Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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2章 父と娘と一触触発

2-7

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 優作とたかのっぽくんの方を振り返ってみる。すると、どうかしたか、何かありましたか、と問うような表情をした2人と目が合った。

 どうやら2人には、きらりちゃんの呟きは聞こえなかったらしい。

(……もしかしなくても、マジで下手に触れてはならぬ地雷案件なのでは?)

 これは思った以上に慎重にならねばいけないかもしれない。ぎゅうぎゅうと、自分の膝に顔を押し付けながら背中を丸めている少女の姿に、たらりと、冷たい汗が己の頬を伝っていく。

 その時、ふいにきらりちゃんの頭上にある物が目についた。
 それが何かを理解した瞬間、思わず「あ」と俺の口から言葉がこぼれ落ちていった。

「『不滅のつるぎ』の髪飾り」
「え」

 あ、やっべ。慎重にって言った傍から、勢いで口開いちゃった。
 慌てて口を塞ぐ。次いでなんて言おうか迷ったところで、俺が答えを出すよりも先に、バッ! と勢いよくきらりちゃんが顔をあげた。

「『不滅のつるぎ』、しってるの!?」

 先刻までの不機嫌さはどこへやら。途端、目を輝かしながらきらりちゃんが俺の方を見てきた。

 おや、なんだか風向きが変わったな?
 あからさまな態度の変化に驚きつつも、「あぁ、うん」ときらりちゃんに頷き返す。

「知ってるよ。去年人気になったアニメじゃん。俺も見てたんだ」

「頭のそれ、ヒロインの子がつけてる髪飾りだろ」言いながら、きらりちゃんの前にしゃがみ込む。
 そうして、彼女の髪を一括りにしている桜の花をモチーフにした髪飾りを指し示すつもりで、指先で己の頭をトントンと叩いた。

『不滅のつるぎ』。

 昨年、世間で大流行したアニメの名前である。
 少年漫画を原作としたアニメで、親の仇である『不滅』と呼ばれる敵を倒すために仲間と奮闘する少年の話となっている。

 復讐譚と冒険譚を混ぜたドキドキハラハラのストーリーが話題を呼び、深夜帯の放送であったにも関わらず、子ども大人年齢性別問わずの大注目。
 アニメが終わった今でも、原作コミックの新刊が発売される際は、ニュースで本屋の様子が取り上げられるほどの人気っぷりだ。俺が働く東第一小学校なんか、この人気を鑑みて運動会の創作ダンス用の楽曲に、このアニメのOPを採用したほどである。

 そのOP自体も、アニメの人気の影響を受けてか、昨年のレコード大賞を受賞するまでの話題作となっていたし、とにもかくにも一世を風靡した超人気アニメである。

(俺や優作、拓弥世代でいうところの『ヒーロック』にあたるアニメだよな。うちのクラスの子達も男女問わず話題にしてたし、今の子はこういうのを見て育つんだなぁ、なんて思ったっけ)

 自分達の青春時代に流行ったアニメを思い出し、懐かしい気持ちにかられる。俺達が見ていたそれは、もっとコメディ寄りでライトなテイストの作品だったが、それでも当時の子ども達の間で一世風靡したアニメ、という点は『不滅のつるぎ』と同じだ。

 こうしたアニメってさ、意外と大人になっても覚えてるものなんだよなぁ。今も思い出せば「あれが好きだった」「こういうシーンがよかった」と語れるし。
 うちのクラスの子らも、大人になったらそういう話をするのかなぁと思うと、なんとも感慨深い気持ちになるものがある。

「俺も見ていた」という言葉がきいたのか、それとも自分の髪飾りについて言及された事がきいたのか。きらりちゃんが「そうなの、そうなの!」と嬉しそうに言いながら、ぴょんと勢いよく立ちあがった。

「これ、『不滅のつるぎ』のね、さくら子の髪飾りなの! さくら子がいつも髪につけてる髪飾りとおそろいのヘアゴムなのよ! お母さんにほしいっておねがいしたら、買ってくれたの!」
「へぇ、やったじゃん。好きなキャラとおそろいは嬉しいよな」
「うん! きらり、『不滅のつるぎ』でさくら子が1番大好き! おじさんは? どのキャラクターが好き!?」
「お、おじさん……!」

 これまた予想外の言葉に、俺の笑顔がひきつった。

 い、いや? 確かに俺も今年で27になるわけですし?
 自分で自分の事を茶化すように『おっさん』と言う事はありますけど?

 でもこう、実際に自分より云倍も年下の子どもに『おじさん』呼びされる覚悟はまだできていないといいますか、思ったより結構ショックだったといいますか……。

 あぁでも、自分の父親の友人となったら、子どもからすれば年齢関係なく『おじさん』ポジションになっちゃうのか? 今、ブフォッと俺の後方で盛大に噴き出した同世代。何1人、蚊帳の外で笑ってんだ。お前も人の事言えない立場なの、忘れるなよ?

 キッ、と声がした方を睨みつければ、口に手をあてながら笑いをこらえているゴリラと、あわあわと取り乱した様子で俺とゴリラを交互に見る王子様がそこにいた。

「あ、あのね、きらりちゃん。俺、一応酒井透って名前があるんだ。できたら、名前で呼んでくれると嬉しいかな。ほら、おじさんって言っちゃうと、誰の事呼んでるかわからなくなっちゃうかもしれないでしょ」

「ここ、おじさん他にもいるから」とうしろのゴリラへの皮肉も込めて、きらりちゃんに説明する。
 するときらりちゃんが、優作の方をチラリと見た後、なるほど、と納得した顔で頷いた。

 よし、敏い子だ。お兄さん、そういう子大好きよ。
 うしろから笑いを引っ込めた優作が、「おいコラ、誰がおじさんだ」とツッコんで来たが、無視だ無視。

「わかった。じゃあ、透くんね」
「おっと、そう来ましたか」

 出会って数分の大人を相手に、くん呼びを選ぶとは。君、なかなか思った以上に気が強いな?
 まぁ、透おじさんとかって呼ばれるよりは全然マシですけど。

 ブハッ‼ と、ついに我慢の限界が来たらしいゴリラが膝を叩きながら大声で笑い出した。「ゆ、ゆーさん」と、王子様が慌てたようにゴリラを宥める。

 アノゴリラ、オレ、絶対許サナイ。
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