Herec 2nd~一度音楽をやめた奴らが結成した『社会人バンド』がMVを作る事になった話~

勝哉道花@みちなり文庫

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2章 父と娘と一触触発

2-9

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(『パパのギター』をききたい?)

 それってつまり、拓弥が弾いてるところを見たいって事か?

 あ然としながら拓弥を見てみる。ぽかん、という効果音が似合う顔で、口を開けたままきらりちゃんを見返している拓弥の姿が、俺の目に飛び込んできた。

 優作とたかのっぽくんの方を振り返れば、2人も拓弥同様に目を丸めてきらりちゃんを見ている。

「ギ、ギターって……。それって、その、パパがバンドで演奏しているところを見たいって事かい」

 引きつった声音で聞き返す拓弥に、「うん!」ときらりちゃんが元気よく返事をした。

 なんて元気でまっすぐなお返事だこと。あまりにも素直すぎる返事に、拓弥の顔がひきつっちゃってるよ。笑顔を浮かべようとして失敗したような固い笑みが、その顔に浮かんでいる。

(まぁ正直言って、拓弥がそんな顔になる気持ちもわからなくはないんだけど。やっぱり身内に見せるとなると、ちょっと緊張するものがあるもんな)

 いくらバンド活動をしている事を話しているとはいえ、実際にそれを見せるとなると、また話は変わってくるものだ。
 活動そのものに自信を持っていても、イコールで演奏まで上手いかって言われるとそういうわけではない。これまで投稿してきた動画の再生回数達が、それを如実に物語っている。

 身内に見せて自慢できるものかって言われると、ちょっとしょっぱいものがあるというか……。はは、言っててなんか泣けてきたぜ。

 もしこれで、演奏を見たきらりちゃんからガッカリでもされたら……。いや、ガッカリされるだけならまだマシかも。

「パパ、かっこ悪いー」なんて言われた日には、目も当てられん事態になる事は確実だ。
 特に拓弥の精神が。

(でもきらりちゃん、完全に拓弥のギターを聴く気満々みたいだしなぁ)

「ダメ?」と、きらりちゃんがうるうるとした瞳で拓弥を見つめる。
ダメ押しとばかりに小首もかしげて、子どもという人種が持つ最大級の可愛さを拓弥に向けて放つ。

「ウッ」と拓弥が、何かを堪えるようにギュッと目を瞑った。ギュゥッと唇も噛み締められ、顔に力強いしわが刻まれる。

 うわ、拓弥の奴、めっちゃ葛藤してる。顔のしわの量がエグい。なんかあれだ、しわっしわの梅干しみたいになってんぞ。

 助け舟を出すべきか。でも出すにしても、どう出そう。そう俺が悩み出した時だった。

「いーんじゃねぇの?」

 優作が口を開いた。

「滅多に会えない自分の娘が、パパに見たいってお願いしてんだ。こんなん、そうそうねぇ機会だろうし、一度くらい見せてやったって減るもんじゃねえだろ」

「迷ってるだけ時間ももったいねぇしな」と言葉を続けながら、優作が肩をすくめる。

 予想もしていなかった相手からの助け舟だったからか、拓弥が小さく目を見開いた。あ然とした声音で、「優くん……」と幼馴染の名を呼ぶ。

(うわ、めっずらし。優作がそんな提案するなんて)

 普段のコイツなら、面倒事は嫌だと、こういう展開は避けるだろうに――。不思議に思いながら優作の方に顔を向けてみると、途端、ニヤついた笑みを浮かべるゴリラの姿が目に飛び込んできた。

 あ、違う。コイツ、単に面白がってるだけだ。
 面倒事に対する厄介さよりも、娘に振り回されてる幼馴染の姿を面白がりたいだけだわ、これ。

 本当にコイツ、努力家だけど性根は悪ガキ大将なゴリラだよなぁ、とため息をつく。
 とはいえ、優作の言う事に一理あるのも確かだ。今から1時間しか2人が一緒にいられない事を考えると、ここで迷っている時間はもったいない。

 それにどうせ、俺達のバンド練習だって、お互いに演奏したい楽曲やオリジナル曲をざっと弾いて、あーだこーだ言い合うだけのものだしね。
 俺達の練習兼と考えれば、きらりちゃんの前で演奏するのは、効率的な時間の過ごし方なのかもしれない。

 あとはほら、バンドメンバー全員で演奏すれば、1人1人の演奏の技術もカバーできるかもだしね!
 赤信号、皆で渡れば怖くないってな! あはは!

 ……………………すみません、精進します。

 優作がたかのっぽくんの方を振り返り、「たかのっぽくんもそれでいいか?」と尋ねた。

「あ、はい。大丈夫です」と、たかのっぽくんがハッとしたように返す。それに続く形で、俺の方からも「俺もそれでいいでーす」と返答しておく。

「え、いや、でも、そんな、」

 拓弥があわあわと俺達を見回した。
 たぶん俺達を気遣って、「悪いよ」とでも言いたいのだろう。だが、期待を寄せてくる娘を前に、ハッキリと断る事ができないようだ。

 そんな拓弥の葛藤を汲んで、今度はしっかりと助け舟を出しに向かう。

「きらりちゃん、パパに何演奏してもらいたい?」

 拓弥に抱っこされたままのきらりちゃんに笑いかける。「と、透くんっ」と、拓弥が焦ったような声をあげた。
 そんな父の焦りなど気づいた様子もなく、きらりちゃんの方は輝く笑顔で俺を出迎えてくれた。

「あれ! きらり、あれききたい! 『不滅のつるぎ』のオープニング!」
「あ~、あれかぁ」
「以前に1、2回ほどやりましたっけ」
「やべ、譜面ちょっと怪しいわ。確認だけしていいか」

 言いながら優作が、スタジオの隅に置かれている荷物の群れに向かう。譜面のデータが入っているタブレットを取りに向かったのだろう。たかのっぽくんも、「俺もちょっと確認してきます」と優作の後に続く。
「俺も歌詞の確認しよ~」と俺もわざとらしく口にしながら、ズボンのポッケに入れていたスマホを取り出す。

 拓弥が諦めたように、「もう」と小さくこぼした。
 どうやら当たり前のように演奏の準備を始める俺達と、「やったー!」と己の顔の横で両手をあげて嬉しそうにする娘の姿に、ついに自身の負けを認めたらしい。 

「……ありがとう」

 拓弥が俺達を見回しながら笑った。

 苦笑に近い、でもどこか彼本来の優しさも感じられる、温かくて柔らかな笑み。

 旧友が普段よくするタイプの笑みを前に、やっぱり子どもも大人も笑顔が1番だな、と俺は1人心の中で頷いたのだった。
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