30 / 82
2章 父と娘と一触触発
2-7
しおりを挟む
優作とたかのっぽくんの方を振り返ってみる。すると、どうかしたか、何かありましたか、と問うような表情をした2人と目が合った。
どうやら2人には、きらりちゃんの呟きは聞こえなかったらしい。
(……もしかしなくても、マジで下手に触れてはならぬ地雷案件なのでは?)
これは思った以上に慎重にならねばいけないかもしれない。ぎゅうぎゅうと、自分の膝に顔を押し付けながら背中を丸めている少女の姿に、たらりと、冷たい汗が己の頬を伝っていく。
その時、ふいにきらりちゃんの頭上にある物が目についた。
それが何かを理解した瞬間、思わず「あ」と俺の口から言葉がこぼれ落ちていった。
「『不滅のつるぎ』の髪飾り」
「え」
あ、やっべ。慎重にって言った傍から、勢いで口開いちゃった。
慌てて口を塞ぐ。次いでなんて言おうか迷ったところで、俺が答えを出すよりも先に、バッ! と勢いよくきらりちゃんが顔をあげた。
「『不滅のつるぎ』、しってるの!?」
先刻までの不機嫌さはどこへやら。途端、目を輝かしながらきらりちゃんが俺の方を見てきた。
おや、なんだか風向きが変わったな?
あからさまな態度の変化に驚きつつも、「あぁ、うん」ときらりちゃんに頷き返す。
「知ってるよ。去年人気になったアニメじゃん。俺も見てたんだ」
「頭のそれ、ヒロインの子がつけてる髪飾りだろ」言いながら、きらりちゃんの前にしゃがみ込む。
そうして、彼女の髪を一括りにしている桜の花をモチーフにした髪飾りを指し示すつもりで、指先で己の頭をトントンと叩いた。
『不滅のつるぎ』。
昨年、世間で大流行したアニメの名前である。
少年漫画を原作としたアニメで、親の仇である『不滅』と呼ばれる敵を倒すために仲間と奮闘する少年の話となっている。
復讐譚と冒険譚を混ぜたドキドキハラハラのストーリーが話題を呼び、深夜帯の放送であったにも関わらず、子ども大人年齢性別問わずの大注目。
アニメが終わった今でも、原作コミックの新刊が発売される際は、ニュースで本屋の様子が取り上げられるほどの人気っぷりだ。俺が働く東第一小学校なんか、この人気を鑑みて運動会の創作ダンス用の楽曲に、このアニメのOPを採用したほどである。
そのOP自体も、アニメの人気の影響を受けてか、昨年のレコード大賞を受賞するまでの話題作となっていたし、とにもかくにも一世を風靡した超人気アニメである。
(俺や優作、拓弥世代でいうところの『ヒーロック』にあたるアニメだよな。うちのクラスの子達も男女問わず話題にしてたし、今の子はこういうのを見て育つんだなぁ、なんて思ったっけ)
自分達の青春時代に流行ったアニメを思い出し、懐かしい気持ちにかられる。俺達が見ていたそれは、もっとコメディ寄りでライトなテイストの作品だったが、それでも当時の子ども達の間で一世風靡したアニメ、という点は『不滅のつるぎ』と同じだ。
こうしたアニメってさ、意外と大人になっても覚えてるものなんだよなぁ。今も思い出せば「あれが好きだった」「こういうシーンがよかった」と語れるし。
うちのクラスの子らも、大人になったらそういう話をするのかなぁと思うと、なんとも感慨深い気持ちになるものがある。
「俺も見ていた」という言葉がきいたのか、それとも自分の髪飾りについて言及された事がきいたのか。きらりちゃんが「そうなの、そうなの!」と嬉しそうに言いながら、ぴょんと勢いよく立ちあがった。
「これ、『不滅のつるぎ』のね、さくら子の髪飾りなの! さくら子がいつも髪につけてる髪飾りとおそろいのヘアゴムなのよ! お母さんにほしいっておねがいしたら、買ってくれたの!」
「へぇ、やったじゃん。好きなキャラとおそろいは嬉しいよな」
「うん! きらり、『不滅のつるぎ』でさくら子が1番大好き! おじさんは? どのキャラクターが好き!?」
「お、おじさん……!」
これまた予想外の言葉に、俺の笑顔がひきつった。
い、いや? 確かに俺も今年で27になるわけですし?
自分で自分の事を茶化すように『おっさん』と言う事はありますけど?
でもこう、実際に自分より云倍も年下の子どもに『おじさん』呼びされる覚悟はまだできていないといいますか、思ったより結構ショックだったといいますか……。
あぁでも、自分の父親の友人となったら、子どもからすれば年齢関係なく『おじさん』ポジションになっちゃうのか? 今、ブフォッと俺の後方で盛大に噴き出した同世代。何1人、蚊帳の外で笑ってんだ。お前も人の事言えない立場なの、忘れるなよ?
キッ、と声がした方を睨みつければ、口に手をあてながら笑いをこらえているゴリラと、あわあわと取り乱した様子で俺とゴリラを交互に見る王子様がそこにいた。
「あ、あのね、きらりちゃん。俺、一応酒井透って名前があるんだ。できたら、名前で呼んでくれると嬉しいかな。ほら、おじさんって言っちゃうと、誰の事呼んでるかわからなくなっちゃうかもしれないでしょ」
「ここ、おじさん他にもいるから」とうしろのゴリラへの皮肉も込めて、きらりちゃんに説明する。
するときらりちゃんが、優作の方をチラリと見た後、なるほど、と納得した顔で頷いた。
よし、敏い子だ。お兄さん、そういう子大好きよ。
うしろから笑いを引っ込めた優作が、「おいコラ、誰がおじさんだ」とツッコんで来たが、無視だ無視。
「わかった。じゃあ、透くんね」
「おっと、そう来ましたか」
出会って数分の大人を相手に、くん呼びを選ぶとは。君、なかなか思った以上に気が強いな?
まぁ、透おじさんとかって呼ばれるよりは全然マシですけど。
ブハッ‼ と、ついに我慢の限界が来たらしいゴリラが膝を叩きながら大声で笑い出した。「ゆ、ゆーさん」と、王子様が慌てたようにゴリラを宥める。
アノゴリラ、オレ、絶対許サナイ。
どうやら2人には、きらりちゃんの呟きは聞こえなかったらしい。
(……もしかしなくても、マジで下手に触れてはならぬ地雷案件なのでは?)
これは思った以上に慎重にならねばいけないかもしれない。ぎゅうぎゅうと、自分の膝に顔を押し付けながら背中を丸めている少女の姿に、たらりと、冷たい汗が己の頬を伝っていく。
その時、ふいにきらりちゃんの頭上にある物が目についた。
それが何かを理解した瞬間、思わず「あ」と俺の口から言葉がこぼれ落ちていった。
「『不滅のつるぎ』の髪飾り」
「え」
あ、やっべ。慎重にって言った傍から、勢いで口開いちゃった。
慌てて口を塞ぐ。次いでなんて言おうか迷ったところで、俺が答えを出すよりも先に、バッ! と勢いよくきらりちゃんが顔をあげた。
「『不滅のつるぎ』、しってるの!?」
先刻までの不機嫌さはどこへやら。途端、目を輝かしながらきらりちゃんが俺の方を見てきた。
おや、なんだか風向きが変わったな?
あからさまな態度の変化に驚きつつも、「あぁ、うん」ときらりちゃんに頷き返す。
「知ってるよ。去年人気になったアニメじゃん。俺も見てたんだ」
「頭のそれ、ヒロインの子がつけてる髪飾りだろ」言いながら、きらりちゃんの前にしゃがみ込む。
そうして、彼女の髪を一括りにしている桜の花をモチーフにした髪飾りを指し示すつもりで、指先で己の頭をトントンと叩いた。
『不滅のつるぎ』。
昨年、世間で大流行したアニメの名前である。
少年漫画を原作としたアニメで、親の仇である『不滅』と呼ばれる敵を倒すために仲間と奮闘する少年の話となっている。
復讐譚と冒険譚を混ぜたドキドキハラハラのストーリーが話題を呼び、深夜帯の放送であったにも関わらず、子ども大人年齢性別問わずの大注目。
アニメが終わった今でも、原作コミックの新刊が発売される際は、ニュースで本屋の様子が取り上げられるほどの人気っぷりだ。俺が働く東第一小学校なんか、この人気を鑑みて運動会の創作ダンス用の楽曲に、このアニメのOPを採用したほどである。
そのOP自体も、アニメの人気の影響を受けてか、昨年のレコード大賞を受賞するまでの話題作となっていたし、とにもかくにも一世を風靡した超人気アニメである。
(俺や優作、拓弥世代でいうところの『ヒーロック』にあたるアニメだよな。うちのクラスの子達も男女問わず話題にしてたし、今の子はこういうのを見て育つんだなぁ、なんて思ったっけ)
自分達の青春時代に流行ったアニメを思い出し、懐かしい気持ちにかられる。俺達が見ていたそれは、もっとコメディ寄りでライトなテイストの作品だったが、それでも当時の子ども達の間で一世風靡したアニメ、という点は『不滅のつるぎ』と同じだ。
こうしたアニメってさ、意外と大人になっても覚えてるものなんだよなぁ。今も思い出せば「あれが好きだった」「こういうシーンがよかった」と語れるし。
うちのクラスの子らも、大人になったらそういう話をするのかなぁと思うと、なんとも感慨深い気持ちになるものがある。
「俺も見ていた」という言葉がきいたのか、それとも自分の髪飾りについて言及された事がきいたのか。きらりちゃんが「そうなの、そうなの!」と嬉しそうに言いながら、ぴょんと勢いよく立ちあがった。
「これ、『不滅のつるぎ』のね、さくら子の髪飾りなの! さくら子がいつも髪につけてる髪飾りとおそろいのヘアゴムなのよ! お母さんにほしいっておねがいしたら、買ってくれたの!」
「へぇ、やったじゃん。好きなキャラとおそろいは嬉しいよな」
「うん! きらり、『不滅のつるぎ』でさくら子が1番大好き! おじさんは? どのキャラクターが好き!?」
「お、おじさん……!」
これまた予想外の言葉に、俺の笑顔がひきつった。
い、いや? 確かに俺も今年で27になるわけですし?
自分で自分の事を茶化すように『おっさん』と言う事はありますけど?
でもこう、実際に自分より云倍も年下の子どもに『おじさん』呼びされる覚悟はまだできていないといいますか、思ったより結構ショックだったといいますか……。
あぁでも、自分の父親の友人となったら、子どもからすれば年齢関係なく『おじさん』ポジションになっちゃうのか? 今、ブフォッと俺の後方で盛大に噴き出した同世代。何1人、蚊帳の外で笑ってんだ。お前も人の事言えない立場なの、忘れるなよ?
キッ、と声がした方を睨みつければ、口に手をあてながら笑いをこらえているゴリラと、あわあわと取り乱した様子で俺とゴリラを交互に見る王子様がそこにいた。
「あ、あのね、きらりちゃん。俺、一応酒井透って名前があるんだ。できたら、名前で呼んでくれると嬉しいかな。ほら、おじさんって言っちゃうと、誰の事呼んでるかわからなくなっちゃうかもしれないでしょ」
「ここ、おじさん他にもいるから」とうしろのゴリラへの皮肉も込めて、きらりちゃんに説明する。
するときらりちゃんが、優作の方をチラリと見た後、なるほど、と納得した顔で頷いた。
よし、敏い子だ。お兄さん、そういう子大好きよ。
うしろから笑いを引っ込めた優作が、「おいコラ、誰がおじさんだ」とツッコんで来たが、無視だ無視。
「わかった。じゃあ、透くんね」
「おっと、そう来ましたか」
出会って数分の大人を相手に、くん呼びを選ぶとは。君、なかなか思った以上に気が強いな?
まぁ、透おじさんとかって呼ばれるよりは全然マシですけど。
ブハッ‼ と、ついに我慢の限界が来たらしいゴリラが膝を叩きながら大声で笑い出した。「ゆ、ゆーさん」と、王子様が慌てたようにゴリラを宥める。
アノゴリラ、オレ、絶対許サナイ。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる