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2章 父と娘と一触触発
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(まぁ何はともあれ、元気にはなったみたいでよかったや)
ニコニコと満面の笑みで、「きらりはね、さくら子の可愛いくてカッコよくて強いところが好き!」と話を続けていくきらりちゃんに、ホッと胸を撫でおろす。
本音を言えば、先のきらりちゃんの言葉の意味が気になって仕方がないのだが、せっかく元気になったところに水を差すのもどうかという話だ。
ここはとりあえず、このまま楽しくアニメの話をしていた方がいいだろう。
それに俺も、『不滅のつるぎ』は好きだしね。
さすがは世間を騒がすだけ人気作なだけはあったといいますか、子どもとの話題作りになるかと思って見てみたら予想以上に面白くてやばかったよね、みたいな。
ノベライズ版があると知った時なんて、学級文庫用に置こうかなんて一瞬本気で考えたもん、俺。
……いや、さすがにやってませんよ?
というわけで、覚えた疑問は一旦忘れて、きらりちゃんと2人『不滅のつるぎ』の話で盛り上がっていれば、数分も経たずに拓弥が帰ってきた。
娘の様子の変わりように驚いたのか、「あれ⁉ 元気になってる⁉」と声をあげた拓弥に、優作が「小学生教師の手腕やべぇぞ」と返す。まるで子どもが、他の子のいたずらを先生にチクるかのような、ニヤついた物言いだった。何もできずに笑い転げてたこと、チクってやろうか、おっさん。
ニヤニヤと笑いながら俺を見てくる優作を睨みつければ、たかのっぽくんが再び慌てた様子で俺と優作を見る。
そんな俺達のやり取りが琴線に触れたのか、ケラケラと、きらりちゃんが楽しそうに笑い声をあげた。
***
きらりちゃんの機嫌も無事に直り、場が落ち着いたところで、それを見計らったように拓弥が口を開いた。
「とりあえず、向こうにはきらりがいた事を伝えて来たよ。こっちに迎えに来てくれるってさ。早くても、こっちに着くまでに1時間はかかるみたいだから、それまででいいならパパと遊んでてもいいって」
なるほど、そうなりましたか、と拓弥の話を聞きながら心の中で頷く。
なんとなくの想像だが、この1時間とやらは、拓弥と元奥さんからのきらりちゃんへの最大限の譲歩なのだろう。帰りたがらない娘を落ち着かせるための妥協案といったとこか。
(……いやまぁ、妥協したの拓弥だけで、もしかしたら奥さんの方は最後まで嫌がった可能性もあるけど)
どこか疲弊したように笑う拓弥のさまに、そんな考えも頭の隅に浮かぶ。
まー、この娘ちゃんのお母様だからな。そりゃあ、一筋縄じゃいかねぇよな。思わず苦笑を浮かべた俺の横で、「パパと遊んでいいの⁉」ときらりちゃんが嬉しそうに声をあげた。
「1時間だけだけどね」
「やったー‼」
ぴょんぴょんっ、ときらりちゃんが元気に飛び跳ねる。
おー、おー。俺と話していた時以上のテンションじゃん。
今日1番の笑顔に、思わず見ているこっちまで、ニッコリ笑顔になってしまう。
うんうん、やっぱり子どもは笑顔でいるのが1番だ。
拓弥が「楽器があるから暴れちゃダメだよ」と、きらりちゃんに注意する。
が、娘のはしゃぎようが微笑ましいのか、声音はそこまで厳しくない。苦笑しつつも、どこか優しげな眼差しできらりちゃんを見ている。
(なんだ。拓弥の奴、きらりちゃんのこと大好きじゃん)
そもそも、この気弱な一面がある友人が、娘の事で渋ったであろう元奥さんを頑張って説得したあたり、溺愛してる部類に入るのでは? 全然、きらりちゃんの事を嫌ってるようには見えないな。
一体なぜ、きらりちゃんは拓弥に嫌われていると思っているのだろう。
親の心子知らずとはよく言うが、さすがにここまで大事にされていて親の心がわからないほど、鈍い子には見えないんだけどなぁ。
(うーん、ダメだ。全然わからん)
1人心の中でうんうんと唸る俺に気づいた様子もなく、拓弥が「そういうわけで」と再び話を切り出す。そうして、俺、優作、たかのっぽくんの3人の方へ向き直った。
「やっぱりおれ、今日はこのまま抜けるね。ごめんね、せっかくとれたスタジオ時間だったのに」
申し訳なさそうに言葉を続ける拓弥に、「いや、それはもう仕方ないって」とこちらも言葉を返す。
「なぁ」と優作とたかのっぽくんの方へ振り返れば、「おう」「ですね」と2人からも気前のいい言葉が返された。
そんな俺達に、拓弥がホッとしたような笑みを浮かべる。
「ありがとう」とお礼を言いながら、ニコニコ顔で自分の方へ駆けてきた娘を、よいこらせと抱きあげた。
「一応今度、何かで埋め合わせはするから。スタジオ代も一応置いていくけど、もし足りなかったら、連絡ちょうだい。次の練習日にでも払うから、とりあえず今日は誰か代わりに支払っておいてくれると助か――」
「ねぇ、パパ」
俺達に向けて話を続けていた拓弥をさえぎるように、きらりちゃんが拓弥の服をクイクイと引っ張った。
「ん? なんだい」
拓弥がきらりちゃんの方へ振り返る。
「きらりね、パパのギター、ききたい!」
「「「「え」」」」
予想外の言葉に、拓弥を含めた俺達バンドメンバー全員の口から驚きの声があがった。
ニコニコと満面の笑みで、「きらりはね、さくら子の可愛いくてカッコよくて強いところが好き!」と話を続けていくきらりちゃんに、ホッと胸を撫でおろす。
本音を言えば、先のきらりちゃんの言葉の意味が気になって仕方がないのだが、せっかく元気になったところに水を差すのもどうかという話だ。
ここはとりあえず、このまま楽しくアニメの話をしていた方がいいだろう。
それに俺も、『不滅のつるぎ』は好きだしね。
さすがは世間を騒がすだけ人気作なだけはあったといいますか、子どもとの話題作りになるかと思って見てみたら予想以上に面白くてやばかったよね、みたいな。
ノベライズ版があると知った時なんて、学級文庫用に置こうかなんて一瞬本気で考えたもん、俺。
……いや、さすがにやってませんよ?
というわけで、覚えた疑問は一旦忘れて、きらりちゃんと2人『不滅のつるぎ』の話で盛り上がっていれば、数分も経たずに拓弥が帰ってきた。
娘の様子の変わりように驚いたのか、「あれ⁉ 元気になってる⁉」と声をあげた拓弥に、優作が「小学生教師の手腕やべぇぞ」と返す。まるで子どもが、他の子のいたずらを先生にチクるかのような、ニヤついた物言いだった。何もできずに笑い転げてたこと、チクってやろうか、おっさん。
ニヤニヤと笑いながら俺を見てくる優作を睨みつければ、たかのっぽくんが再び慌てた様子で俺と優作を見る。
そんな俺達のやり取りが琴線に触れたのか、ケラケラと、きらりちゃんが楽しそうに笑い声をあげた。
***
きらりちゃんの機嫌も無事に直り、場が落ち着いたところで、それを見計らったように拓弥が口を開いた。
「とりあえず、向こうにはきらりがいた事を伝えて来たよ。こっちに迎えに来てくれるってさ。早くても、こっちに着くまでに1時間はかかるみたいだから、それまででいいならパパと遊んでてもいいって」
なるほど、そうなりましたか、と拓弥の話を聞きながら心の中で頷く。
なんとなくの想像だが、この1時間とやらは、拓弥と元奥さんからのきらりちゃんへの最大限の譲歩なのだろう。帰りたがらない娘を落ち着かせるための妥協案といったとこか。
(……いやまぁ、妥協したの拓弥だけで、もしかしたら奥さんの方は最後まで嫌がった可能性もあるけど)
どこか疲弊したように笑う拓弥のさまに、そんな考えも頭の隅に浮かぶ。
まー、この娘ちゃんのお母様だからな。そりゃあ、一筋縄じゃいかねぇよな。思わず苦笑を浮かべた俺の横で、「パパと遊んでいいの⁉」ときらりちゃんが嬉しそうに声をあげた。
「1時間だけだけどね」
「やったー‼」
ぴょんぴょんっ、ときらりちゃんが元気に飛び跳ねる。
おー、おー。俺と話していた時以上のテンションじゃん。
今日1番の笑顔に、思わず見ているこっちまで、ニッコリ笑顔になってしまう。
うんうん、やっぱり子どもは笑顔でいるのが1番だ。
拓弥が「楽器があるから暴れちゃダメだよ」と、きらりちゃんに注意する。
が、娘のはしゃぎようが微笑ましいのか、声音はそこまで厳しくない。苦笑しつつも、どこか優しげな眼差しできらりちゃんを見ている。
(なんだ。拓弥の奴、きらりちゃんのこと大好きじゃん)
そもそも、この気弱な一面がある友人が、娘の事で渋ったであろう元奥さんを頑張って説得したあたり、溺愛してる部類に入るのでは? 全然、きらりちゃんの事を嫌ってるようには見えないな。
一体なぜ、きらりちゃんは拓弥に嫌われていると思っているのだろう。
親の心子知らずとはよく言うが、さすがにここまで大事にされていて親の心がわからないほど、鈍い子には見えないんだけどなぁ。
(うーん、ダメだ。全然わからん)
1人心の中でうんうんと唸る俺に気づいた様子もなく、拓弥が「そういうわけで」と再び話を切り出す。そうして、俺、優作、たかのっぽくんの3人の方へ向き直った。
「やっぱりおれ、今日はこのまま抜けるね。ごめんね、せっかくとれたスタジオ時間だったのに」
申し訳なさそうに言葉を続ける拓弥に、「いや、それはもう仕方ないって」とこちらも言葉を返す。
「なぁ」と優作とたかのっぽくんの方へ振り返れば、「おう」「ですね」と2人からも気前のいい言葉が返された。
そんな俺達に、拓弥がホッとしたような笑みを浮かべる。
「ありがとう」とお礼を言いながら、ニコニコ顔で自分の方へ駆けてきた娘を、よいこらせと抱きあげた。
「一応今度、何かで埋め合わせはするから。スタジオ代も一応置いていくけど、もし足りなかったら、連絡ちょうだい。次の練習日にでも払うから、とりあえず今日は誰か代わりに支払っておいてくれると助か――」
「ねぇ、パパ」
俺達に向けて話を続けていた拓弥をさえぎるように、きらりちゃんが拓弥の服をクイクイと引っ張った。
「ん? なんだい」
拓弥がきらりちゃんの方へ振り返る。
「きらりね、パパのギター、ききたい!」
「「「「え」」」」
予想外の言葉に、拓弥を含めた俺達バンドメンバー全員の口から驚きの声があがった。
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