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2章 父と娘と一触触発
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「やだやだやだやだやだーっ! ママに電話なんてしたら、いますぐかえってきなさいって言うにきまってるもの! きらり、パパに会いにきたのに! お家になんてかえらないもん!」
「やだって、きらり……」
きらりちゃんの駄々に、拓弥があわあわと慌てた様子で彼女の前にしゃがみ込んだ。
が、そんな父親の様子など知ったもんかとでも言うように、きらりちゃんは「ふんっ!」鼻を鳴らしながら、頬を膨らましてそっぽを向いてしまう。
「ママやむこうのお父さんも、きらりの事を心配してるんだよ? きらりがここにいるって言わないと、いつまでも2人を不安にさせてしまうんだ。それでもいいのかい?」
「知らないっ! ママもお父さんも知らないもん! きらり、パパに会いにきただけだもん!」
きらりちゃんがそっぽを向いたまま、きっぱりと言い放つ。
どうやら、ここまで1人で来た意思は伊達じゃないらしい。かたくなに父親の顔を見ようとしない娘に、拓弥が「き、きらりぃ~」と情けない声をあげた。
(わぁーお、振り回されてるなぁ、拓弥)
助けてはやりたいけど、こっちが口を出せるような問題でもないしなぁ。
ちらりと優作とたかのっぽくんの方を見てみる。
すると、どうしたもんかとでも言いたげに肩を竦める優作、そしてオロオロと戸惑った様子でいるたかのっぽくんと目があった。
2人の方も、この現状にどう口出しすればいいかわからないみたいだ。
一生懸命、きらりちゃんに話しかけ続ける拓弥。
が、どうやら娘のへそは完全に曲がってしまったらしい。
拓弥の説得もむなしく、気がつけばその小さな背中を丸めながら、スタジオの隅でぶーたれるきらりちゃんが生まれてしまったのだった。
***
むくれた顔を壁に向けて体育座りをしたまま、頑として俺達の方を見ようとしないきらりちゃん。
そんな娘の様子に、拓弥の方もこれ以上は何を言っても無駄だと悟ったらしい。諦めたように息をつくと、「とりあえず、電話してくるね……」と疲れ切った声で俺達に告げながら、スタジオの外へ出て行った。
その足取りが、見るからにヨロヨロとしていたのは言うまでもない事だろう。
本当にお疲れ様です、お父さん……。
ガチャン、と小さな音を立ててスタジオの扉が閉まる。
と、同時に、なんとも言えない空気が場に広がった。
「「「「…………」」」」
おい、誰か何か言えよ、と言いたげな優作の目が、俺とたかのっぽくんの方へ向けられた。
たかのっぽくんが困ったように、きらりちゃんを見る。が、かける言葉は見つからないらしく、結局、どうしましょうと言うように俺・優作に視線を向けてきた。
いやこれ、本当にどうしたもんか。
俺もきらりちゃんに目を向けながら、ポリッと頬をかく。
(学校だったら、こういう子はわざと声をかけずに放っておいて、落ち着くまで様子見したりできるんだけど)
ここでそれをやるのもなぁ。というかそもそも論、さすがに子どもを1人放置してバンド練しようぜ、なんてできるわけがない。
けどだからって、今ここできらりちゃんに声をかけても無視されるのがオチだろう。こういう時の子どもって、友達の言葉すら受け付けなかったりする場合が多いし。声をかけられればかけられるほど、逆に殻に閉じこもってしまう可能性が高い。
(とはいえ、優作もたかのっぽくんも子どもの相手なんてし慣れてないだろうし、ここは俺が動くのが妥当か?)
あーんっ、誰だよ、子どもの面倒なんてお茶の子さいさいとか言ったアホはっ。
俺だよ、バーカっ‼
とにもかくにも、いつまでも放置してるわけにもいかない事は確かだ。
覚悟を決めるしかない。
そろりときらりちゃんの方に近寄ってみる。俺の意思を汲み取ったのか、優作とたかのっぽくんの方から、こちらの動向を見守るような視線が飛んできた。
見てろ、これが現役小学生教諭の勇姿だ。
失敗したら、優しく励ましてやってください。
不満げに丸まる背中に声をかけようと口を開く。
――その時だった。
「……っぱり、パパ、きらりのこと、もうイヤになっちゃったのかな」
ぽつりと、小さな声が俺の耳に届いたのは。
「え」
きらりちゃん、今なんて言った? ――予想外の言葉に、俺の口がえの形のまま動きを止めた。
(俺の聞き間違いでなければ、まるで拓弥がきらりちゃんの事を嫌っているといったような、そんな口ぶりだったような……)
優作とたかのっぽくんの方を振り返ってみる。
が、どうやら2人にはきらりちゃんの呟きは聞こえなかったらしい。どうかしたか、何かありましたか、と問うような表情をした2人と目が合い、なんでもない、とひとまず首を横に振り返しておく。
きらりちゃんが、ギュッと膝を抱える力を強くした。そうして、見たくない何かから逃げるように、膝の上にぎゅうぎゅうと顔を押し付けていく。
(……もしかしなくても、マジで下手に触れてはならぬ地雷案件なのでは?)
「やだって、きらり……」
きらりちゃんの駄々に、拓弥があわあわと慌てた様子で彼女の前にしゃがみ込んだ。
が、そんな父親の様子など知ったもんかとでも言うように、きらりちゃんは「ふんっ!」鼻を鳴らしながら、頬を膨らましてそっぽを向いてしまう。
「ママやむこうのお父さんも、きらりの事を心配してるんだよ? きらりがここにいるって言わないと、いつまでも2人を不安にさせてしまうんだ。それでもいいのかい?」
「知らないっ! ママもお父さんも知らないもん! きらり、パパに会いにきただけだもん!」
きらりちゃんがそっぽを向いたまま、きっぱりと言い放つ。
どうやら、ここまで1人で来た意思は伊達じゃないらしい。かたくなに父親の顔を見ようとしない娘に、拓弥が「き、きらりぃ~」と情けない声をあげた。
(わぁーお、振り回されてるなぁ、拓弥)
助けてはやりたいけど、こっちが口を出せるような問題でもないしなぁ。
ちらりと優作とたかのっぽくんの方を見てみる。
すると、どうしたもんかとでも言いたげに肩を竦める優作、そしてオロオロと戸惑った様子でいるたかのっぽくんと目があった。
2人の方も、この現状にどう口出しすればいいかわからないみたいだ。
一生懸命、きらりちゃんに話しかけ続ける拓弥。
が、どうやら娘のへそは完全に曲がってしまったらしい。
拓弥の説得もむなしく、気がつけばその小さな背中を丸めながら、スタジオの隅でぶーたれるきらりちゃんが生まれてしまったのだった。
***
むくれた顔を壁に向けて体育座りをしたまま、頑として俺達の方を見ようとしないきらりちゃん。
そんな娘の様子に、拓弥の方もこれ以上は何を言っても無駄だと悟ったらしい。諦めたように息をつくと、「とりあえず、電話してくるね……」と疲れ切った声で俺達に告げながら、スタジオの外へ出て行った。
その足取りが、見るからにヨロヨロとしていたのは言うまでもない事だろう。
本当にお疲れ様です、お父さん……。
ガチャン、と小さな音を立ててスタジオの扉が閉まる。
と、同時に、なんとも言えない空気が場に広がった。
「「「「…………」」」」
おい、誰か何か言えよ、と言いたげな優作の目が、俺とたかのっぽくんの方へ向けられた。
たかのっぽくんが困ったように、きらりちゃんを見る。が、かける言葉は見つからないらしく、結局、どうしましょうと言うように俺・優作に視線を向けてきた。
いやこれ、本当にどうしたもんか。
俺もきらりちゃんに目を向けながら、ポリッと頬をかく。
(学校だったら、こういう子はわざと声をかけずに放っておいて、落ち着くまで様子見したりできるんだけど)
ここでそれをやるのもなぁ。というかそもそも論、さすがに子どもを1人放置してバンド練しようぜ、なんてできるわけがない。
けどだからって、今ここできらりちゃんに声をかけても無視されるのがオチだろう。こういう時の子どもって、友達の言葉すら受け付けなかったりする場合が多いし。声をかけられればかけられるほど、逆に殻に閉じこもってしまう可能性が高い。
(とはいえ、優作もたかのっぽくんも子どもの相手なんてし慣れてないだろうし、ここは俺が動くのが妥当か?)
あーんっ、誰だよ、子どもの面倒なんてお茶の子さいさいとか言ったアホはっ。
俺だよ、バーカっ‼
とにもかくにも、いつまでも放置してるわけにもいかない事は確かだ。
覚悟を決めるしかない。
そろりときらりちゃんの方に近寄ってみる。俺の意思を汲み取ったのか、優作とたかのっぽくんの方から、こちらの動向を見守るような視線が飛んできた。
見てろ、これが現役小学生教諭の勇姿だ。
失敗したら、優しく励ましてやってください。
不満げに丸まる背中に声をかけようと口を開く。
――その時だった。
「……っぱり、パパ、きらりのこと、もうイヤになっちゃったのかな」
ぽつりと、小さな声が俺の耳に届いたのは。
「え」
きらりちゃん、今なんて言った? ――予想外の言葉に、俺の口がえの形のまま動きを止めた。
(俺の聞き間違いでなければ、まるで拓弥がきらりちゃんの事を嫌っているといったような、そんな口ぶりだったような……)
優作とたかのっぽくんの方を振り返ってみる。
が、どうやら2人にはきらりちゃんの呟きは聞こえなかったらしい。どうかしたか、何かありましたか、と問うような表情をした2人と目が合い、なんでもない、とひとまず首を横に振り返しておく。
きらりちゃんが、ギュッと膝を抱える力を強くした。そうして、見たくない何かから逃げるように、膝の上にぎゅうぎゅうと顔を押し付けていく。
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