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1章 妹と兄と自主制作
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確かに俺達の音楽は、他人のためというよりは自分達のためのものだ。
音楽をやめた、バンドをやめた、それでももう一回、もう一度バンドがやりたい。
そんなわがままで、未練たらたらしい思いで結成されたのが俺達Herecで、かつて俺や拓弥、優作が目指していたようなプロへの熱い憧れや夢は、もうそこにはない。
だが、それでもやっぱりバンドをやっている以上、誰かに自分達が作ったものを見てもらいたいし、聞いてもらいたいと思うもまた事実だ。
それは言い換えれば、幼い子どもが自分の作った物を親や親しい誰かに見せびらかしたくなる、その程度のものと同じだろう。
けど子どもと違うのは、それを見せる相手が全くの見知らぬ人達であること。
そして、その人達が皆、自分達が楽しむために俺達の曲を聴きにくるという点だ。
(避けては通れない問題、なんだろうな、多分)
Herecがこれからもバンドとして活動していくなら、作った何かを誰かに見せたいと考えるなら、きっとこれは避けて通れない問題だ。
(……とはいっても、『バンドをやりたい!』ってだけで結成したバンドだからなぁ。そこまで複雑な事はあんまり考えたくないっていうか、そもそもそこまで行ったらもう、プロを目指すバンドとあんまり相違ないじゃん、みたいな? それはまたHerecの形には合わないような気が、でもでも、やっぱり曲を公開する以上、それを聴く人の事を考えるって大事な事の気もするし)
あーっ、なんかもう、ごちゃごちゃしてきた~っ! 頭、沸騰しそ~~~っ!
うあ~~~っ、と思わず叫びそうになったその時、「つーかよ、」と優作が口を開いた。
「とりあえず、この後どうするよ。このまま解散すっか?」
「駅まで来てるし、帰ろうと思えばこのまま帰れんだろ」と続けながら、優作がくいっと駅の方を指さした。
その言葉に「あ、そ、そうだね」と拓弥が便乗するように口を開いた。
「俺は今日はもう予定ないし、その辺ぶらぶらしてから帰ろうかな。たかのっぽくんはどうする? この後、帰る?」
場の空気を変えるためだろう。拓弥があたかも自然な流れだというように、たかのっぽくんに話題を振った。「え、お、俺ですか」と話題を振られたたかのっぽくんが、驚いたように顔をあげる。
おぉ、ナイスファインプレー。
やっぱり園児時代から幼馴染やってる奴らは、会話の運び方が一味違うぜ。
まぁ、主に拓弥のおかげ感強いけど。
「……俺も、特に用事はないので、その辺ブラつくかこのまま帰るかの2択ですね」
「あ、でも、今帰ったら妹に余計なメッセージいれて喧嘩になりそうなんで、一旦自分を落ち着かせたいかも」と、たかのっぽくんが膝上で手を組みながら、苛々とした声音で呟いた。
わきあがる怒りを抑えようとしているのか、フーフーっ、とどこか荒っぽい息がその口から漏れている。
やーん、この子やっぱり妹に当たり強すぎだよ~。
たかのっぽ兄妹の溝、ちょいっと深すぎやしませんかね⁉
「ゆ、優作は⁉ 優作はどうするの⁉」と、急いで話を別方向に繋げる。幼馴染達が生み出したこの流れ、ここで止めては意味がない。「お、おう、俺か?」と優作が、動揺しながらも俺の問いに返答してくれる。
「あ~……、特に考えてはなかったが……、俺もこのあとは暇だしな。Re:crieationに電話でもして、部屋が空いてたらドラムでも叩いてくっかなぁ」
「え⁉ 何それ、いいなっ! 俺も行きたいっ」
「あぁ⁉ 俺も行きたいって、カラオケじゃねぇんだぞ」
予想してなかった返答に思わず反射的に言葉を返せば、優作がめんどうそうに顔を歪めた。
「ただでさえ、休日の日中なんて混み時で部屋が取れるかわかんねぇのに、人数増やしたらさらに取りづれぇだろうが」
「え~、いいじゃん。取れるかもしれないじゃん。電話するだけ電話してみようぜ」
「お前、当日予約の難しさなめてんな……?」
「やらぬ後悔よりやる後悔よ。どうせ俺、帰りにちょっとスーパー寄ろうかなって思ってた程度で他に予定ないし。行けるなら俺もスタジオ行きたいってか、なんならたかのっぽくんと拓弥も行こうぜ」
「暇なんでしょ。こうなったら皆で行っちまわね」と、2人の方へ振り返る。
「えー、部屋空いてるかなぁ」と拓弥が苦笑する。それでも強く止めないのは、多分たかのっぽくんの事を考えてだろう。
俺が「一度落ち着きたい」と言ったたかのっぽくんの言葉を汲んで彼を誘った事にも、拓弥なら気づけていてもおかしくはない。
「たかのっぽくんは? どうする? 一緒に行かね?」と、たかのっぽくんに話題を振ってみる。
俺の問いに、たかのっぽくんがオロッと困ったように視線を彷徨わせた。
が、答えはすでに決まっていたみたいで、「行けるのでしたら……」とぽそっと小さく返事がされた。
チッ、と優作が舌打ちをしながら、ガリガリとその短い頭髪を掻いた。
そうして最後にひとつ、諦めたかのように大きなため息を吐くと、「空いてなくても文句言うなよ」と、ズボンの尻ポケットからスマホを取り出したのだった。
音楽をやめた、バンドをやめた、それでももう一回、もう一度バンドがやりたい。
そんなわがままで、未練たらたらしい思いで結成されたのが俺達Herecで、かつて俺や拓弥、優作が目指していたようなプロへの熱い憧れや夢は、もうそこにはない。
だが、それでもやっぱりバンドをやっている以上、誰かに自分達が作ったものを見てもらいたいし、聞いてもらいたいと思うもまた事実だ。
それは言い換えれば、幼い子どもが自分の作った物を親や親しい誰かに見せびらかしたくなる、その程度のものと同じだろう。
けど子どもと違うのは、それを見せる相手が全くの見知らぬ人達であること。
そして、その人達が皆、自分達が楽しむために俺達の曲を聴きにくるという点だ。
(避けては通れない問題、なんだろうな、多分)
Herecがこれからもバンドとして活動していくなら、作った何かを誰かに見せたいと考えるなら、きっとこれは避けて通れない問題だ。
(……とはいっても、『バンドをやりたい!』ってだけで結成したバンドだからなぁ。そこまで複雑な事はあんまり考えたくないっていうか、そもそもそこまで行ったらもう、プロを目指すバンドとあんまり相違ないじゃん、みたいな? それはまたHerecの形には合わないような気が、でもでも、やっぱり曲を公開する以上、それを聴く人の事を考えるって大事な事の気もするし)
あーっ、なんかもう、ごちゃごちゃしてきた~っ! 頭、沸騰しそ~~~っ!
うあ~~~っ、と思わず叫びそうになったその時、「つーかよ、」と優作が口を開いた。
「とりあえず、この後どうするよ。このまま解散すっか?」
「駅まで来てるし、帰ろうと思えばこのまま帰れんだろ」と続けながら、優作がくいっと駅の方を指さした。
その言葉に「あ、そ、そうだね」と拓弥が便乗するように口を開いた。
「俺は今日はもう予定ないし、その辺ぶらぶらしてから帰ろうかな。たかのっぽくんはどうする? この後、帰る?」
場の空気を変えるためだろう。拓弥があたかも自然な流れだというように、たかのっぽくんに話題を振った。「え、お、俺ですか」と話題を振られたたかのっぽくんが、驚いたように顔をあげる。
おぉ、ナイスファインプレー。
やっぱり園児時代から幼馴染やってる奴らは、会話の運び方が一味違うぜ。
まぁ、主に拓弥のおかげ感強いけど。
「……俺も、特に用事はないので、その辺ブラつくかこのまま帰るかの2択ですね」
「あ、でも、今帰ったら妹に余計なメッセージいれて喧嘩になりそうなんで、一旦自分を落ち着かせたいかも」と、たかのっぽくんが膝上で手を組みながら、苛々とした声音で呟いた。
わきあがる怒りを抑えようとしているのか、フーフーっ、とどこか荒っぽい息がその口から漏れている。
やーん、この子やっぱり妹に当たり強すぎだよ~。
たかのっぽ兄妹の溝、ちょいっと深すぎやしませんかね⁉
「ゆ、優作は⁉ 優作はどうするの⁉」と、急いで話を別方向に繋げる。幼馴染達が生み出したこの流れ、ここで止めては意味がない。「お、おう、俺か?」と優作が、動揺しながらも俺の問いに返答してくれる。
「あ~……、特に考えてはなかったが……、俺もこのあとは暇だしな。Re:crieationに電話でもして、部屋が空いてたらドラムでも叩いてくっかなぁ」
「え⁉ 何それ、いいなっ! 俺も行きたいっ」
「あぁ⁉ 俺も行きたいって、カラオケじゃねぇんだぞ」
予想してなかった返答に思わず反射的に言葉を返せば、優作がめんどうそうに顔を歪めた。
「ただでさえ、休日の日中なんて混み時で部屋が取れるかわかんねぇのに、人数増やしたらさらに取りづれぇだろうが」
「え~、いいじゃん。取れるかもしれないじゃん。電話するだけ電話してみようぜ」
「お前、当日予約の難しさなめてんな……?」
「やらぬ後悔よりやる後悔よ。どうせ俺、帰りにちょっとスーパー寄ろうかなって思ってた程度で他に予定ないし。行けるなら俺もスタジオ行きたいってか、なんならたかのっぽくんと拓弥も行こうぜ」
「暇なんでしょ。こうなったら皆で行っちまわね」と、2人の方へ振り返る。
「えー、部屋空いてるかなぁ」と拓弥が苦笑する。それでも強く止めないのは、多分たかのっぽくんの事を考えてだろう。
俺が「一度落ち着きたい」と言ったたかのっぽくんの言葉を汲んで彼を誘った事にも、拓弥なら気づけていてもおかしくはない。
「たかのっぽくんは? どうする? 一緒に行かね?」と、たかのっぽくんに話題を振ってみる。
俺の問いに、たかのっぽくんがオロッと困ったように視線を彷徨わせた。
が、答えはすでに決まっていたみたいで、「行けるのでしたら……」とぽそっと小さく返事がされた。
チッ、と優作が舌打ちをしながら、ガリガリとその短い頭髪を掻いた。
そうして最後にひとつ、諦めたかのように大きなため息を吐くと、「空いてなくても文句言うなよ」と、ズボンの尻ポケットからスマホを取り出したのだった。
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