのだって、物を創る上で当然の事じゃんっ。それができてない人達に怒って何が悪いのよっ」
「それはお前の考えだろうが。俺、最初にお前に、うちのバンドはそういう方向でやってないって話したよな? プロを目指すというよりは、単なる趣味の集まりに近いって。お前、わかったって言ったろうが」
「なにそれ、趣味だから物創りの基礎をおざなりにしていいって事? そんな言い訳、世間に通じると思ってるの? 物にして誰かの目につくところにあげる以上、それを見て楽しむ人達がいるのよ。なら、趣味だろうがなんだろうが、その人達のために最善を尽くすべきじゃない」
「おざなりにしていいとは言ってねぇだろうが。ただ俺は、それはうちのバンドの方向性じゃないし、最初の時点でその事を了承していたはずのお前が、今になって自分の考えと反してる事を理由にキレて、自分の考えを押しつけ出してるとこに怒ってんだよ」
「はぁ⁉ 押しつけ⁉ 私はクリエイターならできて当然の常識を言っただけよっ!」
「だからっ、その考え方が押しつけだって言ってんだっ」
「大体お前は昔から、何かあるとすぐに癇癪を起こして……っ」「はー⁉ それ、お兄ぃが言います⁉ そっちこそ、何か言われるのが怖いからって理由だけで家族からも大学からも逃げた癖に!」「そ、その話はもう終わった事だろうがっ」――わーわーギャーギャーと、たかのっぽくんと妹ちゃんが大声で言い争いを始める。
(こ、)
ここが、喧嘩しちゃうのかーーーーーーーーーーーー‼‼‼‼
予想だにしていなかった光景に、俺、優作、拓弥の3人の口があんぐりと開きっぱなしになる。
が、そんな大人達を置いていくように、2人の喧嘩は加速していく。
「こンの強情駄々こね娘っ」
「うるさい、優柔不断ネーミングセンス最悪男っ」
うわっ、俺が言うのもなんだけど、だんだん小学生みたいな言い争いになってきてる……。
2人の争いに気付いたらしい周囲のお客達が、ざわざわとザワつき始める。店員さん達も、遠巻きにこちらを不安そうに見ている。
店内の至るところから向けられる戸惑うような視線が、チクチクと自分に刺さり始めるのを感じたところで、ようやく俺はハッと我に帰った。
「ちょ……、ちょちょちょちょっ、ちょっと待った! タンマ! 2人共、タンマ! ストーップ!」
「喧嘩はだめ! ここ、一応公共施設で他の人達もいるからさ! な⁉」と、慌ててたかのっぽくんとシオリちゃんの間に割り込む。
すると、それに触発されてか、拓弥と優作も我に返ってくれたらしい。
ハッとした様子で瞳を瞬かせかと思うと、「そ、そうそうっ」「喧嘩はダメだぞっ」と、俺に続くようにして、口々に高須野兄妹に制止の声をかけ始める。
大人達の必死な制止がきいたのか、たかのっぽくんとシオリちゃんの言い争いがぴたりと止まった。
そうして周囲を見回すと、自分達に向けられている視線に気まずそうな表情を浮かべながら、大人しく各々の席に座り直す。どうやら、ようやく自分達のやらかしに気づいてくれたらしい。
しかし、腹の虫そのものがおさまったわけではないようだ。
ちらりと無言で互いを見やったかと思うと、バチリと目があった途端、再び互いに相手を睨みつけ始める。
そうして数秒ほど無言で火花を散らしあった後、フンッ! とびっくりする程にぴったり綺麗なタイミングで、互いに顔をそむけあったのだった。
(び、美男 VS 美女の喧嘩、怖ぇ~~~~~~~~~~っ)
なんとも言えない微妙で複雑で重たい沈黙。
どうあがいても修復不可能な空気を前に、大人達3人の頬を冷たい汗が流れていったのは、きっと言うまでもない事だろう。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる